
泣いてもやめられないほど
好きなものがあるってのはさ
きっとすごいことなんだぜ
■「ハチミツとクローバー」や、「3月のライオン」を描く羽海野チカ先生の2000年~2004年に発表された、短編をこの一冊に集録。切なくも瑞々しい青春の様子を描いた表題作「スピカ」をはじめ、羽海野チカ魅力が目一杯に詰まった、極上の短編集を、アナタにお届け致します…
「ハチクロ」と「3月のライオン」の羽海野チカ先生の初期短編集でございます。「ハチミツとクローバー」は個人的にも特に思い入れの深い大好きな作品でして。現在は青年向けのヤングアニマルにて「3月のライオン」を連載中ということで、しばらくはレビューすることもできないのだろうな、と思っていたので、こうして早い段階で羽海野先生の作品をレビューできるということで、なんだかとっても感慨深いです。ちなみにこちらのレーベルは「花とゆめコミックススペシャル」。あれ、花ゆめでなんて一度も描いた事ねーじゃんなんてお思いの方もいらっしゃると思いますが、現在執筆しているヤングアニマルが同じ白泉社なので、そうなったのだと思われます。

ちなみに「3月のライオン」では、はなとゆめはヒナちゃんの愛読書として名前が登場しています。
集録されている作品の掲載誌を見ても、白泉社は一つもナシ。小学館に幻冬舎に、ソニーマガジンズにスタジオジブリと、非常に多岐に渡っています。発表時期は2000年から2004年の間。ちょうど「ハチミツとクローバー」を連載しだした頃にあたるでしょうか。「初期短編集」と銘打たれていることからもわかるように、羽根海野チカ先生の魅力と同時に、先生の作風の変遷というものを同時に味わうことの出来る作品集になっています。
個人的に特に印象に残ったのが、表題作となっている「スピカ」。部活に打ち込む野球部の3年生と、これまたバレエに打ち込む転校生の少女との交流を描いた、青春ものとなっているのですが、これがどこまでも羽海野チカ作品っぽくて、羽海野チカ作品っぽくなかったというか。とりあえずは、ヒロインの美園さんに心をガッツリ持っていかれましたよ、と。もうね、頑張ってるのに上手くいかなくてそれでも諦めきれなくて泣いちゃう女の子のなんと可愛らしい事。

羽海野先生の描く泣く女の子の破壊力は異常です。山田さんといい、ひなちゃんといい。このヒロイン・美園ちゃんも、バレエに向き合ってひたむきに努力しているのですが、周囲の人間との関わりの中で自分の想いにブレが出て、精神的に不安定になってしまいます。悪意はそこになく、進退に関しては全て自分で決めることができるけれども、自分の中でその比重が大き過ぎるために、決める事ができず感情が溢れてしまうという。その涙が、ただひたすらに綺麗。そしてそこから腐る事なく立ち直り、再生の過程を踏むその光景に、毎度の事ながら感動してしまうんですよね。そして見事にそれをサポートする、メガネくん。これまた安定のメガネです、はい。何が素敵って、みんな自分なりの答えを見つけて、最終的にやることやって結果を出してるんですよね。だから最後まで気持ち良い。「ダメだったけど頑張った」という着地点もあるのですが、そうはせずに、「頑張ったから結果が出た」という落としどころにするのは、非常に希望に溢れてて、爽快でした。
さて、この「スピカ」で非常に気になったのが、羽海野作品の見所の一つである、“モノローグ”がほぼ使われていなかったこと。羽海野先生の作品と言えば、黒帯3段の横モノローグ(わかりますかね?)に代表されるように、非常にモノローグが多いのが一つの特徴。このモノローグが非常に心を打つため、魅力の一つだと思うのですが、ハチクロの後半などでは逆にモノローグが頻発して、時にクドいとさえ思わせる時がままありました(あくまで個人の所感ですが)。高め安定なのですが、「結局モノローグ頼りになるのかしら」という感があるというか。そんな中、「スピカ」でモノローグが登場するのは、導入の1コマのみ。あとは全くモノローグは差し込まれず、会話のみで物語は進行していきます。それでも物語から受ける印象・感動は変わることなく、非常に意外だったというか、正直ビックリしました。ちなみにこれは、その次に集録されている「ミドリの仔犬」もそう。
逆に「冬のキリン」や「夕陽キャンディ」などはモノローグ主体でまとめあげる形になっていて、これはこれで安心して楽しめるというか。童話っぽいお話から、BLテイストのお話まで、その内容は非常に多彩。ページ数は決して多くはないですが、これ一冊で羽海野チカ先生をしっかりと堪能できる、濃密な一冊となっていると思います。ちなみに大判コミックですが、お値段はワンコインで購入できる程度と、リーズナブルに設定されています。
【男性へのガイド】
→羽海野チカ先生のファンならば是非!これ単体で見たときはよくわかんないですが、羽海野先生だし、大丈夫なんじゃないですか(投げやり)
【感想まとめ】
→「スピカ」は本当に目から鱗だったというか、これ一つでガッツリ持っていかれました。これは良かった。繰り返しになりますが、羽海野先生のファンならば是非ともチェックを。
作品DATA
■著者:羽海野チカ
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:
■全1巻
■価格:円+税
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