
怒濤のリズムが
緊張感が
楽しい!
■厳しい父のもと、幼い頃から剣道一筋で育ってきた磯山香織。全中の大会では僅差で2位に敗れたものの、実力では明らかに上回っていたと、自分の剣道の腕には絶対の自信を覗かせる。剣道は、斬るか斬られるか。常に殺気を振りまき相手を圧倒する彼女だったが、気まぐれに出た地元の市民大会で、無名の甲本という選手に敗れてしまう。相手の所属校は、エスカレーター方式の東松学園。奇しくも兄の宿敵も、その高校に通う。兄の宿敵を倒すため、そして甲本と再び戦うため、香織は東松学園に入学するが…!?
青春時代を剣道にかける少女達を描いた、傑作青春小説をコミカライズ。ちなみに同じ原作でのコミカライズが、アフタヌーンでもされているそうで。しかし「図書館戦争」(→レビュー)といい、2誌で同じタイミングでコミカライズするメリットってあるのでしょうか。
さてこちら、ダブルヒロインで話が進行していきます。まずは全中2位の実績を引っさげ、鳴り物入りで東松学園に入学してくる香織。その実力から、関西の有力校からのスカウトがあったにもかかわらず、地元神奈川の市民大会で敗れた相手・甲本に再び会うため、彼女と同じ東松学園に入学することを決意します。もう1人は当然のことながら、甲本改め西荻早苗。中学に入ってから剣道を始めた彼女ですが、持ち前のセンスの良さでメキメキ頭角を現し、気がつけば中学では一番の実力者に。とはいえ弱小中学で、経験も浅いことから、全国なんて夢のまた夢。本人は実に気楽に剣道を楽しんでいるというスタンス。その殺気のなさが、殺気ムンムンに相手を斬るスタイルの香織には不気味に映り、一層彼女を困惑させることに。

尾崎先生はコミカルにキャラを描くのが得意なのですが、それが原作のキャラ設定と上手くマッチしています。
近年の少女マンガ界ではスポ魂ものというのが激減していて、たとえスポーツ要素があったとしても、恋愛を描くための手段にすぎないという状況が多く見受けられます。ガッチガチのスポ魂ものを思い浮かべようとしても、なかなか出てこず、恋愛とスポーツ半々の割合にしたところで、高梨みつば先生の「紅色HERO」(→レビュー)や朝吹まり先生の「バドガール」(→レビュー)がやっと出てくるという程度。一応スポーツという括りを外せば、末次由紀先生の「ちはやふる」(→レビュー)が最もスポ魂のそれを継承しているのでしょうが、果たして。そんな中この「武士道シックスティーン」は、とにかく剣道一本で攻めてきてます。恋愛なんて、今のところ入る余地がないんだぜ。その潔さと、だからこそ表現できるアツさと爽やかさが、実に心地よい。そうだよ、最近足りなかったのはこういうヤツなんだよ!
早苗に「この人狂ってるの?」と思わせるほど剣道バカな香織と、気楽なスタンスで楽しんでやろうとする早苗の対比が面白いです。どちらも才能にあふれた選手なのですが、香織は幼い頃から栄光の積み重ねで、人一倍強いプレッシャーと向上心、勝利への執着から作られているようなキャラ。言ってみれば勝利に快感を得るようなタイプ。一方の早苗はプレッシャーとは全く無縁で、剣道そのものを楽しんでいるような子。その二人が出会い、切磋琢磨していくことで、また違ったケミストリーが見られていくのでしょうが、これからが楽しみですね。
【男性へのガイド】
→アフタヌーンで連載してることからもわかるように、別に少女漫画である必要はない作品かと。読みやすいと思いますよ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→あまり期待していなかったのですが、面白くて驚きました。剣道一本でバシッと決めるその爽やかさは、スポ魂ものが欠乏している最近の少女マンガ界において持ちたるポテンシャル以上の新鮮さと面白さをもたらします。
作品DATA
■著者:尾崎あきら/誉田哲也
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:デラックスマーガレット(平成21年7月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
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