水沢めぐみ「日南子さんの理由アリな日々」(1)
すみません わたし
孫 います。■一ノ木日南子、36歳。ワケあって仕事も恋人もいっきになくしちゃったけど、まだ30代だし(後半だけど)、若いし(気持ちだけでも)、心機一転頑張ります!……って、実はこう見えて、娘も孫もいるおばあちゃんなんです!?こんなのアリ!?日南子さんの理由アリすぎる青春の日々、スタートです!!
「姫ちゃんのリボン」などを描かれていた水沢めぐみ先生の「姉系プチコミック」連載作品でございます。水沢めぐみ先生ってりぼん黄金期を支えた漫画家さんの一人っていう印象が強くて、小学館系の、しかもプチコミ系列のレーベルで単行本を出しているというのが、個人的にものすごく違和感があります(笑)ただ表紙を見てもらってもわかる通り、絵柄や色使いはなんとなく当時のりぼんの伊吹みたいなものを感じられるんじゃないでしょうか。
物語はこのレーベルにしても少し高めの、アラサー(36歳だとアラフォー?)ヒロインです。恋人と別れ、さらには派遣先をクビになり、36歳にして独身彼氏ナシ&仕事ナシという状況に陥ってしまった一ノ木日南子。けれども捨てる神あれば拾う神あり、幼なじみが編集長を務める雑誌編集部でバイトさせてもらうことになったのでした。メンズファッション誌ということで、若くてイケメンなモデル達も出入りする職場で、心機一転頑張る決意をする日南子。そしたらいきなり、売れっ子モデルの陸に告白をされて…。普通だったら喜んでお受けするその告白にたじろぐ日南子。それもそのはず、日南子には、れっきとした娘と孫がいるおばあちゃんなのです!!

36歳で孫というのは、別にアレコレとややこしい背景があるわけではありません。至極真っ当に代を重ねての孫です。ヒロインは高3の時に妊娠・出産をするも、相手とは結婚せずに母親の助けを借りながらシングルマザーとして過ごします。そして育った娘は、16歳にして結婚相手を見つけて来て、間もなく妊娠・出産。かくしてヒロインは36歳にして祖母となったのでした。
メンズ雑誌の編集部にコネで運よく採用されて、そこでひょんなことから年下のモデル君に気に入られて告白をされて「こんな私なのにどうしよう!?」と戸惑う。さらには別で知り合った、これまた年下のツンツン男性絵本作家とも急接近して……という、なかなか最近見ないくらいの都合の良いストーリー。「普通な私が、ステージが上の男の子に見初められてさて困った」というのは、ちょっと前の少女マンガでよく見られた展開で、最近では「今日は会社休みます」で、再び熱を帯びてきた429という印象があります。また絵柄は見てもらえればわかる通り、どこまでも水沢めぐみ先生で、黄金期のりぼんを彷彿とさせます。展開・絵柄共に全く刷新されることなく、ある種手垢さえついているような構成なのですが、それらがありつつも単なる“回顧系”の作品としていないのは、「ヒロインが36歳にして孫持ちである」という設定があるからにつきます。この一点だけで全てを支え、突破するというものすごいパワープレイな印象のある非常に潔い作品。で、自分はその設定が気になってまんまと手に取ってしまったので、もう完全に術中にハマっているというワケですね、はい。
家ではヒロインの母に、娘、孫、そして娘の旦那と一緒に5人で暮らしており、祖母という立場ながらも自身の母も健在ですので、その続柄らしい立ち居振る舞いはあまりありません。むしろ母がいるせいか、36歳という年齢の割に幼く自立しきれていない印象で、見ていて心配になるぐらいにはガードが甘いです。ユルいというか、アホそうというか。孫がいるということでの円熟味というか、苦労みたいなものが表立って出て来ていないのは、それこそ「理由あって」のことなのでしょうか。
モデルの男の子に言い寄られていますが、もちろんそれは孫がいるなんて知らないから。また年齢もサバ読んでいるという。一方でもう一人の相手役候補はひょんなことから全て知っているという状況で、最初の印象が良くないところなどを見ても、どう考えてもこちらが相手本線だろうという(孫持ちという設定以外は全て少女マンガのお約束を進むのであれば)。正直これ以上語ることがないくらい、孫がいる設定以外の部分では既存ルートの踏襲なので、ある意味それも時にネタ的に、時に懐かしみながら楽しむことができるかと思います。「心がポキッとね」の山口智子さんを見るような気持ちでしょうか……(この例えは正しいのだろうか)。

ほとばしる80~90年代感。
物語的には、孫がいるのが周知の事実になってからの方がきっと面白いと思いますので、そちらでの広がりを期待したいと思います。
【男性へのガイド】→ザ・少女マンガという展開に、36歳孫ありヒロインというイロモノなんですが、普通だったら振り落とされそうな予感が。ともあれ水沢めぐみ先生だとか、りぼん黄金期の少女マンガ群を愛している人などは結構楽しめるのでは。
【感想まとめ】→正直別にめちゃくちゃ面白いとか感動したとかはないのですが、謎の満足感と「負けた」という感覚がすごい。またすごい作品を拾っちゃったなというか。
作品DATA■著者:水沢めぐみ
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:姉プチ
■既刊1巻
■価格:円+税
■試し読み:
第1話