
その風は
「間違ってないハズ」とか
「仕方ない」とか
俺のそんな気持ちを
どこかとても遠くに吹き飛ばしてしまった気がした
■2巻発売。
この春に大学を卒業したばかりの銀一郎は、故郷の雨無村の役場に就職することになっていた。願わくば生まれ故郷の人々のために働ければ…という願いから、地元での就職を希望したのだが、都会に未練がないわけでもない。彼女にはフラれたし、地元に戻っても高校生以上の若い者は銀一郎、幼なじみのメグミ、コンビニバイトの澄緒の3人だけしかいない。それでも前向きに頑張っていこうとする銀一郎に与えられた役割は、観光係。しかし特産も名所もない雨無村で、どうやって村おこしをすれば…?それにのどかな田舎でも、何かと事件は起こるもので…!?
「町でうわさの天狗の子」(→レビュー)をflowersで連載中の岩本ナオ先生。こちらはflowers増刊の凛花にて連載されている作品になります。凛花は刊行ペースがかなりゆっくりなので、こちらも自ずと刊行ペースはゆっくりに。2巻発売は、1巻が出てから実に1年2ヶ月ぶりになります。それでも2本連載を抱えるというのは非常に大変なようで、岩本先生はつい最近体調を崩されて、しばらく漫画が描けない状態だったらしいです(→岩本ブログ:おはようございます。)。いやー、無理だけはなさらないで欲しいな、と。
さてこちらのお話ですが、東京から地元に戻ってきた青年が村役場の観光係として村の住民たちと触れ合い、奮闘・成長していくという、青春お仕事ものになっています。主人公は、この春大学を卒業したばかりの新人・銀一郎。彼女にふられちょっぴり傷心の状態で故郷に帰ってきた彼は、そのやる気とは裏腹に、地元の寂れっぷりに若干の不安を覚えます。役場の面々はみな顔なじみ。比較的すごしやすい職場で、彼に与えられた仕事は、観光係として村おこしをすること。しかし名産も名所もないこの村で、そう簡単に村おこしなどできようはずがありません。地元とはいえまだまだ知らない事だらけのこの土地で、同じ年代の幼なじみたちに支えられながら、銀一郎は日々を送っていきます。

田舎独特のゆるい雰囲気が、ストーリーと絵柄に妙にマッチし、なんともいえない味わい深さをもたらす。
これだけだとお仕事一筋って感じですが、“青春”お仕事物語ですからね、村おこしと平行して銀一郎とその仲間たちの、恋に友情にといった青春物語も描いていきます。その状況を簡単に表すならば、三角関係です。銀一郎は久々に会ったメグミがやけに魅力的に映るように、しかし当のメグミは、コンビニで働く歳下で頼りないイケメン・澄緒くんに恋をしています。そして澄緒は、女の子が苦手で、銀一郎に密かに想いを寄せるという状況。ええ、BL要素ですよ。とはいえ澄緒くんは非常にウブ。他の面々も非常に純粋で、状況から受けるような“ドロドロ”とか“禁断”とかいった印象は全くうけません。銀一郎はノン気ですし、この先もそういった展開になる事はないでしょう。詰まる所描かれるのは、自分の居場所探しみたいな所に落ち着いてくるのではないかな、と思います。澄緒は、自分一人では何も出来ない自分を変えようとし、銀一郎も観光係として役割を発揮できない状況に思い悩み、メグミもまた、何も見えていない自分と澄緒への想いという悩みを抱え、苦しみます。
岩本作品ってその魅力を伝えるのが難しいのですが、とにかく雰囲気がいいんですよ。コマ割はどちらかというと地味だし、絵にも派手さはありません。けれどやけに色鮮やかに見える…気がする。ありえない風貌の脇役がいたり、展開もけっこうありえないものがあったりと、田舎で村おこしという地味設定の割に、けっこうぶっ飛んでおりますよ。それでもスッと読むものを納得させてしまうのは、私たちの心に通ずるごくごく身近な悩みや喜びみたいなものが、主人公やメグミ、澄緒を通して描かれているからなのかもしれません。こちらはファンタジーではないですが、系統的には「天狗の子」と一緒。岩本ナオ先生の描く独特の雰囲気を、堪能してください。
【男性へのガイド】
→flowers系統の作品は男性にも読みやすいと思います。これもまた、少女漫画としてはかなり読みやすい方かと。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→おもしろいと思います。大好きな作品なので、強めプッシュ。2巻に同時収録されていた、「しだいに明るむ君の暁」も良かったです。
作品DATA
■著者:岩本ナオ
■出版社:小学館
■レーベル:flowersフラワーコミックスα
■掲載誌:flowers増刊凛花(2007年初号~連載中)
■既刊2巻
■価格:各400円+税
■購入する→Amazon