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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] [オススメ] 2014.09.25
1106441945.jpg河内遙「文房具ワルツ」



小さなギスギスも
淡い白がほどく
そんな日でした




■『物語』は、まだ紙の途中。
夢と現実のギャップにあえぐナズナ。
ナズナに想いを寄せる八神。
漫画家として鳴かず飛ばずのハタノ。
しかしそれぞれの人生の傍には、知らぬところで支えてくれる存在が…。
恋と悩みが交錯する、文具系純愛短編集。

 「夏雪ランデブー」(→レビュー)の河内遙先生の、flowersで掲載された一連の短編をまとめたものになります。悩みを抱える若い男女達の想いを、文房具の擬人化によって描き出した物語たちです。

 長年使っている文房具って、愛着が湧きますよね。私にとっては、中学の時から使っているシャープペンシルがそれで、高校受験も大学受験も、社会人になってからの資格試験でも、常にそのシャープペンシルで切り抜けてきました。いわば相棒という感じなのですが、そういった着想をマンガに落としたのが本作になります。描かれる人間は、大学生2人に漫画家1人。それぞれつながりを持っており、またそれぞれに悩みを抱えています。それは恋の悩みであったり、仕事の悩みであったり。そんな彼らが抱える悩みを、普段使っている文房具が感じ取り、時に何かしたりしなかったりせずに、主人を案じる姿が描かれます。


文房具ワルツ1-1
基本的には主人のことを思っています。長年使って愛着が湧いていればなおさら。


 どのお話も実に読後感が爽やかで、なんだか心が温かくなるんですよ。そしてこれを読んだ後は、きっとあなたも文房具を大切にしたくなるはず。文房具は擬人化されても、基本的に何か自分の意志でしてくれるわけではなく、ただただ主人の心を案じるというだけ。ただそれが描かれることで、主人たちの悩みであるとか、頑張りってものが際立つんですよね。一番近いところで主人を見ているので、主人のことがよく分かっており、発せられる言葉がどれも沁みると言いますか。一方で、文房具同士の絡みも面白く、そちらは異様にポップでノリが軽いという。このバランス感が良いですよね。

 物語は全部で8話収録されており、各話でメインの3人の誰かの視点で描かれます。初回の掲載から最終回まで、実に5年の時を擁しているということなのですが、読んでいると絵柄的にも物語の質的にも大差なく、全く違和感なく最後まで読みきることができますよ。では個人的に気に入ったお話について…


「アケガタ花壇」……カラーに挑戦する漫画家・ハタノケントのお話。マンガと同じく、なかなか思い描くように絵を仕上げられない彼が、煮詰まったのちに同期デビューですでに相当の売れっ子になっている漫画家の元へ赴くというお話。「捉え方の違い」と言いますか、置かれている状況は同じでも、ポジティブに捉えて前に進める人と、ネガティブに捉えて引き返してしまう人がいるのですよね。本作は、ネガティブになりがちな主人公が触発されて前に進むというストーリーになっているのですが、こういう人と出会い仲良くなるっていうのも一つの才能なのだなぁ、とかちょっと思ったという。非常に前向きな気持ちになれるお話でした。


文房具ワルツ
「踊るコンパス」…基本的には人間視点で描かれるのですが、このお話に関しては半分人間、半分文房具という配分の目線で描かれました。文房具屋の片隅で、長年売れることなく眠っているコンパスが、あれこれと文句を言っているというお話なのですが、ツンデレ感漂う姿が実に可愛らしい。コンパスなんて小学生の時に少し使って以来、どこかにやってしまったのですが、こんな姿をしているのだったらもっと大事にしたかもなぁ、なんて思ったりしました。この先どうなっていくのかも期待させてくれる、爽やかな物語でした。

 
【男性へのガイド】
→男性目線のお話もありますので、物語への入り込みやすさはあるかと思います。恋愛特化とかでもないですし、割と万人受けしそうなイメージがあります。
【感想まとめ】
→面白かったです。どのお話も優しく前向きな気持ちにさせてくれるもので、ものを大切にしたいという気持ちが読み終わった後に生まれました。


作品DATA
■著者:河内遙
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:flowers
■全1巻
■価格:940円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2014.07.26
1106413641.jpg草川為「今日の恋のダイヤ」


勇気をだせ
すべてはそこからだ



■誰かの勇気が私に、私の勇気が誰かにつながっている。
 片想いの会社の先輩が姉と付き合いはじめ、諦めようとしてきた楡原。2人の結婚が決まり、式に出るために気持ちを殺し空港へ向かうのだが…。空港を行き交う見知らぬ4人が影響を与え合い、前に進んでゆく連作オムニバス!
 
 「八潮と三雲」(→レビュー)の草川為先生の、大人の女子の恋物語。いやこれ、読んだときものすごく意外でびっくりしたんです。草川為先生というと、ファンタジー作品でヒロインも比較的若く元気…というイメージが強かったのですが、今作はガラッと変えて、働く女性、しかもどうにも素直になれない不器用な恋をする女性がヒロインとなっています。設定を見たとき、「メロディ連載かな?」なんて思ったのですが、どっこいレーベルはLaLa。ただし掲載誌はAneLaLaということで、つまるところCanCamとAneCanみたいな関係の増刊誌掲載でございました。増刊のキャッチフレーズはオトナガールに贈るってあるんですが、「オトナガール」ってなんなんでしょうね(冷静)
 
 物語は4話構成。どれも世では「大人」と言われる社会人が主人公。自分の想いを圧し殺し耐える者、最初から自分の恋を諦めている者、遠距離恋愛ですれ違いばかりしている者、東京に来たけれどどうにも上手くいかない者…それぞれ抱えている問題は様々で、そして大人ゆえに動きにくく、歯がゆい。働いているゆえか、「そう、そういう時あるよね!」とか「いるいる、こういう人いる」みたいな場面がしばしば。草川為作品でこういう感覚を味わえるってのがとにかく新鮮で、非常に強く印象に残りました。


今日の恋のダイヤ1-1
メインはやっぱり社内恋愛なわけですが、社内であろうと社外であろうと、大人の恋は面倒くさいのです。うん。


 それでは気に入ったお話をご紹介しましょう。一番のお気に入りは1話目に収録されていた楡原さんのエピソード。会社でもしっかり者の楡原さんは、密かに会社の先輩・瀬戸さんに恋心を抱いていました。彼を追って入った会社のフットサルチームでの活動に、姉を連れて行ったところ、瀬戸さんと姉は一瞬で恋に落ちてしまった。トントン拍子に話は進み、二人は結婚することに。自分の気持ちを必死に圧し殺しつついた楡原さんですが…というお話。
 
 同じ職場の先輩に恋するという所でそこそこ面倒なのですが、それに加えて彼には婚約者がおり、さらにその相手は自分の姉という辛いシチュエーション。けれども気丈な楡原さんは、決して自暴自棄になることなく、周りの求める“しっかり者”を演じ続けるわけですが、その姿が切ない。もういい大人なので、自分の気持ちに素直になって状況を壊すなんて行動に出れないわけですが、その心の消化の仕方が難しいのですよね。切り替えようとしたって、職場で毎日会ってしまうし、次を簡単に見つけられるほど、社会には“出会い”は溢れていない。この歯痒さになんとも共感したというか、「わかるポイント」が多くて良かったです。


今日の恋のダイヤ
泣きつく相手がいないことも、立ち直りを遅らせる一因に。


 もうひとつお気に入りは、遠距離恋愛で最近ギクシャクなカップルを描いた第3話。付き合って5年で、かといって具体的な結婚話もなく、一方で親からはなんとなくプレッシャーをかけられるという、この焦り。この焦りが…!私も気がつけば眼前に三十路の壁が迫っており、こういうエピソードがなんとなく身に沁みるようになってきました。私は男だからまだ弱い方で、同年代の独身女性からこういう話を聞くことが増えて来た分、なんとなくこういうエピソードに対するアンテナが高くなっているのかもしれません。
 

【男性へのガイド】
→視点が女子で、またエピソードも働く女子ならではという感が強いです。とはいえ身につまされるエピソードもあり、男性が全くダメかというと、そういうわけでもないかと。
【感想まとめ】
→大人感があって落ち着きつつも、草川為先生が描いているということでもの凄く新鮮味のあった本作、オススメです。


作品DATA
■著者:草川為
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックス
■掲載誌:アネララ
■全1巻
■価格:429円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2014.05.01
1106384633.jpg水元ローラ「近づいたり 離れたり」


でも
名前を呼ばれるって
悪くないね



■その声で、恋を呼ぶんだ。
 時にやさしく、時にせつなく…。
 「名前」をテーマに、あなたのハートを甘くくすぐる
 18粒のラブ・キャンディ
 
 水元ローラ先生のスピカ連載作でございます。「名前」をテーマにおくる恋愛ものの読切りを18編収録しています。帯にはいがわうみこ先生の推薦文が。これが非常に良いチョイスだと個人的には。いがわうみこ先生が好きだったら、多分間違いなく好きだと思います。
 
 日常の中で織り成される恋の瞬間を切り取っているのですが、どのキャラもどこか変わっていて、切り取る“間”も若干シュール目でいい味出しているのです。いがわうみこ先生ほどぶっ飛んでいないですが、その分親近感のあるキャラ達になっており、いい感じに地に足ついているといいますか。


近づいたり離れたり1
一口に「名前がテーマ」と言ってもその使い方は様々。変わった名前だったり、単に名前を呼ばれることに着目したり、同じ名前だったり。


 描かれるのは中学生から社会人まで幅広く、またその内容も、青春の香り感じる爽やかなものから、ちょいとやさぐれた社会人ならではのビターな人間関係まで様々。またどれもバッドエンド的な終幕はなく、希望が見える形で終わっているので、短いながらも読後感が非常に良いです。…とここまではこの単行本全体を通しての感想。要するにオススメなんですが、ここでレビューを終わりにしても味気ないので、個人的にお気に入りだったエピソードを幾つかご紹介したいと思います。
 
 
 まずは「エピソード04.川口健」。彼の名前は本編では全く重要でないのですが(笑)高校生の男の子が、通学路一緒の他校の女子(名前まではわかってる)が気になっているというお話。通学バスや電車が一緒だと、顔は当然わかってて、名前もひょんなきっかけで分かっちゃったりするんですよね。男の子が主人公なのですが、青春ならでは勢いに加えて、透けブラに目が行っちゃう哀しき性がよく現れていて、良いなぁと。
 
 次は「エピソード09.吉田莉亜夢」。女の子が主人公です。これは名前から分かるように、一風変わった名前がコンプレックスになっている女の子のお話。それが逆に思わぬ縁を運んで来たりするわけですが、名前にまつわる物語としては非常にオーソドックスかつストレートな作りで素直に物語を消化することができました。自分自身、本名がちょっと変わっているので、こういうのも少し共感めいてしまったり…。
 

近づいたり離れたり
 最後は「エピソード07.濱本亜紀」これはエッチの最中に間違えて元カレの名前を呼んでしまったことから喧嘩になるという話。軽いノリで付き合った大学生のカップルなのですが、のらりくらりと付き合ってしまっている脱力感が素敵。別れるのって結構エネルギーを使うじゃないですか、だから案外別れないっていう。こういうノリのカップル、微笑ましくて好きです。


【男性へのガイド】
→男子目線の話もあって、それが意外と共感できるのです。面白かった。
【感想まとめ】
→よかったです。どれも素敵なお話でした。ちょっとした掘り出し物に出会えた感。


作品DATA
■著者:水元ローラ
■出版社:幻冬舎コミックス
■レーベル:スピカコレクション
■掲載誌:スピカ
■全1巻
■価格:630円+税


■試し読み:試し読み

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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2013.08.25
1106306501.jpgカム「山響呼」


さよならだから
優しくなるんじゃない



■「さよならが近づくと何もかも愛しく感じるわ」
 亡くなった祖母はそう言っていた。だが、それは嘘だ。離れて行くと思ったら、悲しくて悔しくて嫌いになるはずだ。少女・夜子は祖母の魂を還した山響呼の少年に、その想いをぶつけるのだが…。
 
 ITANでデビューされたカム先生の初単行本です。ITANも続々オリジナルの新人さんがデビューしていますね。田中相先生のように、話題をさらう方が、また出てくるかもしれませんね。さて、本作は、ITANで掲載された読切りと書き下ろし作品をまとめた単行本で、表題作をはじめ5編が収録されています。表題作は冒頭に書いたとおりですので、残りのお話について少しずつご紹介しましょう。
 
 『王様と魔女』は、ITAN新人賞で優秀賞を獲った時の作品(だったと思う)。10年前、魔女によって鳥に姿を変えられてしまった王様が、退位式を迎えるにあたり人間の姿に戻して欲しいと、新しい魔女・ウィアドに依頼が届くのですが…というお話。
 
 いつも共に過ごしていた吸血鬼の2人、アナとリズ。「不変こそ正義」と信じてきたアナでしたが、教会のハンターを伴侶に選んだことで、その誓いを自ら破ることになり、それを目の前にリズは…という『逃亡前夜』。
 

山響呼1
「いい子にしないとお化けが来るぞ…亡くなったおじいちゃんにそう言われ、以来何かに見はられているような気がする“なの”。人一倍真面目に生きようとするなのですが…という『夜のおばけ』。
 

 最後、『夜店』は数ページのショート作品。眠れぬ男が、夜中町に出かけると、「夜屋」という店の店主に声をかけられる。そこで持ちかけられるのは、自分の夜と店主の夜を交換しないか…というもので、というお話。
 
 表紙から特徴的で目を引くものになっていますね。月夜に鳥と人物が配されているもので、色使いは暗め。そしてその印象そのままに、内容もまた独特の雰囲気が漂う、印象的なものとなっていました。それぞれの作品に共通して先行するイメージは、「静」と「暗」。明るく爽やかなイメージはあまりなく、静かに、どこか陰のある雰囲気で物語は進んで行きます。また一方で絵柄というか、キャラの描き出しはかわいらしく、特に子供は見るだけでによによしてしまうようなかわいらしさがあります。目がが好きですかね。


山響呼
 この共通した暗さを生み出している源泉となっているのは、「喪失」のように思えます。どの物語にも、何かしらの「喪失」があって、キャラ達はその前で、自分なりの答えを出すために試行錯誤している。それは人の死であったり、地位であったり、友情であったりと様々。“これ”という明確な答えのあるものではないので、どこかしら哲学的な雰囲気も漂います。最初の印象としては、「なんか個々人の哲学的なエッセンスが落とし込まれていてちょっとわかりにくい物語になっているな…」なんて思ったのですが、アプローチ的には難解な哲学を、わかりやすくするために物語に落とし込んだっていう、逆の方向なのかもしれません。

 個人的にお気に入りなのは、「夜のおばけ」。ファンタジックな物語が多い中、この物語は唯一現実ベースでのお話となっています。子供が亡くなったお祖父ちゃんの言った言葉を頑なに信じ、良い子でいようと心がけて日々生活するというお話なのですが、その真面目っぷりが度をすぎて、ちょっと周りと上手くいかないという。そんな子供を前に、適当な親が試行錯誤するのですが、そのやりとりに愛が感じられて非常に微笑ましいのです。子供の気持ちもわかるんですよね。亡くなったお祖父ちゃんが見ているかもしれないからちゃんとしなきゃ、って感覚未だに少しあったりしますし。


【男性へのガイド】
→ITAN作品は男女問わずいけるものが多いかと思います。本作も恋愛要素は薄めで、男女問わず抱くであろう気持ちに問いかけるものが多く、物語そのものの受け入れやすさは別として、そういった壁はないかと。
【感想まとめ】
→ちょいとクセがあるので、好き嫌いはわかれるかもしれません。私も好きなお話とそうでない作品の振れ幅が大きかったというのが、正直なところ。連載で大きな物語を描くことになったとき、どんなお話を生み出すのか楽しみです。


作品DATA
■著者:ITAN
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■全1巻
■価格:581円+税


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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2013.08.02
1106288586.jpg萩原さおり「ノスタルジア」


りんもいつか
だれかに花束もらいたいな



■読切り5編を収録。それでは表題作をご紹介。
 あいつのどこがいいのか、全然わからなかった。夏休みのあの日までは…。
 中学に入学して一番はじめに喋った相手がひーちゃんだった。ひーちゃんは、いつも笑顔で明るくて、私はすぐに大好きになった。そのひーちゃんが好きだった男の子・永倉。何でもストレートに、ずけずけと発言する彼が、最初は苦手だった。けれども、あの日をきっかけに…。眠らせていたはずの想いが、偶然の再会で動き出して…
 
 萩原さおり先生のデビュー単行本でございます。毎年集英社マーガレット・別冊マーガレットでは、素敵な新人さんが読切り集でデビューされるのですが、今年もまた楽しみなマンガ家さんが登場しました。読切りが、表題作含め5編を収録。どれも人と人とのつながり、重なり合いを描いた温かみのあるお話になっています。

 それでは個人的にお気に入りだったエピソードをご紹介しましょう。まずは冒頭に収録されている「真っ赤なチューリップを君に」。小学生の男の子が、チューリップの花束を持って入院している女の子の元にお見舞いに向かう過程を描いた物語なのですが、これがピュアピュア&温かくてめちゃくちゃ癒されるっていう。

 
ノスタルジア
正装した男の子が花束を持っているという絵面がまず可愛くて微笑ましいのですが、内容もまた素敵。

 エピソード的には、情けは人のためならず的な割とありがちなものではあるのですが、目に見える形で幸せを回収しないその謙虚さと、それでいてちゃんと彼の行動が意味あるものになっている、物語としての完成度の高さが目を引きました。それに加えて、最後の最後の描きおろしでちゃんと目に見える形で幸せな結末を迎えさせているあたり、良い構成だと思いました。これは単行本で読んでこそだと思うので、是非とも読んで欲しいところ。

 もう1作は「ゆめのはなし」。絵が好きだからなんとなくで芸大・美大の予備校に通う女子高生が、才能溢れる期待の星の男の子と、ひょんなことから仲よくなるお話。序盤のエピソードは、「才能も夢もない子が天才と触れて、自信をなくすもお互いを認め合い、やがて惹かれていく」というよく見るエピソードなのですが、終盤で思わぬエピソードを投入し、ガラリとその印象を変えてきます。単調な恋愛物語かと思いきや、より深い絆を描いた厚みのあるお話に。こういう転調のさせ方もあるのか、と非常に印象的でした。


ノスタルジア2
 作品の印象として近いのは、羽柴麻央先生でしょうか。絵柄もなんとなく似ているのですが、ページ数が限られた中で、過去と今を絡めつつ物語に厚みを持たせる手法が実に巧く、印象が重なります。

 例えばこの単行本で言えば、表題作の「ノスタルジア」、「キンモクセイ」、「ゆめのはなし」がそれ。悪い言い方をすれば通り一辺倒なのですが、微妙にニュアンスを変えてきているので、悪い風には映りません。むしろデビュー作ながら、自分のスタイルを持って高い安定感を保っているのは、すごいことなんじゃないかと思います。トレンドを生むような作品は生み出さなくとも、高め安定で良質な物語を提供してくれそうなイメージ(勝手すぎるが)。伸びしろがあるのかわかりませんが、非常に好きな作風なので、できれば早く定着して欲しいところです。


【男性へのガイド】
→恋愛のみでない辺が、普段少女漫画に触れない男性も親しみやすい形になっているのではないかと思います。
【感想まとめ】
→どのお話も何かしらの工夫がされていて、印象に残りました。あとデビュー単行本とは思えない程、安定感があって驚き。面白かったです。


作品DATA
■著者:萩原さおり
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税


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