このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2011.08.12
1巻レビュー→天然女子高生×極貧獣医学生×子猫3匹の同居生活:斉藤倫「僕の部屋へおいでよ」1巻
その他関連作品レビュー→*新作レビュー*斉藤倫「誓いの言葉」*新作レビュー*斉藤倫「宙返りヘヴン」恋に芸術に悩む美大生:斉藤倫「Juicy」



1106047075.jpg斉藤倫「僕の部屋へおいでよ」(2)



あたしは
必要とされるあたしに
なりたいです



■2巻発売、完結しました。
 京は、鳴沢と綺更のキスシーンを見て動揺し、熱に浮かされたまま鳴沢に告白してしまう。でも、京を背負って帰った鳴沢の答えは、「君とを勘違いしている」と、取りつくしまのないものだった。「どうしよう」。微妙な距離感を保ったままに、3匹の仔猫たちを囲む、2人の同居生活の行方は…?
 

~完結しました~
 2巻にて完結致しました。思っていたよりも早めの完結で、この作品を気に入っていた者としては、もうちょっと長く楽しみたかった想いもあるのですが、非常に気持ちの良い終わり方をしていて、スゴく良かったです。大きな物語があるわけではありませんでしたが、中心となる二人が、それぞれに自分なりの答えを出し歩き出すその姿には、非常に勇気づけられるものがありました。


~お互いに乗り越えた、心を縛るもの~
 ラストを迎えるにあたって描かれたのは、二人を縛りつける過去の出来事。二人一緒になるには、お互いにもう一歩ずつ近づく“もう一押し”が必要であったわけですが、しっかりとその過程を経てから、最後を迎えることができました。それぞれを縛るものですが、鳴沢については、獣医師の卵でありながら血を見ると卒倒してしまうということ、そして京を縛る物は…
 

僕の部屋へおいて#12441;よ2-1
おばあちゃんの前以外では
泣かないって思ってたのに

 
 
 お母さんをはじめとして、自分のまわりからいつも人が去っていくように感じていた彼女は、「笑っていれば大丈夫」と心に言い聞かせ、今の今まで生きてきました。唯一心を許し涙することができたのは、今は亡きおばあちゃんの前でだけ。そしてそんな決めごとの裏では、もちろん「必要とされない自分」というものが強く意識され、彼女の自己評価の低さへつ繋がっていきました。それは1巻でもしばしば描かれていて、こんな台詞でストレートに表れています。
 
 
僕の部屋へおいて#12441;よ2-2
あたしなんて何もできなくて
馬鹿で取り柄もなくて
誰にも必要じゃなくって……

 
 
 「誰にも必要とされない自分へのコンプレックスが」と「自分の周りから誰かが去っていくという恐怖」があるからこそ、彼女は自分がいないとダメな存在として、三匹の仔猫と、そして鳴沢さんを見つけ拾ってきたわけで、それが現在の彼女の精神的な命綱のようになっていました。それに加えて、鳴沢はことあるごとに彼女に伝えるんですよね、お前は誰にも必要とされないことなんてない、と。一度目は出会って間もなくの頃、彼はその後特に何か伝えるわけでもなく、ただ頭をぽんぽんとしてくれました。これもなかなか威力のあるものではありますが、本当に効いたのは2度目、今回改めて彼女がそのことを話した時でした。
 

僕の部屋へおいて#12441;よ2-3
あんたのそーゆー所に
驚かされて救われてた
フツーにそのままでいいよ


 
 この時の京の表情を見てもわかる通り、これで改めてガッツリです、もう。鳴沢が初めてぐらいの勢いで見せた、京への優しい言葉。普段そういうことを言わない人が、突然こういう事を言うと、その破壊力は何倍もあるように感じられますよね。自分の彼へ向かう気持ちの強さを改めて実感した彼女の心は、もう離れません。そして最後、去り際の一言で改めて。今度は「俺が保証する」とまで言いましたから、鳴沢もまた彼女へ伝える言葉をよりハッキリと、意思の強いものへと変えていきました。これもまた彼の中での変化を如実に表していて、すごく良かったなぁ、と。また京も、この言葉に依存し安心しきるのではなく、本当に必要とされる存在となるため、自らの道を歩み始めます。このわかりやすい行動と、他人に依存しきらない歩み出しが、爽やかで素敵だなぁ、と。
 
 
 さて、そんな形で京のトラウマ的な強迫観念を取り去ってくれた鳴沢ですが、彼のトラウマについても、京が言葉で救ってくれていたりします。彼がトラウマとなる一件のことを話したのは2巻に入ってからで、しかもその時には特に何も言う事がなかった京ですが、そのことに対する京の答えは、1巻の時点で既に出ていたのでした。
 

「不毛だとおもわねー?
 追っても叶わないかもしれない
 助けたい気持ちは
 そしたら後悔しないか?」



 という鳴沢の問いかけに対し、京は…
 
 
僕の部屋へおいて#12441;よ2-4
「あたしはきっと
 追わなかった事を後悔します」

  
  
 この言葉を聞いた鳴沢は、救われたような表情を見せるわけですが、ここに繋がっていたのですねー。あまり伏線というか、複雑に練っているような作品だとは思っていなかったのですが、一貫したテーマが物語の底にあり、読み返すと新たな発見があり、すごく面白かったです。
 
 完結して、改めてこの作品をオススメしたいです。ちょっと不思議ちゃんテイストの、だけど心に傷を抱えたロリ属性の京の可愛らしさ。素直になれない性格と、自分の弱さを人一倍強く自覚し落ちてしまう鳴沢の不器用さ。空気を読まずに好き勝手する仔猫達。性格悪げな一匹狼に見せて、その実人一倍寂しがりやな先輩。どの登場人物達も素敵。少しでも気になった所があったのであれば、是非とも手に取ってみてください。


■購入する→Amazon

カテゴリ「Cookie」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.07.19
1106025847.jpgいくえみ綾「プリンシパル」(1)



落ちる…………!


■東京の学校でハブられ、3人目の継父とは上手く行かず、逃げるようにして、実父のもとへと引っ越した糸真。父が暮らすのは、東京から遠く離れた北の土地・札幌。見知らぬ場所で、わくわくと不安を抱えながらの転校初日、出会ったのは和央と弦の2人のクラスメイト。特別な存在として見られている2人に近づくとハブられるみたいだけど、恋に落ちてしまったら仕方ありません…!

 昨年の完結作の第1位に据えた「潔く柔く」(→レビュー)のいくえみ綾先生のcookieでの新作です。なんだか表紙が非常に愉快なことになっていますが、作品の乗りもこんな感じです。というわけで、「プリンシパル」のご紹介です。物語は、高校生のヒロイン・糸真が北海道に越してくるところからスタート。3人目の継父と上手く行かず、さらに学校でハブにされたことがきっかけで、札幌の実父の元へ引っ越すことになった彼女。新たな家族生活、新たな学校生活に不安と期待を抱えていた彼女は、その先でとっても面白い二人組に出会います。病弱で学校を休みがちな少年・和央と、そんな彼を守るように行動する、ぶっきらぼうな物言いの弦。和央の飼っているわんこをきっかけに、この二人と仲良くなる糸真でしたが、この二人は学校で特別視されている存在。みんなのもの認定されているこの二人に近づくと、学校でハブにされるみたいなのですが、頼れる存在はこの二人しかおらず、なんだか気持ちは加速していくばかりで…というストーリー。


プリンシパル
安定のいくえみ男子。そして考えながらも、感じる方が先行する直感系女子。今回も面白くなりそうです。


 いくえみ綾作品によく登場する印象の、ちょっと影のある、ちょっと気が利かないようで、気が利く(というか優しい)男の子二人。はい、これだけでもうある意味鉄板です。ヒロインは、人間関係で何かと苦労している女の子。恋多き母親もそうだし、クラスメイトとの関わりもそうだし。リセット願望を持って降り立った北海道の地で、恋の予感…と思ったら、その二人はある意味触れてはいけない存在でした。。。という流れは、結構見られる展開ではあるのかもしれません。登場してくる人物がそれぞれに後ろめたさのようなものを抱えていて、そこら辺をどう克服し、人間関係をこれから築いていくのかというところが、物語の主眼として置かれるところだと思われます。特に男の子二人に関しては色々とありそうで、これから物語にどのように影を落としてくるのか、とてもとても気になりますね。

 恋とはいえど、いい男二人の間で、どちらかにターゲットを絞って具体的に動く…なんてことはなく、ただ感じるままに動いているという状態のヒロイン。相手の先決めではなく、そういった短絡的な行動を起因にして、その人のいい所も悪いところも知り、その上で改めて自分の身の振りを考えるということになるのかな。若いというか幼いがゆえの痛さというものを、隠すことなく描く先生なので、読んでてちょっと辛いときもあるのですが、それでもそこからの巻き返しが心地よいので、やっぱり好きです、うん。

 表紙が愉快という話をしましたが、物語中でもこの演出なんだろうというような所が。例えば物語の締めは、一度たりとも姿が出てこない能天気な母親の手紙というのがデフォ。最後の最後でなんがか気が抜けるなぁ、なんて思いつつも、この人もまたヒロインに影響を与え、与えられる人物であるわけで。しかも回を重ねる毎にちょっとずつ内容が変化しているのが面白い所です。違和感を感じさせる所が、やがて物語に繋がってしっかりと合わさる…なんてことがあるかはわかりませんが、ひとつこれから読んでいく中で注目しておきたい部分ではあります。いくえみ綾先生の作品って、こう1巻だけで決め打って語れることって個人的にあまりない印象で、巻を重ねて振り返ってやっと、みたいな。多いに語るのは、2巻3巻と出てきてからにしましょうか。たぶん物語的にも、今はまだ舞台を整えただけという感じですし。  


【男性へのガイド】
→いくえみ綾先生が好きな人はもう読んでいらっしゃるでしょう、と勝手な言葉を。未読の方は、他の作品からでも良いのではないかなぁとも思います。このノリは、確かに良いのですが、できればシリアス多めの作品のが。
【感想まとめ】
→正直なところまだ全体を掴みあぐねているところがあるので、どうこう言える感じでは。もちろん面白いんですけど、これからどうなるのか、とかは、ちょっとわからず。


■作者他作品レビュー
いくえみ綾「いとしのニーナ」
いくえみ綾「そろえてちょうだい?」
摩訶不思議な少年少女のワンダフルデイズ:いくえみ綾「爛爛」


作品DATA
■著者:いくえみ綾
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックスcookie
■掲載誌:cookie(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「Cookie」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2011.05.01
作品紹介→目が覚めたら私、超嫌われ者でした…:池谷理香子「シックス ハーフ」1巻
2巻レビュー→記憶喪失だけでなく、兄妹での恋愛まで:池谷理香子「シックスハーフ」2巻
関連作品レビュー→池谷理香子「微糖ロリポップ」



1106016555.jpg池谷理香子「シックス ハーフ」(3)


結局どうしても
家族っていう実感が持てない自分が苦しい



■3巻発売です。
 バイクで事故って、記憶喪失になってしまった詩織は、援交をやっていた等々、過去の自分に関する噂を聞いて、戸惑いの淵に立たされる。兄・明夫に支えられ、段々と平穏を取り戻していく詩織だったが、明夫が幼なじみの瑞希と付き合いだした事から、事態は急転して!?明夫への想いが、段々とハッキリしていくなか、詩織の元に、一通の郵便が届くが。。。


~兄の真意、妹の心~
 3巻発売となりました。未だ詩織の記憶は戻らず、3巻も相変わらずの状態で物語は進んでいきます。2巻の流れからすると、兄の真意が明らかになるのかなぁ、なんて思ったのですが、そこまで大きな変化は見られず。「昔からどうしてそうやって…(迷惑かけるの)」とちょっと語気を荒げて詩織に話した程度で、詩織が見た夢の正体は明らかにはなりませんでした。
 
 そんな明夫に対して、今回大きくフィーチャーされたのが、妹のまーちゃんでした。これまで頑なに詩織を嫌っていた彼女。どうして嫌いになったのかなんてのは、以前の詩織の性格からすれば容易に想像できるのですが、今回描きたかったのは、原因などではなく、その根の深さ。いかんせん詩織の視点からのみ描かれるので、なかなか元いた側からの視点にシフトさせて読むことは難しいのですが、そうそう簡単に、今まで嫌っていた人と和解するなんてできないわけですよ。詩織の視点の場合、記憶喪失になって以降での付き合いでしかないので、簡単に今まであった垣根を越えてしまうことができるのですが、積み重ね積み重ねいたまーちゃんからすると、なかなかそうはいかないわけで。ましてやそれが、今の自己形成の一端を担ってすらいたとしたら、それはもうダメージも大きすぎるものなわけで。

 
シックスハーフ3-1
 自分を否定し続けた相手に対しての反骨によって出来上がっていた自分が、相手の中の否定の消失と共に消えてしまうような、そんな感覚なのかな、と。だからここで、彼女がすんなりと受け入れられるわけはなく、詩織が彼女に渡したプレゼントを捨ててしまったのも、そういった心理を象徴しているようで、すごく印象に残りました。あれで受け取っちゃ、絶対にいけないんですよ、彼女は。詩織の視点だと、なんて意固地な妹なのだろうと思うかもしれませんが、自己の消失がかかっているのだとしたらそれは必死。詩織が記憶喪失後の自分を必死に守ろうとしているように、まーちゃんもまた詩織の記憶喪失以前の自分を、必死に守ろうとしているのです。



~瑞希への敵意はどこから…~
 さて、そんな中詩織が敵意むき出しにしているのが、瑞希さん。すごく良い人のように映る彼女ですが、一体何があるのか。現時点で詩織が彼女を嫌っているのは、明夫を取っていってしまうという想いがあるから。言ってみれば彼女のホームともいうべき場所は、彼の隣しかないわけで。それが今後、元カレやモデルという仕事に取って代わるかもしれませんが、少なくとも今は、ここにしか居場所は見出せていないわけで。それが失われるとなれば、そりゃあ必死に抵抗するわけですよ。しかしここで面白いのは、記憶喪失以前の詩織もまた、瑞希を嫌っていたということ。そもそも記憶喪失以前の詩織は皆々嫌っていたようなきらいはあるのですが、どうも父の死亡時の反応などを見ると、単純な理由だけには思えないのですよね。


シックスハーフ3-2
「アンタのせいだ」なんてなかなか言わないですよ。それだけの理由が、そこにはあったんじゃないかな、と。一体何があったのか、非常に気になるところです。知ったら恐ろしそうではあるのですが…



~隠されている、本当の恐ろしさ~
 なんて言って、この物語で一番恐ろしく厄介な相手は、明夫でもまーちゃんでも、瑞希でもないわけですよ。どう考えても、記憶喪失以前の自分というのが一番怖いわけで。その時の記憶が戻ってしまえば、喪失以降築き上げてきた価値観や関係性など、一瞬で吹き飛ばしてしまう可能性もあります。他者との関わりの中で、段々とその側面が隠されてきたように思いますが、常に大きな爆弾が落ちてくる可能性がある状況下におかれているという。すごくこわくないですかね、この状況。それをむき出しにせず、上手く隠しながら、淡々と淡々と物語を進める、その辺がすごく怖くて、そして面白い。もう、本当に盛り上がりとか関係なく、作者さんはその時限爆弾のスイッチを押せるわけですから、一瞬たりとも目が離せないんですよ、このお話は…!



■購入する→Amazon

カテゴリ「Cookie」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2011.04.11
1106005363.jpg藤末さくら「プライベート タイムズ」(1)


ちょっと声に出してみませんか
俺達が一緒に実現させるから
まぁできる範囲で



■1巻、2巻同時発売です。
 青葉は元有名子役の青葉は、今は引退して普通の学校生活を送る高校生。憧れ続けてやっと実った普通の女の子としての生活、楽しもうと張り切るけれど、なんだか上手くいかなくて。彼氏はいるし、学校にも毎日通っているし、放課後の約束だってあるのだけれど…。そんなある日、「プライベートタイムズ」という謎の集団に出会い、連れて行かれた先で青葉が見たものとは…?
 
 「あのコと一緒」(→レビュー)の藤末さくら先生の新作でございます。クッキー連載。先日ご紹介しました短編集「星の散歩」(→レビュー)と同時期発売で、さらにこちらは1・2巻同時発売と、プチ藤末さくらフェアが実施されていたりしました。こちらはガッツリ長編連載。子役として人気を得ながらも、普通の生活に憧れて引退し、今は普通の高校生として過ごしている女子高生・青葉が物語の主人公になります。夢にまで見た普通の生活、勉強に、放課後の約束に、恋人…けれども手に入れてみれば、それはどこか刺激のない日々で、今ひとつ満足感に包まれていませんでした。そんなある日出会ったのは、若者達が多数集う「プライベートタイムス」という集団。そこのメインメンバーであるイケメン・日向に、幼稚園での人形劇の手伝いをして欲しいと頼まれた青葉は…というストーリー。


プライベートタイムズ
プライベートタイムズに入るには、いくつかの加入条件が。それは外からわかるものだけでなく、人間性自体が問われる部分が大きい。


 元子役で、最近日常に退屈気味の女子高生が、大学のサークルと出会い、その一員として活動していくという青春物語。「プライベートタイムス」というサークルは、何か特定のことを集中してやるという集まりではなく、厳選したメンバー達が集い、それぞれが叶えたいことを都度全力で取り組むという、いわば全力で遊ぶサークル。サークルの掟はたった一つ、サークルメンバー同士での恋愛は禁止。そんな愉快な集団の仲間になった青葉は、様々な年上の人たちとの繋がりから、再び自分の人生を、そして自分の価値観を見つめ直していきます。
 
 物語のポイントとなるのは、青葉が元子役であるということと、サークルが恋愛禁止でありながら、メンバーはどちらかというと好かれがちなイケメン・美女揃いだというところ。元子役がとある集団に所属することをきっかけに、再び表舞台を目指すというのは、神尾葉子先生の「キャットストリート」(→レビュー)などがありますが、こちらもそういった道を進行していくのでしょうか。こちらはどちらかというと大きなトラウマなどはないように描かれてはいるのですが、少なからず芸能界に未練はあるようで、これからそっち方面のお話も増えてくると思います。というか結構ハイカラな大学らしく、芸能人や読者モデルなんて肩書きの子が普通にいたりっていう。
 
 そして同時に絡んでくるのが、恋愛ですよ。「恋愛禁止」と言っておきながら、青葉に気のある素振りをみせたりみせなかったりな日向。2本の軸が、今はまだ交わらずに遠いところにあるものの、これから物語が進んできて、混ざり合ったとき、どんな面白い物語になるのだろう、と楽しみな気持ちがすごく強いです。ただ2巻同時発売にしてもなお、エンジンのかかりの遅い印象で、初読の印象は薄めかも。


【男性へのガイド】
→こう、ここまでインパクト抑えめの作品にどこまで耐えられるかってところな気がします。
【感想まとめ】
→2巻かけてこれまでなのかという、未だ空腹感を抱えつつの切れ方ではあるのですが、下ごしらえは十分という感じで、期待感は高め。個人的には続き買って、それからという感じでしょうか。



作品DATA
■著者:藤末さくら
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックスCookie
■掲載誌:Cookie(連載中)
■既刊2巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「Cookie」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2011.04.07
1106005366.jpg松田奈緒子「東北沢5号」(1)


この街でいいことも悪いこともかさなって
あたしはあたしになってゆく



■超ワガママなイトコ・真夜のお供で上京した千帆子。地元で仕事もしているし、彼氏だっている。本家のイトコがわがままさえ言わなければ、来ることなんてなかったのに…。それでもかつての夢だった、イラストレーターの夢を少しだけ追いかけるため、専門学校に入学。しかし現地に赴いて愕然、詐欺に遭ってしまう!初めての東京での生活に、途方に暮れる千帆子を救ったのは、謎の美人・ミチだった。今、下北マジックが起こる…!!

 「少女漫画」や「花吐き乙女」(→レビュー)を描いている、松田奈緒子先生のCookie連載作でございます。下北沢を舞台とした、青春ストーリーとでもいうのだろうか、いや青春というにはややただれた部分もあり…みたいな位置付けのお話です(よくわからない説明に)。状況願望の強い本家の娘のわがままに付き合わされる形で、一緒に東京について行くことになった千帆子が物語の主人公。仕事もしているし、彼氏もいるため、地元を離れるという選択肢など到底浮かばなかった彼女でしたが、本家の命令とあっては逆らえません。祖母に小さい頃の夢だった、イラストレーターを少しだけ追いかけてみては、と言われ渋々承諾した彼女は、東京は下北沢で、ワガママなイトコ・真夜と一緒に新生活を始めることになったのですが…というお話。


東北沢5号
はじめての人もすんなりと受け入れるお店があったり。温かく、こじんまりとしているからこそ、居心地が良い。

 
 下北沢というと、結構オシャレ度というかサブカル度の高い場所っていうイメージで、上京したての頃は自分的には敷居の高いというイメージからなかなか近付けなかった覚えがあります。なんてもう上京してから6年経ちますが、まだ一度も行ったことないですよ。というかどんな用事があると行くの?というわけで、下北沢を舞台とした物語。この作品の他にも、下北が舞台となっているお話っていくつかあった気がするのですが、検索してヒットするのは「ホーリーランド」ってそれバトル漫画だしなぁ。その他ドラマで言うと、上戸彩ちゃんを主役に沿えるもあえなく打ち切りとなった「下北サンデーズ」とか。こうぱっとも思い浮かべても具体的な作品名は出てこないですが、舞台となった作品は多々ある印象です。
 
 こちら、物語の本拠地となるのは、下北沢にあるバー。入学予定の専門学校が、入学金だけかっさらって倒産。行くあてをなくした千帆子は、道端で泣き崩れるのですが、そんな彼女をバーの常連客が保護し、以来そこに通い詰めるように。そして、そこから広がる人間関係、物語。下北沢という受け皿の広さもあり、集まる人々は多彩で、様々な傷やコンプレックスを持つ者から、芸能人まで。どんどんと広がりを見せる、キラキラとした世界にだんだんと引き込まれつつも、同時に遠くなって行く地元の恋人。その間で揺れる、ヒロインの心情と、そんな彼女に関わる下北に集う人たちの過去と現在。下北沢という土地に居着くことになった人々の情景を、切り口鋭く描き出していきます。
 
 例えば街を扱ったお話としては、同じクッキー掲載でおかざき真里先生の「渋谷区円山町」(→レビュー)などもありますが、こちらの方がより街にフォーカスがあたっている気がしなくもないです。というか、登場人物の受け皿として「街」が機能しているというか。単純に街の性格なのかもしれませんけれど。



【男性へのガイド】
→こざっぱりした印象の作風は、男女共によく受け入れられそう。女子の葛藤であるとか、男性的なカッコ良さを放つ女性とか、女性のツボを刺激するような要素多めではありますが、街を描くという大きな受け皿を持っているので、さほど気にせずとも大丈夫かな、と。
【感想まとめ】
→松田先生ですし、高め安定の面白さでございます。私は続きも買います。



作品DATA
■著者:松田奈緒子
■出版社:集英社
■レーベル:Cookieマスコットコミックス
■掲載誌:クッキー(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「Cookie」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。