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Tag [新作レビュー] 2015.04.25
51FBQQSF4ZL.jpg綾瀬羽美「セイシュンノート」(1)



この学校で
この場所で
わたし青春するんだ!




■昔から転校続きの陽芽は、今度こそ落ち着けそうな高校で青春を満喫しようと胸いっぱい。その名も「セイシュンノート」に、やりたいこといっぱいかきためてます。実現したら、1個スタンプを押すのです!でも、友達づくりになれてないから今度の学校でも早速失敗しそうに……。ひょんなことから助けてくれた近江の力を借りながら、恋に友情にスタンプをいっぱい集めたい!!

 「ビビッドチェリー」(→レビュー)などの綾瀬羽美先生の別マ連載作です。「ディアマイガーディ」などこなれた作風で、長期連載作品を是非とも読みたいと思っていたのですが、ついに巻数付きの単行本が発売されました。「セイシュンノート」というタイトルですが、文字通りセイシュンノートなるものが登場する、とある女の子の学園生活を描いた青春ストーリーとなっています。ではでは、あらすじを紹介しましょう。

 ヒロインは転校続きで一人も友達がいない陽芽。2年生になって少し経ったところで、新たな学校へと転校してやってきました。マンガやドラマの影響からか、「友達」「青春」というものに人一倍強い憧れを持っている陽芽。「今度こそは友達を作らないと」と気負う彼女は、のっけから話しかけて来てくれた女子のクラスメイトに「友達になってください!」と宣言し、プロフ帳を書いてもらうようお願いします。けれどもその勢いが悪い印象を与えたのか、あえなく撃沈。前途多難な予感がする中、陽芽に声をかけてくれたのはクラスの男子・近江。「かくれが」と呼ばれる空き教室で、近江とその友達・坂宮、そしてひょんなことから仲良くなったクール美少女・潤花と共に、青春の思い出作りを手伝ってもらおうとするのですが、、、というお話。


セイシュンノート0001
最初の「友達になってください!」という叫びや、ちょっとした触れ合いがあっただけでめちゃくちゃはしゃいだりとか、こうなんでも120%に捉えてくる所から受ける印象は「怖い」「きもちわるい」というもので、故に孤独は加速するという悪循環。イメージ的に近いのは、「恋愛ラボ」の真木とかですかね。あんなにアホじゃないんですけど、ちょっと引くレベルっていう。


 「セイシュンノート」とは、ヒロインが書いている、やってみたい青春的な行動リスト。思い立ったら書いており、日々その項目は増え続けています。例えば『お昼ごはんを一緒に食べる』とか『買い食いしながら帰る』とか、学校生活で普通にありそうな項目から『ピクニックをする』なんていうちょっとよくわからない項目まで様々。達成できたらスタンプを押していくのですが、まだ一つも埋まっていません。かくしてどんどん「青春」への憧れを膨らませていくわけですが、捌け口がないためにそれが気負いに変わり、結果それが彼女を暴走させることになります。

 そんな彼女を受け入れたのが、近江と坂宮という男子2人。近江はクールで人嫌いな気難し屋。けれども意図せず空気を察してしまい、かつ困っている人を放っておけないという優しさも持ち合わせているため、一人で困るヒロインを捨て置けないという感じ。坂宮はイケメンで女好きのチャラい男の子で、集団の中で会話を弾ませるなど潤滑油的な役割を担います。そしてもう一人、美少女の潤花はローテンションでサバサバした性格。男子にちやほやされるものの、それが周囲の女子は気に食わないらしく、割と孤立しがちです。そんなところが馬が合ったのか、ヒロインが半ば強引に友達認定をし、以降付き合っているという感じ。男女4人の青春物語というのはオーソドックスな組み合わせですが、集団で見てみたときに、坂宮と潤花は割とゴーイングマイウェイで、纏まりはそんなに感じられません。だからこそヒロインを入れても集団を保っていられるのだと思います。


セイシュンノート0002
普段は冷たいものの、面倒見はよい近江。彼がヒロインの相手役になります。このヒロインと対峙できるってのは、なかなか懐が深くないと難しいと思うのです。


 物語は陽芽がやりたいことをあれこれと提案して、それに乗っかったり乗っからなかったりして展開していきます。暴走しがちな1人と、それを制する1人と、とにかく受け身な2人という感じのパワーバランス。序盤こそ「変な子」という感じの陽芽でしたが、他人との間合いの取り方をなんとなく学び、それぞれの立ち位置が確立できた中盤以降はだいぶ「普通の子」という感じに。


 1巻はいわゆる「友情」という青春の土台構築で、1巻終わりごろにようやく恋の匂いが出てきて2巻以降展開していくという流れでしょうか。つまるところまだ準備段階という印象が強く、真価は2巻に発揮されるのではと思います。近江以外の2人についても描かれてくるでしょうし、潤花はまさに好きな脇役を地でいってますので、個人的にここも期待したいところです。2巻、楽しみですね。


【男性へのガイド】
→不自然な青春の形式を、素敵男子の手によって自然な形になっていくという流れは、恋愛色が強くないと言えどやはり女性向けの側面が強い内容なのかと思います。ともあれ鼻につくキャラ達ではないですし、みんな魅力的なので、ハードルは高くないと思いますよ。
【感想まとめ】
→本文に書いたように、本当に魅力が出てくるのは2巻からですかね。恋愛色が強くなったときどうなっているのか、気になります。


作品DATA
■著者:綾瀬羽美
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■既刊1巻
■価格:400円+税


■試し読み:第1話

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Tag [続刊レビュー] 2015.04.05
1106500453.jpg森下suu「日々蝶々」(10)



……もう好きじゃん
その子のこと




■10巻発売しました。
川澄の彼女。そして絶対に振り向かない。
わかっているはずなのに、後平のすいれんへの思いはどんどん募っていき、
ついに人を好きになること、好きでいつづけることの切なさがつのる第10巻。


~二けた巻数~
 日々蝶々のレビューするのもだいぶ久々という感じですね。ここ2巻ぐらいは川澄・すいれんの関係性に大きな変化は見られず、どちらかというと後平にスポットが当たるという印象がありましたが、冒頭のあらましなんかはまさにそれの典型的な症状で、後平が主人公の話なんじゃねーかっていうぐらいの勢い。そんな彼の心情の変化や行動などについては、本編で楽しんで頂くとして、当ブログ的にはむしろこっちが大事なので、こちらについてお話しましょう。はい、小春さんです

 全盛期には表紙を飾ったりもしていたのですが、川澄にフラれて以降は急激に出番が減り、気が付けばあらすじ紹介からもその名前が消えるという干されっぷりを見せていた彼女。なんと10巻にて再度表紙ですよ。ありがとうございます。もちろん本編でもその登場回数は増えてきているのですが、これがなかなかの不遇っぷりと言いますか、辛い役回りなんですよね。


~健気な小春さん~
 初登場時はお高くとまったいけ好かない女子でしたが、失恋して以降はびっくりするぐらいにおとなしい、健気な女の子という感じが強くなった彼女。しかし恋愛に対して積極的という姿勢は変わりなく、脈がないとわかりつつも後平にアタックをし続けます。まぁ今回はしょんぼりが多かったですねぇ。とにかく回りくどいことが嫌いな彼によって、ずばずばと本心を引きずり出されてしまいがちなのですが、困りつつも出したこの言葉とか……


日々蝶々100001
まだ告白したくない


 という何度目かの告白。この表情が素敵ではないですか。この後去り際に涙をぬぐうのですが、その辺りも切ない。その後彼女の頑張りが報われたのか、文化祭に彼が訪れてくれるのですが、そこでこの表情ですよ……


日々蝶々100002
めちゃくちゃ嬉しそう


 だれだこの人。なんだかよくわからないのですが、この悲しみようと喜びようの両方を見せられて連想したのは、わんこ。素直な彼女の方が俄然素敵だとは思うのですが、そこはかとなく漂う不幸感は何なんでしょうね……。

 まあ事実苦しい恋愛を強いられているのは間違いなくて、好きになった相手が両方ともとある女性のことが好きだという。実際あるのかわからないですしかなり辛い役回りではあるのですが、すいれんが「学校一の美少女」としての恋愛物語を体現しているのであれば、これもまた「学校一の美少女が近くにいる普通の美少女」にとっての恋愛の一つの姿であるのかもしれません。先に「まだ告白してない」というくだりがありましたが、彼女が本当に「告白」をしたときに、その結末がわかるのではないでしょうか。彼女が決意をするのは、いつになることやら。。。


【関連記事】
作品紹介→無口なおっとり美少女×無口で硬派なメガネ男子:森下suu「日々蝶々」
3巻レビュー→叶わぬ恋と知った時の心の中でのせめぎ合い:森下suu「日々蝶々」3巻
4巻レビュー→想いが加速する文化祭:森下suu「日々蝶々」4巻
5巻レビュー→付き合うってなんだろう:森下suu「日々蝶々」5巻
6巻レビュー→試行錯誤のお付き合い:森下suu「日々蝶々」6巻
7巻レビュー→ケガとバレンタインと誕生日:森下suu「日々蝶々」7巻

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Tag [新作レビュー] 2015.03.18
sorawokakeruyodaka.jpg川端志季「宇宙を駆けるよだか」(1)



元の体もしろちゃんも
取り戻さなきゃ




■かわいくて素直な性格のあゆみは、大好きな人と恋人同士になったばかり。だが、初デートに向かう途中で、同じクラスの然子の自殺を目撃し、意識を失ってしまう。目が覚めると、あゆみは醜い容姿の然子と身体が入れ替わっていて……。容姿も性格も全く違うふたりの運命が、奇妙にねじれながら交錯していく……。

 川端志季先生の別冊マーガレット連載作です。デビュー単行本の「青に光芒」もつい最近出たばかりという印象があるのですが、2冊目にして巻数付きの長期連載ということで、かなりのジャンプアップという印象が…。では内容の紹介をしましょう。

 ヒロインは、見た目が可愛くて素直な高校生・あゆみ。つい最近想いを寄せていた相手と付き合うことになり、初デートに向かいます。けれども途中で、クラスメイトの然子から突然電話がかかってきて、「今から自殺するから見ていて」と言われます。あゆみの目の前で然子は飛び降り、なぜかあゆみもそのままブラックアウト。目が覚めたら、彼女は然子と入替っていました。然子はあゆみとは似ても似つかない醜い容姿で、周囲の人間からは冷たく扱われている子。どうやら然子は、あゆみに嫉妬しわざと入れ替わりをさせたようなのです。姿が違うだけで、こんなにも世界は変わってしまうものなのかと、絶望をするあゆみでしたが…というお話。


宇宙を駆りるよだか0001
こんな見た目に。これまでの友達関係もガラリ一変、一気に距離が離れることに。


 物語のジャンルとしては「入替りもの」になるかと思います。ただ、定番の男女入れ替わりではなく、女の子同士で入替るというのがポイント。醜い容姿のヒロインというのもここ最近割と一般的になってきましたが、こういう形で投入されるのはあまりないかもしれませんね。しかし別冊マーガレットは先日ご紹介した「青山月子です!」(→レビュー)など、割と突飛な設定の作品も増えてきている印象がありますねー。こちらはまさにファンタジーという導入ですが、どれくらい定着するのか、合わせて注目したいところです。

 醜い容姿で周囲からは疎まれている自身に絶望し、好きな人と付き合っているクラスメイトに嫉妬し、入れ替わりを結構するという、なかなか捻じ曲がった性格の子です。醜い容姿が先か、捻じ曲がった性格が先かという所はあるのですが、まあわかりやすい悪役という所。一方ヒロインのあゆみは非常に素直で前向きな性格。入替ったことを周囲に訴えかけるも取り合ってもらえず一時は絶望しかけるのですが、彼氏ではないクラスメイトの火賀くんがそのことに気づき支えてくれることで、気力を取り戻します。その後、定番の戻る方法を探っていくのですが、道のりは長そうということで……。


宇宙を駆りるよだか0002
この火賀くんは、じつはあゆみに想いを寄せていたという設定があり、入替った後のサポートをしてくれるわけですが、あゆみは付き合っている彼・しろちゃんが好きというミスマッチが。ただサポートっぷりは相手役本線という感じそのもので、最終的にどういう結末となるかは定かではありません。このまま噛ませ犬ポジションだったら個人的な嗜好としては最高なのですが、そうはいかないかなというのが1巻読んでの感想。


 姿は醜くなっても、心がきれいであれば素敵な王子様が現れ、一方心が不美人だと人は離れていくという、おとぎ話的なエッセンスが落とし込まれていますが、入れ替わりものというジャンルも相まって素直に楽しめる展開になっているのかな、と思います。本作のヒロインの場合、男女関係に関しては過去の遺産によって持っている感もあるので、ストレートに性格が重要と言っているわけでもなさそうなのですが。


【男性へのガイド】
→本編説明の通り、入れ替わりものとはいえ男女ではなく女性同士で、恋愛要素は強くなくとも割と都合のよい展開はありつつ、設定に比して女性向けの要素が強いんじゃないかなと思います。
【感想まとめ】
→入れ替わりものは好きですし、興味深い内容で続きが気になる所です。意外と短く完結するんじゃないかという予感もあり。



作品DATA
■著者:川端志季
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■既刊1巻
■価格:400円+税


■試し読み:第1話
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Tag [続刊レビュー] 2015.03.06
1106491124.jpgやまもり三香「ひるなかの流星」(12)



これからもよろしくおねがいします



■12巻発売、完結しました。
 沖縄で馬村と、初めて2人きりでお出かけ。はしゃぐすずめの目に映ったのは……獅子尾!?考えないように避けてきた気持ちを確かめるため、走り出したすずめ。最後に選んだ答えは……。感動の最終巻!


~完結しました~
 12巻で完結しました。結果はどうなるかおおよそ見えていたものの、“万が一”があるかもというドキドキ感は残しつつの最終巻でした。なお最終巻の表紙は白ベースに制服の緑ろ文字の金色が映えるオシャレな色合いで、好きですねー。何より件の3人に加えてゆゆか様がちゃっかりいるってのが素敵だと思います。というわけでここから内容に入ってきますが、完全にネタバレなので未読の方はご注意ください。


~最後まで男二人にはイライラを…~
 せっかくの沖縄旅行で、本編でもその辺りがじっくりと描かれるかと思っていたのですが、ある男によってそれが邪魔されることとなりました。はい獅子尾です。もうここ2巻くらい散々書いているの通り、別れて以降女々しさマックスで分別のつく大人とは思えぬ行動の数々にイライラさせられていたわけですが、今回も同じく。なんていうか子供相手にズルいんですよね。今回も怪我をするわけなんですが、あんたなんでこのタイミングで怪我するかねっていう。土壇場での怪我・病気ってのは大抵相手本線のキャラで使われるのですが、あなたがここでそのカード切りますかという驚きがまずありました。正直馬村で間違いないと思っていたのですが、このくだりが出てきてだいぶドキっとさせられたという。

 で、そんな中馬村も引き留めておけばいいのに、当て馬が切るカードである“理解力”と“優しさ”をがっつりと繰り出します。ここで強引に抱き寄せて引き留めるぐらいの気概があってもいいのになぁとか思ったのですが、とにかくすずめのことを第一に行動するという彼の姿勢は変わっておらず、いつまでも馬村は馬村なんだなぁと安心させられました(完全にひいき目)。


ひるなかの流星120001
ここで完全に終わったと思って落ちる馬村も、噛ませ犬っぽさ満点で素敵でした。海辺に佇んでみるとか、実にベタな行動を取っているあたりもポイント高めです。


~この体勢がらしいですよね~
 かくして迎えたラスト、二人は海岸で想いを伝えあうわけでございます。最後はすずめのペースで勢いよく走り抜けたという感じがありますが、素敵でした。最後はすずめが馬村に覆いかぶさるような体勢=すずめが見下ろし、馬村が見上げ驚いている形で迎えるわけですが、これも実に二人らしい体勢といいますか。この流れはこれからもずっと続いていくんだろうなぁと予感させるものがありました。で、ようやく最後に……


ひるなかの流星120002
キス


 ようやく最後にキス。これまでも惜しいシーンはあって、12巻の水族館でも未遂で終わっていたというじらしっぷりでした。むしろあそこでキスに行かせずに東京に戻すってところは、「馬村とは終わり」という印象を少なからず補強する材料となっていた感もあり、最後までどちらかわからないようにしておこうという工夫が散りばめられていたんだなと思わされます。上のシーンで注目したいのは、馬村の手。これ抱き寄せているように見えるのですが、よく見ると少し空間が空いているように見えます。実際に触れていたのかは定かではないですが、少なくとも強く引き寄せるということはしていなかったんだろうな、と。これは馬村の女性になかなか触れられないという特質の表れかもしれませんし、壊れないようにそっと触れるという繊細さ・優しさの表れかもしれません。正直かなり腹筋使ってるんじゃないかと思うのですが、それをみじんも感じさせず、果てには「柔らかかった」というお墨付きまでもらえる馬村さん、さすがです。


 というわけで、最後までドキドキしながら楽しむことができました。ここ最近はストレートな青春恋愛ものでツボにはまるものが少なくなってきていたのですが、本作はドハマりしっぱなしで、きっとしばらくたっても何度も読み返すことになるんじゃないかと思います。馬村はここ数年でも1・2を争うほどに好きなキャラでした。どうやら本作、本編の方は完結しましたが、番外編を収録した単行本が後日出るらしいです。もう少しだけ余韻に浸りつつ、その新刊を待ちたいと思います。


■関連記事
作品紹介→みんな自分だけの流れ星を探してる。:やまもり三香「ひるなかの流星」1巻
2巻レビュー→片想いが重なる高一の夏:やまもり三香「ひるなかの流星」2巻
3巻レビュー→馬村くんが不憫すぎる件:やまもり三香「ひるなかの流星」3巻
4巻レビュー→元カノのフォローパスが決勝点に?:やまもり三香「ひるなかの流星」4巻
5巻レビュー→ひとつの恋の成就とひとつの恋の終わり:やまもり三香「ひるなかの流星」5巻
6巻レビュー→馬村の成長記ではないのですが…:やまもり三香「ひるなかの流星」6巻
7巻レビュー→苦い思い出の“お泊まり”:やまもり三香「ひるなかの流星」7巻
8巻レビュー→大チャンスをモノに出来るか。:やまもり三香「ひるなかの流星」8巻
9巻レビュー→好きだからだろ!:やまもり三香「ひるなかの流星」9巻
関連作品紹介→「シュガーズ」
10巻レビュー→僕は君のもの:やまもり三香「ひるなかの流星」10巻
11巻レビュー→私をはなさないでね。:やまもり三香「ひるなかの流星」11巻

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2015.02.25
1106491130.jpg湯木のじん「青山月子です!」(1)



私は
ここにいるよ




■事故で記憶喪失となった「青山月子」は以前の性格のように振舞おうとするが、空回りの連続。転校してきた加賀美くんに対して、月子は興味を示したようで……!?記憶喪失×ほっとけない男子が織りなす物語。

 「藤代さん系」(→レビュー)の湯木のじん先生の新連載です。今度のタイトルは「青山月子です!」と名前を前面に押し出したものとなっているのですが、藤代さん系といい、タイトルに名前を使うというのが通例なのでしょうか。なんてそんなことはさておいて、内容のほうをご紹介しましょう。

 主人公はタイトルにもある通り、青山月子さん。高校に入学して早々に交通事故に遭い、しばらくの意識混濁の後に記憶喪失となって目を覚まします。何も思い出せないまま再び高校に通い始める(留年して高1から)のですが、過去を全く思い出せないので、親や友達だという人たちの言う「青山月子」像を再現しようと頑張ります。けれども伝え聞いていた「優しくて明るくてポジティブ」という性格は全く再現できず、空回りの結果周囲からは奇異の目で見られるようになります。そんな中に現れた、転校生の加賀美くん。ひょんなことから彼に興味を持った月子は、半ばつきまとうようにして彼と仲良くなるのですが……というお話。


青山月子です!0002
加賀美くんはあまり笑顔は見せないですが、笑ったときはとっても優しい。受け入れられてるなぁという感じのする、素敵な男性です。普段厳しめですけど。


 記憶喪失のヒロインが、記憶喪失のままに学園生活を送っているという、なかなか突飛な設定の作品です。記憶喪失後の月子は感情の起伏に乏しく、他人の感情も今一つ読み切れないといった、ジト目デフォのローテンションな女の子。そんな彼女が周りの求める「明るくて優しい青山月子」として振舞おうとしても、無表情&棒読み&空気読まないタイミングでの仕掛けと、裏目に出るばかりで周りとの距離は遠ざかっていくばかりです。一方でそういった状況になっても本人は無自覚で全くダメージを受けていないという強さも見せるという。詰まる所、人間関係のすべてにおいて鈍感になっているという感じです。そんな彼女を放っておけないのが、今回相手役となる加賀美くん。別に優しいタイプの男の子ってわけではないのでしょうが、自分を慕ってくれている女の子がふらふらとしていたらどうにも気になるもので、いつしか保護者のような立ち位置に収まります。それが結果的に良い方向に働き、彼自身はクラスでも慕われるようになったりも……。

 月子は記憶を戻したいという欲求はあまりなさそうで、自然に思い出すのに任せている感じがあります。最終的に戻るのかはわかりませんが、加賀美くんとの関わりのなかで少しだけ思い出す瞬間があったりと、最終的には戻る方向に倒れるのかもしれませんね。ともあれ二人の関係構築は、「誰も承認してくれない記憶喪失後の自分を唯一受け入れてくれる存在」としてのヒーローですから、そうなるのはあったとしてもだいぶ先なのでしょう。面倒見の良いヒーローというと語弊があるかもしれませんが、そういう相手役がお好きな方はまず読んで間違いない作品になっているかと思います。

 個々人の背景や性格は全く異なりますが、友達を増やしたいと願うもののその挙動で裏目に出て孤立しており、そんなヒロインを人気の男の子が臆することなく接し、その他の人たちとも関わりを持つようになる……というのは、同じ別マで連載している「君に届け」の爽子と風早くんを想起させます。こちらはもっと閉じた関係で、かつ記憶喪失という背景がある分より根深い問題を抱えてはいるのですが、1巻読んだ感じを受けると、加賀美くんは第二の風早くんになり得るのではとちょっと思いました(優しさの度合いは雲泥の差ですが、ベクトル的には一致してる)。無条件の承認ってのは、やっぱり読んでいても嬉しくて泣けてくるもので、この手のヒーローにはめっぽう弱いんです、私。


青山月子です!0001
ちなみに月子も初期の爽子っぽい雰囲気はあるのですが、変なテンションで感受性に乏しく人間関係に不器用という意味では、「ラストゲーム」の九条さんのイメージの方が近いかも(でも上の画像見ると全然違いますね…!)。ちなみに学年3位の秀才で、見た目も可愛い方という設定でございます。


 記憶喪失のヒロインに対し、周囲の面々も親も冷たいという状況はかなり辛いはずなのですが、ヒロインがとにかく鈍感なので、そういった感じがあまり表に出てきません。なので設定の割に1巻はほのぼのした印象がありました。もちろんシリアスなシーンはあるのですが、突飛な設定の割にはかなりオーソドックスな男女関係の構築図をなぞっています。掴みとしてはこのぐらいでOKで、今後時間をかけてより深い所(暗いところ)を出していけば良いのかなと思います。


【男性へのガイド】
→他の少女漫画比になりますが、キラキラしすぎていない分読みやすいんじゃないでしょうか。変なヒロインですけど。
【感想まとめ】
→流行るかはわかりませんが、個人的には非常に好みな作品でございました。オススメしたいです。


作品DATA
■著者:湯木のじん
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■既刊1巻
■価格:400円+税


■試し読み:第1話

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