羅川真里茂「朝がまたくるから」
穏やかに…
穏やかであればいいな…と
そう願っています■読切り3編を収録。それでは1話目に収録されているお話をご紹介。
和菓子屋で働く鈴が恋したのは、バイク屋で働く青年。自転車がパンクして困っていたところを、彼が助けてくれたのです。会ったその日から、彼のことで頭がいっぱいの鈴は、以降事あるごとに彼の元を尋ねるように。しかし鈴の熱意とは裏腹に、彼の態度はとても素っ気なくて…。しかしそこには、とある理由があったのでした…。
「赤ちゃんと僕」、「しゃにむにGO」の羅川真里茂先生の短編集です。表題作を始め、“罪”をテーマに3編のストーリーが描かれています。表題作「朝がまたくるから」は紹介したので、残りの2編をご紹介しましょう。
2番目に収録されているのは、「半夏生」。ヒロインは、売れない駆け出しのカメラマン。将来が見えず行き詰まっていたある日、同じマンションに住む少年が、しばらく見ない間に驚くほど成長していたことを知ります。そして後日、その姿がなんとなく頭から離れない中、彼と思わぬ形で再会。再会した場所は、ファッションショーの会場。そして彼は、とても美しい女の格好をしていて…というお話。
3番目は「冬霞」。虐待を受け劣悪な環境の家に閉じ込められたまま育った幼い兄妹の前に、ある日見知らぬ男が現れる。他にすがるものもない二人は、差し出された手を掴み、男と共に外の世界へ。彼に連れられ各地を回り、やがて絆が。この3人が行く末は、そしてこの男の正体は…?というお話。

テーマは“罪”。文字通りの“罪”もあれば、“罪悪感”という意味での罪もある。
どれも“罪”がテーマに描かれていますが、全てタイプとしては異なる物語になっています。表題作「朝がまたくるから」は、“罪”と“罰”を真っ正面から描いた作品で、単純な物語というよりかは、幾分か社会的なメッセージが含まれているような印象を受けました。続く「半化粧」は、条例違反という罪は犯しているものの、むしろテーマとしての“罪”は本人の中にある心情的なもので、そこから内面を描き、物語を展開していきます。そしてラストの「冬霞」は、“罪”はあくまでスパイスという位置付けで、核となる部分は罪とは正反対の、本当に切なく優しい感情(味方によっては“罪”というテーマがビシっとハマりますが)。帯にあるように、それぞれタイプは違うものの、どれも「どこまでも切なく、たまらなく優しい」物語たちに仕上っています。
個人的に推したいのは、2話目「半夏生」と3話目「冬霞」。「半夏生」は、見違えるように成長した歳下の男の子に溺れていく女性を描いたお話なのですが、相手役の少年の成長の段階の踏ませ方が本当に絶妙で気持ち良かったです。最初は外面的な成長があって、ストーリーを展開させる契機になり、その後外面と内面のアンバランスさを生かす形で物語を構成し、そして最後に内面的な成長を描きまとめる、その隙のない構成ったらすごいですよ。短編で、一分の無駄もなくこの段階を詰め込めるっていうのは、なかなかできる芸当じゃないと思うんですけどどうでしょ。とりあえず手に取って読んでもらえれば。また女装させた少年に跨がって(=本番)、喘ぐ姿を写真で収めるという、花ゆめらしからぬエロティックなシーンも個人的にツボでした。

3話目「冬霞」。こうして寄り添わなくては生きられないときもある。個人的にはイチオシ。
そしてなんといっても「冬霞」。余計な説明はいらない、ただ「読め」と、それだけです。見知らぬ男が目の前に現れ、彼についていき日本を回るという、前の2話に比べるとややファンタジックな内容なのですが、それを承知で、「だからこそ描ける感動」というものを描いてきています。物語展開は、どちらかというと予想がつかないものではあるのですが、それでも読んでいて王道感を感じてしまうのは、迷いなく整然と描かれているからなんでしょう。読んでいて本当に気持ち良かったです。こういう感覚で物語を読んだのはあまりないですね。物語的には「出来過ぎ」なのかもしれないのですが、描き方に迷いがないぶんむしろそれが心地よさと感動に繋がっているという。いや、完全にやられました。
【男性へのガイド】→羅川真里茂先生という時点で説明不要な気もします。ただ1,2話目は女性向けの感が強いので、そこだけはご注意を。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】→読みはじめたときは「そんなでもないかな…」とか思ってたのですが、2話3話とどんどん引き込まれていきました。“罪”というテーマで描かれてはいるものの、決して暗く汚いとっつきにくいお話とはなっていないので、ご安心を。むしろ「冬霞」なんかは万人にお勧めしたいお話でございますよ。
作品DATA■著者:羅川真里茂
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックススペシャル
■掲載誌:別冊花とゆめ,花とゆめplus
■全1巻
■価格:619円+税
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