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Tag [続刊レビュー] 2015.03.04
1106491074.jpg大谷紀子「すくってごらん」(3)<完> (BE LOVE KC)



“幸せ”だ
金魚をすくっているそのとき
私は一人ではないから 




■きっとみんながあなたのことを好きになるの。
 大手メガバンクのエリート銀行員・香芝誠が、転勤先の奈良県大和郡山市で出会った常識を覆す「金魚すくい」―――。最初はなじめずにいた香芝だったが、いつしかその魅力に取りつかれていく。そんな中、人助けのため着ぐるみで参加することになった金魚すくいの全国大会。前年度のチャンピオン・斑鳩との熱戦を終え、あまりの暑さで倒れこむ香芝の前に現れたのは……?小さな命の大きな温もりを描く物語、完結巻!


~完結しました~
 3巻発売し、完結しました。このマンガがすごい!でラインクインしたばかりで、これから猛プッシュされるのだろうなと思っていただけに、年明け初巻であっさり完結というのは意外中の意外。ムック本でランクインした背景を考えても打ち切りはなさそうなだけに、予定通りの完結ということなのでしょうか。変に引き延ばそうとしない分潔いのですが、ランクイン読者からの期待感の表れでもあると思われますので、少し寂しい気もします。いやでも…うーん…。ちなみに本作については連載継続嘆願書として多くの方から署名が集まったそうです。




 また作者の大谷紀子先生のインタビューがこのマンガがすごい!Webに掲載されています。本作が生まれるきっかけは、金魚すくいへの興味でなく、大和郡山という土地への興味であったという話など、色々と裏話が載っていて面白いですよ。お時間ある方は是非読んでみてはいかがでしょうか。


大谷紀子『すくってごらん』インタビュー【前編】 世界一静かで優雅なスポーツ「金魚すくい」――まさかのマンガ化!
大谷紀子『すくってごらん』インタビュー【後編】 特殊な環境が私を漫画家の道に進ませてくれた


~ラスボスとなったのは店主さんでした~
 主人公・香芝誠の金魚すくいの腕はメキメキ成長中。仲間とも打ち解けつつあり、団体戦での出場なんかも楽しみ。また意中の相手である吉乃さんとの仲も気になったり…。やっぱり振り返ればかなりやり残したことがあるかと思うのですが、もうあまり考えないようにしましょう(笑)


すくってごらん3
ともあれ最終回を迎えるには、何かしらの問題に対して解決策が提示される必要があるのですが、本作の場合は店主さんの抱えた傷を癒すという所に着地しました。確かに謎多き人だったのですが、そこまでの実力の持ち主だったとは。驚きです。振り返ってみれば、本作、吉乃さんというよりもむしろ店主さんとのラブ感の方が強いんじゃないかっていう。デキてても違和感ないなとか少し思ったのでした。


~ある意味でリアルな幕切れなのかもしれません~
 物語は転勤によって切れることになるのですが、これってある意味で非常にリアルな幕切れなのかもしれません。こと銀行員は転勤も多いですし、競技での金魚すくいとは言いつつも、最優先となるのは本職の方ですから。もちろんこれに人生すべてをささげるような人もいるかもしれませんが、大衆にとっての趣味としての金魚すくいという位置づけでの描き出しという意味では、この着地は非常に腑に落ちますよね。

 しかしこのマンガ読んでると自分でも金魚をすくえそうな気になってくるのですが、実際やったらめちゃくちゃ難しいんでしょうねー。そもそもお祭りに行くこともなく、金魚すくいの屋台と出会うことも非常に少なくなってしまったのですが、どこかで見かけたらぜひやってみたいとおもいます。


■作品紹介
優雅で熱い世界!競技としての『金魚すくい』:大谷紀子「すくってごらん」1巻

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2014.09.21
1106442394.jpg大谷紀子「すくってごらん」(1)



つかまえたいな
きみを100匹




■見ていてください。これが金魚をすくうということです。
 エリート銀行マン・香芝誠は仕事上でミスをして、東京本社から大和郡山支店に飛ばされた。ささくれた心をむき出し歩いていた香芝は金魚問屋に偶然足を踏み入れる。地元住民たちが”金魚すくい”を楽しむ光景を、見ていた香芝だったが……?

 大谷紀子先生のBE・LOVE連載作でございます。表紙とタイトルからもわかる通り、金魚すくいを題材としたお話です。物語の舞台となるのは、金魚すくいの全国大会も開かれるという金魚すくいの聖地・大和郡山。主人公は、エリート銀行マンであったものの、仕事のミスでこの街に左遷されてきた香芝誠(25歳)。そんな失意に暮れる彼の新居の前にあったのが、金魚屋さん。最初は全く興味もなく苛立っていた香椎でしたが、一人の女性と出会ったことで一変、金魚すくいに情熱を燃やすようになります。入口はなんとも不純なもの。けれどもやがて金魚すくいの面白さに気づいていき…というお話。


すくってごらん1-1
ヒロインとして描かれる、生駒吉乃さん。若い男性たちみんなが憧れ、そして撃沈している高嶺の花です。


 金魚すくいと言って想像するのは、まずはお祭りでの光景でしょうか。個人的なイメージは、一匹すくうのも困難で、最後の方になるともらえたりする(で、結構すぐ死ぬ)イメージがあります。いわばレジャーとしての、情緒的な舞台風景の装置といった意味合いが強いのですが、本作ではそういった文化的な描き方は主ではありません。描かれるのは、数分の間に何十匹もすくうような、競技としての”金魚すくい”です。

 映像で見たことがあることもいるかもしれませんが、全国大会の光景って異様ですよね。ポイが破れることもなく、次々とすくい、お椀に金魚がいっぱいになるっていう。この物語に登場する人たちは、基本的にそんな人たちばかりです。そんな中に飛び込んだ、元エリート銀行マン。はじめは拒絶していた金魚すくいに魅せられ、徐々にその才能を見せていきます。

 物語の性格的には、スポ根ものに近いものがあり、誤解を承知で例えるならば「金魚すくい版の『ちはやふる』」といったところでしょうか。掲載紙も同じBE・LOVEということで、そのラインを継承する作品に位置づけられるかと思います。とはいえ主人公は高校生ではなく、20代中盤の男性ですから、当然熱量や作品展開のアプローチは異なり、きちんと差別化は出来ております。また金魚ということで、華やかですよね。色こそマンガだとわかりませんが、脳内で補色したり、シルエットだけでも涼しげで良いです。


すくってごらん1-2
バトルマンガ感。こんな感じのテンションで描かれます。この人がラスボス的でもあり、師匠的でもあるおじいちゃんってとこでしょうか。


 社会人ということで、当然恋愛方面にも期待したいところなのですが、清楚な美女に心踊らされ虚言を吐くなど、主人公にはどこか童貞くさい一面があり、トキメキイベントはあまり期待できないかもしれません。また競技系のマンガには不可欠なライバルキャラも多数登場。いずれもキャラが立っており、今でこそキャラ過多な感じはありますが、話数が重なってくるごとに魅力も増してくるものと思われます。しかし金魚すくいのプレースタイルとか、よく分けられるなぁと。

 物語は、主人公が本格的に金魚すくいの世界に足を踏み入れようとするところでおしまい。これから彼がどのように成長し、どのような戦い方をしていくのか、非常に楽しみです。金魚すくいということで色物感もありますが、題材としてしっかり活かしているのでご安心を。とても面白い作品が登場してきました。オススメです。 

 
【男性へのガイド】
→スポ根の気がある作品は、男性でも楽しみやすいかと思います。競技系作品を読んだ時に覚える震えるような感覚こそないのですが、これからそういう所も出てくるかも。
【感想まとめ】
→面白かったです。正直出落ちかと思っていたのですが、結構本格的に描かれていて、続きが非常に楽しみです。


作品DATA
■著者:大谷紀子
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■既刊1巻


■試し読み:第1話

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2014.09.10
1106413058.jpgおざわゆき「あとかたの街」(1)



今日も一日がはじまっている



■太平洋戦争末期の昭和19年、名古屋。優しい父と強い母、そして四姉妹の女系家族。木村家次女・あいは、国民学校高等科1年生。青春真っ只中にいるあいの関心は、かっこいい車掌さんに出会ったことや、今日の献立のこと。自分が戦争に参加しているなんて気持ちは、これっぽっちもなかった―――。しかし、米軍にとって名古屋は、東京や大阪と並んで重要攻撃目標だった。少女・あいにとって、戦争とは、空襲とは、空から降り注いだ焼夷弾の雨とは、いったい何だったのだろうか。少女・あいの目を通して描かれる、名古屋大空襲の真実。

 このマンガがすごい!Webの8月の月間投票でこの作品に入れていたのですが、レビューをしていなかったのでここでお届けです。というか最近そういうの多いですね、いかんいかん。本作はオンナ編で1位でした。全体的に小粒な感のあった月だったのですが、その中で本作は存在感を放っており、1位も納得です。

 ということで、ご紹介するのはBE・LOVEで連載しているおざわゆき先生の「あとかたの街」です。みなさんは名古屋大空襲ってご存知でしょうか?私はこの作品を読むまで全く知らなかったのですが、本作はその時代に生きた一人の少女の目を通して、実際にあった名古屋大空襲を描き出します。舞台となるのは昭和19年の名古屋。太平洋戦争の戦況も苦しくなり、国民たちもみな苦しい生活を余儀なくされていた頃。青春真っ只中の学生であるはずのヒロイン・あいの日常にも、戦争の影が着実に忍び寄って来ていました。校庭では野菜を育て、授業では竹槍を使っての軍事訓練をし、やがて授業はせずに軍事工場での労働を強いられるように…。


あとかたの街1-2
戦時中とはいえ、やっぱり欲はあるし文句も言いたくなる。友達もいるし、基本的な部分は現代の女の子たちと変わりはないのです。


 本作は、実際に名古屋大空襲を体験したおざわゆき先生のお母さんから聞き書きする形で生まれています。ちょっと前に「聞き書き」という活動が話題になった記憶がありますが、マンガとして残すという形もあるのですね。聞き書きは単純に話を聞くだけでなく、聞いたことを後世に伝える異世代コミュニケーションも目的の一つですので、若い世代が受け取りやすい形で形に残すというのは、一つ有効な手なんじゃないかと思いました。

 どの作品も基本的には史実に沿って描かれていると思うのですが、本作はその時々にヒロインが感じた事も生の声が元になっていますので、その辺りが実にリアル。戦争に参加しているなんて実感はないんですよね。普通に一人の女の子で、やりたいことが色々ある。1巻は実際に空襲が始まる前の様子が描かれるのですが、ベースは生活が苦しいながらも楽しんで毎日を生きようとする少女のありふれた日常の風景なんです。そしてそんな中にふと戦争というものを強く意識せざるを得ないような出来事が挟み込まれるのですが、それがやけに生々しくて怖いのです。絵柄も可愛らしいんですけどね。


あとかたの街1-1
戦況が悪化するごとに、戦争というものがより間近に自分の目の前に迫ってくるように。ここだけを抜き取ると、ブラック企業とかぶるような印象がありますね。この時は、国自体がそういう状態になっていたという。


 主人公のあいの家は女系家族ということで、兄弟が出兵しているといったことはありません。大黒柱の父も名古屋に残っています。そのため残された女の悲しみ的な側面は描かれません。その辺もちょっとありがちな戦争ものとは異なる所でしょうか。男がいないということで、色々と言われることもあるんですよね。こういうのもあまり知ることのなかった事実だったりします。

 2巻ではいよいよ名古屋大空襲に巻き込まれていきます。1巻とはまた違った様子が描かれると思うのですが、非常に続きが気になります。色々な人に読んでもらいたい、そんな作品でした。

 
【男性へのガイド】
→大人も子供もお姉さんも。たくさんの人に読んでもらいたい作品です。
【感想まとめ】
→戦争ものって読むときにエネルギーを使うのですが、本作はそこまで。日常と戦争の描かれるバランスのためか、すんなり読みやすい内容となっていました。オススメです。


作品DATA
■著者:おざわゆき
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■既刊1巻
■価格:580円+税


■試し読み:第1話
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Tag [新作レビュー] 2014.08.01
1106422116.jpg大久保ヒロミ「人は見た目が100パーセント」(1)


知らなかった…
世の中の女の人ってこんな大変な思いして
オシャレしてるの!?



■真面目で優秀な研究員・城之内、佐藤、前田。「一応服は着ているから」「ちゃんとお風呂には入っているから」と自分に言い訳をし、「女子力」や「美」に背をむけた人生を歩んでいた。が、このままではいけないと、就労後に「美」の特別研究をし始めて!?「女子」になりたい、けれどなれない「女子モドキ」たちが、美と価値観を問いかける抱腹微苦笑ビューティー研究ギャグ、実験開始!

 「人は見た目が9割」という本が一時期ブームとなりましたが、こちらはもっと強気です。なんせ100%ですから。というわけで、「人は見た目が100パーセント」のご紹介です。タイトルは似ている(というかパロっている)のですが、先述の啓発本のような内容ではなく、むしろ本作では自虐めいた側面が強いです。
 
 主人公は表紙に描かれている3人の女性。某製紙会社に研究員として勤めている彼女たちは、左からそれぞれ40歳、30歳、25歳。世代は違えど、抱える悩みは同じ…それは、身なりを気にしないでよい職場にいるがゆえに抜けてしまった「美」や「女子力」といった意識。気がつけば女子ではなく、女子のような風貌の「女子モドキ」となってしまった彼女達は、業後研究室に残り、日々美の研究をするのですが…というお話。


人は見た目が100パーセント1−1
「自撮り」での一幕。知識はネットや雑誌で手に入るけれど、いざテクニックとして身につけるまではハードルが高いのです。試行錯誤の過程が、笑いのポイント。


 女子力を失った女子達が、最近の流行りものに挑戦していくというギャグコメディ。連載誌はBE・LOVEですが、こちらはBE・女子とでも言いましょうか。取り上げるテーマはどれも女子っぽいもので、男性からすると「縁遠すぎてよくわからん」という感じでもあるのですが、女性の中にもハードルはあるようで。栄えある第1回は「つけまつげ」、以降「柄パン」「ナチュラル太眉」「自撮り」「ネイル」「オシャレ下着」と取り上げられる題材は多岐に渡ります。テレビや女子の会話でなんとなく耳にするけど、自分がやるにはハードルが高い…だったらみんなで一緒に飛び込んでみればいいじゃないという精神で、女子モドキ達がやりたい放題。みんな知らないから、無茶な提案しがちという。
 
 キャラ分けも上手いこと出来ていて、25歳の佐藤さんは見ての通りのぽっちゃりタイプ、30歳の城之内さんはメガネスレンダー、そして40歳の前田さんは子供もおり非モテというわけでもないのですが、なんとなくバブルの匂いを引きずっているという。それぞれ年代もタイプも異なるので、ネタのアプローチは様々。すごい個人的な好みで言うと、城之内さん、好きなタイプです。奥ゆかしさがあって良いじゃないですか。


人は見た目が100パーセント1−2
「ネイル」での一幕。こういうチャレンジでは意味がわからない言葉が出てきがち。これとか割とありそうなネタですよね。ちなみに「オフあり」とは既にしているネイルを取ることを言うようです。


 男には直接関係のないネタなので普通に笑っているのですが、ふと冷静になると、女子って本当に大変だなぁ、と思わされます。見える所、見えない所、色々と気を遣うポイントがあるんですよね(そしてお金もかかる)。ただ男性も同じ話で、こういうの気をつけないと私服とか本当に酷くなりがち。私はシステム系の部署にいるのですが、普段スーツな分、休日出勤などで私服になったりすると「お前ら大学の時から服変わってねーだろ」みたいな人が高確率でいるという。明日は我が身でございます。

 ちなみにこれらの題材は全てが「男ウケ」ありきじゃないという所もポイントかと。例えば「ネイル」なんかはあんまり男性は好まないですが、女子は大好きというシロモノですよね。自分のためにするもの、女子同士での牽制、男子ウケ…様々なファクターが絡んで、女子のオシャレというものは出来上がっているのですね、複雑です。逆に男性はこの辺を敏感に察知して褒めればモテたりするのでしょうか。


【男性へのガイド】
→女子は色々と努力しているんだということを知ることが出来るので、勉強のために如何でしょうか。こういう所に気づいて褒められると、なかなかポイント高いような気がします。
【感想まとめ】
→ネタは流行りものなので、基本的に賞味期限は早そう。柄パンとか来年にはもうどうなっているかわからないですし。旬がわかりやすいからこそネタも美味しく(面白く)なるわけで、読むならまさに今。


作品DATA
■著者:大久保ヒロミ
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■既刊1巻
■価格:580円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] 2014.07.05
1106402485.jpg鈴木有布子「箱の中のいつかの海」


生と死は波のようやね
繰り返し
繰り返し…



■実家の仏壇の片付けをしている最中に見つけたひいばあちゃんの手紙。二重になっている底を外すと、古い婚姻届と木の箱があった。婚姻届にある見知らぬ名前。それはひいじいちゃんのものではない。いてもたってもいられず、謎を探りにあかりは四国へ。遠い親戚の亮とともに、先祖の秘密に近づいていく…。

 「星川万山霊草紙」(→レビュー)などを描かれている鈴木有布子先生のBE・LOVE連載作です。とあるOLの、長期休みを利用した自分のルーツ探りの旅を描いた1巻完結もの。物語は、実家の仏壇を片付けているところからはじまります。片付けで見つけたのは、ひいおばあちゃんの名前が書かれた婚姻届。しかしそこに書かれていた相手の名前は、ひいおじいちゃんのものではなく、見知らぬ男性のものでした。賢妻で恋患う印象など一切ないひいおばあちゃんと、どうしても結びつくことの無いその婚姻届に興味が湧いたあかりは、そこに記された住所を頼りに、一路四国へ向かうのでした。しかしその先で出くわすのは、ひいおばあちゃんの名前を出すと顔をしかめる人たちばかり…。謎だらけの祖先の出自を、一つずつ紐解いていくのですが。。。というお話。


箱の中のいつかの海
向かった先で出会ったのは、親戚にあたる男の人。どうやら彼も、色々と事情を知っているようで…。


 祖父や祖母の出自が自分の思っていない所にあり、興味を持って調べ始めるも、そこでつきつけられるのは「裏切り者」や「気狂い」といった思いもよらない評判で…という流れは、最近だと「永遠のゼロ」が思い起こされます。あちらは孫が祖父のルーツを追い求めたお話ですが、こちらはひ孫が曾祖母のルーツを追い求めたもの。働き詰めから解放され、また男女関係で少し傷ついた直後のアラサー女子が主人公ということで、アプローチこそ似てはいるものの、描かれる物語は全く異なるものになっています。
 
 今自分が存在しているということは、脈々と血が受け継がれて来たということに他ならないのですが、一般人の代重ねなど実にはかないもので、2代3代となるとそのルーツはわからなくなり薄れていくものです。私も祖父母はすでに他界しており、あくまで父母から伝え聞いた程度しか知らないのですが、確かに話を聞くとなかなか興味深いものではあるんですよね。例えば私の母方の祖父は富山の薬売りだったらしいのですが、薬売りに来た先で祖母に一目惚れし、長野に永住してしまったという。父方の祖父も割と惚れっぽい性格だったようで、どうやら私には女好きの血が色濃く流れているみたいです。少なからずその人の血が入っているわけですから興味も湧くもので、もし自分にも時間があったら、ちょっと調べてみたいものです。
 
 なおこのお話が「物語」として成り立つのは、思わぬ「悪評」が先祖を取り巻いているからであって、その揺り戻しが感動につながるわけですから、実際に自分達がやってみてもこんな風にはならんのでしょう。大きな物語がそこにあるわけではありませんが、過去と現在をそれぞれ丁度良いバランスで描き展開させる所はさすが読んでいて安心感のあるところ。良いお話でした。


【男性へのガイド】
→この物語に出てくるひいおばあちゃんに共感できる感性を持っていると、より感動は増すのだと思います。となると、やはり女性の方がそこは。
【感想まとめ】
→無理なく1巻にキッチリ収め、最初から最後まで澱みなく読ませる安定感。大きな感動のあるお話ではありませんが、読み終わった後の満足感は確かかと思います。


作品DATA
■著者:鈴木有布子
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE・LOVE
■全1巻
■価格:580円+税


■試し読み:第1話

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