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Tag [続刊レビュー] 2012.09.14
作品紹介はこちら→*新作レビュー* ろびこ「となりの怪物くん」
2巻レビュー→《気まぐれ続刊レビュー》ろびこ「となりの怪物くん」2巻
3巻レビュー→三者三様の考え方…女の子たちがとっても魅力的です《続刊レビュー》「となりの怪物くん」3巻
4巻レビュー→あさ子の可愛さに、目が離せない!《続刊レビュー》ろびこ「となりの怪物くん」4巻
5巻レビュー→あなたがわたしにくれたもの:ろびこ「となりの怪物くん」5巻
6巻レビュー→頑張る女の子は、かわいい:ろびこ「となりの怪物くん」6巻
7巻レビュー→それでも、人を求めてしまう:ろびこ「となりの怪物くん」7巻
8巻レビュー→はじまりはいつもこの階段で:ろびこ「となりの怪物くん」8巻
9巻レビュー→選択したときの後悔を無くすために:ろびこ「となりの怪物くん」9巻




1106185408.jpgろびこ「となりの怪物くん」(10)


多分僕は
きっとずっと溺れてる。



■10巻発売しました。
 長いすれ違いの末に付き合い始めることになった水谷雫と吉田春。なかなか付き合った実感を得ることができなかった雫…。だけど高2の夏休みにやっとハルと一緒にいる良さが実感できて順調な日々。でも、吉田家に何かあったらしく、今まで聞きたくても聞いてこなかったことが気になりはじめ…。
 

〜アニメ化です〜
 この度アニメ化が決定しました!いつかあるんじゃないかと思っていたのですが、ついに!すごく嬉しいです!公式サイトを見ると、そこには色付きの彼らが。なんだかタッチがろびこ先生のものと違って少し違和感はありますが、それはアニメ化された際の通過儀礼みたいなもの。ヒロインの雫役は、戸松遥さんがつとめるのだそう。個人的には大島さんの役を花澤香菜さんがやられるという所が楽しみでございます。放送開始は今年の10月から。テレビ東京系で放映となるようです。「好きっていいなよ。」(→レビュー)といい、デザート乗りに乗ってますな。


〜今まさに佳境を迎えている〜
 さて本作も10巻という大台に乗りました。本ブログでも単行本1巻からずっと追いかけているわけですが、もう10巻ですか…。すごく勝手に、感慨深いものを感じています。さてそんな中本編の方はと言うと、今までにない程にシリアス。それぞれメインキャラのバックグラウンドが徐々に明らかになり、不穏な空気が流れはじめています。恐らく現在が一番の佳境になるのではないでしょうか。「怪物くん」と揶揄されるハルが相手役である以上、ありがちな事故や転校なんていうイベントは物語的に全く意味はなく、他でもない彼の内面理解といったアプローチからの救いが大きな意味を持ってくるイメージ(あくまで個人的な予想というか概観でしかありませんが)。そして今まさに、そこに近づかんとしているような感じがあります。これから雫とハルはどうなるのか…を考える前にですね、とりあえず雫の弟の隆也くんが10巻では無性に可愛かったということを書かねばなるまい。
 

〜弟ちゃんがかわいい〜
 今までその存在は認識してはいたものの、無愛想でクールな男の子という印象しかなかった隆也くん。お姉ちゃん好きで、ハルのことは少し苦手と言った感じだったのですが、優山に対しては違う印象を持ったようです。というのも、分かりやすい形で…
 
 
となりの怪物くん10−1
食べ物に釣られる


 こんなホクホク顔今まで見たことないですよ。明らかにテンションが上がっているのがわかります。どちらかというと感情を閉じこめがちであった彼が、ここまで出すとは。作中でハルは雫のことを「わかりやすい」と言っていましたが、この愛でつつ見守る感じ、すごくハルの気持ちがわかった気がします(笑)その後は割と普通のテンション。文化祭に訪れても、ハルの誘いに対して目も合わさず「いらない」とばっさり斬り捨てるあたりはさすがでございます。


〜雫とハルの価値観を形成するもの〜
 さて、先にも書いた通り、現在物語は佳境を迎えておりまして、なかなか重苦しい雰囲気となっています。ハルと雫の関係が、少しずつ変質していく様子が描かれており、決定打となったのは雫の一言。


となりの怪物くん10−3
私はハルとは違う


 分かり合えると思っていた、どこかで一緒だと思っていた二人の間に生じた、自覚出来る差異。その根源になっているのが、二人の価値観の違いでした。優山の誕生パーティーで、ふとハルが雫に問いかけた質問。「自分の価値を決めるのは誰か」。それに対し、雫と貼るの意見は真っ向から対立しました
 

となりの怪物くん10−2
雫は「自分」だと言い、ハルは「他人」だと言った


 これは二人の価値観を端的に示していて、今回はそのルーツとなる部分が双方描かれています。まずは雫ですが、彼女の「価値を認めるのは自分」という発言は少し捻ったもので、基本的には「他人から認められたい」という願望がそこにはあるようです(直後の発言からもわかりますが)。けれども、他人に認められるにはまずそこに、かけられる期待がないといけない。元々彼女が勉強を始めたのも、母が家を離れたことをきっかけに、「ただ振り向いて欲しかった」と思ったから。誰かから何か期待をかけられ、それに応えるという形で努力をしたというわけではありません。それゆえに、もう認めてあげられるのは自分しかいないでしょうと、今のような発言をするようになったようです。
 
 一方のハルですが、元々は優山をすごく慕っている快活な男の子でした。幼少期の彼の価値観は、イコールで優山の笑顔。けれども優山は、自分にないものを持っているハルに嫉妬し、ハルを拒絶してしまいます。ハルは一番信頼を置いていた人物に拒絶され、今なお新たな居場所を探し出せていない状態。彼はなお、新たな居場所=他人からの承認を求めて日々を生きているのでした。彼にとっての「他人」というのもまた厄介で、恐らくこれはそれなりに距離が近い人物でないとダメ。また表層的な承認ではなく、心の底からつながれるような人を所望しているような感があります。
 
 お互いに求めているのは誰かからの承認のはずなのですが、「かけられる期待の有無」そして「近しい人物からの拒絶の有無」によって、少しずつ拗れてしまった。それぞれが無い物ねだりというか、だからこそ相手が羨ましいし、腹がたつ。
 
 さて、これからお互いに違いを自覚しあい、それを受け入れる過程が待っているかと思うのですが、割と頑固そうなこの二人、どう歩み寄って行くのでしょうか。気になるのは優山とハルの関係なんですよね。ハルにとっての承認欲求の向け先である一番の「他人」が、雫に置き換わるだけで、優山との関係は修復されないまま、とかだと結構悲しいというか。ここまで描かれているんだからさすがにこのままおざなりということはないと思いますが、果たして。あと何気に気になるのが、夏目さんとササヤンですってば!今ではこの二人が一番のニヤニヤポイントというね。11巻は、出来れば楽しい雰囲気の中物語が進んでくれるとちょっと嬉しいです。


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Tag [続刊レビュー] 2012.08.12
作品紹介→葉月かなえ「好きっていいなよ。」
3巻レビュー→根暗と幼女とヤリマンと・・・ 葉月かなえは計り知れない 《続刊レビュー》 「好きっていいなよ。」3巻
4巻レビュー→まだまだ幅を見せつける,どんどん面白くなる 《続刊レビュー》葉月かなえ「好きっていいなよ。」4巻
5巻レビュー→努力をしてきた子は美しい:葉月かなえ「好きっていいなよ。」5巻
6巻レビュー→弱い心が人を傷つけてしまう:葉月かなえ「好きっていいなよ。」6巻
7巻レビュー→あたしは表で生きていきたいのよ:葉月かなえ「好きっていいなよ。」7巻
8巻レビュー→自分の中に“女の子”が満ちていくとき:葉月かなえ「好きっていいなよ。」8巻
関連作品レビュー→葉月かなえ「堀高ハネモノレンジャー」 葉月かなえ「あれもしたい、これもしたい」




1106176580.jpg葉月かなえ「好きっていいなよ。」(9)


いつでも俺に一生懸命になってくれる
めいが好きだよ



■9巻発売しました。
 黒沢大和と橘めいが付き合いはじめて1年ちょっと。文化祭でのコンテストの結果を受け、大和とめぐみがデートをすることに。平気とは言ったものの、心配を隠せないめいは、大和の兄・大地の美容室へ。そこで大和が抱えていた想いを初めて知ることに…。誰かを強く「好き」になった気持ちの行き先は…!?
 

〜なんとアニメ化ですって〜
 驚きのニュースだったのですが、本作アニメ化されるそうです。

公式ページはこちら→http://www.starchild.co.jp/special/sukinayo/
 
 枠的には「僕等がいた」とかと一緒になるんでしょうか?ノイタミナはなさそうと思っていたので、MXベースというのは納得。しかし公式ホームページの絵柄、めいを最初全然見つけられなかったです…。あと大和も(笑)なんか皆さん全体的に髪の毛の色に違和感が。もうちょっと明るい色なのかな、と思っていたので。そしてあさみちゃんの巨乳が一層強調されているところもちょっと気になりましたねー。公開は10月からのようです。お楽しみに。

 
〜めぐみの恋敗れる。そしてわかる、大和のすごさ〜
 さて、そんな中本編のほうはというと、めぐみと大和の例のデートからはじまります。めぐみにとってはこれが最後のチャンスと言っても過言ではない、一世一代のデートです。自分の力で引き寄せたデートなのですから、ここはきちんと胸を張っていい所。めぐみも気合いを入れてデートに臨みますが、相手の大和はデートの体は取ってくれるものの、気持ちは常にめいの方を向いていました。好きだからこそ、そういう態度は辛いしよく伝わってくる。これはもう、自分の気持ちが入り込む余地はどこにもないと、デートを早々に切り上げ自ら身を引く事を決めます。


好きっていいなよ9−1
あまりにもサッパリとした引き際。決して軽い気持ちではないはずですが、それほどまでに大和の気持ちは頑でした。
 

 
 好きっていいなよ9−2
 別に邪険にするわけではないけれど、それでもめいへの想いが伝わってくるその態度。想いを寄せられるのを知っているからこそ、若干の戸惑いもあったかもしれませんが、ちゃんと自分の気持ちは返しました。こういう場面って、少しくらい八方美人的にいい顔しちゃう気もするのですが、嫌われてもしょうがないとしっかりと覚悟しているかのような、男らしい頑なな姿勢が見え隠れ。もう本当にカッコ良かったです。最近の少女マンガで一番格好いい相手役は大和なんじゃないかと、最近特に思っています。
 
 少女マンガって付き合う以前と以降にフェーズを分けると、7:3ぐらいの比率で見どころが描かれているような気がするのですが、実際の恋愛は付き合う以前なんて割とどうでもよくて、付き合ってからの方が俄然大事なわけですよ(当たり前ですが)。付き合って以降の作中での時間の経過にも依ってきますが、そういう視点(付き合って以降重視)で見たら大和は圧倒的だな、と。あの「君に届け」の風早くんですら、ちょっと爽子とぎくしゃくしちゃったりしているし。大和のやっていることは至ってシンプル。とにかく自己評価の低い彼女を肯定して肯定して肯定して、否定する事は一切しない。ただそれが如何に大変なことか。めいの不安定さで喧嘩をすることはありそうでも、大和発進で喧嘩をする自体には、多分きっと陥らないんだろうなと、二人を見ていて思えてきます。この安定感というか、絶対的な承認装置としての存在感がとにかく抜きん出ている印象なんですよね。少しは見習いたいものです。でも難しいんだ、これが。


〜今回は大地篇〜
 さて、アニメ化で物語も俄然進むかと思いきや、本編は少し寄り道をして大和の兄・大地の過去と今の恋愛について描かれました。完全に脱線と言えるのですが、お話の内容はまた葉月かなえ先生っぽいというか、好きっていいなよっぽいお話だったな、と思います。
 
 大地の彼女(元カノ)というだけで、どんだけキレイな人だったんだろうとか思って見たら、意外や意外、非常に地味でちょっとぽっちゃりした女の子。前髪を下ろして食べ物をよく食べる姿は、めいにも重なるものがあります。兄弟で心をくすぐられるポイントが一緒なんでしょうか(笑)
 
 このお話は、大地が死別した鈴の存在が心の中でいまだくすぶり続けている中、新たな恋愛に踏み出そうとする過程が描かれるものになっています。大地視点で描くこの物語は、割とよく見られるオーソドックスな再生物語のようなのですが、鈴と大地の過去のやりとりを見ていると、「あー、これも『好きっていいなよ。』に流れてるエッセンスと一緒だ」と感じることが。鈴と大地はつきあっていたとはいえ、イケメンでオシャレで人気者の大地に対して、地味で少し太っている鈴は、大地に対して劣等感を抱いたまま。


好きっていいなよ9−3
彼女もまた、この作品の多くの登場人物に共通する、傷を持っていたり、自己評価が低かったりする人物であるのでした。


もしかしたらこの物語で言えば、視点となるべきは大地ではなくむしろ鈴の方が自然だったのかもしれません。全く違った毛色のお話のように映りましたが、ベースを築いているのは多分一緒。ただ鈴という女性は既に亡くなっており、進まなくてはいけないのは、変わらないといけないのは大地の方であったため、ひっくり返してこんなストーリーに仕上った。そんな風に、読んでいて感じました。自分の心を隠すように、いつも前髪をたらしていた鈴の次に選んだ彼女が、今度は自分の心を剥き出しにしたようなベリーショートの女の子ってのは、“いかにも”という感じで、明るい未来が想像できます。良いお話でした。


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Tag [続刊レビュー] 2012.06.07
作品紹介はこちら→*新作レビュー* ろびこ「となりの怪物くん」
2巻レビュー→《気まぐれ続刊レビュー》ろびこ「となりの怪物くん」2巻
3巻レビュー→三者三様の考え方…女の子たちがとっても魅力的です《続刊レビュー》「となりの怪物くん」3巻
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5巻レビュー→あなたがわたしにくれたもの:ろびこ「となりの怪物くん」5巻
6巻レビュー→頑張る女の子は、かわいい:ろびこ「となりの怪物くん」6巻
7巻レビュー→それでも、人を求めてしまう:ろびこ「となりの怪物くん」7巻
8巻レビュー→はじまりはいつもこの階段で:ろびこ「となりの怪物くん」8巻




1106133380.jpgろびこ「となりの怪物くん」(9)


どうしてハルの答えは
いつも明快なんだろう



■9巻発売しました。
 高校2年に進級した水谷雫と吉田春は、長いすれ違いの末に付き合い始めることになったが、雫はなかなか付き合った実感を得ることができない。そしてハルと何も変わりがないままの夏休み。ついに2人にも、そして周りにも大変化が!?
 

〜祝・アニメ化!!〜
 先日驚きのニュースが飛び込んできましたよ!なんと「となりの怪物くん」アニメ化決定です!

人気コミック『となりの怪物くん』が今秋アニメ化


 デザート誌上で何か「大発表」があるとされていましたが、こちらがそれだったようです。デザートの作品はアニメ化しない印象だったので、まさかの展開にとっても驚いています。いやぁ、嬉しいですね。さて、既に制作や各キャラクターの声優さんも決定しており、監督は「君に届け」の監督さんとのこと。声優さんはドラマCDからがらりと変更してのキャスティングとなっています。
 
役名:ドラマCD版キャスト → アニメ版キャスト
水谷雫:伊藤茉莉也 → 戸松遥
吉田春:鈴村健一 → 鈴木達央
夏目あさ子:巽悠衣子 → 種崎敦美
ヤマケン:浪川大輔 → 寺島拓篤
ササヤン:岡本信彦 → 逢坂良太
大島千づる:早見沙織 → 花澤香菜
みっちゃん:小野大輔 → 樋口智透
吉田優山:梶裕貴 → 中村悠一

 私は声優さん殆ど知らないので、どっちが良いとかわからないのですが、普通に変えてくるものなのですね。戸松遥さんは「ここはグリーンウッド」のドラマに出ていたので知ってます(浅い知識)。何はともあれ非常に楽しみです。
 

〜後悔のない選択〜
 さて、アニメ化の話はほどほどにしておいて、本編の話に移りましょう。前回から夏休みとなっている本編ですが、9巻も夏休みメインで進行します。付き合うことになったものの、未だ付き合っている実感の湧かない雫。自然な形で二人いられるのはある意味理想的な状況であるとは思うのですが、雫からすると「付き合っているのだからそれらしく見えたり感じたりするもの」という先行した感覚があったのだと思われます。そんな中、キャンプの最終日に少しだけ付き合っていることを実感することに。まず感じたのは、付き合っている実感ではなく違和感でした。


となりの怪物くん9−1
ハルが前にいること


 いつもは後ろからついて回るハルが、この日は恋人として自分の前を歩きます。いつもとは違う景色、感覚。けれどもこれは、あくまで自分の中で感じるもの。恋人然とした感覚でもなく、ましてや周りから見たらまるで恋人になんて見えないのではないか。そんな獏とした不安のような感覚が、雫の脳裏をよぎります。けれどもそれは、優山の言葉によって払拭されることに。
 

となりの怪物くん9−2
ちゃんと立派な恋人同士に見えるよ
(中略)
選択に後悔がないのなら
きっとそれは正解なんだよ


 「なるようになっただけ」そう謙遜した雫の背中を、優山の「選択した結果」という言葉がさらに後押しします。欲しかった言葉。けれども安堵よりももっと、取捨選択の結果である、「捨てた選択肢」がよりハッキリと目に映るように。そう、ヤマケンの存在です。「友達にはなれない」とハッキリ言われた手前、雫としてもどうすることもできません。「友達になれないのなら仕方ない…」口では言ってはみるものの、どこか歯切れが悪く、後悔していないとは言い切れない状況。ハルとの付き合い、ヤマケンとの付き合い、そのどちらもハッキリと向き合いきれないままに続く此の状況は、果たして正解と言えるのか。
 
 優山が提示した「正解」を手に入れるには、選択への後悔を無くすことが必要になってきます。自分が優柔不断だからかもしれませんが、後悔のない選択なんて、ないです。そうでしょ?それでも優山は「後悔の無い」と言う訳ですよ。要するに、必ず生まれる後悔をどう消化するかという話。そして、そのためのアプローチとしては、基本的には二つ。一つはヤマケンとの関係をきっぱり割り切ること。そしてもう一つは、後悔も掻き消えるほどに、選んだ方の選択肢での幸せを実感すること。後悔の種を取り除くか、溶かして飲み込んでしまうか。どちらを選ぶかは当人の性格次第だと思うのですが、結果的に雫が選んだのは後者でした。
 
 あれこれと考えを巡らせて、頭の中がこんがらがっていた彼女とは対照的に、ハルの想いはこんなにもシンプル


となりの怪物くん9−3
「…もしかしてハルは私が好きだから毎日来るの」
「うん」



 あまりに明快な回答に、雫も思わず顔を赤らめます。これが決定打。思わず手をつなごうと提案した雫は、ハルと手をつなぎ並び歩きながら、付き合うことの幸せを実感することになるのでした。一緒に並んで歩く景色は、冒頭と殆ど一緒。けれども今度は違和感ではなく、心いっぱいの幸せを感じることになりました。経った時間は僅かの期間。けれどもその間に多くの人の言葉を聞き、考え、整理して、やっとここまで。とんとん拍子に進むことこそありませんが、ゆっくりと歩むからこそ、そこから進む足取りは確かで、やっぱりすごく素敵というか微笑ましいですね。


〜ササヤンと夏目さんもまた…〜
 さて、雫たちの恋模様も素敵なのですが、何といっても目を離せないのはササヤンと夏目さんですとも。やっぱりササヤンペースで進むんですね(笑)どうあがいたって、夏目さんじゃあササヤン相手に勝ち目はありません。ただ今までちょっと弱みというか、歳相応の情けなさみたいな部分が見えてなかったササヤンに、そういう面が見え始めて、なんだか新鮮というか安心というか。力関係の構図は変わらずとも、だんだんと透明になって中身が見えてくると、また違った感想が持てます。きっと次の巻もニヤニヤで読み進めること必至。楽しみですな。
 
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Tag [続刊レビュー] 2012.02.19
作品紹介→葉月かなえ「好きっていいなよ。」
3巻レビュー→根暗と幼女とヤリマンと・・・ 葉月かなえは計り知れない 《続刊レビュー》 「好きっていいなよ。」3巻
4巻レビュー→まだまだ幅を見せつける,どんどん面白くなる 《続刊レビュー》葉月かなえ「好きっていいなよ。」4巻
5巻レビュー→努力をしてきた子は美しい:葉月かなえ「好きっていいなよ。」5巻
関連作品レビュー→葉月かなえ「堀高ハネモノレンジャー」 葉月かなえ「あれもしたい、これもしたい」
6巻レビュー→弱い心が人を傷つけてしまう:葉月かなえ「好きっていいなよ。」6巻
7巻レビュー→あたしは表で生きていきたいのよ:葉月かなえ「好きっていいなよ。」7巻





1106111578.jpg葉月かなえ「好きっていいなよ。」(8)



あたしのなかで女の子が満ちていってる



■8巻発売しました。
 黒沢大和と橘めいがつきあいはじめ、1年が過ぎた。そして迎えた文化祭。なんの運命のきまぐれか、校内のアイドルを決めるコンテストに、大和だけでなくめいも出場することに…!候補にはもちろんあのめぐみもいて…。大和と2人でグランプリを目指して、自分磨きに初めて取り組むめいだけど、生まれ変わっためぐみに真っ正面から挑まれて……。
 

~白めぐみの奮闘~
 8巻発売しました。前回はめぐみのモデルとして築き上げてきたその魅力とプライドにスポットが当てられましたが、今回は生まれ変わっての学内でのコンテストです。初登場時は黒さにまみれていましたが、7巻を経て辿り着いたのは真っ白な彼女、白めぐみです。手強い相手になりそうなんて想像していたら、都合良く文化祭でのミスコン開催。しかも優勝者同士、デートの約束付き。大和は前回大会2位で、今大会では本命必至。彼氏彼女がいようが全く関係なしに行われるデートに、めいもさすがに焦り、さらに周囲の余計(?)なサポートによってコンテストに出場することに。一応学内で5位以内の得票数にならないといけないらしいのですが、見事5番目でエントリーされたのでした。てか何気に海や愛子も入っていて、めいの周り美女にイケメンだらけなんだなぁと改めて。だから一層めいは引け目を感じるような気もするのですが、そこはあんまり気にならないのか。そしてもう一個驚きなのが、昨年大和が2位だったということ。だってあれだけ人気のある彼ですよ!?さらにその上を行く存在がいるとか、もう化け物クラスですよもう。そしてそんなコンテストにめぐみは…
 

好きっていいなよ8-1
ガチ本気。

 
 うわー、これは勝てないですわ。ずるいずるい。生まれ変わった者として、この勝負ですら、いやこういう勝負だからこそ本気で。松岡修造みたいですよ、心構えが。これはさすがにシナリオとして、めいがめぐみに勝つのは難しそう…さてどう決着つけるのやら。なんて思っていたら、まさかの大感動が待っていましたよ…
 


~とにかくめいの言葉が感動的だった~
 彼女がコンテストに出場した理由は、大和が他の誰かとデートしてほしくないから。そもそも参加に前向きでなかったのですが、周りの後押しもあり出場することになってしまった手前、頑張らざるを得なかったようです。デートを阻止するのであれば、めいが一位になるよりも、大和が一位にならないことに対して努力した方が早そうです(失礼ではありますが…)。けれどもめいにとって大和は一番であって、やっぱりコンテストでは一位を取って貰いたい。それにそんな素敵な彼と同じ舞台に立つというのに、自分だけみすぼらしい格好でいられるわけがない。様々な想いがあったはずです。最初は乗り気でなかったのですが、大和と大和の兄、あさみさんの手助けによって変身。さらには自ら危機感を持って、ジョギングに食事制限に、パックまで始めるようになります…。そんなさなかのめいの言葉がとっても印象的で…
 
この数時間で
何年分もの女の子を取り戻している気がする。
今あたしのなかで
女の子が満ちていってる。

 今までご飯は大盛り、オシャレなんてしたことはなく、お化粧に美容云々なんて全く興味なし。そんな彼女が、今女の子に満ちています。なんだかとっても素敵なフレーズ。男性である自分では、絶対に味わえない感覚です。しかし「何年分」というフレーズが、女性の女性として生き出す早さを物語っていてすごいなって思います。めいだってまだ高校2年生とかですよ。まだまだいくらだって始めることができる年なのに、それでも周回遅れどころではないほどに遅れを感じているという。もちろん彼女がそれまでの人生しか経験していないからとも言えるのですが、それ以上に重いものを感じるというか。
 

好きっていいなよ8-2
 さて、その結果生まれ変わっためい。こんなにかわいくなりました!って正直ここ最近のめいは初期に比べたら驚くほどかわいくなっていたと思うんですけどねって。でもやっぱり、着飾って自分を見せようとしている女の子っていうのは、地の魅力とは別の部分で可愛さを感じるものです。素敵ですよね。

 しかしだからといって中身が変わるわけではありません。やっぱり場違い感はあるし、とっても怖い。でも自分はこの舞台に立たなくてはいけない。震ながら舞台に上がり、生徒達の前で彼女が伝えた言葉。とにかく長くて、まとまっていない言葉たちでした。ページで見ると吹き出しがいっぱいです。けれどだからといって、無駄な言葉は一つもありませんでした。彼女が彼女なりに着飾り、彼女なりの言葉で精一杯伝える。そりゃあ感動するってもんです。「あたしが女の子であるということを気づかせてくれた」。化粧をして、おしゃれをして、可愛く見せることこそが“女の子であること”だとはさすがに思いませんが、でもそれってやっぱり女性ならではの特権ですよね(時折すっごく羨ましくも、大変にも思えます)。そしてそんなある種記号的な「女の子らしくある行動」を、内面での補強でもってこんなにも肯定的に、そして素敵に描いてくださった葉月かなえ先生ってやっぱりすごいです。
 
  
~大切な人だからこそ、触れたい、けれども慎重になる~
 この一件でどこか緩んだのか、その後のめいはちょっと変な感じ。いつもとは違い、大和に触れたい願望が強く、強く。校内でのキスってのはなかなかロマンチックではあったのですが、何気に性的な感を匂わせつつ描かれていたのでちょっと読んでいて「見ちゃってごめんなさい!」的に目を覆ってしまいました(笑)好きだから触れたい、けれども大切だから触れるのには慎重になる。そんな彼女の中での葛藤が歯がゆくて良いです。いよいよ意識せざるを得ないのが、セックス。「問題を目の前にして、いいセックスができるわけがない」…なんで経験のない子が良い事言うんだ!いや、実際そうなのか知りませんが。いよいよこちらも逃げることができなくなってきましたが、さて今度はこのくだりをどんな風に素敵に彩ってくれるのか。ティーンズラブ出身の葉月かなえ先生にとっては、これこそがメインフィールドと言っても過言ではありませんから、もう今から(正確にはずっと前から)楽しみで楽しみで仕方ありません…!


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2011.11.13
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2巻レビュー→《気まぐれ続刊レビュー》ろびこ「となりの怪物くん」2巻
3巻レビュー→三者三様の考え方…女の子たちがとっても魅力的です《続刊レビュー》「となりの怪物くん」3巻
4巻レビュー→あさ子の可愛さに、目が離せない!《続刊レビュー》ろびこ「となりの怪物くん」4巻
5巻レビュー→あなたがわたしにくれたもの:ろびこ「となりの怪物くん」5巻
6巻レビュー→頑張る女の子は、かわいい:ろびこ「となりの怪物くん」6巻
7巻レビュー→それでも、人を求めてしまう:ろびこ「となりの怪物くん」7巻




1106079492.jpgろびこ「となりの怪物くん」(8)


カチッとはまる
音がした。



■8巻発売しました。
 高校2年に進級した水谷雫と吉田ハル。クラス替えで一人だけ隣のクラスになったハルは、なかなか馴染めず教室にも入れない。それでも雫の励ましもあって、徐々にクラスに溶け込むように。そんなハルと以前に比べ、通じ合うのを感じる雫だったが、意外な新入生の登場もあって、ついにヤマケンが…!?
 

~ヤマケンの見事なまでの当て馬としての働きっぷり~
 8巻発売でございますよ。いきなり表紙に「え、誰?」ってな子がおりますが、その子については後で。まずは他でもない、ヤマケンの活躍について触れねばなるまい。初登場時から作者さんにまで「当て馬」よばわりされていた彼ですが、ついに当て馬としての仕事を全うしました(まるで死んだかのような物言い)。当て馬の生き様というのは、ヒロインに恋い焦がれてあれやこれやと献身的にサポートし、いざチャンスと告白するも、当たり前のように断られ、挙げ句それをきっかけにヒロインと相手役の仲が一層深まりゴールイン…という流れを辿るところにあります(穿った見方)。端的に言うと、告白した結果それがアシストになってしまうという流れが、大きなスパンで見た時にあるわけですが、今回のヤマケンはそれを非常に美しい形でなぞって行きました。
 

となりの怪物くん8-1
オレとつきあわねーか
水谷サン



 このタイミングでの告白は、ヤマケンにとっても本意ではなかったような気もするのですが、勢いに任せて行ってしまうところがいかにもヤマケンっぽくて素敵。しかも「告白」と言っておきながら「好き」とは決して言わないその捻くれ方と無駄なプライドの高さがまた、実に彼らしいではないですか。「かわいい」とは言ってますが、あの言葉は雫に向けて放った言葉ではなく、ついつい漏れた独り言。無表情で冷静に見せつつの、余裕のなさが可愛かったです。普通であれば一度目の「ごめんなさい」で折れるところ。けれども今回は諦めずに頑張った。もうこれだけで本当に頑張ったな!と。
 
 けれどもそこはかませ犬。この頑張りが丸々ライバルの頑張りへと変換されてしまうわけで…。その直後、ほんとうに直後にハルが動きます。この一拍も置かせない無駄のないエネルギー変換に、ヤマケンの噛ませ犬としてのポテンシャルの高さを感じたのでした。



~はじまりはいつもこの階段で~
 というわけでハルも雫に改めて想いを伝えるわけですが、そのシチュエーションといい言葉といい、実に「となりの怪物くん」らしい場面で素敵でした。以降全編的にネタバレになるのですが、今回はある意味今までの集大成とも言える回でしたので、余すこと無くお伝えしたいな、と。

 さて、今回も今回とて、ハルが想いを伝えたのは、帰り道の階段で。この階段は1巻の第1話から登場しているいわば本作の聖地みたいなもの。そして、二人が想いを相手に打ち明けるのは決まってこの場所だったりします。一番最初はハルから雫へ。


となりの怪物くん8-2
 彼の涙に思わず心奪われ駆寄り抱きしめたと思ったら、「俺シズクが好きかも。性的な意味で。」こんな言葉での返し。どうにも噛み合いません。それでもハルと一緒に過ごしていくことで、雫もいつしかハルを想うように。この場所での2度目の告白は、雫からされたものでした。1度目は学校で、けれども結局「嘘」なんて言ってしまったあとの、ちゃんとした告白。
 

どんなに考えたところで
他人の気持ちは想像でしかない
想像でしかないなら
ぶつかってみるしかない

 
 相手の気持ちは想像でしかなく、ぶつけるのは自分の想いのみ。最初のハルからの告白も、自分の気持ちだけが先行した想いの吐き出しでした。この告白は、ハルが「自分の好きとお前の好きは違う」と言い、結局白紙に戻ることになりました。「ならばちゃんとハルを好きにさせよう」と、新たな決意をする雫が、妙に清々しい表情をしていたのが、今となっては懐かしいですね。ここまでは、1巻に収録されていた出来事でした。そして時は流れ4巻。それまでも度々この階段で、二人の大切な会話が重ねられていましたが、改めて積み重ねた想いを、雫が再び伝えることになります。
 

 「私の気持ちを伝えよう」勇気を出しての告白。もう間違えないようにと、届くようにと真っ直ぐ目を見据えて放った言葉は、嫉妬によって濁ったハルの心には届きませんでした。またしても噛み合ない。その時の状況を、雫はこんな風に語られています。
 

となりの怪物くん8-3
どうしてこんなに噛み合ない
多分何かがズレている



 二人が真に結ばれるには、このズレの解消が必要でした。けれどもそのズレが何だかわからない。なんてったって、相手は怪物くんです。そもそも何を考えているのかもわかりません。そんな中、作中にて語られるようになったのは、ハルの出自や彼の過去。その中で度々登場する叔母の言葉に、ハルとの噛み合なさを解消させるためのヒントがありました。


となりの怪物くん8-4
あたたかさを知らない


 「他人」は自分を傷つけるもので、「安心」はつねに不安がつきまとい、「あたたかい」という言葉は君のココロに冷たく響く。今のハルのことをそう言い表し、一方でこんな言葉も残していました。
  

いつかこの手のひらが
キミにとって温もりだと感じられる瞬間が訪れるかもしれない
キミの胸を満たす何かを
見つけられるかもしれない
その時 きっとキミは
とても幸福な人間になる


 この言葉は魔法となり、その後ハルの心の中に残り続けることになります。そしてそんなハルに対し、雫は3度目の告白を。その場所は、もちろんあの階段で。この時は答えを聞くこともなく、ただただ言葉として伝えただけ。けれどもその裏では、こんなことを思っていたのでした。
 

となりの怪物くん8-5
体温を分け合うように
彼に 伝えたい
この胸の高鳴りを
生まれた気持ちを
彼がくれたこのあたたかさを



 この胸の高鳴りと熱こそが恋。はじめの頃のその想いとは、明らかに違う自分の中に渦巻く感情をもってして、やっと雫は自分の恋心を真の意味で自覚するのでした。さぁ、雫は答えを出した。ならばあとは、ハルのみです。そしてついに、ライバルの動きに焦ったとはいえ、それでも自分の意志で、自分の言葉で伝えたのです…
 
 
となりの怪物くん8-6
シズクといて
初めて俺は温かさを感じられるんだ
シズクが好きだ
俺と付き合ってください

 
 
 ハルからの階段での告白は、実に第1話以来。度々好きだと伝えることはあったけれど、ここまでちゃんと伝えたのはきっと初めてでしょう。普段あれだけ暴れん坊で言葉使いも割と乱暴な彼が「付き合ってください」と丁寧語になっているところに、その本気度が現れているように想います(奇しくもヤマケンと同じような言葉なのですが、言い方が全然違いますよね)。そして何より、雫の「温かさを伝えたい」という想いが届いていたことが嬉しかった。そして、ハルもまた「好き」ということが何かわかったと話しています。このとき雫がまず想ったのは、嬉しいでも恥ずかしいでもなく「カチッとはまる音がした」ということ。これまで散々苦しんで来た「ズレ」が、ようやくなくなりました。これで晴れて恋人同士になった二人が見下ろすのは
 


となりの怪物くん8-7
祝福するように広がる満天の星空と夜景


 ああこの場所、こんなにもキレイな景色が見渡せる場所だったのですね。いつも描かれるのは登り途中での見上げたショットか、見下ろしたとしても昼間。きっとこの日見た景色は、ずっと忘れることないんだろうなぁ。なんて、お互いのことばっかり見ていて、全く頭に入ってないかもしれませんけれど。告白したのは階段の一番下の場所だったので、その後登ってきてこの場所に腰掛けたってことなのですが、その間の二人の表情とか、会話とかどんな感じだったのかもうちょっと想像しただけでニヤニヤしてきます(笑)何はともあれ、数々の名シーンを生み出してくれたこの場所に感謝ですよっ!
 
 
 
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