
あの頃閉ざした感情が溢れてくる
もう 止められないほど
溢れてくる
■この世界は不完全……君がいなければ―――
インテリアデザイン会社に就職した川奈つぐみ(26歳)は設計事務所との飲み会で、高校のときの同級生であり初恋の人・鮎川樹と再会する。樹にトキメキを覚えるつぐみだったが、彼は車イスに乗る障害者になっていた。「樹との恋愛は無理」。最初はそう思うつぐみだったが…。
車イス生活者となった初恋の相手との再会・恋を描いたストーリー。作者の有賀リエ先生はこれが初単行らしいのですが、かなり扱いの難しいデリケートなテーマをメインに据えたにも関わらず、かなり読ませる内容に仕上がっております。帯の「Kiss連載時より反響殺到!」という言葉も、決して過剰な表現じゃないのではとも思えてきます。
主人公はインテリアデザインの会社で働く川奈つぐみ。とある設計事務所との飲み会で、高校時代の初恋の相手である鮎川と再会するところから、物語は始まります。すっかりかっこよくなった鮎川を前に、高校時代に自覚しきれなかった想いが再び湧き上がってきたつぐみでしたが、その後鮎川が車イス生活を送る障害者となっていることを知ります。高鳴った胸と、事実を知り一歩引いてしまった自分……。複雑な想いを抱えたまま、それでも鮎川が気になるつぐみは、以来彼と積極的に連絡を取るように。少しずつ距離が縮まっている…そんなつぐみの想いとは裏腹に、「誰とも恋愛する気はない」とやんわりと壁作る鮎川は。というようなお話。

鮎川を強く意識するつぐみと、そんな彼女の心を知ってか知らずか、壁を作る鮎川。この時はまだ、車イスの人と恋愛をする大変さを全くわかっていなかった。
初恋の彼と再会するも、相手が下半身不随の車イス生活者であるという壁があるという物語。Kissなので取り上げるワンテーマについてはしっかり掘り下げるため、車イスで生活していることの大変さ、そしてそんな人と寄り添い生きていく大変さというものがかなり詳細に描かれます。座りっぱなしによってできる褥瘡や、尿路感染による腎不全のリスク、行動範囲はどうしても制限され、また排泄も知らぬ間にしてしまっていることもあるという辛さ。我々の想像を超える不自由やリスクを前に、簡単な決意で恋愛などできようはずもなく、ヒロインは決心することをためらいます。
鮎川もそんな苦しみを与えたくないと「恋愛はしない」と宣言してガードをかけているのですが、一方で夢を追いかけ一人東京で暮らしているという環境の中、精神面・身体面の両面でサポートがあった方が助かるというもどかしい状況。結果、つかず離れずの微妙な関係が1巻では続いていくことになります。決心をしていざ付き合うとなったとしても、周囲の視線や心身への負担など、色々と苦労は予想され、その道のりは平坦でないことは容易に想像がつきます。

鮎川は子供の頃からの夢を叶え、一級建築士として仕事をしています。夢を追いかけているという真っ直ぐさと爽やかさはやはり魅力的で、女性向けマンガの相手役たる男性と言えるでしょう。ちょっと無理をしすぎるというところも「放っておけない」という心を刺激して、女性からしたらどうにも惹かれてしまうという側面もあるのかも。いやはやなかなかなイケメンです。建築士という仕事においても自身が障害者ということもあり、バリアフリーの視点で様々提案できるなど、ある意味でそれが強みにもなったりしています。
こういったテーマの作品は時折説教がましくなってしまうのですが、本作は上手く「ヒロインや相手役がぶつかっている壁」として作中に落とし込まれるため、一つの物語としてまとまりがあるように映ります。この手の作品では「IS~男でも女でもない性~」や「だいすき!ゆずの子育て日記」など、最終的にドラマ化する流れが顕著という印象がありますが、本作もある程度人気を博すようであればその辺まで視野に入ってくるような気がしています。「受けがいい」なんていうとやや不謹慎かもしれませんが、人気を集める傾向があるのは事実で、なかなかこれは注目しておきたい作品でございます。
【男性へのガイド】
→いかにも女性向けの恋愛マンガという感じはありますが、車イス生活者とのかかわりという面でも一つ勉強になるところがあるかと思います。
【感想まとめ】
→これは予想以上に面白かったです。今後悲恋の匂いが強いロマンスになっていくことはないとは思っているのですが、障壁は変わらず大きく、読むのに体力使う作品にはなっていきそうではあります。キャラや話運びもツボで、オススメしたい作品でした。
作品DATA
■著者:有賀リエ
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■既刊1巻
■価格:円+税
■試し読み:第1話