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Tag [オススメ] [BL] 2010.07.07
32254189.jpg北別府ニカ「泣かないで、大久保くん。」


きっと君と見る桜は
今年の数百倍きれいに見えるはずだし



■毎週金曜日、大阪初の最終便で一緒になる大久保くんは、大人になってできた友達。新幹線で隣になったその時に、涙目だったことを今でも覚えている。彼は「ゲームのやりすぎで」と答えたけれど、そんなのはウソだとすぐにわかった。それから出張の度に、一緒に新幹線で話したりゲームをしたり…。同級生だという事以外、お互いのことはあまり知らないけれど、楽しい時間を過ごせるのならそれで良い。そんな週一のワクワクがはじまって一月くらい経った頃、道に迷って廃r混んだホテル街で男と一緒の大久保くんを偶然見かけてしまって…

 北別府ニカ先生のBL作品でございます。表題作ほか、読切り3話、シリーズ一編を収録。表紙および表題からも伝わるかと思いますが、ちょっと弱い感じの中性的な男の子が多く登場し、そんな男の子の相手を、ごくごく普通な明るめの男子がつとめるというカップリングがメイン。弱々しい男の子とまではいかなくとも、ダウナー系で生命力弱めな感じまではいっており、全体的に「守ってやりたい」感が湧き上がってくる作品たちが収録されています。


泣かないで、大久保くん
無理矢理させられた女装に、泣き顔のコンボ。そりゃあ我慢なりませんわな。


 個人的にお勧めしたいのが、表題作ではなく2話セットで1シリーズとなる「2LDK」。幼なじみの男の子が、大学卒業間際の飲み会に参加して以来、部屋から出てこなくなってしまったというはじまり。就職してしばらくの間、部屋から出てこないその幼なじみの事を気にかけていた主人公は、転勤による引越しが良い機会と、離れたくないと慌てる幼なじみを、一緒に連れてきてしまい、同居生活を始めます。しかし相変わらず、部屋からは出てこない幼なじみ。一体彼が何を考えているのか、よくわからないままに日々は過ぎて…。というお話なのですが、その幼なじみの弱々しさが本当にかわいらしいのです。途中差し込まれるの女装シーンから、事あるごとに泣きそうになってしまうその様子まで、すべてがかわいらしい。これは守ってあげたくなりますわな。
 
 BLでは時折女装が登場するのですが、個人的にBLでの女装シーンというのはありがたく、「お、いけるじゃん」という感じから、その勢いで最後までいけてしまうとでも言いましょうか。加えて中性的な男の子の泣き顔というのが、個人的にツボで、この作品はまさに私のツボをつきまくりだったのでございますよ。また「2LDK」に関しては、相手役がひきこもりということで、身体的な接触はおろか、直接的な会話も乏しく、お互いが自問自答しながら物語が進んでいくというスタイルであり、そのアッサリさがまた読みやすさと切なさを加速させます。
 
 エロはそれなりにありますが、レーベルがレーベルだけに、モロで描かれるということはほとんどなし。BL耐性ない人はこれでもキツいのかもしれませんが、ある程度慣れているのであれば、「全然普通」という感じ。この程度であれば、十分許容範囲内であると思います。とにかく泣き顔の男の子が好きという方は、是非とも手に取ってみてください。


【男性へのガイド】
→微笑ましくも、BLっぽさは普通レベルで、耐性がないと読むのはしんどいか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→ツボつかれまくり。「2LDK」ひとつで、もう十分元は取ったという感覚。その他の作品も、読むに耐えうる安定感のあるクオリティで、マイナスになる部分はさほど見当たらないかと。


作品DATA
■著者:北別府ニカ
■出版社:東京漫画社
■レーベル:マーブルコミックス
■掲載誌:HUG,リーマンカタログ
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazonbk1

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Tag [BL] 2010.06.29
31861016.jpgテラシマ「ポラリスベル」


その声は、
頭に、夜空に、やさしく溶けた
遠く電車と踏切の警笛が聞こえた



■男にも女にもだらしない甲斐性なしの秀吾。トーコと付き合い、さらにはトーコの幼なじみのケイスケまで食ってしまったという、だらしのない過去を持つ彼は、なんだかんだで今も二人に友達を続けてもらっている。ある日電車内にiPodを落としてしまい、駅の乗務員室まで赴いた彼は、そこで説教がましい中年の車掌と出会う。最初のお互いの印象は最悪だったが、何度か顔を合わせるうちに、なんとなく言葉を交わす不思議な関係に。そして走り出す、秀吾の心。しかし後日、衝撃の事実が判明して…!?

 この前初めて読んだテラシマ先生の作品がなかなか面白かったので、続けて手を出してみました。男にも女にもだらしない高校生の主人公が、ある日出会った中年の車掌に心奪われるというお話。彼と車掌、そして彼の友人二人を巻き込み、全4話、それぞれの視点から物語は描かれていきます。基本ユニットとなるのは、高校生の3人組。イケメンだけどだらしがない主人公・秀吾に、その元カノ・トーコ、そしてその元カノの幼なじみで、過去に一度だけ主人公と寝てしまった過去を持つクラスメイトの男子・ケイスケ。なんだかもの凄い関係性を持った3人ですが、なぜか離れることなく、文句を言い合いながらつるんでいます。そこに絡んでくるのが、とある駅で車掌をする中年男性。何度か言葉を交わすうちに、彼のことが気になってくる秀吾でしたが、ある日衝撃の事実を知ることに。なんとその車掌さんは、元カノであるトーコのお父さんだったのです。これはやばい、ハマったらマズい。頭ではわかっていても、気持ちを止めることは出来ません。一体どうすれば…という、ちょっと変わった設定のお話です。


ポラリスベル
まさかの親子丼展開!?にはなりません。はしたない設定も、物語自体はかなり純粋な気持ちを、プラトニックに描きます。


 これをBLと言って良いものかどうか。恋愛要素は、あるとはいえ、それだけで成り立ってしまうような濃度を持っていません。言うなれば、物語の発端としての機能しか持ち合わせていないような。そこに、成立している恋愛は、ひとつもありません。好きなのか憧れなのか、はたまた意地なのか、一方通行の想いが決して重なることなく、それぞれのキャラクターから伸びています。主人公は元カノの父親である、車掌さんに。元カノのトーコは、秀吾に。そしてケイスケは、幼なじみのトーコに。様々な事情で、自分の気持ちを打ち明けられない彼らは、ただひたすらに想いを自分の中に大事に大事に抱え、決して相手にその気持ちが悟られることがないよう、人一倍気丈に振る舞うのです。優しさと臆病さ、そしてほんのちょっとのズルさが混ざるその行動は、まさしく恋をする少年少女そのもの。特にトーコの視点で描かれた3話目などは、BLのそれとは完全に一線を画しており、これを「BL」と一口に括ってしまうのは、どうにも憚られるような気がするのです。
 
 駅を星と例え、線路で繫いだ路線図を星座と例える主人公。そこに、車掌から語られる星座の知識を交え、さらにそこに彼らの状況を重ねるという、手のこんだつくり。ストーリー自体も、かなりロマンチックな印象のある語りで進行していきます。とりあえず、素敵でオシャレ。しかしながら、手紙の文面が挿入されるシーンをはじめとして、1ページにおける文字数がかなり多く、若干読みにくい。スムーズに感情移入して、そのままの流れで感動を…という形で読んでいると、度々断絶されてしまいイライラすることがあるかもしれません。もっと削れるところを落として、スッキリさせられれば、かなり素敵な作品になったのではないかなぁ、と思います。それでも十分いいおはなしではあるのですが。
  

【男性へのガイド】
→BLというか、BL的な要素がありますよって程度。プラトニックもプラトニックで、ささやかなキス程度の描写しか出てきません。BL作品として考えるのであれば、かなり読みやすい部類に入る作品。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→手のこんだつくりはさすが。しかしこの物語に乗せようと思ったものを、完全には伝えられていないというのが残念なところ。こんなBL作品もあるのだな、と驚いた一作です。


■作者他作品レビュー
テラシマ「種を蒔く人」

作品DATA
■著者:テラシマ
■出版社:東京漫画社
■レーベル:MARBLE COMICS
■掲載誌:「制服カタログ」,「幼なじみカタログ」ほか書き下ろし
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazonbk1

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Tag [BL] 2010.06.23
07225890.jpgフジサワユイ「夏の逢瀬」


数年分の想いは降り積もり
やがて心へと溶けてゆく



■上京して2年。彼氏にフラれた涼は、幼なじみの一馬からの電話で、久しぶりに正月を実家で過ごすことにする。高校時代、周りからは「遊び相手」ではなく「おもちゃ」として扱われるようになっていた涼。そんな彼を、一馬が助けたてくれたのだった。以来、二人は時折体を繫ぐようになっていたが、その関係も涼の大学進学で終結。そして久々の帰郷で、涼を出迎えた一馬は…!?

 変則的にBL作品をご紹介。すみません、明日が発売ラッシュで、それまでちょっと開くんです。その繫ぎ的な感じで。久々に帰郷した、主人公とその幼なじみとの関係を描いた作品です。主人公は、中性的でかわいらしい風貌の大学生・涼。上京して2年、彼氏にフラれたというタイミングで、故郷の幼なじみ・一馬から電話が入り、その流れで久々に正月を地元で過ごすことに決めます。一馬は涼の幼なじみで、高校時代、その見ためから周囲の男たちからおもちゃとして遊ばれていた涼を、一馬が助け、以来体を重ねるようになっていたという微妙な関係を持っていました。しかしそれも涼が大学進学するまでの話。その距離が、再び二人をただの幼なじみに戻していました。そんな中久々に再会した二人は…?という流れ。実にオーソドックスな題材で、絵柄にマッチした可愛らしい、比較的爽やかなストーリーが展開されます。


夏の逢瀬
表題作「夏の逢瀬」は、冬に再会したふたりのそれからを描いた続編。状況は違えど、久々に会うというのはドキドキするもので、そのたびに初々しい反応をみせてくれます。たまらん。


 ルチルってのはエロ少なめなのでしょうか?エロシーンはほとんどなく、あったとしても局部モロってことはまずありません。表題作も、キス止まり。しかも幼なじみで距離感に困るという、やたらと初々しい絡み方。可愛らしく明るい表紙ですが、作品もまさにそんな感じで、青春臭のする瑞々しいストーリーを展開してくれます。
 
 表題作の他にも、4作ほど収録されています。どれも学生を描いた、青春ベースのお話。高校生だったり、大学生だったり、それぞれ違いはありますが、初々しさや痛々しさ、そしてそこからくる可愛らしさは共通して出ており、またあまりエグくないなラブシーン描写ということも相まって、サクサクとごく普通に読み進めていくことができました。個人的には、大学生の先輩後輩を描いた「意気地なしの恋」と、教師と生徒の話である「君と見る夢」がグッドでした。特に「意気地なしの恋」の先輩可愛すぎます。一方で、転校生といじめられっ子を描いた「嵐を呼ぶ転校生!」と、屋上で出会った青年との秘密を描いた「空渡る飛行機雲」は、どちらも満足感に欠けたというのが、素直な感想。あまり好みでなかった2作のうち、前者はデビュー作で、後者はファンタジックな要素が入っていたということも影響しているのかもしれません。また特に気に入った2作はどちらも年の差の組み合わせということで、年の差良いよ!年の差!という感じで、フジサワ先生は私の中でインプットされたのでした。


【男性へのガイド】
→抵抗感は少なめも、同時にひっかかりもなさそうで、どっちつかずという感じ。あ、あくまでBL基準ですが。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→非常に読みやすかったのですが、どこかワンパンチ足りない印象。なんてデビュー作ということですから、それを考えるとレベル高ッ!って感じではありますが。


作品DATA
■著者:フジサワユイ
■出版社:幻冬舎コミックス
■レーベル:バーズコミックスルチル
■掲載誌:ルチル
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

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Tag [オススメ] [BL] 2010.05.30
1102886505.jpgテラシマ「種を蒔く人」


新しい世界をおぼつかない足で歩く
確かなものはなにもない
だけど
大きな手はあたたかかった



■美人司会の北神に一目惚れをし、告白をするも、軽くあしらわれフラレてしまう南。しかし彼はそれくらいでは諦めなかった。「本気になってくれるまで口説きつづける!」と果敢にアタックを続ける。しかし返ってくるのは、「重い」「しつこい」「面倒くさい」というつれない言葉に、投げ・蹴り・固め…。キレイな顔とは裏腹に、口も手も出る俺様すぎる北神に、どこまでも真っ直ぐで熱い男・南の思いが通じることはあるのか…!?今日もまた、南は北神の歯医者へ赴くけれども…。

 日曜恒例BL作品でございます。作者はテラシマ先生。前情報なしで、表紙見て決めました。ポイントは・・・ヒゲですかね。主人公は、美人歯科医の北神朗。美人と言っても、性別は男。とにかくべらぼうに見栄えがよく、言い寄ってくる人間は男女問わず多い。そして、今日もまた一人、彼に一目惚れをした男が。それが表紙のヒゲの方、南辰馬。照れながら「すごくキレイな人だなぁって…」と言われ、診察後についキスをしてしまいます。北神は、あくまで遊びのつもり。しかし直後に南の口から出てきたのは「付き合ってください!」の一言。「重い…!」。ごめんなさいの一言で、お断りした北神でしたが、南は再び彼の前に登場。その後何度断っても、本気になってくれるまで諦めない!と果敢にアタックしてくる南に、北神の心は…というお話。


種を蒔く人
急遽のお泊まり。予想外の展開に、バックには思わず大宇宙が。てか「床で…」って発想から、しかも「いいけど」って。それぐらい、立場的には下。


 表紙やタイトルから、シリアス路線のストーリーなのかな、と予想していたのですが、むしろコメディでした。ちょっとした気まぐれで、その気にさせてしまったが最後、どんなに手厳しく当たっても、決してめげずに果敢にアタックしてくる単純な男。南のストレートさとバカさが、度を超していて妙に微笑ましいです。なんていうか、思春期の男子みたいな。いつも制する側に回っていた北神ですが、さすがにこれには手を焼き、そして気がつけば距離が…。とはいえ、“なし崩し的に”というだらしないストーリーではありません。北神は心に闇を抱えており、自分がこれ以上傷つかないように、敢えて不覚は干渉せずに軽く浅く人と付き合うというスタンスをとっていたのでした。そして、それをも乗り越えてくる存在が、他でもない南だったというわけ。その冷たさは、彼なりの優しさでもあり、彼なりのテストだったのかもしれません。まぁとにかく、お似合いの二人だって事です。
 
 最初は北神が場を制していましたが、だんだんとどちらも場を制することが出来なくなってきます。中盤から後半にかけて、場を制していたのは、北神以上に曲者の北神の姉・花と、弁護士の糸田。お互いがお互いに振り回され、周囲の人の手助けであるべき方向に進んでいく。この微笑ましさは、単にお互いのかけ合いが面白いから生まれるのではなく、お互いに助けを必要とし、必死にもがきながら進むべき方向を模索している様子が、なんだか子供のようにかわいらしく見えてしまうからなのかな、と。親心とは違うのでしょうが、この第3者的に恋愛に絡む楽しさというのを、少なからず感じることができるのですよ。

 ちなみにエロはナシ。寸止めすらなく、キスもイタズラなライトなものだけ。非情にプラトニックな内容になっています。そうさせているのは、他でもない堅物な南のおかげ。好きでもない人とセックスしても全然問題なし、むしろ歓迎という北神とは違い、南は本当に好きで好きあえなければセックスはしないという主義。この設定がまた、北神のドS心を動かし、非情に面白い展開を生んでいるというね。繰り返しになりますが、本当にお似合いの二人ですよ。


【男性へのガイド】
→エロなしは大きな強み。南のバカさをかわいいと思えるかがポイントだと思いますが、どうでしょう。かけ合いの面白さも○。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→かけ合いの面白さににやにや。いいキャラです。シリアス部はやや薄いものの、シリアス一辺倒にならず、最後まで笑いは織り交ぜていたので問題なし。楽しかったです。


作品DATA
■著者:テラシマ
■出版社:東京漫画社
■レーベル:MARBLE COMICS
■掲載誌:(年月号~)
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazonbk1

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Tag [BL] [オススメ] 2010.05.23
31893963.jpgもろづみすみとも「あかるい家族計画」


人を好きになると   
世界がかがやいて見えて   
みにくくても カッコわるくても 泥っかぶりでも
こんなにも好きな人の手を
つかみたいと思うんだ



■女の子と付き合ってもなぜかすぐにダメになる澁谷。またしても付き合っていた女の子にフラれた彼は、ある日町で出会った男の子に目を奪われる。時計台の下、なぜかその男の子は澁谷に時間を尋ねてきたのだ。慌てて携帯を確認し、時間を伝えようとするも、その男の子の姿はすでになかった。彼女との別れ、そして男の子との出会い、学校で想いを巡らしている中、彼のクラスに転校生が。それは、昨日出会ったあの男の子。名前は吉住というらしい。彼は早速声をかけにいくが、吉住くんは澁谷を冷たく突き放し…!?

 もろづみすみとも先生のBL作品。最近はBL棚にもだいぶ慣れ、表紙と裏表紙をじっくり眺めて作品を物色できるようになってきました。そして増える、表紙の気になる作家さん。いやぁ、BL作品は自力で作品を見つけてこそですね。だって楽しいんですもん。なんだか危ない方向に走り出している気がしますが、気にしちゃ負けです。だって漫画の装丁の邦画が全気になるんですもの。そしてこの作品もまた、気になった表紙の作品のひとつでした。

 表題作の紹介を聞く限り、どこが「家族計画」なの?と感じるかもしれませんが、物語は出会いから大学受験、同棲生活を描き、さらに家族になるまでを描くので、ゆくゆくはタイトルが物語にかかってくるのです。主人公は、女の子と長続きしない高校生・澁谷。別に不誠実というわけではない、しかし付き合った女の子は決まって「自分のこと本当に好きなのかわからない」と彼に告げ去っていくのでした。そんな彼が、ある日出会った一人の男の子。時計台の下で時間を聞かれるという、妙なシチュエーションが、澁谷の印象に残ります。そして翌日、その男の子は澁谷の前に転校生として現れることになります。昨日の今日ということで、早速声をかける澁谷でしたが、彼になぜか冷たく突き放されることに。どうやら彼は、昨日のことをなかったことにしたいらしいのですが…というはじまり。


あかるい家族計画
「男なんかに生まれるんじゃなかった」という台詞は特に印象的でした。性同一性障害とか、そういうことではない。こんな自分への悲しみ・憤り・やるせなさ…それらの感情がごちゃ混ぜになって、やっと絞り出された精一杯の言葉。


 能天気でややヘタレな少年と、自分を抑えがちな大人しい少年の組み合わせ。当然のことながらこの二人はくっつき、やがて一緒に生活を送るようになるのですが、相手役の吉住は事あるごとに相手のことを考えて、たびたび澁谷を突き放すような態度をとることがあります。吉住くんははじめからゲイで、そのことで心に傷も持っています。ゆえに人一倍敏感。その突き放すような行動は、相手のことを本当に大切に思っているからこそ出てくるものです。恋人の澁谷は元々ノンケで、今現在の状況を楽しんで生きるという性格。吉住くんはそんな彼の行く末を案じ、マイノリティである自分の気持ちを押しつけるのは良くないと考えを巡らせるのです。この考え方は、BL好きでなくとも、いや得意でないからこそより、理解できるものであるように思えます。こういった葛藤があるのは、当然のように予想できる状況であり、それをファンタジーであるBL作品で端折ることなく真っ正面から描いたのは、素晴らしいことなのではないかと個人的には感じました。そしてそんな彼を、優しく明るく包みこむ澁谷。吉住のマイナスの感情を、全て消し去ってしまう明るさと短絡さ。表題作の“あかるい”家族計画というのは、他でもない澁谷の明るさを表しています。いやぁ、とにかくいい組み合わせなんです、この二人。
 
 表題作の他、6編が収録されています。同人で描いた作品もあったり、デビュー作が収録されていたり、話はけっこうバラバラ。絵のタッチも、過去のものになるとだいぶベタっとした印象になり、やや読みにくかったり。基本的には明るく楽しい作品が多く、表題作のようにネガティブな感情をポイントに使ってくるような作品はあまりありません。だからこそ生まれる、安心感やあたたかさというものもあり、収録作のひとつである「マスクの下で微笑」などは、読んでてとっても楽しかったです。


【男性へのガイド】
→エロシーンはありますが、ライト。表題作の吉住くんを理解できる男性は結構いるのではなかろうか。同時収録作はフツーのBLで、やはりBLの所作を知っている人のほうが楽しめるように思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→表題作シリーズだけならば、☆5つ付けてもいいくらい素敵なお話でした。だからこそ、もうちょっと長い作品で読んでみたかったです。同時収録の作品は、うーん。個人的に好きな作家さんになるかも。他の作品もちょっとチェックしてみたいと思います。


作品DATA
■著者:もろづみすみとも
■出版社:東京漫画社
■レーベル:MARBLE COMICS
■全1巻
■価格:619円+税


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