
小さなギスギスも
淡い白がほどく
そんな日でした
■『物語』は、まだ紙の途中。
夢と現実のギャップにあえぐナズナ。
ナズナに想いを寄せる八神。
漫画家として鳴かず飛ばずのハタノ。
しかしそれぞれの人生の傍には、知らぬところで支えてくれる存在が…。
恋と悩みが交錯する、文具系純愛短編集。
「夏雪ランデブー」(→レビュー)の河内遙先生の、flowersで掲載された一連の短編をまとめたものになります。悩みを抱える若い男女達の想いを、文房具の擬人化によって描き出した物語たちです。
長年使っている文房具って、愛着が湧きますよね。私にとっては、中学の時から使っているシャープペンシルがそれで、高校受験も大学受験も、社会人になってからの資格試験でも、常にそのシャープペンシルで切り抜けてきました。いわば相棒という感じなのですが、そういった着想をマンガに落としたのが本作になります。描かれる人間は、大学生2人に漫画家1人。それぞれつながりを持っており、またそれぞれに悩みを抱えています。それは恋の悩みであったり、仕事の悩みであったり。そんな彼らが抱える悩みを、普段使っている文房具が感じ取り、時に何かしたりしなかったりせずに、主人を案じる姿が描かれます。

基本的には主人のことを思っています。長年使って愛着が湧いていればなおさら。
どのお話も実に読後感が爽やかで、なんだか心が温かくなるんですよ。そしてこれを読んだ後は、きっとあなたも文房具を大切にしたくなるはず。文房具は擬人化されても、基本的に何か自分の意志でしてくれるわけではなく、ただただ主人の心を案じるというだけ。ただそれが描かれることで、主人たちの悩みであるとか、頑張りってものが際立つんですよね。一番近いところで主人を見ているので、主人のことがよく分かっており、発せられる言葉がどれも沁みると言いますか。一方で、文房具同士の絡みも面白く、そちらは異様にポップでノリが軽いという。このバランス感が良いですよね。
物語は全部で8話収録されており、各話でメインの3人の誰かの視点で描かれます。初回の掲載から最終回まで、実に5年の時を擁しているということなのですが、読んでいると絵柄的にも物語の質的にも大差なく、全く違和感なく最後まで読みきることができますよ。では個人的に気に入ったお話について…
「アケガタ花壇」……カラーに挑戦する漫画家・ハタノケントのお話。マンガと同じく、なかなか思い描くように絵を仕上げられない彼が、煮詰まったのちに同期デビューですでに相当の売れっ子になっている漫画家の元へ赴くというお話。「捉え方の違い」と言いますか、置かれている状況は同じでも、ポジティブに捉えて前に進める人と、ネガティブに捉えて引き返してしまう人がいるのですよね。本作は、ネガティブになりがちな主人公が触発されて前に進むというストーリーになっているのですが、こういう人と出会い仲良くなるっていうのも一つの才能なのだなぁ、とかちょっと思ったという。非常に前向きな気持ちになれるお話でした。

「踊るコンパス」…基本的には人間視点で描かれるのですが、このお話に関しては半分人間、半分文房具という配分の目線で描かれました。文房具屋の片隅で、長年売れることなく眠っているコンパスが、あれこれと文句を言っているというお話なのですが、ツンデレ感漂う姿が実に可愛らしい。コンパスなんて小学生の時に少し使って以来、どこかにやってしまったのですが、こんな姿をしているのだったらもっと大事にしたかもなぁ、なんて思ったりしました。この先どうなっていくのかも期待させてくれる、爽やかな物語でした。
【男性へのガイド】
→男性目線のお話もありますので、物語への入り込みやすさはあるかと思います。恋愛特化とかでもないですし、割と万人受けしそうなイメージがあります。
【感想まとめ】
→面白かったです。どのお話も優しく前向きな気持ちにさせてくれるもので、ものを大切にしたいという気持ちが読み終わった後に生まれました。
作品DATA
■著者:河内遙
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:flowers
■全1巻
■価格:940円+税
■試し読み:第1話
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