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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.08
1106472379.jpg佐藤ざくり「たいへんよくできました。」(1)



今日の私は人生初の
たいへんよくできました
だった気がする




■野々山ぼたんは、ひきこもりな人生を送ってきた女子。友達作り!恋もしたい!と寮付きの高校へ入学して華々しく高校デビュー……なんてできるワケなく、空回りばかり。でも、「友達なんかいらない!」と言い放つワケあり男子・甘藤くんとの出会いから運命が変わりはじめる!?

 「おバカちゃん、恋語りき。」や「マイルノビッチ」の佐藤ざくり先生の新連載になります。それではあらすじをご紹介。主人公は小中と引きこもって過ごしてきた女の子・野々山ぼたん。いずれも1年の時に登校拒否になったので、ほとんど学校には行ったことがありません。そんな彼女の唯一の楽しみは、自分でつくったぬいぐるみに話しかけること。けれどもこれだけじゃ虚しい……と、心機一転、寮付きの高校に入学し、華やかな高校生活をスタートさせようとします。友達たちに囲まれ、時には恋なんかしちゃったりして。。。と期待を膨らませるぼたんでしたが、そう簡単には事は運ばず、なかなか馴染めないままに日々は流れていくのでした。そんな彼女と最もよく絡みがあるのが、イケメンながら全く人をよせつけない甘藤くん。自分とは正反対の考えの持ち主である彼でしたが、何故だかぼたんと通じるところがあるようで。。。


たいへんよくできました10003
 佐藤ざくり先生の作品は、ヒロインがかなりハードモードな人生を送っている印象があるのですが、本作もなかなかにハード。過去の出来事もさもありなんですが、高校に入学してからも、純粋に友達を作りたいと思っているヒロインに対して、ちょっと性格に難ありな女の子たちからのアツい洗礼が。いやー、やさしくないですね。しかしながら、それを乗り越えてこそヒロインの魅力がより発揮されるわけで、安定の佐藤ざくり節と言いましょうか。またそういった出来事があるからこそ、相手役もヒロインを手助けしたくなりますし、距離もより縮まりますから。


 ヒロインのぼたんですが、小学校の時には男子にたくさん虫をプレゼントされたことがショックで登校拒否に、また中学の時には、学校で大人気だったサッカー部の先輩の告白を断ったところ、女子たちから無視されるようになり登校拒否にと、見た目はかなり可愛い方だと思われます(作中で言及ないのですが)。そのためひきこもりテンプレートな、暗い性格の地味めな子というわけではなく、むしろ見た目の良さが災いしてトラブルにみまわれたという、「日々蝶々」のすいれん的な子と言えるでしょう。そんな彼女の相手役となるであろう甘藤くんも、かなりのイケメン。1巻時点ではほとんど過去に触れられることは無いのですが、おそらくその見た目が災いしてトラブルに見舞われ、以来人間関係にうんざりし、人との触れ合いを拒否するようになったものと思われ、置かれていた過去はぼたんと同じなんじゃないかと匂わせています。


たいへんよくできました
 ヒロインはそんな過去を経て、より「友達が欲しい」「恋がしたい」と願うようになり、一方の甘藤くんは頑なに拒否しようとするという。相反する二人ですが、ぼたんの友達欲しいという思いは甘藤くんにも向けられ、甘藤くんもそれに少しずつほだされてくるという関係性を見せます。


 未だに「おバカちゃん~」の印象が強くて、そこからするとかなり絵がこなれていて驚くのですが、もう巻数も重ねているのだから当たり前ですよね。それぐらい印象深い作品だったのですが、本作がそのイメージを塗り替えてくれることを期待したいところです。さすがに長期連載を見据えており、1巻時点では情報が揃いきらないぐらいの進展度。巻数を重ね、ますます面白くなって来そうな予感がしています。

 
【男性へのガイド】
→相手役の性格や、ヒロインの周囲にいる性格きつめの女子たちは、男性にはややとっつきづらい所があるかもしれません。
【感想まとめ】
→一筋縄でいかないハードモードな学園青春物語ということで、爽やかさや気持ちよさはないのですが、そんな苦境に向きあい頑張るヒロインの姿に勇気づけられます。おすすめです。


作品DATA
■著者:佐藤ざくり
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:マーガレット
■既刊1巻
■価格:400円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.06
1106491297.jpg都陽子「地下アイドル、職場の男にバレまして」



また踊ってみせてよ
俺のために



■田中桐子、27歳。平日は“派遣の田中さん”、週末は“地下アイドルのキリちゃん”として2つの顔を持つ彼女は、ある日、路上で撮影イベントをしていたところを職場の性悪男・平野に見つかってしまう。平野は「バラされたくなかったら俺のいうこときいてよ」と言い出して……?いじめっ子サラリーマンと卑屈なアイドルの脅し口説かれラブコメディ!

 「彼は女とシたことない」の都陽子先生のフィール2作目の単行本になります。あらすじはもうタイトルを見れば一目瞭然ですので説明は不要でしょう。それ以上でもそれ以下でもありません。それぞれの登場人物に触れておくと、ヒロインは27歳の派遣OLさん。アイドルになりたいという夢を捨てきれず、この年になっても地下アイドルとして活動を続けています。職場ではメガネで地味めに過ごしていますが、ひとたびアイドルにギアチェンジすればキラキラ輝き、地下ではある程度人気を博しているようです。そんな彼女に気づいちゃったのが、同僚の平野という男。顔が良く、仕事もできる、若手の中では一番の出世頭という優良物件ですが、そのハイスペックが災いしたのか、歯に衣着せぬ物言いで敵も非常に多い人物です。加えてドSの気があり、ヒロイン・桐子のアイドル姿の写メをネタに、アレコレと彼女に要求するようになります。


地下アイドル、職場の男にばれまして0001
ヒロインの地下アイドル業に対する心持ちは、非常に気高いものがあります。ファンには全力でサービスをし、身体のコンディションは常に最高の状態をキープできるよう、手入れに余念がありません。ちょっとイタめのヒロインなのかと思っていたのですが、彼女がアイドルを目指した背景を知れば知るほど応援してしまいたくなる不思議。あー、こうしてアイドルにはまってしまうのか……と、ふと読み終わりに気づいたのでした。


 「彼は女とシたことない」は童貞男が相手役でしたが、今回はハイスペックイケメンを据えてきており、全く異なるタイプ。また前回はメインの2人がぶつかり反発し合いながらも、それを越えて距離を縮めるという関係構築を見せていたのに対して、こちらは全く軸がぶれない相手役にヒロインが振り回されながらも、なぜだか心開いてしまうという展開で、キャラもアプローチもだいぶ異なる内容で、作者さんの引き出しの広さが垣間見えます。どちらも面白いお話だと思うのですが、私はこちらの作品の方が好きですかね。

 俺のいうこときいてよと脅されるわけですが、具体的にどういうことをさせられるかというと、休日に家に呼び出されて踊らされたり、仕事をあれこれ頼まれたり、一緒に食事させられたり…。普通であればうんざりするはずなのですが、時折キュンとするような言葉やしぐさを織り込んでくるので、嫌いになりきれないという。冒頭では「性悪」と紹介されていましたが、悪意あるタイプではなく、自分の興味や感動に非常に素直な性格であるというだけかと思います。結果的にドSであることには疑いの余地はないのですが、いわゆる圧をかけるタイプではなく、どこか物腰柔らかくズケズケと物言う不思議なジャイアンという感じでしょうか。


地下アイドル、職場の男にばれまして0002
二人だけのやりあいではそこまで急に仲が進展するわけではないので、そこに色々なトラブルを投入してくるわけですが、それもアイドルならではのもので、ちょっと普通の恋愛ものとは違ったテイストで楽しむことができます。ストーカーだったり、スキャンダルだったり、ライバルだったり、実際の地下アイドルってのもやっぱりそうなのでしょうか。大変です。

 長年こうして意識高く続けていると、これが彼女のアイデンティティになってきますので、普通の女としての自分と、アイドルとしての自分の間での揺らぎが生まれ、彼女を思い悩ませることになります。元々はアイドル活動こそ全てで、そこがメインだったわけですが、平野の登場により、普通の女性としての自分が少しずつ大きくなるという。アイドルであれば当然恋愛は禁止なのですが、一人の女としては恋愛もしたい。そうした葛藤の中で、本作は最後に収まるべきところに収まるのですが、これがなかなか心地よく泣かせるんです。



 
【男性へのガイド】
→キャラ配置とか見るとまさに女性向けという感じなのですが、アイドルを応援する気持ちがいつしか生まれていたので、割と男性もいけるんじゃねーかと思ったり。
【感想まとめ】
→面白かったです。出オチ系・おバカ系かと思っていたのですが、なんだか思いのほか良い話で、読み終わりにすごく得した気分に。オススメです。



作品DATA
■著者:都陽子
■出版社:祥伝社
■レーベル:FC swing
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:680円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.03
1106463497.jpgアサダニッキ「星上くんはどうかしている」(1)



しょうがないから
あたしが友達になってあげる




■「似てない双子」と有名な2人の星上くん。兄・望はぼっちで、弟・求は人気者。三毛野いさりは「友達の作り方を教えてほしい」と望に頼まれたのをきっかけに、正反対な2人に振り回されることになって……!?八方美人女子×似てない双子のトライアングルラブコメ第1巻!

 「ナビガトリア」(→レビュー)や「青春しょんぼりクラブ」(→レビュー)を描かれているアサダニッキ先生のデザートでの連載作です。早速内容の方をご紹介しましょう。ヒロインの三毛野いさりは、八方美人な性格で、誰とでも適度の距離を取り馴染んでいる計算高い女の子。そんな彼女がある日風紀委員になることを命ぜられるのですが、ペアとなった男子は「ハズレのほうの星上」。校内で似てない二人として有名な星上兄弟のうち、暗くて挙動不審な“ぼっち”の兄・望の方なのでした。彼は何を思ったのか、いさりに友達の作り方を教えてほしいと頼んできます。乗り気のしないいさりでしたが、真剣な彼の姿勢を見て友達作りに協力してあげることにするのですが、ここで思わぬ邪魔が入ります。それが星上兄弟の弟で、学校随一の人気者である求。彼は極度のブラコンで、誰も望に近づけさせまいと、あの手この手で妨害してくるようになり…という学園ドタバタラブコメディ。


星上くんはどうかしている10002
望をめぐって(?)バトルを繰り広げる、いさりと求。そしてそんな二人の様子には一切気づくことがない、鈍感なお人よしの望。中盤以降はこの体制がベースに。


 なんだか正確に問題を抱えた男女たちが、不器用ながらも真正面からお互いに向かい合い、仲を深めていくというお話。これは「青春しょんぼりクラブ」にも通じるところがあるかと思います。ヒロインのいさりは、八方美人ゆえの希薄な人間関係に悩み、星上兄・望は友達が作れないことを深く悩み、星上弟・求は弟への異常な愛により性格が歪んでしまったというなかなかどうかしているキャラ達が揃っています。それぞれ「引く」という発想はなく、それぞれの思惑を通したいという所からぶつかり合いが起こるという。ここからやがて恋の芽も生まれてくるのでしょうが、まだまだそこに至るには時間がかかりそうなご様子。


星上くんはどうかしている10001
いさりは八方美人と言いつつも、自分が大事にすべき相手がだれかということは考えることができる子で、望を見捨てず面倒を見てあげる所がなかなか良い子でかわいらしいです。キャラ的にも結構好きな子だったり。


 ぱっと見一番どうかしているのは弟の求なのですが、冷静に考えると兄の望もかなりヤバめの男の子でして。このおどおどしつつ、いさりを驚くほどに巻き込む力というのは、なかなかの破壊力。「(友達になってくれるのは)きみじゃなきゃダメなんだ」というセリフを、長く効力を発揮しそうな一撃ですよね。この無邪気に人を振り回すというのが一番タチが悪くて、それを地で行く彼はなかなか凶悪ですよ。この後も無邪気にいさりを振り回しそうで、非常に楽しみであります。(振り回されるいさりがなかなか良い味を出しているのですよ)

 友達の輪は少しずつ広がって行くのですが、その子たちもなかなかひとくせふたくせあるキャラ達で、今後話が進んでく中で、3人と良いケミストリーを生み出してくれることを期待したいです。一通り役者が揃い、なんとなくそれぞれの気持ちに変化が現れたところで1巻は終了。さてさて、2巻ではどんなエピソードが描かれるのか、楽しみですね。


 
【男性へのガイド】
→アサダニッキ先生の作品は割と広く受け入れられている印象がありますが、本作も同様に間口は広いんじゃないかと思います。割と色物キャラが多いので、その辺さえ受け入れられればOKかと思います。
【感想まとめ】
→さすが安定の面白さでした。友達作りがスタート地点ですが、これから恋愛要素も含まれてくると思われますので、続きにも大いに期待したいところです。



作品DATA
■著者:アサダニッキ
■出版社:講談社
■レーベル:KC デザート
■掲載誌:デザート
■既刊1巻
■価格:463円


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.01
1106472285.jpg餡蜜「カンナとでっち」(1)



カンナ
行ってきます




■カンナの家は工務店で、父は町の大工さん。ある日、カンナと同い年の見習い大工・勝仁が、父のもとで大工修業することになって!?知らない男の子といっしょに住むなんて……この先どうしたらいいの!!?イケメン職人男子とのドキドキ同居ラブストーリー、第1巻!


 餡蜜先生の別冊フレンド連載作になります。工務店の娘であるカンナの家に、ある日見習い大工がやってくることから物語は始まります。その見習いはカンナと同い年で、同じ学校の定時制に通う男の子・勝仁。金髪にピアスというちゃらい風貌もさることながら、同い年の男の子と同居生活なんて……と戸惑うカンナでしたが、彼の大工仕事に懸ける熱い想いに触れ、だんだんと彼の魅力に惹かれるようになっていき…というお話。


カンナとでっち
勝仁の大工仕事への思い入れはかなりのもので、道具を愛でる気持ちもこんな感じでやや気持ち悪いぐらい。カンナの父に憧れを抱いており、この家へと修行に来たのでした。性格は明るく、非常に人懐っこいところがあります。ノリよくいたずらなところがあり、それがカンナとの距離をうまく縮めるきっかけに。


 年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすことになるということで、王道同居ものです。さすがに二人きりというわけにはいきませんが、一緒に生活している以上関わる機会は多いわけで、そしてありえないくらい美味しいハプニングが起きます。看病での密着とか、寝入っちゃって寄りかかるとか、もつれて倒れこんで大胆な体勢とか、長らく生きてきて私自身は一度も経験したことのないような羨ましいアレコレが、1か月ぐらいの短期間で立て続けに起きております。これをありえないなんて言っちゃだめ。お約束なんだから、むしろありがたく頂かないと。こういうところからもわかるとおり、「同居ものとはこうやって攻めるんだぞ」という事がギュッと凝縮されたような作品で、同居もの好きにとってはまず間違いない内容かと思います。


カンナとでっち0003
1話に1~2回くらいはこういうドキッとハプニングが起こります。ありがてえありがてえ。2巻ではお風呂で遭遇とか着替え中の部屋に入っちゃうとか、「お約束」をフルコンプしてほしいところです。


 一方同居ものというと、一緒に暮らしていて何かトラブルなどが起きた時に意外と優しかったとか、そういうエピソードでヒロインからの好感度を上げていくパターンが多いのですが、本作の場合は大工仕事に打ち込む姿を見て胸キュンしちゃったりと、間接的な攻撃もちょこちょこと放り込まれてきます。なので直接攻撃のみの単調さはなく、適度にメリハリはついているのかな、と思います。


 講談社のワンテーマものというと、そのお仕事に関する知識解説などがあるのですが、明示的に説明することはなく、流れの中でこんなものだと軽く触れられる程度です。なのでお仕事ものの側面を期待して読まれると、少し肩透かしをくらうかもしれません。そこはあくまで、そういう職業の人が相手役になった恋愛ものとして読んでいただければよいかと思います。

 
【男性へのガイド】
→ザ・少女漫画という内容ですので、そういうのを求めている方こそが読むべき作品かと思います。相手キャラはいわゆるオラオラ系とは異なり、ノリの良い兄ちゃんという感じなので、そこは障壁にはあまりならないのかな、とも思います。
【感想まとめ】
→ひねりなくど真ん中直球勝負の同居ものということで、読んでいてとても気持ちがよかったです。別冊フレンドらしい、恋愛マンガでした。


作品DATA
■著者:餡蜜
■出版社:講談社
■レーベル:KC別フレ
■掲載誌:別冊フレンド
■既刊1巻
■価格:463円


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.01.31
1106481733.jpg石田拓実「トライボロジー」(1)



絶っ対
あの人の研究室希望する!
決めた!




■【赤く灼けた金属】に胸ときめく工学系女子・野瀬ちなつ。そんな彼女が大学で所属することになった研究室には、個性的な男子がいっぱい!ひなつの大学生活は、一体どうなるの?

 「カカフカカ」(→レビュー)などを描かれている、石田拓実先生のCookie連載作になります。金属萌えの工学系女子ということで、ここ数年のトレンドである理系的要素を落とし込んだ大学生活グラフィティでございます。ではではあらすじをご紹介しましょう。ヒロインは表紙に描かれている女の子。幼いころから熱せられ赤くなった金属に言いようのない興奮を覚え、「鋳造がやりたい!」と工学部に進学したという経歴の持ち主。とにかく金属第一の彼女ですが、大学生活に期待するものはそれだけではありません。工学部は女子が少ないからモテるかも…そんな期待も少しばかり持って入学してはみたものの、金属への想いに勝る男子は現れず。そんな彼女に転機が訪れたのは、3年次の研究室への所属でした。たまたま訪れた先で鋳込みをしていた大学院生の先輩に胸ときめき(本当は鋳込みに胸ときめいた)、そのまま希望してその研究室所属に。金属も恋も一気に順風満帆に!?と思ったのも束の間、先輩含めてゼミメンバーは個性的でなかなか手ごわくて…というストーリー。

トライボロジー0002
鋳造+あこがれの先輩 でこんな感じ。こういう表情を見せるものの、ヒロインはかなりの奥手でかつ鈍感ということもあり、なかなか事はスムーズに進みません。


 研究室で繰り広げられる青春模様って大好物なんですよね。最近だと「海とドリトル」(→レビュー)や「長閑の庭」(→レビュー)など、もはや定番になりつつある研究室(ラボ)プラス的な物語。没頭すべき対象があること、そして閉鎖的な空間に、ある程度自由な時間、話題には事欠かず、恋も芽生えやすいというものです。実際私も経験あるので、色々と思い出すことも…。

 さて本作は工学部の研究室ということで、やはり男子比率が高めでございます。ヒロインは金属萌えとは言いつつも、学術的知識に長けているワケではないため、優等生かというとそうではありません。そのため先輩や同級生に助けられつつ、研究室での仕事をこなすという日々。これが一つ、交流の起点となるわけです。ゼミの主要人物は3名いますので、それぞれ少しずつ紹介を。

 まずは研究室所属のきっかけとなった、大学院生の先輩である守屋さん。無表情で心情が読みづらいところがある人物ですが、とにかくまじめで優しい性格が行動からにじみ出ているような男。研究大好きで、そのほかのことには割と無頓着です。そしてそんな彼と同学年で、アパートも隣室という仲良しさんが、白長谷先輩。彼は守屋とは対照的に、チャラめの風貌で察しの良いタイプ。研究室では指導担当として大学院の先輩が付くのですが、ヒロインのひなつの指導担当は彼が務めます。そして最後は、同い年の男の子・後岡。非常に飄々とした性格の彼、なぜか女装してます。しかもかなり可愛いという。言葉遣いや仕草は男性そのもので、さらに研究室に所属する前は普通に男の子のかっこうをしていたという謎っぷり。人付き合いが苦手で、異性はやはりハードルが高いというひよりにとっては、一番頼りやすいゼミメンバーです。


トライボロジー1-10001
女装男子・後岡くん。一人称は“俺”であることからわかる通り、格好こそ女の子ですが、中身や振る舞いは完全に男です。その飄々としたキャラから、こんな感じですけど普通にゼミにはなじんでいるという、不思議だけど魅力的なキャラです。


 鋳型に関する解説はあるものの、メインテーマとしてがっつり扱う姿勢ではなく、あくまでコミュニティとして研究室を描きます。そのため主軸となるのは恋愛だと思うのですが、ヒロインがかなり奥手で人間関係の造成に消極的であるため、お互いの矢印がうっすらと見えだしたというレベルに留まっています。ヒロインは最後までこんな感じな気がするので、周りのメンバーが活発に動いて物語が転がっていくのではないでしょうか。現時点で一番の期待株は、女装男子の後岡くん。いや、この回りくどく健気な独特のアプローチ素晴らしいですわ。応援してあげたくなる子ですよ。

 独特の空気を醸し出すマイペース男子たちに翻弄されつつめぐる恋愛模様ということで、石田拓実的な要素が多分に含まれた物語だと思います。「カカフカカ」を読んで良かったと思った方は、こちらもまず間違いなくイケます。また石田先生というと、ちょっと生々しいエロというイメージがあるのですが、本作はまだそういったエッセンスは匂わせず。ただ大学生ですし、ゆくゆく出てくるんじゃないかと期待してみます。1巻時点で盛り上がっているかというと、決してそうではないのですが、準備状況から2巻以降面白くなる予感がかなりしており、早くも発売が待ち遠しいという状況。

 
【男性へのガイド】
→理系大学の研究室ということで、とっつきやすいフィールドではあると思います。恋愛要素がどういう形でどれだけ投入されてくるのか現時点では判然としないので難しいところですが、このある程度距離を置きつつの関係形成は、男性が読んでいても胸焼けはあまりしないんじゃないでしょうか。
【感想まとめ】
→理系的ワンテーマ、研究室、女装男子…好きなやつですわ、ツボです、ツボ。気になった方は、とりあえず試し読みを…


作品DATA
■著者:石田拓実
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックスCookie
■掲載誌:Cookie
■既刊1巻
■価格:419円+税


■試し読み:第1話

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かくかくしかじか
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レビュー
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王国の子
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レビュー
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レビュー
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かみのすまうところ。
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レビュー
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