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Tag [新作レビュー] 2013.12.22
1106324355.jpg市川ラク「臭えば獣 香れば媚薬」


いい匂い…


■「バラ渡しながら告白する人現実に居るんだなぁ」
 てまりが働く豆腐店に、最近新しい客が現れた。ローズ臭をムンと匂わせる健也だ。てまりにバラを渡しながら「付き合ってください」と告白してきた健也。ホストのような彼は、いったい何者…?香料をテーマに紡がれる7編のオムニバス・ストーリーズ。耽美な絵柄で、どこかおかしみ漂う人間像を描き出す、新鋭・市川ラクの初オリジナル単行本。
 
 市川ラク先生の初オリジナル単行本です。本作はフィールヤングでの連載作を収録したものになりますが、11月にはビームコミックスより単行本が発売されており、また月刊コミックビームで長編連載スタートと、ここ数ヶ月で名前がちょくちょく出てきております。
 
 本作は「香り」というか「香料」をテーマに描かれるオムニバス作品です。「香り」と言って皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。私は高校時代に感じた、女子から香ってくる甘い匂いが未だに印象に残っていたりするのですが…と、割とどうでも良い話を序盤から…。本作はそんな思春期に感じるような甘い香りは描きません。ここで描かれるのは、もっと官能的で、甘みだけじゃなく渋みさえも感じるような、大人の香りです。高貴なアンバーグリス、優雅なダマスクローズ、安らぎのサンダルウッド…そこには、人々の生き様・気持ちを彩る香りが漂っています(なんて、どの匂いもあんまり良よく知らないんですけどね!そこは雰囲気で!雰囲気で!)


臭えば獣香れば媚薬1
香料をテーマにしているということから、しっかりと物語中にそれらの香料が大事なキーアイテムとして登場してきます。モチーフ的に描かれるのはあんまりなくて、本当に作中のツールとして使われているのが印象的。
 

 個人的に一番お気に入りだったのは、No.6のサンダルウッドです。もちろん香りじゃなくて、お話ですよ。サンダルウッドというと馴染みがないかもしれませんが、白檀というとイメージしやすいのではないでしょうか。お香に使われていたりしますよね。そういうイメージから、白檀ってどうしても歳を重ねた奥様なんかを想像してしまうのですが、このお話の主人公は若い女流画家。笑顔で男を転がし、貢がせては楽しむという性根のひん曲がったヒロインが、ひょんなことから躓き、そして転機を迎えるというお話。


臭えば獣香れば媚薬1−2
香りとヒロインとのアンマッチ感から、最後に迎えるオチでの納得感が見事で、ありがちながら読んでいてもの凄く気持ちが良かったです。
 

 もうひとつお気に入りを挙げるとしたら、No.1のムスクでしょうか。香料がテーマとは言え、どうせモチーフ的にちょこっと登場してくるだけだろうと思っていたのですが、もの凄くしっかりと、ツールとして登場してくるんですよね。この話に限らずなのですが、それがちょっとビックリで。このお話のヒロインは、ワキガであるために基本的に匂いには敏感で、どちらかというと消そう消そうとするタイプ。恋愛や人付き合いも同じように、自分を消すようにどこか奥手で消極的。そんなヒロインが、気になりつつも見ているだけだった男の子を相手に、香りという思わぬ武器を手にして、ちょっとだけ幸せな気分になるという。痛快というほどではありませんが、気分の良くなるお話でした。
 
 単行本の最後に描かれている「組香」は、それまでの登場人物たちが登場し、物語の“その後”が少しずつ描かれます。わかりやすい演出ではありますが、こういう形で単行本としてのまとまりが出来るのは、嬉しいばかり。一貫したテーマと、それを纏める最終話で、単行本として読む面白さもしっかりと盛り込まれた1冊となっています。


【男性へのガイド】
→男性主体のお話ななく、大人の女性が読む作品という印象でした。多少のクセはあるものの、それぞれまとまりのあるお話で、タイトルから受ける印象よりも読みやすいと思います。
【感想まとめ】
→一口に香りといっても、色々な香りがあるわけで。それによって様々なテイストの物語に仕上げる引き出しの広さは、注目したいところ。長編連載したとき、どんな作品を描いてくるのか、楽しみです。


作品DATA
■著者:市川ラク
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:933円+税


■試し読み:カストリウム

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Tag [新作レビュー] 2013.12.17
1106336647.jpg


なんか陳腐な言い方だけど
「しあわせ」って
こういうことなのかなぁとか
思ったりした



■セラとルミナは2ヶ月差の異母兄妹。父の浮気で出来た息子・セラは神経質で、本妻の妻・ルミナはおおらか。父と2人の母たちに仲良く育てられた結果、15歳の少年と少女は、男と女になろうとしてしまう。関係の露見、別離、再会を経て、歪なキョーダイが迎えた“10年後”とは…。兄と妹、ただならぬ10年愛。

 のばらあいこ先生のフィール連載作です。のばらあいこ先生ですが、過去の刊行本を見ると、主にBLで活躍されている先生のようで、本作が一般向けの最初の単行本になると思われます。タイトルは「にえるち」。なんだか生々しいタイトルとなっていますが、内容もなかなかのドロドロっぷりでございました。
 
 主人公は2人。少し複雑な血のつながりがある、兄妹のお話です。2人は2ヶ月差で生まれた異母兄妹。兄のセラは、浮気相手の子供で、妹のルミナは本妻の子。普通であれば離ればなれで暮らすところですが、2人の母親たちはどこか変でした。喧嘩も何もすることなく、当たり前のように共に過ごし、セラとルミナはずっと一緒に育てられたのです。一緒に過ごす日々は、2人が15歳になるまで続きました。それまで少年・少女だった2人は、急激にお互いのことを意識し出し、ついに男と女になろうとしてしまいます。しかしそんな中で…というストーリー。

 歪んだ家族関係の中で育った仲の良い異母兄妹の、劣情とも愛情とも取れる恋愛感情を描いたお話。最初に言っておくと、なかなか暗いです。1人の男を中心とした、2人の妻とその子供。普通であれば一方が離れていくところ、2人とも離れずに適度な距離を保ちつつ、子供を育て、気がつけば2人は思春期真っ直中に。そしてその2人は、そういった家庭事情が背景にあることを自覚しつつも、どうしても互いに離れることができず、やがて恋愛関係に。親子2代に渡って、特定の人物の間で閉じた関係性の中に帰結する、非常に狭い世界で繰り広げられる物語です。その関係性はある種、非常に不健全で、決して気持ちの良い物語ではありません(個人的には割と苦手な部類だったり)。


にえるち
強く惹かれ合うという感じではありません。けれども、どうしてもこの相手でないとダメだという確信が、そこにはありました。真っ直ぐな恋愛感情ならではの輝きみたいなものは成りを潜め、もっと根源的に求め合うような関係と言いましょうか。


 本作の場合は、物語の作りとして、最初から外の世界などないかのように描かれるあたりに、むしろ潔さを感じます。最初からないものを望んでも仕方なく、ならば存分にすがれる場所に固執しよう、と。本作では10年に渡る二人の想いというものが飛び飛びで描かれるわけですが、そこには向き合うか逃げるかの2択しかなく、他の道に進むという選択肢は描かれることはないのです。そのため、狭い世界ながら、心情の掘り下げは深いものとなっており、また主人公たちの想いも明確でわかりやすい。最後は時の流れに頼った感はあるものの、1巻完結という枠組みの中で起承転結がちゃんと落され、最後にはしっかりと救いがある。あれ、苦手なはずだったのに、意外と読後はスッキリ。こういう設定、こういう雰囲気の作品が好きな層というのは一定層いるはずで、しっかりとそういう人たちには訴求してくるのではないかと思います。


【男性へのガイド】
→重めの兄妹愛を描いたお話が読みたいという方は。BL感はないですよっと。
【感想まとめ】
→重い。ので、読むのに結構エネルギー使いました。閉じられた世界で、当人たちが納得して生きられるのであれば、それはもう幸せな世界であり、幸せな結末なのです、きっと。


作品DATA
■著者:のばらあいこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:667円+税


試し読み

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.08.11
1106294189.jpg町麻衣「アヤメくんののんびり肉食日誌」


今度
おっぱい触らせてください



■舞台は某大学・生物学科の研究室。今年の新1年生・菖蒲瞬は風変わりな男の子。考古学者の息子で英国帰り。恐竜オタクで、好奇心旺盛。優秀な研究者になること間違いなし!……と思いきや、先輩女史・椿の裸を見てからは、彼女に興味津々。デートのお誘いもキスの仕方もとぼけた調子のくせに、やたら押せ押せで……!?

 「はしっこの恋」(→レビュー)を描かれている町麻衣先生の新作でございます。今度は大学の生物学科の研究室が舞台のラブコメディ。主人公は、イギリスから帰国したばかりの大学1年生・アヤメくん。恐竜が何より大好きで、そこから派生して、自宅では爬虫類をたくさん飼っている風変わりな男の子。やたらとマイペースで何を考えているのかよくわからない彼ですが、ひょんなことから研究室の先輩・椿の裸を見てしまい、以来なんだかとっても気になる存在に。けれども恋愛のかけひきどころか、恋愛感情を自覚したこともないアヤメくん。アプローチの仕方もわからず、発した第一声は「おっぱい…触らせてもらっていいですか?」。前途多難なアヤメくんの恋の行方は!?というお話。


のんびり肉食日誌
理系男子で肉食…だからなのか、変なところでグイグイ来る感じ。それに椿は戸惑う戸惑う。


 変わり者な理系男子の恋愛物語。この手の作品は良く見ますが、それぞれ専門分野と絡めてお話が進行して行くので、どれも個性的で面白いですよね。本作での専門分野となるのは、爬虫類の肉と骨。主人公は恐竜が大好きで、特にその肉について興味がある男の子。一方そんな彼が興味を持った椿さんは、何より骨が大好きで、日々動物の死体を骨にして観察をしているという、どちらも非常に変わったキャラクターでございます。二人とも変人の部類ではあるのですが、アヤメくんは根っから何を考えているのかわからない変人の類いであるのに対し、椿は研究好きではあるものの恋愛もするし他人とのコミュニケーションもちゃんととれる、普通の女の子という感じ。そのため主人公はアヤメくんではあるのですが、視点自体は椿さんを中心に、序盤動いていきます。後半はアヤメくん多めですので、全体で見て50:50くらいでしょうか。両者の心情の揺れ動きを見つつ、関係の進展を楽しむ内容となっています。
 
 お互いに、おっぱい、骨格という興味のとっかかりを持ち、そこからアヤメくんのアプローチから段々と意識していく過程を描くわけですが、如何せん変わり者のヘンテコアプローチであるため、誤解が多々。そのため進展はふらふらと蛇行しつつの、非常にゆっくりなものになっています。ライバルが登場して、やっとこさ恋愛っぽくなってくるのが中盤過ぎて以降なので、物語の着地点もそれなりにあっさりした所。巻数が付いていないので、1巻完結となりそうなのですが、段々と心を通わせていくにつれ面白さも増してきたので、この後の物語も読んでみたかったですねー。特に後半の、椿さんの心情を内側から伺い知りたい(願望)。


【男性へのガイド】
→ハデではないけど一風変わった恋愛ものが見たい方に。アヤメくんの心情はなかなか理解できるものではないのかもしれませんが。
【感想まとめ】
→面白かった。というか、段々と面白くなってきて、まだまだ続きが読みたかった!というのが率直な感想です。変人は、出落ちではなく転がして味を出してこそ美味しいのです。


作品DATA
■著者:町麻衣
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:667円+税


■購入する→Amazon

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Tag [新作レビュー] 2013.07.22
1106245707.jpgねむようこ「トラップホール」(1)


じゃあここはどこ?
私が落ちた
ここはどこなの?



■2巻発売しました。
 29歳、三十路目前。ハル子の幸せは、婚約者の突然の一言であっけなく崩れ去ってしまった。優しく慰めてくれる家族や友人に励まされながらも、どこか息苦しさを感じてしまう毎日。そんな逃げ場を求める彼女に、東京に住む同級生・浅野は「上京してきちゃいなよ」ともちかけてきて…。幸せ絶頂からの急転直下。崖っぷちを通り越して、どん底に落ちたハル子の人生リスタート、開始!
 
 「午前3時の〜」シリーズのねむようこ先生の、祥伝社での新連載になります。2巻発売したのですが、1巻ご紹介していなかったので、このタイミングでレビューをお届け致します。今回のヒロインは、三十路目前のアラサー女子。地方都市の大企業に務め、同じ会社の人と婚約までして、順風満帆…だったはずが、婚約者に別に好きな人が出来たことであっけなく婚約破棄。幸せは手のひらからあっという間に逃げていってしまいました。しかも相手の好きな人というのが同じ会社の後輩だから、会社にも居辛くなり、さらに周囲の慰めの言葉もなんだか息苦しい。そんな時、東京に住む同級生の男から、東京へ来ないかと誘われ、そのまま上京してみるのですが…というお話。


トラップホール
 東京に出て来たは良いものの、これといった明確な目的もあるわけでもなく、あくまで「再出発」という位置付けで、過去からの脱却を試みつつ日々を消費します。甘えた先は同級生の男の子…ということで、寂しさもあり、当然そういう関係に。もちろん本気でないわけですが、そういう関係は一時の癒しは与えてくれても、最終的に何か形になるものを残してくれるわけではありません。斯くしてトラブルに巻き込まれ、とんでもない状況に陥ったりするわけですが、それもまたこの物語の魅力。


 ねむようこ先生の作品は、どちらかというと巻き込まれ系の物語展開で、なかなか無いような慌ただしいイベントが何度か起こり、その中で女の子が逞しく変化・成長していく…というような印象があります。本作も様々なイベントが発生し、その中でヒロインが自分というものを見つめていくパターン。ただちょっとこれまでと違うのは、ここで起こるイベントが尽くトラブル(要はヒロインにとって良くないこと)であり、そしてその大半が、ヒロイン自身が選びとったことで、呼び込んでしまったものであるということ。ヒロイン自身にも多少の非はあるのですが、どちらかというとツイていないというか。全てが裏目裏目に行ってしまう感じが、なんとも。「思い描いていた自分」の姿から外れてしまい、そこからの軌道修正(というか新たな自分の姿を思い描くこと)の難しさたるや。そしてもがいて深みにはまる、というわけで、なかなか読み味の良い作品では決してないですよ、と。
 

トラップホール2
 ヒロインは間違いなく、あまり経験できないような“どん底”にいるわけですが、きっかけは誰にでもありそうなちょっとした出来事なわけで。ほんのちょっとの行き違いで、もしかしたら幸せを手に入れていたかもしれないことを思うと、人生なんて紙一重のきっかけでいくらでも変わるんだな、としみじみ思うのでした。
 

 また“トラップ”は一つに留まらず、落とし穴から逃れれば、また次の落とし穴が登場します。そのため、1巻と2巻は全く違うフィールド、人間関係での物語展開に。しかも1巻も2巻もラストにスゴイの持って来るから、次も見ちゃいますってこれ、という感じ。正直心打たれるとか心躍る的な大きな感動は現時点ではなかったりするのですが、それでもこれを最後にやられたらもう続き気になるし、買うよねっていう。


【男性へのガイド】
→フィールはオシャレ男子が好む印象なんですが。って何の話だ。本作は女性の幸せというか、再出発で自分の姿を見つめ直すというもので、やはり女性こそ共感できる内容となっているのかな、と。個人的に“気の毒”という感情がどこか先行しがちではあるのですが、それだけじゃないんでしょうし、それを感じとれてこその作品なのか。
【感想まとめ】
→ここまで転がって、正直東京での“これから”の姿が全く見えないんですが、落としどころはどこになるんでしょうか。気になります。


作品DATA
■著者:ねむようこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■既刊2巻
■価格:933円+税


■購入する→Amazon

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Tag [続刊レビュー] 2013.06.13
作品紹介→*新作レビュー* 鳥野しの「オハナホロホロ」
2巻レビュー→先を見て、向き合うと決めた日:鳥野しの「オハナホロホロ」2巻
3巻レビュー→告白と決断と訪れた変化:鳥野しの「オハナホロホロ」3巻
4巻レビュー→辿り着いた“出られない駅”:鳥野しの「オハナホロホロ」4巻



1106284361.jpg鳥野しの「オハナホロホロ」(5)


でもね麻耶さん
この世界にあるのは
いつだって「結果」だけなんだ



■5巻発売しました。
 麻耶はみちるを想っているが、ゆうたの将来を考え、再び“女同士の恋愛関係”となることを拒絶した。麻耶との同居生活はあと半年ほど。そんな折、亡夫・圭一の実家を訪れたみちるは、「ここで暮らさないか」と持ちかけられる。望月からのプロポーズも相まって、みちるの心は揺れ迷う。しかしそんな母の傍らで、ゆうたは麻耶の不在に耐えられなくなり…!?
 

〜完結してません〜
 5巻発売、完結…してません。正直前回の引きといい、裏表紙の煽りといい(「クライマックス」とか書いてある)、完全に5巻で完結するもんだと思っていたのですが、どうやらそうではないようです。しかしながら見せ場は見せ場。おそらく物語で一番の山場(前回が登りなら、今回は駆け下りるという感じでしょうか)であることは間違いなく、終始どこか緊張感のある空気となっていました。メインとなるのは、前回に引き続き、麻耶の心の揺れ動き。もちろんみちるの側にも思う所は様々あったようですが、みちる自身は


オハナホロホロ5−1
あんまり自分でどうしたいって気持ちがない


 ようです。一見自分の生きたいように生きて、周囲を振り回しているように映る彼女ですが、その実、意思の無さゆえに暴走迷走してしまうという感じなのでしょうか。そういえば今回、みちるが離れて暮らすことになったのも、お義母さんからの誘いがあったからでしたね。主体性は、やっぱりないのか。しかしその“ひょんなことから訪れたしばしの離別”が、物語の動きに大きく作用してきます。
 
 離れても、募るのは寂しさや疲ればかり。想いは巡れど、出口は見えません。そして周囲の人間も、そんな彼女の心中を察したのか、次々と彼女の背中を押すのでした。先輩といい、ニコといい、麻耶は本当に人に恵まれていますよね。少しばかり羨ましくもありますが、この人間関係は他でもない麻耶自身が呼び寄せ作り上げたものですから、やっぱりこうあって然るべきものなのかもしれません。


〜子供は理由にしちゃいけない〜
 麻耶は最初、ゆうちゃんの将来を考えみちるとの離別を選びましたが、結局はみちるともゆうちゃんともいたいという想いを断ち切ることが出来ませんでした。この手の話では良く登場する、子供のことを考えての決断。自分の経験からなのか、この流れが個人的には結構苦手で。特に「子供のために○○します」的なエクスキューズが殊更苦手だったりするのです。子供のためを考えて別れるのも、子供のためを考えて何か別の道に進むのも、それはどちらも子供にとったら重荷であり、余計なお世話なんじゃないですかね。理由にしてしまうと、意思に関わらず当事者となり、変な責任みたいなものを子供は背負いがちです(その時で無いにせよ、ゆくゆくは)。自分のことすら背負いきれない小さな背中に、それ以上荷物を持たせてはいけないんじゃないかなぁ、と。
 
 だから、ニコが将来を考え悩む麻耶に対し「いつだって結果だけだ」と言い放ったこと、そして麻耶が誰のためでもなく、自分のために決断をしたことは、本当に良かった。なるともわからない将来のゆうたのことを考えて行動するよりも、今のゆうたの想いと、自分の想いを汲んだほうが、そりゃあ幸せってもんです。


〜6巻はどうなる?〜
 さて、というわけで5巻はほぼほぼ完結のような状態に落ち着いたわけですが、巻末にもある通り物語は続いていきます。もうこれ以上の事件は起きないような気がするのですが、かといって1巻丸々広げた風呂敷を静かに折り畳むだけなのも退屈です。どうするんでしょうかね。個人的に気になっているのは、望月さんをどうするのか問題。プロポーズまでもして、今回も
 

オハナホロホロ5−2
こんな良い感じに頑張っていた望月さん。ここまで頑張っているのですから、是非とも幸せになってもらいたいのですが、現時点ではあまり良い画が浮かびません。5巻では、ゆうちゃんの願いと麻耶の願いが一致して、願いの両立という着地となりましたが、望月さんもそういう落とし方できないだろうか。うーん、でもやっぱり男女恋愛となるとそこはハードル高いのか。というわけで、望月さんの動向が気になる6巻なのでした。あ、あとみちると今回ご尊顔を拝むことができた亡夫・圭一さんの馴れ初めとか、その辺も気になりますよね。過去回想とか入ってくるのでしょうか。何はともあれ、あと1巻、楽しみたいと思います。


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