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Tag [新作レビュー] 2011.06.03
1106030929.jpgトジツキハジメ「僕と彼女と先輩の話」


興味はあるだろう?
呪術に



■その血筋に生まれた女性は、早世する変わりに家を繁栄させるという。そんな家系に生まれた鈴木一乙は、現在大学在学中。彼の専らの興味は、最近結婚した最愛の姉を生きながらえさせる方法を探し出すこと。そんな時、大学の構内で出会ったのは、オカルト研究部に所属する怪しげな男・村上寛とその彼女・小林冥沙。二人はそれぞれ特異な能力を持っており、一乙は次第に人ならぬ者の世界へと導かれていく…。これは「俺と彼女と先生の話」へと繋がる、はじまりの物語…

 待ちに待った、待望の新刊!!以前ご紹介しました、「俺と彼女と先生の話」(→レビュー)の続編となる作品。タイトルは「僕と彼女と先輩の話」…ってすごくややこしい(笑)しかもなんか表紙を見ると、あれ、小町嬢がいない…!というのもそのはず。「続編」と銘打っておりますが、物語はむしろ前作よりもだいぶ前。物語のはじまりのはじまりを描いたお話になります。主人公は、女性が早世するかわりに家が繁栄するという家系に生まれた鈴木一乙。大学に通いながら、最愛の姉を生き長らえさせる方法を探っていた彼は、ある日大学構内で怪しげな先輩・村上と出会います。村上に連れて行かれた先は、オカルト研究部。そこに所属する彼と、その彼女・小林冥沙の二人は、それぞれに異能を操ることができるのでした。村上に「姉を助けられるかもしれない」と言われた鈴木は、彼に導かれるように、怪しげな世界へと足を踏み入れていくことになるのですが…


僕と彼女と先輩の話
主人公・鈴木が、村上のとある興味に巻き込まれる形で物語は進展。完全なる当事者でないからこそ、一歩引いたところから除いた薄気味悪さを味わうことができる。


 何やら大きな力を手に入れようとしているオカルト好き・村上と、そんな彼に想いを寄せる霊感の強い彼女・冥沙、そして姉を救いたい一心で村上と行動を共にするようになった鈴木。そんな三人の繰り広げる、ちょっと気味の悪い、はじまりのお話。ここで登場する鈴木は、前作で先生にあたる人物。彼がどうしてあのような生活を送ることになったのか。そして俺と小町が関わった、あの家の正体が、明らかになります。結構謎が多かった部分のある「俺と~」ですが、それぞれの出自が少しずつ明らかになることで、読み返してまたちょっと違った味わいに。小町の出生についても描かれているのですが、幼い小町は無垢でまた可愛いですね。しかしながら、これで全てが明らかになるというわけではなく、さらに続編へと物語は受け継がれていきます。今回は厄災のはじまりのはじまりが描かれるので、物語としても結構後味悪いというか、少なくともスッキリはしません。
 
 雰囲気としては、前作に増してホラーの様相が強くなった感じ。前作は小町の存在が、どこかキャッチーであったために、親しみやすい雰囲気があったのですが、今回はより殺伐として、陰気。というのもヒロインである冥沙はほぼ物語の中心に絡んでこず、怪しげで掴みどころのない村上と暗い性格の鈴木が、曰く付きの場所を巡るというメインストーリーであるため。例えば前作と本作で実写映画化をしたとしたら、絶対にジャンル違って語られるよなぁ、という。これはガチでホラーですもん。それも、派手じゃない、地味にくるやつ。個人的にはどちらも好みなので、満足でした。敢えて軍配をあげるとしたら、小町がいる分前作でしょうか。この作品単体でオススメできるかというと、ちょっとわからないですが、前作をご存知の方は是非とも。次のシリーズが出るのはいつなのでしょうかねぇ。。。気長に待ってみたいと思います。
 


【男性へのガイド】
→男二人で行動というところに、ちょっとしたBL臭さを感じる人はいるかもしれんですが、基本的には気にならないかと。読みやすさは保証です。
【感想まとめ】
→盛り上がりはないです。だからこそ、鬱々と淡々と進行してちょっとした薄気味悪さや陰気さを演出し、この物語の独特の雰囲気形成に寄与しているのかも。前作読者は必読。そうでないなら、とりあえずは前作をどうぞ。


作品DATA
■著者:トジツキハジメ
■出版社:新書館
■レーベル:ウィングスコミックス
■掲載誌:Wings(連載中)
■全1巻
■価格:590円+税


■購入する→Amazon

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Tag [続刊レビュー] 2011.04.26
1106019019.jpgかわい千草「101人目のアリス」(5)


だってオレ
出来る子なんだよね!



■5巻発売です。
 シンデレラ役とバイオリン演奏、学園祭でふたつの大役を果たしたアリス。それは彼を子供扱いするヴィックの想像を超えるものだった。冗談だった「マックスのライバル」という話も、意外にありえるかも…?そんな中アリスの父より持ち込まれた、故郷での演奏会の話に、いつものメンバーが参加することになり…。またまた、死んだはずのじーちゃんが登場し、探し求めた楽器・Margoの謎が明らかに…!?


~えええ生きてたのー!?~
 5巻発売です。ずいぶん久々な気がしますが、それもそう、新刊はなんと1年振り。しかしそれだけ待たせるに十分なほど、内容は濃密で、それまで謎であった数々の真実が明らかになりました。こんなに出しちゃって大丈夫?というレベル。本当に畳み掛けるように来たので、どれから出していけば良いのか難しいのですが、個人的に一番の驚きであったのは、アリスのお爺さんが超健在だったということでしょうか。どう考えても死んだ体で話が進んでいたので、登場した時はドびっくりですよ。幽霊か何かかと。しかもなんかすごい禿げてて背が高くて豪快な感じだし。イメージと真逆のパワフルじいさんで、バイオリンというよりはむしろ工具なんかが似合いそうな感じ。しかし彼、見ためとは裏腹に、もの凄くロマンチストなわけで。自分の作ったバイオリンに、自分の好きな女性の名前をつけるなんて。そしてそれを娘婿に託すってんだから、こうなかなかに状況は複雑です(笑)
 
 
~クレアさんさすがです~
 そんなお祖父ちゃんに異様なほど興味を示したのが、そう、クレア嬢(嬢を付けると怒る)です…
 

101人目のアリス5-2
普段トレーニングとかなさってるんですか!? 

 
 「ちゃおか!」ってな突っ込みを入れられそうなほどに目を輝かせて、迫る彼女。ジジセン…?確かに年上好きの気はありましたが、ここまでの歳の差まで守備範囲とは。ペタジーニもびっくりですよ(誰もわからないネタ)。いや、というよりも、筋肉フェチなのか。彼女はチェリストということもあって、楽器の持ち運び一つでもひと苦労。ゆえに、ものを軽々と持ち運ぶことのできる筋力の持ち主というのは、ちょっと憧れるのかもしれません。もしかしたら人知れず筋トレとかしていたりして…。それはそれで、絵的に面白いのでなかなかに良ろしいですね、うん(勝手に納得する)。

 そうそう、そんなクレアさん。今回明らかになった一つの真実に、既に気がついておりました。それは、ヴィックとマックスの関係。それぞれの空気から読み取った彼女は、のらりくらりかわすヴィックではなく、敢えてマックスにこんなことを…
 
 
101人目のアリス5-1
 お見事。いやぁ、さすがです、クレアさん。いつも一歩引いたところから全体を俯瞰し、かつしっかりと目をこらしているからこそできる芸当。だからといって、必要以上に干渉しないのもまた大人。でも子供っぽいキャラが多い中、引きすぎて物語に深く入って来れないなんてこともありそうなので、もうちょっと突っ込んできても良いんじゃないですか?なんて、たぶんまだこの生活の中には、彼女がリスクを冒すほどに大切なものがないということなのでしょう。これからです、これから。


~ヴィックの想いとは~
 そんなわけで、ヴィックとマックスの関係、そして消えたMargoとヴィックの行動が明らかになりました。そのことを知り、アリスは激昂するわけですが、そんな彼に対しヴィックは謝るわけではなくただ「違う。違う。」とだけ言っていました。世渡り上手、交渉上手なヴィックが、謝るタイミングを見逃すような男には思えず、恐らくこれこそが彼の真意なのだろうな、という感じがしてきます。それではここまでして、アリスをマックスの競争相手として仕立て上げたかったのか。「復讐」という選択肢を除いて考えてみると、幾つか可能性が見えてきます。まずは、マックスを育てるためという可能性。単純に兄心、もっと言ってしまえばプロデューサーとしての観点からです。現在ライバル不在のマックスは、バイオリンに対するモチベーションは下がり気味。クレアもちょいと怒りを覚える程度には、バイオリンに対する情熱が欠けています。絶対的な才能とスキルは持っているけれど、それ以上になるには、何か大きな存在が必要。けれども界隈にはそれまで彼に太刀打ちできる人間はおらず、それならばと目をつけたのがアリスだったのかもしれません。加えて、アリスとのパイプを持っていれば、一石二鳥。
 
 というかこれらの行動から考えても、ヴィックがアリスの才能に惚れているってのは間違いないわけで。元々要領の良い彼ではありますが、退学のリスクを背負ってまで、楽器の保管庫のカードキーを拝借したり、ましてや名器であるマルゴを盗み出すなんてことしないはずですよ。それも出会って間もない頃に、そんなことをしてしまう程に、ヴィックはアリスのバイオリンの才を見出し、それを信じようとしていた。その結果取った行動は褒められるものではありませんが、それだけの想いの強さが、彼の行動・言動の端々から伝わってくるのですよ。6巻以降、生まれた蟠りをどう挽回するのか。それもまた、プロデューサーとしての手腕の見せ所。大けがをしてこそ、その人の強さがわかるってもんです。頑張れヴィック!!



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Tag [新作レビュー] 2011.04.26
1106019020.jpg久世番子/大崎梢「平台がおまちかね 出版社営業・井辻智紀の業務日誌 」


本を作る人
本を売る人
そして読む人へ



■書店の片隅から平台の本をニヤニヤ見守る謎の人物!?イツジ智紀は老舗出版社・明林書房の新人営業マン。自分が担当することになったのは、それまで伝説の営業マンが担当していた地域で、なかなかハードルは高い…。個性的な書店員&ライバル出版社の営業に鍛えられながら、今日も「ご注文ありがとうございます!」。一人前の営業マンを目指す井辻くんが、新刊フェアのご案内から、ポップの暗号解読まで、日々の業務に奔走するハートフル・ミステリー!!

 「暴れん坊本屋さん」等、エッセイ系マンガで人気を博す、久世番子先生の真面目系作品。元々こっちの作風でやっており、ウチのサイトでも「ふたりめの事情」(→レビュー)などご紹介しておりますので、ご興味のある方は是非。原作付きのコミカライズ作品となります。出版社に勤める新人営業マンのお話。主人公は中堅以下の出版社に勤める、井辻くん。日々自分の担当区域の書店を回るのですが、自分が引き継ぐ以前にそこを担当していたのは、社内のみならず社外にもその評判を轟かせる伝説の営業マン。ゆえに最初は比べられ苦戦するのですが、他者営業や書店員さん、そして先輩に支えられながら、出版社営業として成長していく様子が描かれていきます。お仕事マンガに、ちょっとしたミステリーを仕掛けた1話読切り形式の作品となっています。


平台がおまちかね
何気なく見ている平台も、営業さん視点だとまさに戦場であり舞台であり…。様々なドラマが潜んでいます。


 原作付きとは言えど、久世番子先生自身も書店で働いていた経験があるわけで、知らない人間が描くよりもよりリアルに、書店や出版業界というものが描かれているのではないかと思います。出版社マンガというと、どうしても編集にスポットが当てられがちですが、こちらは営業と、同じ職業マンガでもなかなかに新鮮。書店に通っている者としては、編集さんよりも、店先にて陳列作品をチェックして書店員さんと話している営業さんの方が、より身近な印象があります。そんな営業さんの仕事、やりがい、そして様々な人たちとの触れ合いを描いていくわけですが、やはり如何せんキツくはあるも地味な仕事ですので、ミステリーというスパイスで物語として味付け。結構ちゃんとした謎解きがあって、なかなか読み応えがあります。単純な職業マンガとして読むのであれば、ちょいと邪魔に感じる方もおられるやもしれませんが、そういう所を狙った側面は薄いと思われ、そのことを承知の上でお読みになるのが良いかと思われます。
 
 いわゆる世間的な認知度の高い久世番子作品的な、ギャグチックな笑いはなく、あくまで日常コメディの中に落とし込まれた一つのネタレベルでの笑いがある程度です。このシフトチェンジはなかなかのもので、ばっちりハートフルコメディに仕上っているんですよね。そして泣かせるお話も当然あるわけで。絵本作家との関わりを描いた「絵本の神様」では思わず泣いてしまいました。もうね、本当に笑えるくらいにベタなんですが、絵本という題材がそれを許すというか。不意打ちすぎて完全に油断してました…。一口に「本」や「出版」と言っても、実に様々な媒体・仕事・人物が関わっており、しかも切り分けが意外と曖昧なのだなぁ、と。他社営業さんと頻繁に飲みに行くというのも、お仕事でというより、普通に友人と飲みにいっているような感覚で描かれていたり、ちょっと羨ましいなぁと思ってしまいました。


【男性へのガイド】
→主人公は男性ですし、皆々冴えない感じもなかなかに親しみやすいです。ハートフルなお話がお好きな方は是非とも。男女問わず読みやすい作品に仕上っていると思います。
【感想まとめ】
→平台に積まれていたのですが、目立たなかったですねぇ、この本は(笑)というわけで、表紙の印象のままに全体的に地味なお話ですが、それでも読めばそこには本に対する愛や情熱が溢れ、確かに心に響く作品となっていました。本好きとしては、こういうの読めただけでも良かったかも。


■作者他作品レビュー
久世番子「私の血はインクでできているのよ」
久世番子「ひねもすハトちゃん」
久世番子「神は細部に宿るのよ」1巻


作品DATA
■著者:久世番子
■出版社:新書館
■レーベル:WingsComics
■掲載誌:ウィングス
■全1巻
■価格:590円+税


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Tag [新作レビュー] 2011.03.07
1105998669.jpg那州雪絵「魔法使いの娘ニ非ズ」(1)


こんなはずじゃなかった
でもこれが私



■あるときふっと気づいたら、天井裏を何かが這いずり回る音がする…。空きテナントなのに日々異動するダンボール。。。この部屋、何かいる…?そんなちょっと怖いことに気がついた人を助けるのが、新米陰陽師・初音ちゃんのお仕事。日本一の陰陽師だった義理の父親の借金を背負って、仕方なく陰陽師になったのです。日本全国駆け回る彼女の、本日のお仕事とは…?

 「魔法使いの娘」(→レビュー)の続編になります。去年最終回を迎えた同作品。ウィングスで追っていたわけではないので、新作何になるのだろうと思っていたら、続編とは。物語は、初音が義父である無山が残した膨大な借金を返すために、仕方なく陰陽師として活動しているという所からスタート。兵吾と組んで、オカルト関係のお悩み解決するお仕事をしており、物語は個別の相談から発展した諸々の問題を解決する、一話完結型で進行していきます。登場人物も基本的に前作のまま。無山の姿がないぐらいですが、それについては前作を参照していただければ。


魔法使いの娘に非ず
望んでこの稼業を継いだわけでもない。その意思は不変。それでもやらなきゃならないこともあるのです。


 久々に読んだ気がするのですが、初音ってこんなに落ち着いていたっけか…というのが最初の印象。そういえば「魔法使いの娘」がスタートしたときは、初音はまだ女子高生。今は自分でお金を稼がねばならない、ある意味で社会人的立場です。ワガママや文句が多かったような気がする幼い部分はなりを潜め、大人らしい落ち着きがあります。なんとなく、希望を失い、世間の世知辛さの中どう生きて行くかみたいな感じで、悲しくもあり頼もしくもあり。とはいえ完全に性格が変わったわけではなく、その豪快さは未だ健在。そりゃあその強さがなければ、陰陽師なんぞやって借金返せていけないわなぁ。
 
 基本的には前作も読んでいた方向け。新作というよりは、完全な続編であり、ここから読み始める人には少々辛いかもしれません。一応ちゃんと舞台背景は都度説明されるのですがさわり程度に留まっており、その説明も知らない人向けにというよりは、知ってる人に状況を思い出させる・整理させるという狙いの方が大きいような気も。なんて、いきなりこの作品から手を出すなんてことはないのか。
 
 まだ物語が落ち着くべき地点というのが明らかになっておらず、日々の彼女の仕事を描く読切りシリーズの枠を出ていません。その単体の物語も結構エグいのがあったりして(「箱の中身はなんでしょね?」はホラードラマとかになってたらマジでビビって吠えそうな程度にゾワッとするお話でした)、十分面白いのですが、物語として本格的に機能してくるのはこれからかな、という感じがします。何はともあれ、続きが読めるというのは嬉しい事。ファンの方は是非ともチェックを。


【男性へのガイド】
→前作レビューをご参照ください。
【短文まとめ】
→続編ということで、相変わらず面白いのですが、作品の持つ雰囲気は若干変化してる感じで、また違った味わいがあります。基本的には読んでる人向けですので、オススメとかいう感じではないですが、読んでる方は是非とも。


作品DATA
■著者:那州雪絵
■出版社:新書館
■レーベル:ウィングス
■掲載誌:Wings(連載中)
■既刊1巻
■価格:590円+税


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Tag [新作レビュー] 2011.01.29
1102993444.jpg藤たまき/坂木司「青空の卵」(1)


この左巻きつむじが発する
こんなひょんな推理で
ずっと笑い合いたいから



■会社員・坂木司の友人・鳥居真一は、自称「ひきこもり」の変わり者。真一の唯一の友人とも言って良い坂木は、鳥井を外の世界に連れ出そうと、時間を見つけては彼の部屋を訪れる。そして鳥井の作ったこだわりの料理を食べながら、坂木は身近に起こった様々な謎を問いかける。人一倍鋭い観察眼と、子どものような純粋さから語られる、鳥井の推理は、坂木の心をいつも動かし...

 坂木司先生原作の人気小説を、藤たまき先生がコミカライズ。すみません、坂木司先生って全然知らない…と思ったら、この作品の表紙は書店でなんどか目にしたような。自称ひきこもりの男と、そんな彼のほぼ唯一の友人である坂木司(作者さんと同じ名前)が織り成す、癒し系ミステリー。お人好しでごくごく普通の社会人である主人公・坂木は、学生時代からの友人であり、とにかく変わっているひきこもり(職業は在宅プログラマ)の鳥井の部屋へ顔を出すのが日課となっており、そのたびに身の回りで起こった不思議なことやちょっとしたことを話します。それをきっかけに、鳥井の推理がスタート。。。ブレることのない視点から、次々と真実が語られて行きます。


青空の卵
人嫌いで人当たりもかなりキツい鳥井だが、主人公にはこのように心を許し、彼のために行動する。


 ひきこもりの男の家に、働き盛りの社会人の男が通い詰める…もう完全にBLのソレを狙っているような組み合わせのお話。主人公はとにかくお人好しであるため、何かと厄介に巻き込まれがち。それでも彼にとってはそれは好都合で、人間嫌いでひきこもりの友人・鳥井を、推理きっかけで外に連れ出す口実となるのです。鳥井にとっては、外との唯一の接点である坂木が、この上なく大切な存在で、その愛情はあからさまな程に外に溢れてきます。そんな彼に対し、放っておくことの出来ない坂木は、何かと気にかけ相手をするという。もうこれ友達とかやない、カップルや、カップル。だってもう表紙からして…ねぇ?
 
 起こる出来事は、殺人とか盗みとか、そういう刑事事件を匂わせるようなものは少なめ。日常の中に潜む、ちょっとした不可解な出来事や、困りごとなどがメインとなります。推理がメインではなく、推理で繫がれる、人と人の想いこそが柱であり、この作品を形容するのに「癒し系」という言葉があてがわれているのも納得です。
 
 元々小説が原作であり、またミステリー作品に多く見られる傾向として、1ページあたりの文字数がとにかく多いというものがあるのですが、この作品も他聞に漏れず。1話1話を読むのに、結構な時間がかかります。ただ幸いなのが、さほど難しい事件でないので、沢山読んだからといって疲れることがないこと。しっかりと「癒し」を残して、物語は締められます。



【男性へのガイド】
→たぎるBL感をどれだけ許容できるのか。いや、性的な匂いがしないので微笑ましくはあるのですが。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→どうみてもカップルですが、それほどの嫌らしさはなく、むしろ「癒し系」の言葉そのままのイメージ。好きな人は好きな組み合わせかと。



作品DATA
■著者:坂木司
■出版社:新書館
■レーベル:ウィングスコミックス
■掲載誌:ウィングス(連載中)
■既刊1巻
■価格:590円+税


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かくかくしかじか
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レビュー
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王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
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