このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2014.12.15
1106472587.jpgジョージ朝倉「夫婦サファリ」2)



あああ…ホルモンなの
これがホルモンの力なの…




■2巻発売しています。
「コミュ障だしやり取りとか気が重いし…。仕事、忙しいし…。」
星野すみれ子(35)独身。職業・少女漫画家。同期漫画家・ジョーの再婚に毒を吐き、「結婚できないんじゃなくてしないんでしょ?」みたいなムダなフォローにうんざりし、ひとりランド通いにドハマりしてる。そんなすみれ子が、初婚活パーティーでイケメンの医者(29)からデートに誘われて…。一方、ジョー・日歌夫妻の結婚生活は新たな局面を迎えようとしていた!!


~新キャラのご登場~
 2巻の発売です。今年発売された新作の中でも特にお気に入りで面白いと思っているのですが、例のムック本ではかすりともせずで、ちょっと寂しかった覚えがあります。自分の感覚がずれてきているのでしょうか。。。こんなにジョージ朝倉らしさを感じられる作品もないと思うんですけどねぇ。と、ぼやきはこのくらいにして2巻の感想に移りましょう。

 今回は表紙に描かれている方が新キャラとして登場します。星野すみれ子という、35才独身(しかも処女)の売れっ子漫画家さん。結婚もせず(できず?)、これまで孤独に戦ってきました。そんな彼女がハマっているのが、某夢の国。金にものを言わせて、VIPに通い詰めております。本編ではそんな彼女がする恋について描かれるのですが、その過程で同期であるジョーに再会し、色々心に波風を立てるという。この二人、単に同期というわけではなく、過去にこんな出来事が…


夫婦サファリ2-1
酔ってチューされる


 彼女にとっては数少ない男性とのふれあいであり、さらにこの後結構しょっぱい展開になるという苦い経験の源なわけですよ。上書き保存できるエピソードもなく、彼女の心の中にはこれがヘンにこびりついて残るわけですね。で、そんな彼はモデルと結婚して、さらにそのあと年下の編集さん(巨乳)と結婚していて、心をくささないわけがない。夢の国で再会しようもんなら、もう地獄なわけですよ。そんな辛いシチュエーションを目いっぱい楽しむことができる序盤となってございます。

 すみれ子さんは典型的な貧乳キャラなのですが、ジョージ朝倉作品の過去作品を振り返ると、割と貧乳キャラがメインでして、それに付随するエピソードもちらほら。そんでもって、ライバルじゃないですけど、対比的に巨乳キャラが描かれることが度々ありました。なんていうか、ジョージ朝倉作品のヒロインは貧乳力に長けていて、そういう意味では日歌ちゃんよりもすみれ子さんの方が、ヒロイン的なメンタリティに溢れているんじゃないかとふと思ったりしたのでした。さてこれから、どう絡んでくるのか、注目です。



~ジョーはダメな男だと段々と……~
 さて、先ほどジョーが酔ってすみれ子さんにキスしたシーンが描かれていたわけですが、今回は日歌ちゃんとジョーの過去の絡みも描かれます。いや、なんか色々と深い過去があるんですね。話が進むごとに、徐々に真相が掘り下げられてくるのですが、パクられて脅されて…ってところに至るには、色々な事情があったのだと。で、日歌ちゃんにジョーと添い遂げることを決意させた決定打となったのが、このエピソード…


夫婦サファリ2-2
酔って本音ポロリ(次の日覚えてないパターン)


 あっ…こいつダメな男だ。お酒の力を借りて本音を言って、その気にさせて次の日本人は全く覚えていないっていうアレ。いやー、私も大人になって、お酒の力を借りざるを得ない気持ちは非常にわかるんですが、この常套手段になってる感じがなんとも身につまされると言いますか、救いようがないと言いますか。罪な男ですよ、この人は。振り回され系のお話かと思っていたのですが、ああこの人は巻き込まれるべくして振り回されているのだなと、非常に腑に落ちた一節でした。


~日歌ちゃんが天使じゃなくなってきたんですが…~
 さて、1巻では圧倒的天使だった日歌ちゃんですが、妻になり、さらには母になろうとしていくにつれて、天使感が一気に薄れていくという現象が。2巻では終始不機嫌で、ジョーは責められっぱなしでございます。私も結婚したらこの落差を味わうことになるのだろうか。女性は変わらずにはいられず、一方男性は変わることもなく、その姿がイライラになってくという。


夫婦サファリ2-3
こういう瞬間が…


 ある意味リアルな結婚模様なのかもしれませんが、私はまだ結婚していないので、その答え合わせはまだまだ先。ふと未来に、この日歌ちゃんの姿を相手に重ねる日が来るのでしょうか。3巻の発売が楽しみです。


■関連記事
ワケあり男女の暴走めおと道!:ジョージ朝倉「夫婦サファリ」1巻

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2014.08.18
1106433636.jpgいがわうみこ「ちぇみと三兄弟」(1)


えらい所に来てしまった


■…ちぇみ、うちで一緒に暮らさないか?
 わたしを置いて逝ってしまったお母さん。その後を追うように死んだ亀の行一郎さん。17歳で、ひとりで、バイトしながら狭いアパートで暮らしていた。幼き頃にきょうだいだった彼が、迎えにくるまでは…。
 
 「虹の娘」(→レビュー)などで昨年話題をさらったいがわうみこ先生のオリジナル連載になります。レーベルはFC Swingというあまり聞き慣れないものなのですが、連載媒体はフィールヤングということで、お馴染みの場所。
 
 主人公は表紙にも描かれている女の子・ちぇみ。見た感じちびっ子小学生という感じですが、こう見えても17歳で、母を亡くして以来たった一人でバイトをしながら生計を立てて暮らしている苦労人です。そんなある日、彼女の元を訪ねてきたのは、亡くなった母の元結婚相手の息子…一時は、きょうだいとして暮らしていた“兄”でした。ちぇみが一人でバイトをしながら生きているという情報を聞きつけ、一緒に暮らさないかと持ちかけてきたのでした。お言葉に甘えて一緒に暮らすことにしてはみたものの、そこでも待っていたのは一筋縄ではいかないクセ者兄弟達で…というお話。

ちえみと三兄弟1−1
このちょっと腹立つ感じわかりますかねー。妙なくどさがあるといいますか。ちなみに彼は一番真面目な長男です。なおちぇみ自身は臆病なちびっ子というイメージで、おろおろ感があるものだから兄弟達からマスコット的にかわいがりにあっております。


 ストーリーはヒロインであるちぇみが、同居先の三兄弟と心通わせる中で芽生える気持ちのアレコレを描いた青春ファミリーコメディとなっているのですが、そこにいる人たちがなかなか食えない。基本的には歓迎ムードで、お父さんなんかはもう大切にしてあげたい感が溢れ出ているという。ただしお仕事が忙しくてあまり家にいないという。長男の見は社会人なのですが、彼が一番まともというか、普通。次男の見はチャラチャラ遊んでいる子で、人に甘えながら生きているぶん人間観察に優れたタイプ。三男は美形なのですが自分大好きで口が悪いという野郎。ただまだ高校生でピュアさも存分に持ち合わせており、これからの動きが楽しみなタイプであります。さらにここに加えて、長男・見の彼女もしばしば家に来るのですが、この人もまた食えないタイプなんですよ。この人のキャラは見てからのお楽しみなのですが、物語展開に大きな影響を与える人であることには違いありません。
 
 兄弟3人が結託しているという感じはなく、ちぇみの投入で兄弟間の関係もちょっとずつ変化を見せていきます。ちぇみ対兄弟という構図だけでなく、兄弟同士の絡みも面白いので、そちらも是非注目。
 

ちえみと三兄弟1−2
個人的には三男の聞が好きですかねー。ピュアな感じと、割を喰う末っ子感がたまらなく可愛らしくて。ラブの匂いもしてきませんかね、ないですか、そうですか。というわけで一応恋愛が絡みそうな余地はあるのですが、今のところ本格的に動いてはおらず、最終的にどういう着地をするのかは現段階では判然としません。


 最初はいがわうみこ先生ということで、どんだけ変なキャラが登場するんだろう、どんだけ変な間で進むんだろうと期待と不安が入り交じりつつの読み始めだったのですが、おもいのほかまともに物語は進みます。さすがに短編の濃度で進んだら持たないか。とはいえ独特の間、キャラの立ち方は健在で、相変わらず笑える物語に仕上っています。ごろごろと物語は転がって、続きが気になる形で1巻は幕切れ。捻れ捻れて2巻でどうなるのか。楽しみですね。
 
 
【男性へのガイド】
→男達のキャラについていけるかでしょうか。結構クセがあるので。
【感想まとめ】
→どういう展開を見せてどういう着地となるのか、あまり想像つかないので先が気になります。面白かったです。


作品DATA
■著者:いがわうみこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:FC Swing
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:680円+税


■試し読み:第一話

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2014.08.05
1106422026.jpgジョージ朝倉「夫婦サファリ」(1)


きみが座ってるだけでも
奇跡だった



■「バラされたくなければ…私と結婚してください」
 漫画をパクったことが編集者・日歌(元漫画家)にバレ、脅されたジョー(漫画家・バツイチ)。彼女は同棲7年のヒモを捨て、荷物ひとつで転がり込んできた。癒えない離婚のキズとかあるけど、バラされたくはない……。もう、再婚するしか道はない!!〆切ギリギリなテンパリ漫画家が暴走する、めおとコメディ!
 
 「溺れるナイフ」(→レビュー)などを描かれているジョージ朝倉先生のフィーヤン連載作でございます。最初に言ってしまいますが、もうとにかくめちゃくちゃ面白かった。何でしょう、これまで読んだどの作品よりも“ジョージ朝倉作品”だったという感覚。とにかくエネルギーに溢れていて、勢いが止まらないというか。個人的には今年1・2を争うヒット作でした。
 
 描かれるのは、担当編集(日歌)に脅されて脅迫結婚をした漫画家(ジョー)のお話。あらましは冒頭の通りで、編集がかつて描いていた作品をパクっていることがバレ、あろうことか結婚を迫られるという所から物語は始まります。7年寄り添った恋人を捨ててまで自分と結婚した彼女の意思は!?そこに愛はあるのか!?様々な疑念が渦巻く中、彼女に誘導されるがまま新婚旅行はアフリカに…。そこに愛はないのだから、もっと殺伐とすべき…と一歩引いて過ごそうとするジョーでしたが、日歌ちゃんは女性として妻として実に魅力的で、どんどんと彼女との結婚生活にのめり込んでいくのですが…という話。


夫婦サファリ1
こんな勢い。四六時中こういうわけではなく、ダウナーな状態からいきなりギアを切り替えてこんな感じになったり。


 描かれるのは結婚生活。登場するイベントも、新婚旅行・家を買う・子供の名前を考える…と言った結婚生活に普通に登場するものなのですが、いちいち勢いが凄くて、受ける感覚は非日常。主人公のジョーはバツイチでその傷も癒えておらず、加えてこんな訳分からん展開で二度目の結婚をすることになったため、疑心暗鬼に陥りがち。一方で女性として非常に魅力的で、また漫画家としての才能も感じている(パクってたぐらいですから)日歌ちゃんと結婚生活を送れるため、その面ではアガる。この主人公の情緒不安定から来る揺り戻しの幅・スピードがとにかく大きく、面白い。 

 情緒不安定なジョーとは対照的に、日歌ちゃんはブレないブレない。そんでもって、ジョーのことが好きなのかよくわからんという。こりゃあジョーも疑心暗鬼になります。妻としては申し分なく、これで日歌ちゃんの愛情が100%感じられる状況になれば彼の情緒不安定も解消されるのでしょうが、まぁ無いんだろうなぁ。当人として落しどころを見つけなければいけないのでしょうが、それが難しい。だって本心見えないんですもの。結婚・夫婦生活のシチュエーションとしてはなかなかありえない状況なのですが、驚くほど納得してしまうのはキャラの描き出しの上手さ故なのでしょうか。あと日歌ちゃんは割とリアリストで、ジョーは離婚経験している割にどこかまだロマンチストな感があるのも面白い所ですかね。


夫婦サファリ
日歌ちゃんの女神っぷりがすごくてですね。もうドストライクです。どこかミステリアスで信用を置ききれない感じも、妻として女性としてブレずに居場所を与えてくれる優しさも、時折妙にエキセントリックな所も、もう好きすぎてしょうがないです。


 作品の印象的に通じるものがあるのはIKKIで連載していた「平凡ポンチ」でしょうか。ジョージ朝倉作品には信仰対象となるようなカリスマ的な存在がおり、信奉者たるキャラ(大抵は主人公)が勢い良く自発的に振り回されるというパターンを取ることが多いのですが、信仰対象の女性とクリエイターの凡人という構図が本作と似ています。ただわかりやすさというか、取っつきやすさはこちらの方が数段上で、俄然プッシュしやすいところ。「平凡ポンチ」は正直何描いてるのかよくわからんという感想を持っていたので、「こういうこと描きたかったのかな?」と10年越しに抱えていたモヤモヤが少しだけ晴れてスッキリ。


【男性へのガイド】
→ジョージ朝倉作品は男性女性どちらもいけるとずっと思ってます。本作ももちろん。
【感想まとめ】
→あんまりちゃんと具体的に感想書けていないのですが、すごく面白かったのは確かなのです。とにかくこの勢いを感じる仁は読むのが一番ですから。試し読みは新婚旅行のみですが、本当に味が出てくるのはより日常的なテーマ・舞台に移ってからだとも思いますので、はい。


作品DATA
■著者:ジョージ朝倉
■出版社:祥伝社
■レーベル:FEELコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:900円+税


■試し読み:第1話(編集部ブログ)

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2014.02.13
作品紹介→*新作レビュー* 鳥野しの「オハナホロホロ」
2巻レビュー→先を見て、向き合うと決めた日:鳥野しの「オハナホロホロ」2巻
3巻レビュー→告白と決断と訪れた変化:鳥野しの「オハナホロホロ」3巻
4巻レビュー→辿り着いた“出られない駅”:鳥野しの「オハナホロホロ」4巻
5巻レビュー→来ない“いつか”ではなく、ここにある“今”:鳥野しの「オハナホロホロ」5巻




1106368747.jpg鳥野しの「オハナホロホロ」(6)


にーたん
いったらだめ!



■6巻発売、完結しました。
 共に歩んでいくことを決めた麻耶とみちる。それを微笑ましく見守るニコだったが、2年前、亡くした恋人・圭一が自分の舞台を観に来たことがきっかけで事故死したと知ってしまう。ショックを受け、ゆうたを連れて姿を消したニコは…?不器用な大人たちの同居グラフィティ、ついに完結!
 
 
〜整理の6巻〜
 6巻発売、ついに完結しました。1巻目は巻数もついていなくて、まさか続きが出るなんて思ってもいなかったのですが、5年の長きに渡って連載することになりました。正直みちると麻耶の物語としては、5巻で完結していたんです。なので、「なんで6巻までやるの?」というのが正直な感覚だったのですが、6巻を読んで納得。6巻で描かれているエピソードの中心は、ニコ、そして今は亡き圭一の物語となっていました。このもう一人の中心人物の物語をしっかりと描き、そして畳まずして、このお話は完結しないのでした。
 

オハナホロホロ6−1
 確かにこれまで、あまりニコや圭一については語られることはありませんでした。どうしてニコとくっついたのかとか、どうしてニコと分かれてみちるとくっついたのかとか、どうしてそれでもなお二人は仲良く一緒にいるのかとか…。その辺の謎に包まれた部分が、6巻にて全て明らかになります。


〜まさかの火サス展開〜
 物語は終始重たくシリアスな展開。色々と触れたいのですが、どれも物語の核心に迫るエピソードなので、なかなか描き辛いですねー。あえて取り上げるとしたら、ニコの行動でしょうか。あらすじ紹介にもある通り、圭一の死について知ったニコは、ゆうちゃんを連れて逃避行。それが電車を使って青森まで行くというものでした。彼はそこから先、竜飛岬にまで行くワケですが、電話から漏れ聞こえた音を頼りに麻耶とみちるはニコの居場所を特定するという。これ、電車で東北→僅かなヒントを元に居場所を特定→岬ってのがまんま2時間ドラマの流れでして、すごいビビったという(笑)
 
 
オハナホロホロ6−2
俳優は知らずのうちにそういうベタなルートを辿るものなのでしょうか(たぶん違う)。


 ここもすごくシリアスで感動的なシーンなんですけど、そのシチュエーションを意識しちゃうとなんだか急に違った味わいが出て来て、面白かったのです。


〜かなりフクザツなゆうちゃん〜
 さて、6巻はもう一人重要な役割を果たす人物が描かれます。それがゆうた。非常に複雑な人間関係が刻まれているこの物語ですが、それらのラインが全てクロスするところに位置しているのが彼なんですよね。彼自身はそれに無自覚だからこそ、マスコット的に物語の中にいれるわけですが、冷静に考えるとかなり複雑。ニコと圭一、さらにみちるの話から察するに、人間の業のようなものが幾重にも重なった結果生まれて来たような子で、その境遇・将来は、複数の人たちの愛に囲まれているとはいえ少し心配でした。
 
 というわけで、この物語で一番ケアされるべきはゆうただと思うんですよ。そして、番外編という位置付けではありますが、鳥野しの先生はそれをしっかりとやってくれた。明るい未来を匂わせて放り投げることをしなかったのは、本当に嬉しかったです。色モノと言ってはあれですが、かなり特殊な人間関係を用いつつも、無駄に使うことなく、きちんと真正面から向き合ってそれぞれに答えを出しきった姿勢は本当に素晴らしいと思います。最後まで、楽しませて頂きました。

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
2013.12.25
1106275707.jpgいがわうみこ「虹の娘」


…や なんかお前らって
ホントうっぜーなって!



■「お兄ちゃん アタシ親不孝かな」
 ヒロチカの妹には、親にも言えない秘密がある。芸術的な体でヌードモデルをする妹の“告白”の日を待つ兄は、密かにある作戦を企てる。表題作「虹の娘」のほか、不倫の末帰郷した女と男子中学生の加速する初恋、死んだはずの兄が突然現れ動揺する家族、イケメンとの三角関係に迷う純情乙女など、絶妙なまで彼らの“今日のできごと”を切り取った8編を収録。妙に切なく、不思議にときめく。
 
 このマンガがすごい!2014オンナ編にランクインした未チェック作品のレビューです。本作は15位で、作者のいがわうみこ先生はデビュー単行本「あれがいい これがいい」と共に2作をランキング送り込んでいます。すごい。両作品ともノーチェックで、遅ればせながら拝読した次第でございますです。正直「あれがいい これがいい」を読んだときはあまりピンと来なかったのですが、本作「虹の娘」はがっちりアンテナにハマって、そりゃあもう面白かったです。一筋縄ではいかないキャラクター達が、なんとも不思議な間で展開する、ありそうでなかった作品群となっていました。

 この独特の雰囲気をどう言い表したら良いのかよくわからないのですが、まとまらないなりにキーワードを挙げてみると「ちょっとネジ1本飛んだくらいの変人」「努めて明るいバカ」「狙って外すタイミング」。とにかくキャラクターがどれも変わっていて、そんなキャラ達が、独特の間でやりとりをするという。



虹の娘1
お気に入りのストーリーは、1話目に収録されていた「阿部くんと吽野さん」。阿部くんと吽野さん、この二人はセットでこそ魅力的。狙っている人がおっぱい星人だと聞き、講義中すらもおっぱい体操をするという行動力の高さを見せる吽野さん。ノリ良くやっているのか、ガチでやっているのか判然としない所が素敵です。お互いにノリ良くはぐらかしつつ仲良くしているのですが、その奥底に好意や優しさが見え隠れする関係性が歯がゆくて、せつない。傷ついた時の明るい行動って、エネルギーも使うし、本当に切ないじゃないですか。そして最後、ちょっと明るい未来が想像できるところも良し。1話目にこのお話が描かれていたことで、一気に興味を惹かれました。



 普通の人なんて一人もいません。ただネタ的にぶっ飛んだ形にしているわけではなくて、現実世界の日常にいる人間たちの“変わった部分”を増長して描いているだけなのかな、と。あと“変わった人”だけじゃなくて、普通の人なんだけどバカっぽく振る舞わせたり、また下世話に振る舞わせたりと、普通の人が普段は隠しているであろう面を前に出して描いているのかな、という感覚がありました。なので変な人たち、変な間、なんですけれども、描かれる情景や心情というのは日常という足場の上で織り成しているもので、それが妙に切なく心に響くのです。



愛され洋輔
あとは好きとはちょっと違うんですが、決して無視出来ない存在の「愛され洋輔」。「すげーウザイ」の一言で片付けられる、自身のイケメンを履き違えた自己中心的かつバカなキャラで、実際にいたら親しくなりたくないなぁ、と思わせるコイツ。相手は平気で傷つけるくせに、人一倍ナイーヴ。良いところを挙げてもあんまり出てこない。悪いところを挙げたらキリがない。うざいし、相手にしたくないんだけど、けれどもなんだか不思議と相手にしちゃう。とにかくこの単行本での存在感が飛び抜けていて、この本を読んだ方もきっとコイツの存在が頭を離れないはず。


 なんというか、どのキャラも結果的に愛おしいんですよね。そして気づいてみれば、どのキャラも作中で愛されているという。こういった愛する側のキャラクターの視点を通じての、「無意識的な色メガネ」でキャラクターを見せられているのかもしれません。洋輔はアンチテーゼ的に描かれているのかと思いきや、こうして気になっちゃっている時点で愛されているな、と。


【男性へのガイド】
→こういう若干シュールな作品がお好きな方もいらっしゃるかと。楽しめると思いますよ。
【感想まとめ】
→面白かったです。今年中にチェックできてよかった。


作品DATA
■著者:いがわうみこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:933円+税


■試し読み:くらん くらんく くらんくらん

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。