
そっか…
好きなんだ
■編み物が好きな男の子・亮太朗。一緒に暮らしている義妹・結子のことは、大事だし可愛い。これからもずっと変わらずに、平穏な生活が続いていくと思っていた。なのに、雨の日に綺麗な女性に出会ってから心の中のざわつきが止まらない。先生と生徒と義妹。手芸男子がおちた、はじめての恋。
「ワールドエンドゲーム」(→レビュー)や「ちよこチョコレート」(→レビュー)のKUJIRA先生のコミックポラリス連載作でございます。元々「編み物男子の恋」という触込みで知っていたのですが、読んでみてびっくり。“編み物”という家庭的で柔らかくて温かいイメージとは裏腹に、KUJIRA先生ならではのビターなテイストに溢れる切ない物語となっていました。
物語の主人公は、編み物が好きな男の子・亮太朗。彼の家族関係はちょっと複雑で、両親は子連れ再婚同士で、彼には同い年の義妹がいます。そして数年前に母親は高い。今は父親と妹と暮らしていますが、血のつながりのある身内はいません。恋も知らず、家族と温かな日々を過ごしていたある雨の日、道でびしょ濡れになりながら涙を流している女性に遭遇します。一瞬で目を奪われ、心まで奪われてしまった亮太朗。そして迎えた高校の入学式。そこには、その時出会った女性の姿が。彼女の名前は、三木。亮太朗のクラスの副担任の先生でした。恋心を自覚し、変わりゆく亮太朗を横目に、ずっと一緒に過ごしてきた義妹の結子は、苦い顔をするのですが…というお話。

亮太朗は、無邪気に他人のためを思って行動出来る人物。自分の気持ちに素直で、行動的で、自分で動いて調和を取ろうとするタイプ。一方の結子は、色々とネガティブに考えてしまって動けない。人一倍周囲を気にするんですけれど、それゆえに足がすくむ。動かないことで調和を取ろうとするタイプ。私は俄然後者であり、もう読んでて結子ちゃんが切なすぎて…。
とにかくビター。登場するキャラクターがそれぞれに、様々な想いを抱えており、それらが時折あらわになり、胸を痛くさせます。主人公の亮太朗は無邪気に恋をしていますが、家族内で唯一血のつながりがないというバックグラウンドを持っています。妹の結子は亮太朗に淡い淡い想いを寄せており、また亮太朗が恋する教師・三木は雨の中涙を流した明かされない事情が。またその他の脇役たちも、何かしらの想いというものを持っており、これから物語を彩るのでしょう。これまでもKUJIRA先生の作品はそういった要素が多分に含まれていたのですが、あくまで主人公だけでのお話。それが今作の場合は、複数のキャラに跨がっており、そしてそれが互いに絡み合う感がある。今から切なさの予感がビンビンですよ。

どのキャラクターも素敵ですが、俄然気になるのはやっぱり結子ちゃんですねー。切なさ成分では1巻時点でダントツ。自分の気持ちは自覚しつつも、どうすることもできないので、許される範囲で亮太朗に寄り添うし、彼の恋に抵抗しようとする。家族の中での自分の役割というものもちゃんと自覚して、その想いを抑えようとしている様子も、本当に切ない。
あとどうしても気になるのがマッチ。地味な脇役なんですけど、彼女が本当にいい味出してる。出自はごくごく普通である分、その持っている感性も普通で、共感しやすいんですよね。地味な分あまり報われることがなかったのか、自分のことを卑下しすぎな感じはあるのですが、そんなところもまた素敵。あと思春期の女の子らしく、一丁前に恋してたりとか、もう甘酸っぱいです。また他人の気持ちを察するのに長けていて、一番状況を理解できているのですが、それゆえに変な気遣いをさせられる場面もあり、大変な役回りだなぁ、と(笑)誰より心配なのは結子ですが、誰より応援してあげたくなるのはマッチですかね。
これがあるべき形でしっかりと着地してくれたら、間違いなく名作に仕上るであろう予感がひしひしとしています。切なさ重視の物語を所望されている方がいたとしたら、これはうってつけ。ど真ん中すぎて、もう。これは今年の新作でも上位の心の射抜かれ方。アラサーの悲哀を描いた物語に心打たれることが増えてきた今日この頃ですが、思春期の男女の心の揺れ動きでこうも持ってかれるものがあるとは。全力でオススメです。
【男性へのガイド】
→編み物男子というのはちょっとびっくりされるかもしれませんが、物語自体は普通。切ないストーリーがお好きな方は是非。
【感想まとめ】
→今年でも上位の面白さ、というか切なさでした。話の全容が見えないのですが、期待感は非常に高いです。オススメです。
作品DATA
■著者:KUJIRA
■出版社:ほるぷ出版
■レーベル:ポラリス
■掲載誌:コミックポラリス
■既刊1巻
■価格:571円+税
■試し読み 1玉め 【PC】/【スマートフォン】
2話目以降