このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.05.04
1106252335.jpgあき「エルハンブルグの天使」


天使は覇王に
キスをした



■王・マディスと王の良き友人の剣士・ラルヴァン。何にも長けているのはラルヴァン、しかし誰よりも人を惹き付けるのは、王・マディスであった。微妙なバランスの元、一見固い絆で結ばれていたはずの二人は、プリマ嬢の登場と、生まれた息子・ペルセスによって、その均衡が崩れることになる。自らの出生に疑問を抱くペルセスは、ラルヴァンの元を訪れるが…。

 「アルオスメンテ」(→レビュー)などを描かれているあき先生のharucaの連載作品。「haruca」は2012年に登場したばかりのファンタジー系のマンガ雑誌で、その前身は「幻想異界」でございます。白を基調としたシンプルな表紙が素敵ですね。
 
 さて、物語で描かれるのはとある二人の幼なじみのお話。領主を殺して新王となったマディスと、その幼なじみで、実質的にこの蜂起を動かしていた剣士・ラルヴァン。ラルヴァンは剣の腕前も、頭の良さもマディスよりも優れていましたが、マディスがとにかく人を惹き付け慕われる人物であるため、マディスを表に据え、彼は裏でマディスを支えるという関係性が築かれていました。しばらくそのバランスは保たれ、平穏が続いていたのですが、マディスが妻を娶ることをきっかけに、その関係は少しずつ崩れていくことに…


エルハンブルグの天使
 こうしてあらすじを書いていると、ファンタジー要素もないように映ってしまうのですが、ちゃんとファンタジー要素はあります。それが、エンハンブルグ城にいる精霊(天使)。この天使の姿はラルヴァンだけが見ることができるのですが、天使自身はマディスがお気に入りの様子。特に何かするというわけではないのですが、人間ではない不思議な存在に愛される=天からも王として認められているという、一種の象徴的な存在として描かれます。
 
 自分の方が優れているのに、何故か人の心は惹き付けられない。自分が好きだった女性は、最後は誰もマディスを好きになるというやるせなさ。天使にまで好かれている。しかし一方で、マディスもそれには後ろめたさや引け目を感じるのでした。マディスには天使の姿が見えないので、“天からのお墨付き”という感覚はゼロ。さらに娶った妻はラルヴァンの好みにも映るし、妻自身がラルヴァンに興味を持っているようにも映る…となれば、お互いに不信感は募ります。そして結果、ラルヴァンは城を出るのですが…と、ファンタジーと言いつつ描かれるのは人間関係メインの割と地味目なお話だったりするのです。ただそれが実に巧く描かれていて、面白い。
 
 巧いなぁと思わされたのは、この二人の行き違いの仕込み方でしょうか。一方にしか見えない天使の姿とか、恋文のやりとりだとか、息子の存在だとか。二人のキャラの全ての行動が、一本筋が通っていて、理由が明確に見えてくる。感情論でない、理路整然とした物語運びがとても心地よかったです。あと堅牢な友情を崩すのは女性だったりするってのがなんだかリアルで(笑)


エルハンブルグの天使2
マディスの妻・プリマがなかなかのクセ者。そしてそんな彼女の賢さを誰よりも見抜いているのは、ラルヴァンであった。


 あき先生の作品はこれまで幾つか読んでいますが、個人的には本作が一番のお気に入りでした。もしかしたら、他の作品も読み続けていればこのような面白さを味わえたのかも。本作は1巻完結なので、その魅力がギュッと詰まっていたのかもしれないです。というわけで、オススメです。


【男性へのガイド】
→物語自体は男性主体なので、一定の読みやすさはあると思います。割と美形多め、但しラルヴァンは普通。とはいえラルヴァンもイイ男ですから、やっぱりそこで振り落とされてしまう可能性が…(笑)
【感想まとめ】
→面白かったです。バリバリのファンタジーかと思いきや、人間関係を描いた地に足ついたお話でした。


作品DATA
■著者:あき
■出版社:祥伝社
■レーベル:Gensou collection
■掲載誌:haruca
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ祥伝社コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
コメント

わー!やっと、帰ってきたね!
新しいReviewをありがとう ^^
From: Brunotomen * 2013/05/04 02:02 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。