
天使は覇王に
キスをした
■王・マディスと王の良き友人の剣士・ラルヴァン。何にも長けているのはラルヴァン、しかし誰よりも人を惹き付けるのは、王・マディスであった。微妙なバランスの元、一見固い絆で結ばれていたはずの二人は、プリマ嬢の登場と、生まれた息子・ペルセスによって、その均衡が崩れることになる。自らの出生に疑問を抱くペルセスは、ラルヴァンの元を訪れるが…。
「アルオスメンテ」(→レビュー)などを描かれているあき先生のharucaの連載作品。「haruca」は2012年に登場したばかりのファンタジー系のマンガ雑誌で、その前身は「幻想異界」でございます。白を基調としたシンプルな表紙が素敵ですね。
さて、物語で描かれるのはとある二人の幼なじみのお話。領主を殺して新王となったマディスと、その幼なじみで、実質的にこの蜂起を動かしていた剣士・ラルヴァン。ラルヴァンは剣の腕前も、頭の良さもマディスよりも優れていましたが、マディスがとにかく人を惹き付け慕われる人物であるため、マディスを表に据え、彼は裏でマディスを支えるという関係性が築かれていました。しばらくそのバランスは保たれ、平穏が続いていたのですが、マディスが妻を娶ることをきっかけに、その関係は少しずつ崩れていくことに…

こうしてあらすじを書いていると、ファンタジー要素もないように映ってしまうのですが、ちゃんとファンタジー要素はあります。それが、エンハンブルグ城にいる精霊(天使)。この天使の姿はラルヴァンだけが見ることができるのですが、天使自身はマディスがお気に入りの様子。特に何かするというわけではないのですが、人間ではない不思議な存在に愛される=天からも王として認められているという、一種の象徴的な存在として描かれます。
自分の方が優れているのに、何故か人の心は惹き付けられない。自分が好きだった女性は、最後は誰もマディスを好きになるというやるせなさ。天使にまで好かれている。しかし一方で、マディスもそれには後ろめたさや引け目を感じるのでした。マディスには天使の姿が見えないので、“天からのお墨付き”という感覚はゼロ。さらに娶った妻はラルヴァンの好みにも映るし、妻自身がラルヴァンに興味を持っているようにも映る…となれば、お互いに不信感は募ります。そして結果、ラルヴァンは城を出るのですが…と、ファンタジーと言いつつ描かれるのは人間関係メインの割と地味目なお話だったりするのです。ただそれが実に巧く描かれていて、面白い。
巧いなぁと思わされたのは、この二人の行き違いの仕込み方でしょうか。一方にしか見えない天使の姿とか、恋文のやりとりだとか、息子の存在だとか。二人のキャラの全ての行動が、一本筋が通っていて、理由が明確に見えてくる。感情論でない、理路整然とした物語運びがとても心地よかったです。あと堅牢な友情を崩すのは女性だったりするってのがなんだかリアルで(笑)

マディスの妻・プリマがなかなかのクセ者。そしてそんな彼女の賢さを誰よりも見抜いているのは、ラルヴァンであった。
あき先生の作品はこれまで幾つか読んでいますが、個人的には本作が一番のお気に入りでした。もしかしたら、他の作品も読み続けていればこのような面白さを味わえたのかも。本作は1巻完結なので、その魅力がギュッと詰まっていたのかもしれないです。というわけで、オススメです。
【男性へのガイド】
→物語自体は男性主体なので、一定の読みやすさはあると思います。割と美形多め、但しラルヴァンは普通。とはいえラルヴァンもイイ男ですから、やっぱりそこで振り落とされてしまう可能性が…(笑)
【感想まとめ】
→面白かったです。バリバリのファンタジーかと思いきや、人間関係を描いた地に足ついたお話でした。
作品DATA
■著者:あき
■出版社:祥伝社
■レーベル:Gensou collection
■掲載誌:haruca
■全1巻
■価格:619円+税
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