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Tag [新作レビュー] 2011.02.21
1103024972.jpgサトーユキエ「ハナミズキ」


この想いが
百年続きますように



■映画作品をコミカライズ。
 東京の大学進学を目指す紗枝と、水産高校生で一人前の漁師を目指す康平。なんの接点も持つことのなかった二人は、紗枝の大学の推薦入試の日に、同じ電車に乗り合わせたことで出会う。電車の事故で試験に遅れそうになった紗枝は、あろうことか康平に車を運転してもらい、試験会場を目指すのだが、仮免までしかもっていなかった康平は、事故を起こしてしまい…。お互いの進む道の先に、君の姿はあるのだろうか。新垣結衣×生田斗真出演の、大ヒット映画をコミカライズ!
 
 オリジナル作品の「子供だって大人になる」(→レビュー)が個人的にドツボだった、サトーユキエ先生の新作。映画が原作というところに一抹の不安を覚えつつも、サトー先生だし、一青窈のハナミズキ好きだし、新垣結衣好きだしということで(全て根拠なし)、迷わず購入しました。ハナミズキは昨年夏~秋ぐらいに上映していたような記憶があるのですが、新垣結衣さんと生田斗真くんをメインに据え、出会いから別れ、そして再び出会い進んでいくというところまでを描いた、恋愛映画の定番パターンのお話となっています。舞台となるのは、とある田舎町。帰国子女で進学校に通う、ヒロインの紗枝と、地元の水産高校で父親の後を継いで漁師になることを目指す康平が、電車事故で居合わせたところから、二人の物語は始まります。元から住む世界が違く、また進もうとしている道も異なる二人が出会い、そして愛を育む。そんな二人の進む先は、決して平坦な道ではありません。


ハナミズキ
相手のことを一番に想い、支える。たとえその先が、二人交わった道でなかったとしても。


 端的に言うのであれば、かなり展開が早い割に、奥深さがないです。次々と喜怒哀楽を脊髄反射で感じることのできるイベントを用意し、徹底的に「間」を排除、そして気がつけば、物語はラストへ。読んでいて、なんだか「恋空」みたいな感じだなぁと思っていたら、そうですこの映画、恋空スタッフが作っていたのでした。「恋空」のヒットがあった上で、同じ方法で映画を作るというのは、手法としてはきっと正解。基本的には恋空からのリピーター的な方々が観に来られると思うので、満足度もそれなりに高いのかな、という気がします。
 
 個人的には映画の原作を見たわけではないので、それとの比較で語ることはできないわけですが、マンガ作品として楽しむのであれば、あまりに忙しなかったかな、と。序盤・中盤にある、スッポリとヒロインのモノローグすらまともに登場しない状況は、「間」以前にヒロインの心情を捉えるのが難しく、記号的なわかりやすさとは裏腹に、読みにくさと違和感が若干残る形となりました。好きな人とセックスすればどんな心の傷も全回復する的な、恋空的な文脈も健在で、例えば一時は心を向けた人が死んだ傷が結構なスピードで癒えてしまったり、離婚を経て当人の傷は癒えつつも、元結婚相手についてはぶん投げでラストに突入など、腑に落ちない点も多々あり。ただそれでも、マンガや映画で観た「恋空」とは異なり、意外と最後まで苦になることもなく、むしろ部分によっては普通に感動すらできたのは、原作に大それた展開がないことや、サトーユキエ先生のマンガ向け補正によるもの(またしても根拠なし)が大きいのかな、と。とにもかくにも、サトー先生のオリジナル作品を早く読みたい!


【男性へのガイド】
→このサイトを見てるような男性は好まないのではないだろうか、とは思います。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→文中振り返れば辛口であったのですが、帯から何から、映画「ハナミズキ」原作であるということを強く謳っているのであれば、買う人は限られてくるであろうし、そういう人が読めば満足度は高いはず。何より映画は1800円ですが、こちらは400円ですし。


作品DATA
■著者:サトーユキエ
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックス
■掲載誌:クッキー
■全1巻
■価格:400円+税


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Tag [続刊レビュー] 2011.01.22
作品紹介はこちら→遊知やよみ「これは恋です」
3巻レビュー→変人・辺名の重要な役割 《続刊レビュー》 「これは恋です」3巻
4巻レビュー→なんというもどかしさ…:遊知やよみ「これは恋です」4巻



1103001387.jpg遊知やよみ「これは恋です」(5)


おまえ
もう失敗してる



■5巻発売です。
 不安に揺れる伽良の前で、梨花と共に部屋に入って行った綾。その二人の後ろ姿を見送りながら、部屋で一人泣いた伽良は...一方の綾は、辺名に「遠藤といると、梨花のことばかり考える」と告げるが。梨花の登場により、大きく動き出したそれぞれの気持ちの行き先は…!?急転直下の大盛り上がり、第5巻の登場です。
 

~ついに…~
 急転直下。イライラする存在であった梨花の登場により、事態は思わぬ方向へ。まさか5巻でくっつくたぁ思いませんでした。もうとっくに臨界点は越えていたけれど、後一押しが足りない。いや、足りなかったのは、覚悟でしょうか。それを吹っ切れさせたのは、同じ過去を持つ梨花と、伽良の一言。梨花は教師と付き合っていたという過去を持ち、伽良は最後に「先生」という言葉を用いて、置かれている状況を改めて強く自覚させた。いわばショック療法的に、綾に覚悟をつけさせたわけですが、反動でかあんなことするとは。。。読みながらニヤニヤしてしまいました。
 
 
~花巻先生、良いキャラだなぁ~
 鬱陶しい邪魔な存在として登場した花巻先生ですが、どうにも恋愛方面で尽きがなく、いつしか梨花という超絶キャラの登場で、完全に応援隊の一人となってしまっていました。そんな彼女、元々恋愛に向いていないというか、空回りが痛めだったのですが、それがなくなった途端に、また違った意味で愛らしい存在へと変貌を遂げました。もう完全にサポート隊が板について、ついにはこんな発言を…
 

これは恋です5
正直
もう言っちゃえよってじれてる自分を否定できない



 素敵すぎます。こんなに認めちゃってる先生、素敵です。それにあの変人・辺名相手に完全にペース握っているあたり。。。全く侮れないです。これからもどう考えても周囲を爆走しそうな花巻先生から、目が離せませんよ!



~落としどころはどこに…?~
 今回でくっついてしまったということなのですが、これからどこを落としどころい持っていこうとしているのかが気になるところ。一つの切れ目は、くっついたときだと思うのですが、蟠りは多少残るわけで、さらに難しくなるそれ以降を描くことに、遊知先生は挑戦することに決めました。だとしたら、待っているのは卒業ってことなんでしょうか。それまでどんな壁が立ちはだかるのか、怖くもあり、楽しみでもあり。とりあえずは二人がデートするところとか見てみたいものです。



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Tag [続刊レビュー] 2010.11.21
作品紹介→目が覚めたら私、超嫌われ者でした…:池谷理香子「シックス ハーフ」1巻
関連作品レビュー→池谷理香子「微糖ロリポップ」



1102980053.jpg池谷理香子「シックス ハーフ」(2)


どうしよう
あたし
このままじゃ完全に変態だ



■2巻発売しました。
 バイクで事故って、記憶喪失になってしまった詩織。喪失前の自分がどんなだったかもわからず、妹からは嫌われ、学校でも孤立。そんな中、唯一親身になって支えてくれた兄の明夫から、「嫌いだ」と言われる映像がある日詩織の脳裏に浮かぶ。過去の記憶なのか、それともただの想像なのか。記憶がないという免罪符がゆえに、戻ったときが怖い。思い悩む詩織の前に、明夫と幼なじみだという瑞希が現れるけど…!?
 

~記憶が戻るのが怖い~
 さて、久しぶりですが2巻の発売です。記憶喪失という設定を、どう活かすかが注目のこの作品ですが、2巻も、というか巻を重ねたことでより面白くなってきました。記憶が戻らないヒロインを支える兄…なんて単純に語れるほど美しくシンプルな物語ではなく、そこに渦巻くのは、嫉妬、欺瞞、疑念…。記憶が戻らない辛さよりも、過去がわからない気持ち悪さが先行し、疑念渦巻く爽やかさ皆無の物語が展開されています。誰を信じれば良いのか、せめて自分を信じようにも、この世に意識を持って落ちてきたのがたったの2か月前。2か月でこの世界を生き抜くだけの、心の強さを持つのは、簡単ではありません。そして唯一頼りにしていた兄に、もし嫌われているのだとしたら…新しい関係で重ねる時間が増えれば増えるほどに、その恐怖は増していきます。


シックスハーフ2
「記憶が戻るのが怖い」それが詩織の率直な想い。


1巻からすでに、記憶が戻って欲しいなどという願いはヒロインにはなく、しかしその心持ちが、今になって弊害をもたらすという構造。うーん、面白い。
 

~記憶喪失だけでなく…~
 1巻の時点では、記憶が戻らないことだけに絞って物語を進めていましたが、2巻からはさらにプラスアルファのダブルテーマで物語が進行。それは、詩織が実の兄である明夫に恋心を抱いてしまうというものでした。しかし一度鮮明に浮かび上がった、「嫌いだよ」と彼に告げられる光景に、今度はまさかのかわいい幼なじみの登場。詩織はどんどんとフラストレーションを溜めていきます。なんてその結果が、自分の恋心の自覚だったわけですが、実の兄に恋というのはまた驚きの展開です。確かにそういう傾向は見せてはいましたが、本当にそうしてくるとは。記憶喪失に、実の兄妹での恋愛、前者の上に後者が乗るという形ではありますが、ある意味鉄板の設定が二つ、贅沢に楽しめる内容となっています。
 
 
~汚いところも描く~
 一旦記憶喪失になれば、実の兄という血縁をそこまで感じないものなのでしょうか。なんとなく、家族というのは重ねた時間で作るものなのだという、作者さんの考えのようなものが感じられます。その考えは一貫していて、まだ時間を重ねていない自分よりも、家族ぐるみで付き合いをしていた瑞希の方が家族的なポジションを獲得しているという光景を目にしても、やはり。とはいえ瑞希も瑞希で問題ありで、真に家族的なポジションを獲得しているわけではありません。明夫に近づきたいがために、詩織をのけ者にするような形をとってしまった過去(詳細は明かされず)を持ち、それが今になって皺寄せとして現れてきます。ライバルでも、キチンと汚いところ(しかもそれが直接的にヒロインに悪意として向けられるわけではない)を描き出す所が、池谷先生のすごいところ。全員が全員、後ろ暗さや隠し事、そして負の感情を持っており、それが結果として、この作品の面白さを生み出しているのだと思います。
 

~帯がすごいことに~
 今回、もの凄い帯になっています。表紙側には、彼女に飛ばされた罵倒や陰口などがつらつらと…。それだけならまだ良いのですが、裏を見てみると、兄、元カレ、親友、幼なじみ、妹の5人からそれぞれ悪口を言われるという構図。


シックスハーフ帯
2巻帯


「あたしって一体…!?」どころじゃないです、詩織さん。この中で一番インパクトあるのは、やっぱり妹ですかね。ひとりだけベタオンリーの彩色で、「死ねば良かったのに…」。なんか彼女だけシュール系ギャグ漫画から飛び出してきたような印象があります。一人だけとにかく異質なんですよ。とはいえ、作中では彼女はどちらかというとわかりやすく、安心してみていられるキャラなんですよね。一番不気味なのは、どう考えても兄。自分への悪意を、しっかりと露にしてくれる人はむしろわかりやすく良いのですが、好意を向けてくれる人に関しては、信じて良いものなのかどうか…。絶対に簡単には終わらせてくれないでしょうし、3巻の展開もまた楽しみです。ちょっと怖いですけど、それもまた作品の面白さ。



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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2010.10.31
1102969574.jpg斉藤倫「僕の部屋へおいでよ」(1)


とりあえず
一緒にご飯
食べましょう



■超天然女子高生の京は、両親が海外赴任になり、マンションで一人暮らしを始めたばかり。幼い見ために、不思議な言動から、恋愛話とは無縁の彼女が、最近もっぱら気になっているのは、空き地で見つけた子猫3匹。いつものように、子猫にエサをやりに空き地に行くと、そこで行き倒れている大学生・鳴沢を発見。京はそのまま彼を家へ連れて帰って…!?気がつけば、子猫3匹、大学生1人との、奇妙な共同生活がスタート!!

 斉藤倫先生の連載作品でございます。今度のお話は、超天然お嬢様女子高生×イケメン極貧獣医学生×懐かない子猫3匹により、奇妙でゆるゆるで、そして温かな共同生活。お話は、ド天然女子高生・京がマンションで一人暮らしをすることから始まります。一人暮らしを言っても、連れ込む恋人がいるわけでもなく、もっぱらの興味は生き物たち。最近は、空き地で見つけた子猫3匹に、餌やりをしにいくのが日課。今日も今日とて空き地に餌やりをしにいったところ、そこには行き倒れた若い男の人が。様子を見るに、どうも行き倒れているらしい。その日はそのまま別れた二人でしたが、後日台風が近づいた時に、一緒に子猫を保護。家賃滞納で行き場のない鳴沢もついでに保護する形で、以来なんとも奇妙な共同生活が始まることになります。


僕の家へおいでよ
ほわほわとした雰囲気を作り出す、やさしくゆっくりとした語り口。いつもニコニコしているところも、とってもかわいらしいです。


 斉藤倫先生のお話はすごく好きなのですが、こういうタイプのヒロインは珍しいような。女子高生なのですが、ド天然でふわふわな彼女は、パッと見中学生に見えてしまうような容姿の京。無防備でありながら、あまりの天然っぷりに、逆に虫がつかないみたいな感じです。そんな彼女と共同生活をすることになるのが、極貧獣医学生の鳴沢。はじめは共同生活などするつもりは全くなかったものの、彼女の懐きっぷりに流され、結局共同生活をすることに。彼はどちらかというと、どこまでもまともな性格の男の子です。シチュエーションとしてはかなりドキドキの状況ですが、恋愛なんぞ知らない天然の京と、ぎゃーぎゃーウルサい子猫3匹のおかげで、そんな空気は序盤は全くなし。むしろ「家族が増えた」と喜ぶ京の感情がダイレクトに伝わってきて、ドキドキよりも温かさが先行して伝わってきます。
 
 しかしいつまでも家族愛的なところで足踏みしているわけではありません。子猫を飼うことで発生する様々なトラブルから、獣医志望の鳴沢の頼りがいが発揮。また頻繁に大学に訪れるようになることから見えてくる、鳴沢の人間関係。はじめは2人と3匹で完結していた世界は、望まずして広がりを見せていきます。そして生まれる、今までに感じることのなかった感情。愛しさ、切なさ、温かさ、そして嫉妬。想いが恋に変わる瞬間、自分の気持ちが恋だと気づく瞬間を、他の作品と同じよう、瑞々しく切り取ります。ヒロインの性格は変わっていますが、その辺の良さは不変。子猫3匹が生み出す新たな展開も楽しみで、これは結構期待したい作品です。とりあえずオススメで。


【男性へのガイド】
→このヒロインといい、男の子の普通っぷりといい、読める余地は結構あるのでは。恋愛だけでなく、ほわほわ温かいお話です。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→これは楽しみ。恋愛展開、同居というシチュ、そして猫。ワクワクするファクターがいくつもあってワクワクです。


■作者他作品レビュー
*新作レビュー*斉藤倫「誓いの言葉」
*新作レビュー*斉藤倫「宙返りヘヴン」
恋に芸術に悩む美大生:斉藤倫「Juicy」


作品DATA
■著者:斉藤倫
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックスCookie
■掲載誌:Cookie(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税 


■購入する→Amazon

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Tag [続刊レビュー] 2010.09.27
作品紹介⇒いくえみ綾「潔く柔く」
11巻レビュー⇒心の中のしこりの正体…《続刊レビュー》「潔く柔く」11巻
12巻レビュー→罪悪感と向き合うこと、その答えは一つではない:いくえみ綾「潔く柔く」12巻
関連作品紹介⇒いくえみ綾「いとしのニーナ」「そろえてちょうだい?」



1102964464.jpgいくえみ綾「潔く柔く」(13)


見つめることが
愛なのか



■13巻発売、完結しました。
 禄のもとへ走り出したカンナ。長い時間をかけて、ようやく過去と向き合うことができたカンナの辿り着く未来は…?魂の再生の物語、堂々完結。
 
 
~もはや何も言うまい~
 個人的には12巻の時点で出しきった感ががあったので、13巻のレビューはどうしようか悩んでいたのですが、なんてことはない、素晴らしい終わりであった、とその一言で十分でした。もう読む前から、表紙を見るだけで泣けてくるわけですよ。読まずとも、2人には平穏で幸せな時間が訪れたのだ、と。物語の殆どは、12巻の時点で消化。13巻は、たった一話だけ残して、最後のまとめに入りました。それは、過去からの完全なる解放と、未来への一歩。
 

~忘れることと覚えていること~
 「魂の再生」が一つのテーマであった本作で、最後に魂についてのカンナの考えが、モノローグで描かれることになります。
 
魂は
きっと いろんなことを
忘れないでいてくれるんだと思います

 
 そしてその結論へと結びつく前に、二つほど「忘れない」の反対である「覚えていない」シーンが描かれています。まずはカンナ。夢の中で受け取った、「大切なもの」がいつどこで何を誰から受け取ったのかということを、思い出せずにいます。またその後に、自分の誕生日も忘れていたという。そしてもう一つが、睦美。「最初に喋ったことも忘れている」との母親の言葉から、そのことが窺えます。どちらも、とてもとても重要なことなのに、覚えていない。けれども、それで良いとしている。それはきっと、魂がそれをちゃんと覚えているから。「魂が覚えていてくれる」という言葉を強調したいからこそ、その前に畳み掛けるように、忘却のくだりをはめ込んだのかな、という気がします。そして、嬉しい事も、悲しいことも、確かにそこにあったこととして、覚えていてくれるけれど、決してそれに縛られることはありません。カンナが、「動けなくしてしまっていたのは私だ」と言っているのも、魂が縛りつけるということへの否定です。止まるも進むも、自分次第。ただそこにあったことを、覚えているというだけなのです。


潔く柔く
覚えていないけれど、大切なものはそこに。

  
 また対比という意味では、夢の中でハルタと思しき手を握ったとき、カンナは右手を差し出しているのですが、現実で禄と手を握っているときは、逆の左手で握っていました。狙ってか狙わずか、過去を見るときと、未来へ歩みだすときの握り手が異なるというのは、なかなか興味深い描写だな、と個人的に感心したのでありました。右手には、ハルタからもらった希望を、そして左手では、禄という希望を。実に素敵ではないですか。


~梶間は出てこず、やっぱり~
 第一話で登場していた梶間は、やはり最後まで登場せず。ずっと主張し続けて来たことなのですが、やっぱりこの作品は、決して全て計算された上で描かれていた作品ではないのだな、ということを、改めて再確認しました。「カンナ篇」としていますが、ハルタの死を軸に広がりを見せたこの物語は、広く考えれば全編が「カンナ篇」だったとも言えるわけで。そうなった時に浮かび上がってくる、物語のメインの二人は、近しい人の「死」と「罪悪感」を抱えながら生きる、カンナと禄の二人だということになります。えーと、だいぶ話が逸れてしまったのですが、要するに何が言いたいのかというと、それでもここまで素晴らしい物語を築き上げるいくえみ先生は最高だということです!感動の連続で、最後まで本当に夢中で読むことができました!ありがとうございました!



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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
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