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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.15
1106491027.jpg有賀リエ「パーフェクトワールド」(1)



あの頃閉ざした感情が溢れてくる
もう 止められないほど
溢れてくる




■この世界は不完全……君がいなければ―――
 インテリアデザイン会社に就職した川奈つぐみ(26歳)は設計事務所との飲み会で、高校のときの同級生であり初恋の人・鮎川樹と再会する。樹にトキメキを覚えるつぐみだったが、彼は車イスに乗る障害者になっていた。「樹との恋愛は無理」。最初はそう思うつぐみだったが…。

 車イス生活者となった初恋の相手との再会・恋を描いたストーリー。作者の有賀リエ先生はこれが初単行らしいのですが、かなり扱いの難しいデリケートなテーマをメインに据えたにも関わらず、かなり読ませる内容に仕上がっております。帯の「Kiss連載時より反響殺到!」という言葉も、決して過剰な表現じゃないのではとも思えてきます。

 主人公はインテリアデザインの会社で働く川奈つぐみ。とある設計事務所との飲み会で、高校時代の初恋の相手である鮎川と再会するところから、物語は始まります。すっかりかっこよくなった鮎川を前に、高校時代に自覚しきれなかった想いが再び湧き上がってきたつぐみでしたが、その後鮎川が車イス生活を送る障害者となっていることを知ります。高鳴った胸と、事実を知り一歩引いてしまった自分……。複雑な想いを抱えたまま、それでも鮎川が気になるつぐみは、以来彼と積極的に連絡を取るように。少しずつ距離が縮まっている…そんなつぐみの想いとは裏腹に、「誰とも恋愛する気はない」とやんわりと壁作る鮎川は。というようなお話。


パーフェクトワールド0002
鮎川を強く意識するつぐみと、そんな彼女の心を知ってか知らずか、壁を作る鮎川。この時はまだ、車イスの人と恋愛をする大変さを全くわかっていなかった。


 初恋の彼と再会するも、相手が下半身不随の車イス生活者であるという壁があるという物語。Kissなので取り上げるワンテーマについてはしっかり掘り下げるため、車イスで生活していることの大変さ、そしてそんな人と寄り添い生きていく大変さというものがかなり詳細に描かれます。座りっぱなしによってできる褥瘡や、尿路感染による腎不全のリスク、行動範囲はどうしても制限され、また排泄も知らぬ間にしてしまっていることもあるという辛さ。我々の想像を超える不自由やリスクを前に、簡単な決意で恋愛などできようはずもなく、ヒロインは決心することをためらいます。

 鮎川もそんな苦しみを与えたくないと「恋愛はしない」と宣言してガードをかけているのですが、一方で夢を追いかけ一人東京で暮らしているという環境の中、精神面・身体面の両面でサポートがあった方が助かるというもどかしい状況。結果、つかず離れずの微妙な関係が1巻では続いていくことになります。決心をしていざ付き合うとなったとしても、周囲の視線や心身への負担など、色々と苦労は予想され、その道のりは平坦でないことは容易に想像がつきます。


パーフェクトワールド0001
鮎川は子供の頃からの夢を叶え、一級建築士として仕事をしています。夢を追いかけているという真っ直ぐさと爽やかさはやはり魅力的で、女性向けマンガの相手役たる男性と言えるでしょう。ちょっと無理をしすぎるというところも「放っておけない」という心を刺激して、女性からしたらどうにも惹かれてしまうという側面もあるのかも。いやはやなかなかなイケメンです。建築士という仕事においても自身が障害者ということもあり、バリアフリーの視点で様々提案できるなど、ある意味でそれが強みにもなったりしています。


 こういったテーマの作品は時折説教がましくなってしまうのですが、本作は上手く「ヒロインや相手役がぶつかっている壁」として作中に落とし込まれるため、一つの物語としてまとまりがあるように映ります。この手の作品では「IS~男でも女でもない性~」や「だいすき!ゆずの子育て日記」など、最終的にドラマ化する流れが顕著という印象がありますが、本作もある程度人気を博すようであればその辺まで視野に入ってくるような気がしています。「受けがいい」なんていうとやや不謹慎かもしれませんが、人気を集める傾向があるのは事実で、なかなかこれは注目しておきたい作品でございます。


【男性へのガイド】
→いかにも女性向けの恋愛マンガという感じはありますが、車イス生活者とのかかわりという面でも一つ勉強になるところがあるかと思います。
【感想まとめ】
→これは予想以上に面白かったです。今後悲恋の匂いが強いロマンスになっていくことはないとは思っているのですが、障壁は変わらず大きく、読むのに体力使う作品にはなっていきそうではあります。キャラや話運びもツボで、オススメしたい作品でした。



作品DATA
■著者:有賀リエ
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■既刊1巻
■価格:円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.11
1106491075.jpg田中相「その娘、武蔵」(1)



でっかい波だ
見たこともないでっかい波




■中学女子バレーボール界の頂点に立ち、名を馳せた巻田中学校のエース・兼子武蔵。全中優勝インタビューでバレーを辞めると公言した彼女は、心機一転、大仙高校で自由な日々を謳歌しようとしていた。しかし、身長184センチメートルと目立つ彼女はバレー部主将・律から目をつけられ……!?

 「千年万年りんごの子」の田中相先生の新連載です。なかなかインパクトのある表紙だと思いませんか?見ての通り、バレーボールマンガです。主人公は表紙に描かれ、タイトルにもなっている兼子武蔵。飛びぬけた身長と身体能力で中学バレー界を席巻し、難なく全国制覇を成し遂げます。バレー界を背負う至宝だと、その進路に注目が集まる中、彼女が放ったのは「バレー辞めます。部活なんて必死にやっても意味ない。」という言葉。兄が通っているバレー部のない高校・大仙高校へと進学をするのですが、そこには無いと思っていたバレー部が。部員は4人で同好会への格下げギリギリという状態の中、主将の律に目をつけられ、バレー部へ入ってくれと勝負を挑まれるのですが……という話。


その娘、武蔵0001
バレー部ということでキャラクターはたくさん登場してくるのですが、メインとなるのは2人に絞られてくるかと思います。まずは主人公の武蔵。184cmという高い身長の持ち主で、それに対する男子のからかいも全く気にしない、心も体も大きい女の子。類まれなバレーの才能はあるものの、中学時代にバレーをすることに違和感を覚え、以来頑なにバレーをするのを拒否してきました。そんな彼女に狙いをつけて、バレー部再建を目論むのがバレー部主将の律。イギリスとのハーフという変わり種ですが、そのきれいな見た目とは裏腹に、かなり気が強いご様子。バレーに前向きでない武蔵の気を引くために、わざと逆上させるような言い回しをしたりと、目的を達成させるためにはなんだってしてやるというような、意志の強さを感じさせる選手です。なおバレーの実力もなかなかのもの。実は大仙高校、元々バレー部は競合で春高にも出場するぐらいだったのですが、顧問の体罰問題が明るみに出てバレー部は解体、顧問は辞任し、選手たちの大半はバレーが出来る高校へと転校してしまったという背景があるのです。


 もうびっくりするくらいにスポーツもの。バレーものといえば「少女ファイト」なんかが最近だと目立つところですが、女性向けというところでいうと別冊マーガレットで連載されていた「紅色HERO」が記憶に新しいところですね。最近めっきり少なくなったスポーツものということで、それだけで無条件で応援したくなりますね。

 部員数は新人交えてギリギリの状態ではあるものの、部員達の実力はそこそこあるという背景があるため、1からチームを作って長期計画で頂点を狙うというアプローチはしないと思われます。3年生が卒業する前までにチームを作って、春高を目指すという比較的短期の計画。とはいえ順調にレベルアップが図れる環境かというとそうではなく、体罰問題の影響は尾を引いており、周囲からの風当たりは強く、また練習時間もある程度限られてきているようです。

 通常バレー部と言えば、目標に向かって一丸となって進んでいくという印象ですが、本作はちょっと変わっています。律はその行動からもわかるように、残り1年に懸けて本気で春高を狙っています。他の部員はそこまでの熱量かというと少し疑問で、それぞれの思惑を持って部に残っているという感じ。武蔵も一度は嫌になりやめたバレーをもう一度始めるのですが、上を目指して…というよりは、自分にとってバレーとは何かを見出す試行錯誤のアプローチを見せます。最終的に各人の思惑がどういったところに着地するのか、またその結果チームはどこまで勝ち進めるのか、大小2つのアプローチで少女たちの青春を鮮やかに描き出していきます。


その娘、武蔵0002
田中相先生の絵柄でスポーツってあまり結びつかなかったのですが(割とかっちりと収まったコマ割りとか、キャラ造形なので)、バレーのシーンでは変則コマで動きを表現。ダイナミックさにはやや欠けるかもしれませんが、スローモーションを連想させる描き方で、手に汗握るシーンを描き出します。


 そうそう、あと気になったのが新たに顧問になってくれた先生が完全に宮史郎なところ。これ偶然宮史郎的になってるんですかね?不祥事後ということでなかなか顧問になってくれる人がいない中、素人ながらバレーファンである彼が奮闘する姿も、今後見られそうで楽しみ。1巻時点ではバレー部が動き出したというところで終了。2巻以降、いよいよ活動が加速してきそうで、非常に楽しみです。

 
【男性へのガイド】
→スポーツものなので、やはり他作品比で読みやすいんじゃないかと思います。どうして部活をやるのか…という所があるぶん、動き出しは遅くなっているのですが、2巻以降で取り戻すんじゃないかと。
【感想まとめ】
→スポーツものであるってだけで応援したいのですが、それを差し引いても普通に面白いです。オススメです。



作品DATA
■著者:田中相
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.03
1106463497.jpgアサダニッキ「星上くんはどうかしている」(1)



しょうがないから
あたしが友達になってあげる




■「似てない双子」と有名な2人の星上くん。兄・望はぼっちで、弟・求は人気者。三毛野いさりは「友達の作り方を教えてほしい」と望に頼まれたのをきっかけに、正反対な2人に振り回されることになって……!?八方美人女子×似てない双子のトライアングルラブコメ第1巻!

 「ナビガトリア」(→レビュー)や「青春しょんぼりクラブ」(→レビュー)を描かれているアサダニッキ先生のデザートでの連載作です。早速内容の方をご紹介しましょう。ヒロインの三毛野いさりは、八方美人な性格で、誰とでも適度の距離を取り馴染んでいる計算高い女の子。そんな彼女がある日風紀委員になることを命ぜられるのですが、ペアとなった男子は「ハズレのほうの星上」。校内で似てない二人として有名な星上兄弟のうち、暗くて挙動不審な“ぼっち”の兄・望の方なのでした。彼は何を思ったのか、いさりに友達の作り方を教えてほしいと頼んできます。乗り気のしないいさりでしたが、真剣な彼の姿勢を見て友達作りに協力してあげることにするのですが、ここで思わぬ邪魔が入ります。それが星上兄弟の弟で、学校随一の人気者である求。彼は極度のブラコンで、誰も望に近づけさせまいと、あの手この手で妨害してくるようになり…という学園ドタバタラブコメディ。


星上くんはどうかしている10002
望をめぐって(?)バトルを繰り広げる、いさりと求。そしてそんな二人の様子には一切気づくことがない、鈍感なお人よしの望。中盤以降はこの体制がベースに。


 なんだか正確に問題を抱えた男女たちが、不器用ながらも真正面からお互いに向かい合い、仲を深めていくというお話。これは「青春しょんぼりクラブ」にも通じるところがあるかと思います。ヒロインのいさりは、八方美人ゆえの希薄な人間関係に悩み、星上兄・望は友達が作れないことを深く悩み、星上弟・求は弟への異常な愛により性格が歪んでしまったというなかなかどうかしているキャラ達が揃っています。それぞれ「引く」という発想はなく、それぞれの思惑を通したいという所からぶつかり合いが起こるという。ここからやがて恋の芽も生まれてくるのでしょうが、まだまだそこに至るには時間がかかりそうなご様子。


星上くんはどうかしている10001
いさりは八方美人と言いつつも、自分が大事にすべき相手がだれかということは考えることができる子で、望を見捨てず面倒を見てあげる所がなかなか良い子でかわいらしいです。キャラ的にも結構好きな子だったり。


 ぱっと見一番どうかしているのは弟の求なのですが、冷静に考えると兄の望もかなりヤバめの男の子でして。このおどおどしつつ、いさりを驚くほどに巻き込む力というのは、なかなかの破壊力。「(友達になってくれるのは)きみじゃなきゃダメなんだ」というセリフを、長く効力を発揮しそうな一撃ですよね。この無邪気に人を振り回すというのが一番タチが悪くて、それを地で行く彼はなかなか凶悪ですよ。この後も無邪気にいさりを振り回しそうで、非常に楽しみであります。(振り回されるいさりがなかなか良い味を出しているのですよ)

 友達の輪は少しずつ広がって行くのですが、その子たちもなかなかひとくせふたくせあるキャラ達で、今後話が進んでく中で、3人と良いケミストリーを生み出してくれることを期待したいです。一通り役者が揃い、なんとなくそれぞれの気持ちに変化が現れたところで1巻は終了。さてさて、2巻ではどんなエピソードが描かれるのか、楽しみですね。


 
【男性へのガイド】
→アサダニッキ先生の作品は割と広く受け入れられている印象がありますが、本作も同様に間口は広いんじゃないかと思います。割と色物キャラが多いので、その辺さえ受け入れられればOKかと思います。
【感想まとめ】
→さすが安定の面白さでした。友達作りがスタート地点ですが、これから恋愛要素も含まれてくると思われますので、続きにも大いに期待したいところです。



作品DATA
■著者:アサダニッキ
■出版社:講談社
■レーベル:KC デザート
■掲載誌:デザート
■既刊1巻
■価格:463円


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.01
1106472285.jpg餡蜜「カンナとでっち」(1)



カンナ
行ってきます




■カンナの家は工務店で、父は町の大工さん。ある日、カンナと同い年の見習い大工・勝仁が、父のもとで大工修業することになって!?知らない男の子といっしょに住むなんて……この先どうしたらいいの!!?イケメン職人男子とのドキドキ同居ラブストーリー、第1巻!


 餡蜜先生の別冊フレンド連載作になります。工務店の娘であるカンナの家に、ある日見習い大工がやってくることから物語は始まります。その見習いはカンナと同い年で、同じ学校の定時制に通う男の子・勝仁。金髪にピアスというちゃらい風貌もさることながら、同い年の男の子と同居生活なんて……と戸惑うカンナでしたが、彼の大工仕事に懸ける熱い想いに触れ、だんだんと彼の魅力に惹かれるようになっていき…というお話。


カンナとでっち
勝仁の大工仕事への思い入れはかなりのもので、道具を愛でる気持ちもこんな感じでやや気持ち悪いぐらい。カンナの父に憧れを抱いており、この家へと修行に来たのでした。性格は明るく、非常に人懐っこいところがあります。ノリよくいたずらなところがあり、それがカンナとの距離をうまく縮めるきっかけに。


 年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすことになるということで、王道同居ものです。さすがに二人きりというわけにはいきませんが、一緒に生活している以上関わる機会は多いわけで、そしてありえないくらい美味しいハプニングが起きます。看病での密着とか、寝入っちゃって寄りかかるとか、もつれて倒れこんで大胆な体勢とか、長らく生きてきて私自身は一度も経験したことのないような羨ましいアレコレが、1か月ぐらいの短期間で立て続けに起きております。これをありえないなんて言っちゃだめ。お約束なんだから、むしろありがたく頂かないと。こういうところからもわかるとおり、「同居ものとはこうやって攻めるんだぞ」という事がギュッと凝縮されたような作品で、同居もの好きにとってはまず間違いない内容かと思います。


カンナとでっち0003
1話に1~2回くらいはこういうドキッとハプニングが起こります。ありがてえありがてえ。2巻ではお風呂で遭遇とか着替え中の部屋に入っちゃうとか、「お約束」をフルコンプしてほしいところです。


 一方同居ものというと、一緒に暮らしていて何かトラブルなどが起きた時に意外と優しかったとか、そういうエピソードでヒロインからの好感度を上げていくパターンが多いのですが、本作の場合は大工仕事に打ち込む姿を見て胸キュンしちゃったりと、間接的な攻撃もちょこちょこと放り込まれてきます。なので直接攻撃のみの単調さはなく、適度にメリハリはついているのかな、と思います。


 講談社のワンテーマものというと、そのお仕事に関する知識解説などがあるのですが、明示的に説明することはなく、流れの中でこんなものだと軽く触れられる程度です。なのでお仕事ものの側面を期待して読まれると、少し肩透かしをくらうかもしれません。そこはあくまで、そういう職業の人が相手役になった恋愛ものとして読んでいただければよいかと思います。

 
【男性へのガイド】
→ザ・少女漫画という内容ですので、そういうのを求めている方こそが読むべき作品かと思います。相手キャラはいわゆるオラオラ系とは異なり、ノリの良い兄ちゃんという感じなので、そこは障壁にはあまりならないのかな、とも思います。
【感想まとめ】
→ひねりなくど真ん中直球勝負の同居ものということで、読んでいてとても気持ちがよかったです。別冊フレンドらしい、恋愛マンガでした。


作品DATA
■著者:餡蜜
■出版社:講談社
■レーベル:KC別フレ
■掲載誌:別冊フレンド
■既刊1巻
■価格:463円


■試し読み:第1話

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2015.01.29
1106442353.jpg東村アキコ「東京タラレバ娘」(1)



いくつになっても自分が主役
人生という長い脚本のヒロインは私自身
それって幸せなことだと思ってた




■独身、彼氏ナシ、女子会中毒の全国タラレバ女に捧ぐ!!
 「キレイになったらもっといい男が現れる!」
 「好きになればケッコンできる!」
 タラレバばかり言ってたら、あっという間に33歳。
 私たちの明日はどっちだ!?

 東村アキコ先生のKISS連載作です。この人ほんと幾つマンガ描くんだろってくらい単行本出してますよね、すごい。本作は独身アラサー女のちょいとイタ辛い生き様を面白おかしく描いたコメディとなっています。物語の主人公は、鎌田倫子・33歳。脚本家を志しガムシャラに働いて、気が付けば独身のままいい年齢になっていました。今ではネットドラマの脚本を中心に、独立して表参道に小さな事務所を構える程度には食えています。独身の友達たちとの女子会が、何よりの楽しみ。やりがいのある仕事に気の置けない友達、東京での暮らしは楽しい……のですが、結婚の予定は未だ無いのが気になる所。なんとなく結婚の匂いを感じてはしゃいでみるも、それは全くの勘違いでした。そのことを居酒屋(女子会)で愚痴っていたら、年下の美青年に「行き遅れ女の井戸端会議」「タラレバ女」とののしられる始末。腹は立ったけれども、どうやら自分たちに時間がないのは本当らしい。折しも近づく東京五輪、そのころには自分は40歳。果たしてその時、どうなっているのか。危機感を覚えつつも、なかなか道は見えてこないアラサー東京生活なのでした。


東京タラレバ娘1-1
物語はその後、居酒屋の暴言青年が売り出し中のモデルであることが判明し、脚本家である倫子は敵意むき出しに彼と対峙するという形でころがっていきます。


33歳とはいえ、仕事もしっかりしてきたし、これまで積み上げてきた自負がある。タラレバ言うなと言われても、今の自分をありのままに承認してくれるパートナーはいないわけで、過去を振り返りつつ、自分で自分を愛でるか同じ立場にいる友達同士で傷をなめ合うしかないわけですよ。そうなると自ずとタラレバってしまうわけで。私は男性ですけれども、普通にタラレバ的な想像をするときありますもの。私も年代的にもアラサーで、男女の違いはあれども身につまされる話ではあるのです。

 物語の基本は、タラレバしがちなアラサーを嗤うスタンスなんですけれども、時折それがシリアスな方向に倒れることがあり、それが良いスパイスとなって物語を引き締めてくれます。ただこき下ろすだけだったら読んでて辛いんですけれども、こういう味方のような視点が入ることで、「あ、ただただ貶めるだけじゃないんだ」という安心感をもって読めるとでも言いますか。この強弱の付け方は東村アキコ先生のうまい所ですよね。


東京タラレバ娘1-2
婚活パーティに少し顔を出して知る現実。現実は、思っている以上にシビアでした…。


 また本作では、イケメンの青年がヒロインの脚本を「30過ぎたおばさんが都合よく男に言い寄られてリアリティがない。夢見てるのか。」なんて痛烈に批判しているのですが、1巻ラストの方では本作自体がシチュエーション的にそういう状態になっているわけで(明らかに狙っている)、さてこれはどっちに倒すのだろうと早くも落としどころが気になる所です


 
【男性へのガイド】
→東村アキコ先生の作品ですから男性も読みやすいと思っているのですが、ネタがネタだけに他作品と比較するとどうだろうとも。
【感想まとめ】
→相変わらずの東村アキコ節でやはり普通に面白いです。一方で一巻ラストからどう転がるのかはちょっと気になるところ。


作品DATA
■著者:東村アキコ
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS
■既刊1巻
■価格:


■試し読み:第1話

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。