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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.04.24
51o4PnUFO4L.jpg森野萌「おはよう、いばら姫」(1)



俺でも
誰かの助けになれるなら




■わたしはもうずっとずっと 答えをわからないでいる―――。
 「丘の上のおばけ屋敷」と噂のある空澤家でワケあって家政夫のバイト中の高校生・美郷哲。ある日、本邸の離れで暮らす謎の少女・空澤志津と出会い、どこか寂しげな笑顔に惹かれていく哲だが、再び会った時の彼女は様子が豹変していて……?

 森野萌先生のデザート連載作です。2冊目の単行本になるのですが、近所の書店ではかなり平積みされているようでした。裏表紙側の帯面には、人気作家さん達からの推薦コメントがあるなど、かなりプッシュされている模様です。で、実際に読んでみたのですが、これが面白くて。ではでは、内容をご紹介しましょう。

 物語の舞台となるのは、丘の上にある広いお屋敷。この家で家政夫としてバイトをしている高校生の哲は、ある日お屋敷の離れに暮らす、空澤家の娘・志津と出会います。噂では「病気で外に出られない」と聞いていたのですが、その様子を見る限りなんだかとても元気そう。実際彼女は「病気ではない」と言い張ります。彼女に頼まれるようにして、その日以降も度々離れで会うようになった哲と志津。哲は無邪気に笑う彼女に次第に惹かれていくことになります。この気持ちは恋に違いないと思い切って告白をしてみた哲でしたが、翌日になって彼女の様子は一変。生気を失ったかのように静かに佇む彼女は昨日とはまるで別人で、哲のことも覚えていないという。失恋に悲しむものの、どうにも彼女のことが気になる哲は、再び志津に会いに行くのですが……というお話。


おはよういばら姫0002
離れに暮らす志津は、親ともしばらく会っていないという。久しぶりに人と話したのか、哲と話すとなんだかとても嬉しそうにはしゃぐ。そんな彼女を前に、哲は少々戸惑います。


 まるで別人のように豹変して、当人は何も覚えていないということから想像できるのは、「多重人格者」でしょう。序盤は二人の出会いと距離を一気に縮める過程があり、中盤からその路線で進んでいくのですが、後半にかけて物語は思わぬ展開に。序盤の甘々な展開から、中盤から後半にかけては甘酸っぱさは残しつつも一転シリアスに。めくるめく展開に普通であれば振り落とされてしまいそうなのですが、そうはならずに普通についていけるし、むしろなんだか心地よい。主人公と、主人公の目を通して描かれるヒロインの心情描写が共に上手いのか、ガッツリと物語に入り込んで楽しむことができました。

 序盤、中盤、終盤と真実が明らかになるにつれ物語の様相は大きく変わっていくのですが、根底にあるものは不変で、「彼女を救えるのは、彼女の魅力に気づいてあげられるのは自分しかいない」というヒロイズムをくすぐる関係性。ヒロインの志津も、口数が少なく感情の起伏がほとんど見られないとはいえ、その見た目と相まってやたらと儚げに映って魅力的なんですよ。だからそういう感情が余計に掻き立てられると言いますか。

 そういえばこれまでほとんど触れていませんでしたが、主人公の哲もいい人感がにじみ出る犬っぽい男の子で、個人的には非常に好きな子です。イメージ的につながるのは、「星くずドロップ」のしの。家政夫なので、家事は得意というお約束的な設定ですが、一方でサッカー少年という意外な一面も持ち合わせています。詰まる所「いい人」で、だからこそヒロインが放っておけず、気が付けば惹かれていくというのにも納得なのです。


おはよういばら姫0001
外に連れ出そうとする哲。基本的に無気力で眠い感じが志津にはあります。起きたてだからというわけではなく、本当にいつもこのくらいスローでローテンション。


 多重人格的な設定を持ち込んでいる上に、男受けしそうなヒロイン、加えて頼りない男の子が主人公と、これまでのデザート(掲載紙)のイメージからはかけ離れているような内容にびっくり。正直男性向けの雑誌で連載されていたとしても違和感ない内容だと思います。アニメ絵っぽい描画に加え、ちょっとオタクっぽいネタも散りばめつつと、デザート読者層とマッチしているのか謎なのですが、評判はどうなのでしょうね。ともあれ非常に好みの物語で、是非ともオススメしたい作品でございます。


【男性へのガイド】
→先ほども書いたように、男性向けの雑誌で連載されていたとしても違和感ない内容かと思います。この手の物語がお好きな方は、
【感想まとめ】
→面白かったです。かなり自分好みの作品で、これは強くオススメしたいところ。


作品DATA
■著者:森野萌
■出版社:講談社
■レーベル:KC デザート
■掲載誌:デザート
■既刊1巻


■試し読み:第1話
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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.04.13
1106512673.jpg鳥飼茜「地獄のガールフレンド 」(1)



利害一致に乾杯!



■一軒家でルームシェアを始めた3人の共通点は「友達がいない」。女たちの食卓では非モテの根源。オバサン問題、受け身の性格。“女の人生”比べ、……とおしゃべりが止まらない!世間におののく女たちに捧ぐ、デトックス同居物語!

 「おんなのいえ」(→レビュー)などの鳥飼茜先生のフィールヤング連載作です。なかなかインパクトのあるタイトルですが強烈な内容というわけではなく、むしろほっこりする同居ものです。物語のメインとなるのは女3人。ひとまず一人ずつ紹介した方が良さそうですね。まず一人目は、31歳シングルマザーの加南。結婚に疲れ離婚をしたばかりで、人見知りな4歳の息子の通う保育園を変えたくない一心で、ルームシェアの募集を発見、申し込むに至りました。もう一人が、28歳OLの悠里。まじめを絵に描いたような女性で、よく眉間に皺が寄っているセカンドバージン。長年住んだアパートが取り壊しにあい、たまたまルームシェアの募集の張り紙を発見し、住むに至りました。そして最後が、36歳ファッションデザイナーの奈央。ゆるふわな雰囲気でかなりモテる恋愛体質な女性。付き合っては別れを繰り返している中で、「興味のない“女の人”と一緒に暮らしたら?」という友人の助言から、住んでいた一軒家でのルームメイトの募集をするのでした。それぞれ違う立場ながらも、何かしらの不満を抱える女性たちが一つ屋根の下で共同生活を送る中で、毒を吐き出したり助言を貰ったりと、一人の時とはちょっと違う充実感を得ながらの日常が描かれます。


地獄のガールフレンド0002
それぞれ近くに頼るところがないくらい、友達がいない。知り合いはいるけれど。そんな人たちだから、最初はちょっと距離を保ちつつ、けれども打ち解けると一気に近く。共感もあり、時に意見が対立することもあり。けれどもそんな感覚が彼女たちにとっては新鮮だったりするのかも。



 別に何かするわけじゃないんです。3人が同居して、日々日常を送るのみなのですが、帰ってきたら誰かがいてその日たまった鬱憤を吐き出せば、それだけでスッキリするし、誰かに感化されてちょっと違ったことをしてみたりとか。そういう誰かと過ごす尊さみたいなものがほんのりと感じられる作品です。終わりなき日常を繰り返すわけではなく、おそらくこの先にも色々と変化は訪れるのでしょうが、1巻終えて訪れた変化はとっても小さいものなので、やや日常ものとしての色香も感じることができる、不思議な味わいがありました。どっちつかずとも言えるのかもしれませんが、個人的には全く嫌な感じや違和感はなく、面白かったなぁと。

 3人同居ものと言いつつも、先の人物紹介であったように加南はシングルマザーということで、子供も一緒に住むことになります。4歳なので寝るのも早く、女同士のディープな会話は子供が寝てから。残りの2人も時に子供に癒される場面もあるなど、子供を連れての同居生活は思いのほか順調です。子供がある種プラスになっていると言いますか。また3人とも職業の違いからか(OL、デザイナー、イラストレーター)、生活圏や生活時間、男性の好みなどがバッティングすることはあまりなく、だからこそ良い関係が築けているのかなという感じがあります。ここでお互いに干渉せざるを得ないような人間関係が出てきたりしたら、色々とややこしそうではあるのですが、そういう方向には流れないのではないかと1巻を読んだ雰囲気では思えます。

 またこの家には奈央の友達というか同僚というか、とにかく近しい男の子が頻繁に出入りしてきます。女性ばかりの家に若い男が出入りというとなかなか刺激的な展開を想像してしまうのですが、彼は「処女にしか興味がない」という変態嗜好の持ち主でそれを公言しており、上手いこと一線引き・引かれ関係を保っています。女性たちだけでバイアスがかかりがちな状況で、ズバッと現実的な意見を突き付けてくれる存在です。


地獄のガールフレンド0001
この男だけは違和感ありありな存在なんですけれども、それがうまく作中では機能している感あり。


 物語の内容とは別に、各話のタイトルがなかなかイカしてるんですよ。セリフっぽいんですが、作中でそのまま登場したセリフを使っているワケではなく、けれども誰が言っているかとか、意味合いが通じる内容でして。たとえば1話は「たしかに子供は産んだけど お前らまで産んだ覚えはないっつーか」、6話は「しかもその『怒り』が世界中の巨大地震とかを起こすっていうんだから怖い」など、長いけどなんだか頭に残ります。


【男性へのガイド】
→女性たちだからこそ実感できる話だとは思うのですが、毒吐きだしつつもその様子はなかなか面白く、男性が嫌と感じるような内容でもないと思われ。
【感想まとめ】
→作者さんの他の作品に比べ、笑いの要素が多く面白かったです。いい意味で脱力しているというか。「おんなのいえ」に通ずる部分は残しつつも、本作ならではの楽しさもあり、オススメです。


作品DATA
■著者:鳥飼茜
■出版社:祥伝社
■レーベル:FC Swing
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:680円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.04.07
1106500722.jpg師走ゆき「高嶺と花」(1)



これは
媚びたら負けの
駆け引きだから




■姉が拒否した、父の勤め先の御曹司・才原高嶺とのお見合いに、身代わりとして出席した女子高生・野々村花。高嶺の横柄な態度にブチ切れ、当然破談と思いきや「お前のことが気に入った!」と言いだし連れまわされるように…!大人げない高嶺の態度にムカついたり、笑ったり、惹かれたり!?このお見合い、良きご縁となるや否や…??

 「不老姉妹」などの師走ゆき先生の花とゆめ連載作です。巻数が付くのは1月に発売された「わんテール」に続いて2冊目になりますね。庶民なヒロインと、横暴だけどどこか憎めないイケメン御曹司とのドタバタラブコメという、いわば少女マンガでは王道中の王道とも言える作品になっています。

 主人公はごくごく普通の高校生・野々村花。ある日、かなりの美人と評判の姉に、父の勤め先の御曹司との見合い話が舞い込むも、姉には付き合っている相手がいるとのことから、花が身代わりにお見合いに出席することになります。なんとかその場をやりきり、円満に破談とすべく臨むも、あまりの相手の横暴さにキレてしまった花は、つけ毛を相手に投げつけて暴言を吐いて去るというとんでもない行動に。後悔の念に駆られる花でしたが、何故だか高嶺は「お前のことが気に入った」と度々デートに誘われるように……。引き続き姉として、お見合いの延長戦に臨む花。横暴に見えつつも、意外と可愛い所もある高嶺と過ごす時間が、だんだんと居心地よく感じるようになり。。。というストーリー。


高嶺と花0001
 「花より男子」に代表されるように、プライドの高い御曹司の相手をするには、彼らに負けない芯の強さ・負けん気の強さがあるサバサバ女子がヒロインとなります。本作の場合もまさにそれを地で行く直球系ヒロインで、見ていて非常に気持ちが良い。なお相手の嫌味に対してもこれくらいやりあえるという。

 
 相対する御曹司・高嶺はかなり人を見下した態度を取るのですが、性根が根本から捻じ曲がっているワケではなく、自分の気持ちを素直に表現できない不器用さを持った男の人という感じで、言動の割にはあまり嫌な印象は受けません(言えばなんだかんだやってくれる人みたいな)。ともあれ二人とも自身の思惑を、体面崩さずに押し通したいものですから、事あるごとにぶつかり合うマウンティング合戦が繰り広げられます。それがひとつコメディとしての面白さとなっているという。

 で、一通りぶつかり合いを繰り広げた後に待っているのは、お互いが譲歩した中での赤面タイムで、そこがもう当人たち以上に赤面してしまうようなニヤニヤな瞬間となっています。ぶつかり合いによる笑いからの、ふと見せる優しさからのニヤニヤと、メリハリ効きつつ両方をバランスよく楽しむことができる内容となっています。

 なお正体隠しつつというのは1話目でばれて終わるので、以降は普通に、庶民の女子高生とイケメンやり手御曹司という関係で続いていきます。一応双方に居心地が良いというか、楽しく過ごせるためにお見合いという名のデートは続いていくのですが、お互い「好き」とか「付き合う」といった具体的な言葉は言わず、なんだか不思議な状態が続いてきます、茶を濁しつつ1巻完結で、2巻ではこの辺りを明確にすべく行動するなんてことが増えてくるかと思うのですが、それもなかなかニヤニヤ度の高そうな過程を踏みそうで楽しみなところです。また珍しく1巻時点ではライバルらしいライバルもおらず、非常にシンプルなキャラクタ構成で進むあたりも引き込まれやすい一因かと。


高嶺と花0002
ドキドキパート。これは花がすることもあるし、高嶺がすることもあるし。どちらにせよ、赤面ニヤニヤは必至。


 ラブコメらしいラブコメ、、、というとよくわからないかもしれませんが、オススメの一作です。正直師走ゆき先生の作品って、やや突飛でクセのある設定のお話が多く、ピンとくることがあまりなかったのですが、本作はかなりハマりそうな予感がしております。師走ゆき先生のイメージを良い意味で崩す作品になっているかとも思いますので、先に発売されている作品だけしか読んでいない方は、是非とも本作を手に取ってほしいところです。


【男性へのガイド】
→少女マンガの王道という言葉でお分かりかとは思いますが、そのジャンルがお好きな方は手に取って間違いない作品かと思います。
【感想まとめ】
→面白かったです。切れ味よしのニヤニヤラブコメということで、追いかけ続けたい作品ですね。


作品DATA
■著者:師走ゆき
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:花とゆめ
■既刊1巻
■価格:429円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.03.19
lovererun.jpg天沢アキ「ラブリラン」(1)



目が覚めたらそこは
新しい世界




■失われた記憶。初めてなのに、全部2回目!?
 仕事はできるが恋愛経験のないまま30歳を迎えたサヤカは、大学時代のゼミ仲間・鷺沢に十年来の片想いをしていた。ついに念願の鷺沢と初デート前夜、胸躍らせ眠りにつくサヤカ。ところが目が覚めると、感じが悪い職場の後輩・町田と同棲を始めていた!どうやらサヤカは頭を打ったショックで、1ヶ月分の記憶を失ってしまったらしく……!?

 天沢アキ先生の初連載・初単行本です。目を覚ましたら1カ月分の記憶を失っており、これまでの自分からは想像もつかないような状況に陥っていたというドタバタラブコメディ。主人公は30歳にして彼氏いない歴=年齢という、IT業界勤務の女性・サヤカ。見た目もあまり気にせず、メガネに後ろ縛りで化粧っ気はなし。そんな彼女でしたが、大学時代から密かに想いを寄せる相手が。ひょんなことからその彼とデートすることになったのですが、気が付くと見知らぬ家のベッドの上に。目の前にいたのは、同僚で感じが悪い後輩の町田で、話を聞くと彼と付き合い同棲を始めていたとのことでした。訳が分からない彼女に下されたのは、1ヶ月分の記憶障害という診断。自分の部屋にはなじみのあるアイテムのほか、華やかな服に靴、アクセサリーの数々……。何がどうしてこうなったのか…聞けば聞くほど信じられないここ1ヶ月の自分の行動に戸惑うサヤカでしたが…というお話。


ラブリラン0001
ある日突然目覚めたら、楽しみにしていたデートの予定は立ち消え、それどころかあまり良い印象を抱いていなかった後輩と同棲までしていたという、いい意味で無茶苦茶な事が起こるラブコメ。化粧っ気なんか全くなかったはずなのに、突如オシャレに目覚めたのか、コンタクトやらきれいな服やらが部屋にはたくさん。聞くと、後輩にハマっていたのはむしろ自分の方だという、到底信じられない展開。

 
 普通同棲相手がそんなことになったら後輩くんも戸惑うと思うのですが、「ハマられ過ぎて別れようかと思っていた」と意外にもドライな態度で、なんで付き合っていたのかという戸惑いは余計つのるばかりという。流れ的にはそのまま別れて同棲中の家を出て……となりそうですが、思い出さなきゃやってられんと、同棲を継続することで、物語はさらに転がっていきます。


ラブリラン0002
記憶喪失の間に脱モサは図られており、すでにある服を着ればきれいになれるという状態。ゆえに、一生懸命モサい状態から脱するというフェーズはありません。


 同棲していたのですから、もちろんキスはおろか、セックスまでしているはずなのですが、当人には当たり前ですが記憶はなし。元々ヤラミソの女性ですから、本人からしたらそれが一番の衝撃で、処女じゃないけど処女マインドというなかなか面白い状況に陥っています。後輩との恋愛感情は完全に立ち消え、再度大学時代からの想い人相手に関係を構築しようとチャレンジしていくわけですが、記憶が戻るごとに後輩への想いが呼び起こされてくるというジレンマ。されにはよくわからないつながりの男まで現れ、1巻は戸惑いだけを抱えたままに終了とかなりてんやわんや。2巻以降どうなっていくのか、非常に気になるところです。


【男性へのガイド】
→めくるめく展開は男女問わず面白いと思うんじゃないかなぁとは思います。逆ハーレム的な感じではありますが。
【感想まとめ】
→結構はちゃめちゃな展開なのですが、それが楽しい面白い。同じ記憶喪失ものの「シックス・ハーフ」あたりよりも明るくてライトに楽しめる内容でした。


作品DATA
■著者:天沢アキ
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■既刊1巻
■価格:円+税

■ためし読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.03.15
1106500336.jpg志村貴子「こいいじ」(1)



あたしね
聡ちゃんのことが好きです
大好きです




■下町の銭湯「すずめ湯」の娘・まめは、子供の頃からずっと幼馴染の聡ちゃんに片想い中。聡ちゃんの妻・春さんが亡くなってから一年、聡ちゃんの愛娘・優に慕われながら、恋心を募らせるまめ―――。あきらめないヒロイン・まめちゃんの一途な恋の行方は……!?

 「放浪息子」や「青い花」の志村貴子先生のKISS連載作です。KISSは最近色々な漫画家さんを呼んでおり、ついに志村貴子先生の作品まで紹介できることになるとは、ありがたやありがたや。

 物語の主人公はKISSらしくアラサーヒロインです。27歳独身、彼氏なしのまめ。家族で経営している下町の銭湯の手伝いをしながら過ごしています。そんな彼女が物心ついたぐらいの頃から想いを寄せ続けているのが、幼馴染の聡ちゃん。幾度となくフラれ続けているものの、未だにその想いを断ち切ることができずにいます。彼には奥さんと、そして子供がいましたが、つい最近になって奥さんが他界し親一人子一人という状態に。つかず離れず、決して付き合えるなんて思いもしないけれど、好きという気持ちは持ち続けて…という一途すぎる想いを描いたお話。


こいいじ0001
まめは背が高くて一途で、想いが溢れて時に涙を流したりするのですが、それを見て思い出したのは「ハチミツとクローバー」の山田さん。彼女に通ずる、純粋さや痛々しさ、切なさややるせなさが詰まっているキャラクターだと思います。もう、ほ
んと好き。


 あらすじからだと、ヒロインのまめちゃんばかりが一途な想いを抱いているような感じに映りますが、物語が進むにつれて、決してそれだけではなさそうだということが明らかになってきます。登場人物からそれぞれ恋の矢印が伸びているのですが、その流れが複雑で根が深い。みんな30前後のいい歳なんですけれども、びっくりするぐらいに純粋で、なんだかちょっと羨ましくなってきます。もちろんその年齢なりの濁りはあるんですけれども、にしてもそこにあるのは紛れもなく「恋」でして、この媒体・年齢層としてはかなり純度の高い恋愛作品に仕上がっているかと思います。


 まめの想い人・聡は、何度となくまめを振り続けているという。もちろん彼女の想いはわかっているのですが、彼にも好みがありますし、想う人がいるという。妻を亡くしたばかりという状況に加え、育ち盛りの一人娘を養い育てていかなければならず、なかなか恋愛というモードには入っていけないのが正直なところです。反応も芳しくなく、この物語の結末として、まめの想いが成就するのか、はたまた叶わず終わっていくのか、全く見えてきません。だからこそ続きが気になってしまうのですけれど。


こいいじ0002
 物語を彩るのは、近所の幼馴染たち。聡の弟だったり、近所のお寺の息子だったり。彼らもヒトクセあるのですが、みないい子たちなんですよ。下町という舞台背景があることから、その人間関係は狭い範囲に留まっております。そのため、過去にちょっとした出来事や関わりがあったりと、そういったエピソードも現在に少なからず影響を与えるスパイスとして落とし込まれてきます。狭い範囲での人間関係ってのは温かさはあるものの、その狭さゆえにどこか不健全でもあり、だからこその味わいがしっかりと描かれているようにも感じます。とにかく、一度読んでみてほしい、オススメの一冊です。


 
【男性へのガイド】
→志村貴子先生ですから。もう、それだけで説明としては十分でしょう。
【感想まとめ】
→いや、期待していた以上に面白くて早くも続きが待ち遠しい。主人公はアラサーなんですけれども、志村貴子的エッセンスはしっかりと受け継いでおり、読んでいて時に切なく時にウキウキと心動かされました。オススメです。


作品DATA
■著者:志村貴子
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■既刊1巻


■試し読み:第1話

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。