リカチ「氷の女王」(1)
自分じゃない
違う自分になりたい■シャイで何もとりえがない主人公・ニカはある日、同じクラスの地味メン・七緒がフィギュアスケートの練習をしているかっこいい姿を目撃する。自分も真似して滑ってみると、楽しくてなんだか自分が自分じゃないみたい!それを偶然彼に見られ、「センスがあるね」とほめられて…!?
「明治緋色奇譚」(→
レビュー)のリカチ先生のベツフレ連載作になります。タイトルは「氷の女王」ということで、お分かりかと思いますが、フィギュアスケートのお話。ここ最近非常に競技人気が高まっているスポーツとはいえ、こと十代向けの少女漫画ではスポ魂ものはなかなか根付かないので、是非とも応援したいところです。
主人公は、非常に内向的な性格の持ち主である中学生・ニカ。とある事情でクラスメイトの地味男子・七緒に話しかけようとするも、なかなか話しかけられずに、半ば尾行状態に。そして辿り着いたのが、スケートリンク。地味メンの七緒は、実は将来を嘱望される才能溢れるフィギュアスケーターだったのです。その姿を見てフィギュアに興味を持ったニカ。見よう見まねで滑ってみると、何やらセンスがあるようで…本格的にスケートをはじめることになるのですが…というお話。当然のようにニカは七緒に恋するわけで、もちろんその辺も十代向けにしっかり押さえております。

七緒は基本もの静か。スケート愛に溢れておりますが、それが変な発言につながったりすることも。彼にその素質を見出され、ニカはスケートの道を歩み始めます。
さて、物語はここから一気に2年飛びます。さらに視点もニカからチェンジ。ここで登場するのが、絶対女王・貴和子。絶対女王と言いつつも、年齢はニカと同じで、高校生ながら既に世界で活躍しているという輝かしい存在です。立ち位置的には「ちはやふる」でいう詩暢でしょうか。しかしこの貴和子がいい味出しているんだ。
見ためはいかにも悪役で、さらにはビッグマウスを連発、そして連戦連勝。これだけ取れば完全に小憎らしいライバルでありラスボスなのですが、自分自身が悪役顔であることは自覚しており、ビッグマウスも自分の想いとは裏腹に、周囲の期待に応える形で出してしまっているという。さらに中身は恋する普通の十代。ニカと同じく七緒に想いを寄せており、なかなか想いを伝えられずにいるのです。つまり、競技でも恋でもニカのライバルという。

もうね、この貴和子がちょいとメタ感あるところも含め、めちゃくちゃ応援してあげたくなる子なんです。前半がニカ、後半は完全に貴和子のフェーズになっていて、実質ダブルヒロインという状態。普通のスポ魂ものであれば、憎らしいほどに強い相手に打ち勝って…という流れになるのですが、本作はそういう一視点からのシンプルな物語に落し込むような作りになっておらず、これからどういう展開を見せるのか非常に気になるところです。
恋愛とスケートの2軸ですが、ニカと貴和子はどちらも正反対のタイプ。ニカのスケートは表現力に長けたタイプであり、また見ため可愛いふんわり系女子。一方の貴和子は、気丈に振る舞うハキハキとしたタイプの子で、競技も表現力よりは技術で勝負するタイプ。男にモテるのはニカでしょうが、同性からモテるのは貴和子ですかねー。私も現実にいたらニカにやられそうですが(テレビ見て「この子可愛いから、この子応援するわ」とか言いそう)、物語を読んでいるとどうしても貴和子に肩入れしたくなります。
二人はまだ邂逅した段階で、本格的に相見えるのは2巻以降。現時点ではキャラの魅力と物語のさわりだけで持っていっている状況なのですが、それでも引き込まれちゃってます、はい。いや、そもそも実際のフィギュアも本人の物語が見えた方が感動的ですし、そういう意味ではある意味セオリー通りの描き方なのかも。そしてそういった物語の下支えがあるから、フィギュア漫画は良作揃いなのかもしれませんね。2巻、今から楽しみです。
【男性へのガイド】→低年齢向けの少女漫画っぽいテンションなので、それが一つ目のハードルでしょうか。恋に傾倒しがちですが、キャラクター自体は非常に魅力的で、ぜひそこに着目いただきたい。
【感想まとめ】→オーソドックスなスポ魂かとおもいきや、ダブルヒロインでむしろ後発のライバルに夢中になるとは…。完全にやられました。面白いです。
作品DATA■著者:リカチ
■出版社:講談社
■レーベル:KCベツフレ
■掲載誌:ベツフレ
■既刊1巻
■価格:429円+税
■試し読み;
第1話