
思ってたのと全然違うけど
これはこれで
ステキだよって
■浅利さんのちょっと大きなお屋敷には、色々な事情を抱えた人たちがプラっと集まって、ふわっと暮らしています。そのときのその瞬間、偶然集まった他人同士だけど、おいしいご飯をかこめば、なんだか心もつながっているような・・・。ひとつ屋根の下に集う人々の、家族より家族の物語。
「宵待ちブルー」(→レビュー)や「私日和」(→レビュー)を描いている、羽柴麻央先生の新作になります。羽柴先生というと集英社のイメージですが、本作は講談社からの発刊となっています。描かれるのは、とある庭のある一軒家に集う人々の日々の生活。住んでいるのは社会人数名に子どもが二人、そこに学生がちょいちょい遊びにくるような、緩い雰囲気の集まり。住人たちはお互いの全てを知った上で暮らしているわけではなく、それぞれに秘密だとか、人には言えないような過去があったり。そんな住人たちのちょっとしたエピソードを、話ごとに視点を変えながら描いて行きます。読切り形式の疑似家族ものという言葉で表せば、収まりがよさそうでしょうか。

住人たちの構成としては、何をやっているのかよくわからない家主の浅利さん、彼の友人でオカマなローズさん、デザイン会社で仕事をしている女性の森憩さん、ワケあってこの家で暮らす兄妹の典ちゃんと万瑠ちゃん、そして犬の丘太郎。またしばしば遊びに来る、近所の高校生・開くん。全員が浅利さんの知り合いということで、下宿的な雰囲気はあまりなし。浅利さんという見知った存在を軸にしているがためか、浅利さんの緩さが皆に伝わっていて、全体的に暖かくゆったりとした雰囲気に。
一応一つの作品ではあるのですが、各話のつながりは薄めで、それぞれ独立した物語という印象が強いです。というのも、浅利家の住人たちとの絡みで物語が進行するのではなく、それぞれのメンバーが外部に持つ人間関係を中心に物語が進行・完結するから。浅利家というのは物語を転がす舞台装置というよりは、各キャラクターが安心して帰って来れる拠り所という印象が強いです。典型的な疑似家族ものというものを想像して読み始めると、少し肩すかしを食らうかもしれません。とはいえまだ1巻ですので、2巻以降他のメンバーにスポットがあてられた時に、また違った形で描かれてくるのかも。
1巻では4話が収録されていましたが、個人的に一番のお気に入りであったのは、ローズさんに絡んだお話であった2〜3話目。序盤全く知らない人たちが出てきて「え、どういうこと?」なんて思っていたのですが、後半でようやく意図が明らかに。なるほど、こうつながるのか、と。

同じ人を好きになった者同士がつながり合うというのは、どこか不健全ではあるものの、それゆえの切なさや寂しさが仄かに落とし込まれていて、またそんな中にも確かに愛はあったのだと分かった時の感動は、なかなかのものでした。苦みも甘みも少しずつ、大人な味わいのする物語でした。
【男性へのガイド】
→羽柴麻央先生の作品は、割と男性も読んでいる印象(私の周りの人だけなのかもしれませんが)。本作もそこまでハードルになるようなものはないかと思います。
【感想まとめ】
→もうちょっと住人間での絡みを見たいものの、こちらは2巻以降でのお楽しみとしましょうか。さすがにどのお話も面白くて、読み終わった後に幸せな気分になれました。オススメです。
作品DATA
■著者:羽柴麻央
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■既刊1巻
■価格:429円+税
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