
あ、全然大丈夫です。(涅槃的な意味で)
■親の不手際で知人宅に居候することになった悲劇の少女・たえ子。ピンポンを押して、出迎えてくれたその男・舛田は、なぜか一糸まとわぬ全裸で登場。清純な、処女の女子高生を相手に、なぜに全裸?しかも悪びれる様子も一切なし。まさに衝撃の初対面。たえ子が17年間積み上げてきた価値観が、グラグラと音を立てる。これって現実?私、今、正気?泣いても始まらない、苦難と爆笑の日々が、スタートした…!
BL作品としては「くいもの処 明楽」、最近ではアフタヌーンや、フィールなどでも活躍をし、「Love,Hate,Love」(→レビュー)や「HER」(→レビュー)といった作品を残しているヤマシタトモコ先生が描く、コメディ作品。とりあえず、「なんだねこれは」という感じの作品。ダメ親の不手際で、なぜか親の知人宅に居候することになった女子高生・たえ子。そしてそんな彼女を出迎えてくれたのは、家では基本全裸という、イケメン高収入ながらかなり厄介な性質の持ち主である31歳・舛田。そんな二人の同居生活を描く、愛と涙と爆笑の物語となっております。もうリアリティなんてものはガン無視。超人間が登場するわけではないですが、かけ合い、キャラその他が皆々どこかぶっ飛んでいて、好き放題やっているという感じ。これ、ヤマシタ先生描いてて楽しかったろうなぁ…。

のっけからこのノリ。世間の常識などそこでは通用しないのです。だってこの家では、これこそが常識なのだから。
こんなアホな作品も描けるのかと、驚きました。終始笑いに走り、トキメキやドキドキは5%あるかないか。笑わせ方は、ある意味セオリー通りの二パターン。BL作品ないし腐女子の方向けの作品のそれにあるような、小難しい言い回しやパロディを多用したネタと、男同士のかけ合いの中に見せる、どぎつい下ネタ。個人的に前者は大好きなのですが、後者は「さすがに男同士でもそんな下世話なこと言わねーよ(笑)」と辟易してしまい、どちらかというと苦手な部類になります。しかしそれでも、前者の笑いが尽くホームランで、打率低めでも大量得点で全然楽しめたという。ということは、どちらもイケルのならば、そりゃもう笑い転げる状況になるのではなかろうか、とも思うわけで。
登場人物は5人で、裸族の舛田と、その友人で下ネタがどぎつい陣内、そして常識人のヒロイン・たえ子と、その友人二人。軸となるのは、当然のことながら舛田とたえ子なのですが、その中で終始舛田がイニシアチブを取っているかというとそうではなく、むしろ主張はたえ子の方が強め。舛田は全裸であるというそのシチュエーションだけで、場所を制しているのですが、やがてそれにも慣れてきます。そして、気がつけばパワーバランスがどんどんと変化していくという、その様子もまた面白いです。色モノである舛田は、それだけでいるとただの「変な人」なワケですが、そこに常識人のたえ子が投入され、つっこまれることで初めてネタとして機能。この作品は、常識人のたえ子がいて初めて成り立つのですよ。いやあ、素晴らしい組み合わせです、ホント。

人間「慣れ」という能力を持っているわけで、たえ子も気がつけば適応していき、段々と自分主導でことを運ぶことが出来るように。
表題作は6話で終わり。残りには、学校に行きたくなくなった少女が、父の元同僚である女性の元へお世話になるという物語が収録されています。こちらは笑いなしの、ごくごくシリアスなお話。一人の少女が、自分とは歳の離れた二人の女性と生活を共にすることで、新たな価値観や考え方を身につけて変化・成長していくという内容になっています。ドライな空気感で内面をえぐり出すように語られるこちらの物語の方が、よりヤマシタトモコ的な印象。また表題作とのギャップもあり、1冊で二度美味しい作りになっているとも言えます。何はともあれ、お買い得な一作となっているのではないでしょうか。
面白いかは個々人の笑いのアンテナに依ると思いますが、とりあえず衝撃度は抜群。中には「いや、狙いすぎだろ」とか「どや?って感じがして…」みたいな感想を持たれる方もいるかもしれませんが、いや、でもそういうところも含めて面白いんでしょう?、と。
【男性へのガイド】
→面白いと思うのですが、正直なところどうなのかよくわかりません。面白いと思う方が大半だと思いますが、対して拒否反応すら示してしまいそうな方もいそうで、諸刃の剣的印象を受けます、はい。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→これはオススメせざるを得ません。この衝撃はなかなかのもの。とにかくやりたい放題で、ヒドい(全力で褒め言葉)作品です。
作品DATA
■著者:ヤマシタトモコ
■出版社:リブレ出版
■レーベル:ゼロコミックス
■掲載誌:
■全1巻
■価格:600円+税
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