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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2014.02.04
1106359178.jpg羽柴麻央「星の子」


実は見えていなかっただけで
案外
後ろ向きに前進していたのかもしれない



■人生のひとかけらたちをつなげた、珠玉の物語。
人生は、星のように輝く。
ときに鮮やかに、ときに柔らかに…。
めぐりつながるいのちのものがたり。

 「私日和」(→レビュー)や「宵待ちブルー」(→レビュー)を描いた羽柴麻央先生の新刊です。先月に「花と天秤」(→レビュー)のほか、「箱庭ヘヴン」(→レビュー)の2巻が発売されており、まさに新刊ラッシュといったところ。どちらかというと遅筆な印象のある先生だけに、こうして新しいお話を連続して読めるのは、非常に嬉しいところであります。
 
 物語で描かれるのは、とある男の子の人生の各地点。主人公は路加(ルカ)と名付けられた男の子。そして、そんな彼を優しく、時に元気に育てるのが、母のあかり。この二人を中心に、どこにでもいるような普通の男の子の誕生と成長の節々を、静かな語り口で描いていきます。

 物語の詳細について書いていきたいのですが、ありふれた日常と成長の中に、一つの大きな転換点が訪れるというもので、そこを明かしてしまうと一気にネタバレ感が強くなってしまうので、そこは避けたいという。そんな中でどう語ろうか思案してみるのですが、なかなか難しいですねー。
 

星の子
 一つ、視点的なお話で描くとしたら、これは親にとっての物語であり、子にとっての物語でもあるということでしょうか。「星の子」とタイトルがつけられた物語が、本作では5編収録されているのですが、メインストリームとなるのは序盤3編。主人公・ルカの年齢で言うと、赤ん坊、高校生、そして大学生という地点で、どれもルカ視点で描かれています。けれども感覚としては、母→息子→息子という印象。なんでしょうね、子供がふと見せる不思議な表情だったり行動に理由付けをして、それを読んで嬉しくなる感情というか。「こう思っていたら、こう感じていたら嬉しいな」ってものを、落し込んでくれている喜びというか。私自身、子供はいないのですけれども。


 2話目以降は、自我の芽生え・確立と共に一気にルカ視点に。思春期真っ盛りであり、母親との距離の取り方もイマイチわからない頃(私は社会人になっても未だにわからんです)。それでもそんな中にふと感じることのある、変わらぬ親子の絆というか、親の愛というものが、くすぐったくも愛おしい感覚で心の中に沁みてきます。このお話を読み終わったあと、ちょっと親に会いたくなるかも、もしくは、子供に。


 本作ですが、表題作の他2編の読切りが収録されていました。中学生と高校生のある夕方のひと時を描いた「afterglow」と、地元に突然帰ってきた兄と過ごす妹の数日を描いた「眠れる森の少女」。


星の子2
どちらも心地よい余韻を残す良いお話だったのですが、個人的には俄然「afterglow」がお気に入り。中学3年のヒロインが、ひょんなことから高校1年の先輩と放課後を過ごすお話。何か起こりそうで起こらない、うら若き男女のやりとりが妙に甘酸っぱくて。で、最後が結構ビターというか。こういうラストだからこそ、余計に余韻に浸ってしまって、印象に残るという。何はともあれ羽柴麻央先生の作品ということで、オススメです。



【男性へのガイド】
→人と人とのつながりを描いた静かで温かい作品が読みたいという方に、ぜひ。男の子の人間臭さも売りの一つで、キャラに共感しやすい部分もあるかもしれません。
【感想まとめ】
→これまでの作品に比べて小手先でなく、なんとなく心の奥に響く感覚が強かったです。もちろんオススメ。


作品DATA
■著者:羽柴麻央
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] 2014.01.27
1106288587.jpg綾瀬羽美「ハル」


この世界のすべてから


■今より少し未来の、人型ロボットが一緒に暮らす時代の京都。くるみは恋人のハルを飛行機事故で失ってから、押し入れに引きこもってしまった。くるみの祖父・時夫はロボットのQ01(キューイチ)にくるみを救うように依頼する。Q1はハルの姿になり、くるみを元の世界に戻そうと動き出す…。そのうちに知って行く「ハル」の過去とくるみとの関係。お互いをそれぞれ思いやっていた恋人たちの、甘く切なく苦しい日々の話…。

 昨年夏に上映されたオリジナル中編映画のコミカライズ作品です。キャラクター原案は「アオハライド」(→レビュー)や「ストロボエッジ」(→レビュー)を描かれている咲坂伊緒先生ということで、ちょっと話題になったのを覚えています。本作のコミカライズを担当するのは、咲坂先生ではなく、若手作家である綾瀬羽美先生。綾瀬先生にとっては2冊目となる単行本で、デビュー単行本「ディア・マイ・ガーディ」は、このブログでご紹介できてはいないものの、新人さん離れしたこなれ具合に非常に驚かされたのを覚えています(オススメですよ)。
 
 物語の舞台となるのは、近未来の京都。日常生活にロボット達が溶け込んだ世界で、少女・くるみは、恋人のハルを飛行機事故で失って以来、押し入れに引きこもってしまいます。なんとか元の生活に戻そうと、彼女の祖父である時夫は人型ロボットのキューイチに、ハルに扮して彼女の面倒を見るようにお願いします。最初は心を閉ざしていたくるみでしたが、ハル(キューイチ)の一生懸命な姿に触れるうち、段々と心を開くようになる…というラブストーリー。


ハル
くるみに対して話しかけるも、最初はこんな反応。最初から心開いてくれるわけもなく、ハルはルービックキューブに残されたメッセージを読み解きつつ、様々な試みをします。


 原作付きで、しかもキャラクター原案はあの咲坂伊緒先生。どちらも原型から大きく逸脱することはできないという、ある種の制約がある中で物語を描くのは、非常に大変なことだと思います。そんな中、原作との乖離こそ観ていないのでわかりませんが、キャラ造形は確かに咲坂伊緒先生を感じさせるものとなっており、すごいな、というのがまず真っ先に来た感想。

 物語は、生前のハルを知らないキューイチが、くるみの願いごとが書かれたルービックキューブを元に、様々アプローチをするという転がり方。一面ごとに書かれた願いを一つ一つ叶えて行くことで、くるみの、そしてハルのことが段々と分かってゆき、それを通してより絆を深めて行くという流れ。一応ラスト付近に大きめの事件が起こり、さらにそこからひと捻りあるわけですが、ベースはオーソドックスなハートウォーミングストーリーで、取っつきやすく読みやすいです。ちょうど1巻に収まる長さで、詰め込んでいる感もなし。


ハル2
人物描写ですが、ちゃんと咲坂伊緒先生っぽい雰囲気を漂わせた感じじゃないですか?目が、結構良い感じ。


 アニメが標榜しているのは「人とロボットの奇跡の恋を描く劇場中編アニメーション」とのことなのですが、純粋な恋愛ものかというとそういった感じはなく、喪失感を抱えた男女の心の再生物語と言った方が良いかも。根底にあるのは当然“恋愛”ではあるのですが、それはロボットと人間がゼロから作り上げるものではなく、予めあった恋愛感情を掘り起こし再発見するといったアプローチなので、感情に溢れつつもどこか擬似的な感覚は残ります。


【男性へのガイド】
→恋愛ものがお好きな方は、普通に楽しめる内容かと思います。ロボットとはいえ男性視点であり、入り込みやすさも多少あるかと。
【感想まとめ】
→非常に読みやすかったです。全くストーリーを知らなかったので、ロボット出てきたときはビックリしたのですが、描かれるものは心の真ん中にある温かいもの。癒されました。


作品DATA
■著者:綾瀬羽美
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税


試し読み

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Tag [続刊レビュー] 2014.01.15
作品紹介→君にまた会えたこの奇跡を、新たな軌跡に変えて:咲坂伊緒「アオハライド」1巻
2巻レビュー→変わった君にドキッとした:咲坂伊緒「アオハライド」2巻
3巻レビュー→こんなの絶対好きになる:咲坂伊緒「アオハライド」3巻
4巻レビュー→過去も含めて今の君:咲坂伊緒「アオハライド」4巻
5巻レビュー→付き合うまであと1ミリのドキドキ感:咲坂伊緒「アオハライド」5巻
6巻レビュー→一番の盛り上がりと一番のモヤモヤ:咲坂伊緒「アオハライド」6巻
7巻レビュー→恋することはいつも難しい:咲坂伊緒「アオハライド」7巻
8巻レビュー→「好き」と言える勇気があるから前に進める:咲坂伊緒「アオハライド」8巻
作者他作品紹介→今 伝えたい この想い:咲坂伊緒「ストロボ・エッジ」10巻




1106359167.jpg咲坂伊緒「アオハライド」(9)


心がじわっとする
冬のはじまり



■9巻発売しました。
 洸をあきらめようとする双葉。冬馬は、揺れる双葉も受け入れるといい告白の返事を迫る。双葉の決断は…?洸は双葉と冬馬の接近に焦るが、唯と決着がつけれないままで…。
 

〜アニメ化おめでとうございます〜
 このニュースが入ったのは年明けですかね?なんと「アオハライド」アニメ化です。ちょっとびっくり。というのも、本編そこまで進んでいる感がなく、まだ起承転結の承ぐらいの印象だから。本編のストーリーをアニメが追い抜いたりとかするのでしょうか。あと本編は、ここまで若干モヤモヤ感のある物語展開となっており、それがアニメ放送に耐えうるのかちょっと心配というのもあったりします(笑)具体的な日程は決まっていないっぽいですが、今年の5月下旬に発売予定の10巻告知が公式サイトに出ているように、この辺がアニメ化のタイミングになるのかと思います。今後続々と情報が出てくると思いますので、引き続きその動向に注目したいですね。
 
 
〜冬だってのにどいつもこいつも春です〜
 さて、物語はというと、引き続き洸と双葉はぎくしゃくした感じ。8巻、小湊くんの一言もあり洸に関してはだいぶ気持ちの整理がついたようでした。しかし時すでに遅し、冬馬くんは着々と周囲を固め、双葉の気持ちを引き寄せているのでした。今回も公園ダブルデートに誘うことに成功。シンプルに二人きりというわけでなく、友達を含むことで若干ハードルを下げるという。しかし、なんですかね、この溢れるリア充感は。そうそう、リア充と言えば、冬馬くんがイメージとはミスマッチなピアスをしている理由が明らかになりました…


アオハライド9−1
元カノの言葉がきっかけ


 おい冬馬くん、元カノおったんかい!その初々しさから勝手に「彼女いない歴=年齢」の童貞とか思ってましたが、全然違いました(童貞ではあると思いますが)。そりゃあ、あれだけグイグイいけるってもんです。この年頃のときは、付き合ったことがある子とない子じゃあ、大きな大きな見えない壁みたいなものがあるように感じたものです。
 
 しかし元カノの話をきっかけに打ち解けるって、なかなかこの年頃の子たちじゃない光景じゃないですかね。もの凄く大人というか。すごい好きな人が、例えば元カレきっかけでピアスを空けたって言われたら、思春期男子って結構ダメージくらいかねないと思うわけです。この場合、別れた後に冬馬くんの意思でもって行ったことですから、ギリギリセーフではあるんですが、話題のテーマとその使い方がその年齢然としておらず、なんだか不意にドキドキしてしまいました。
 ここで双葉は全く気にすることもなく、むしろ冬馬くんを好意的に受け取る材料として吸収しました。これって、女性的な感性(「全然気にしませんよ」っていう)によるものなのか、それとも精神的に成熟しているのか、はたまた冬馬くんに嫉妬を覚えるほど好意を寄せていないからなのか、気になるところです。

 斯くして双葉との距離を確実に縮める冬馬くん。これに限らず、彼のアプローチは至極全う、そして非常にスマート、それでいて男らしい。その確実さと逃れようのなさは、さながらプロ棋士の詰め将棋を見ているかのよう。そりゃあ捕まりますわ。どうしても洸と双葉がくっつくようにとひいき目で見てしまいますが、現実にいたら絶対に冬馬くんの方がイイ男だし、幸せにしてくれそうです。ポジション的には唯と同列、けれども彼の場合基本的には潔く、踏み込む時もフェアで、多少の不利もものとものしない決意めいた心意気を感じることができます。受ける印象は、全く異なります。うーん、こんな良い男の子、幸せになってくれなきゃ困るんですけど、けど…!


〜「咲坂女子」ってフレーズがあっても良いんじゃないだろうか〜
 さて、そんな恋の攻防を繰り広げている横で、二人の脇役が結ばれました!いやー、この二人は早かったですね!おめでとう!なんだかドロドロが入り交じる本編にあって、唯一爽やかな風を感じるこの二人、良いです。この二人はもうド直球な青春恋愛って感じで、非常にニヤニヤポイントが多かった。個人的に一番ツボだったのはこれです、これ。仕切り直しの告白、抱きしめてしまいそうだから離れる内宮くんに対し…


アオハライド9−2
ぴょんっと飛んで裾をつまんで伏し目がちに返事


 あざとい!あざといんだってば!これに限らず、咲坂伊緒先生の作品に登場する女の子たちはみな仕草がかわいい、というかあざといです(再三言ってますが)。これもズルいですよねー、内宮くんよく抱きしめないで耐えたと思いますよ。巷では「いくえみ男子」なんてフレーズが一般的になりつつありますが、こっちは「咲坂女子」なんてフレーズで括ってみちゃってはどうでしょうか。それぐらい、咲坂先生の描く女子の仕草は印象的で、良い意味でズルさに溢れている。こんなことする子、どっかに落ちてないですかね…。


〜修学旅行先で何かが起きる?〜
 さて、物語はどういう方向に転がるのかちょっとわからなくなってきました。相変わらず出足の鈍い洸。完全に出し抜かれた感がありますが、一方で挽回できる体勢も整っていない様子で、さて困った。恐らく大きな動きが出てくるのは、9巻でも再三話題に上がった、長崎(洸の故郷)への修学旅行。ここで一悶着あって、洸が一気に追い込むというイメージですかね。そうすると気になるのが、唯との関係の決着。それが修学旅行前になるのか、後になるのかでも、若干その位置付けが変わってきそう。


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Tag [続刊レビュー] 2013.12.07
作品紹介→ある日不良さんに、花束もって告白されました。:目黒あむ「ハニー」1巻
2巻レビュー→ピュアさゆえの破壊力:目黒あむ「ハニー」2巻



1106339837.jpg目黒あむ「ハニー」(3)


だいすきだなぁ


■3巻発売しました。
 ついに両想いになった奈緒と鬼瀬くんですが、夏休みは会う時間がなく2学期に突入。孤立していた鬼瀬くんですが、そんな彼に興味を持つ一人の男の子が…。彼の名前は二見彩葉。明るい人気者の彼と鬼瀬くんはすぐに仲良しに。その様子にちょっとフクザツな奈緒ですが…。
 

〜両想いからの3巻〜
 3巻です。2巻で大盛り上がりの告白を見せた本作ですが、3巻はそこから落ち着いて再び日常に。日常と言えど、両想いの恋人がいる日常なんですけどね。お互い初めての経験で、どう過ごしたら良いのかもよくわからない状況。初々しいです。


〜ライバル登場…?〜
 さて、3巻での大きな出来事は、ライバルの登場でしょうか。いや、ライバルと言えるのか。彼の名前は二見くん。お誂え向きな鬼瀬くんとは正反対の爽やか系の人気者です。彼が奈緒に興味を持ち、積極アプローチを繰り広げてくるわけですが、これがなんというか全体的に胡散臭いという。まず彼が奈緒に興味を持ったきっかけと思われるのが…
 

ハニー3−1
胸がでかい


 爽やかに見えて意外と節操ないっていう。いやでも、胸の大きさは確かに気になりますけれども。奈緒の思わぬ情報を知ることができたのでした、はい。そしてそれを言われた鬼瀬くんが大赤面っていう。ウブです。
 
 さてそんな二見くんが終始奈緒にちょっかいかけるわけですが、大きなきっかけとなったのが、初めて二人でお話したとき。その時点で「なんとなく気になる」というぐらいだったのですが、奈緒とちょっと話してコンプレックスをちょっとくすぐられたら一発っていう。この「好き」へのギアチェンジが素早くて、キャラに見合わず惚れっいようです。
 
 その直後、奈緒をお姫さま抱っこして保健室に運んだり、「奪ってでも手に入れたい」なんてものすごいアプローチをするわけですが、移り変わりが早すぎてちょっと戸惑いが。いきなり登場して想像以上に場をかき回してくれたので、割とかませ犬って好きなんですけども、この二見くんに関しては「あっ、結構です…」ってな感じで捉えております、はい。


〜盤石すぎる2人〜
 そうそう、二見くんが今ひとつかませ犬センサーに反応しないのは、あまりに相手にされなすぎて独り相撲感が前面に出ちゃってるからってのもあるかもしれません。鬼瀬くんこそ意識して涙ボロボロ流したりしているのですが、奈緒はもう鬼瀬くんのことばかり。保健室までお姫さま抱っこされてきたっていうのに…
 

ハニー3-2
鬼瀬くん


 もうね、今回は本当に奈緒の「鬼瀬くん好き!」っていう気持ちが終始溢れていて、終始ニヤニヤですよ。いつの間にやら奈緒の方が好きな度合いで上回ってしまっているような感すら。彼女の方が素直な分、自身の気持ちが漏れ出しやすくなっているのだと思います。
 
 
ハニー3-3
このシーンとかもう…!
 
 
 好きが強くなるほど、同時に不安や幸せも大きくなるわけで。時折困り顔になるときもありましたが、それでも素直にそれを鬼瀬くんに話し、ひとつひとつ片付けて行く。見ていてとっても安心感があるというか、「まぁこの二人の関係は盤石でしょう」と思わせる何かがそこにはあるような気がします。


〜4巻ではやってくれるのかな〜
 二見くんがこのまま引き下がるのはちょっと可哀想。3巻こそかませ犬以前の独り相撲でしたが、4巻ではもうちょっと食い下がってくれるのではないかと期待しています。なんだか不穏な空気を残しての3巻の幕引きでしたが、4巻ではどのような様相となるのでしょうか。


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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.12.05
1106339843.jpg羽柴麻央「花と天秤」


12さい

初恋です



■『先生がときどきクラスの男子みたいな喋り方をすると
先生が先生に見えなくなってなんかドキドキします』
理科教師・須玉がすこし気になる羽衣子。巡る季節が、少女の成長とともに想いのつぼみをはぐくんで……?

 「私日和」(→レビュー)や「箱庭ヘヴン」(→レビュー)などを描かれている羽柴麻央先生の新作です。1巻完結の連載作。物語は、主人公の少女・羽衣子が中学1年の時から始まります。成長期で貧血気味の羽衣子は、バスで立ちくらみを起こして倒れてしまいます。気がついたら保健室。聞くところによると、理科の須玉先生が助けてくれたよう。お礼を言おうと探すけれど、すれ違いばかりでなかなかみつかりません。探し続けて何日目か、想像が様々膨らんだ中で初めてのご対面。初めての印象は、なんかかわいい。けれども顔を見つめられ、別れ際、名前を呼ばれたら、なんだか心が浮き立った。そんな中学生の、淡い淡い初恋の軌跡を、季節と共に描き出していきます。
 
 羽柴麻央先生の描くお話って、なんでこんなに心に沁みるんでしょうね。派手さはないし、青春ならではのキラキラ感(光沢感?)も、別冊マーガレット連載の他作品比では低めだと思うのですが、それでもど真ん中で思春期の恋愛ものでして。もうどうしようもなく読み入ってしまいます。


花と天秤
無表情な相手役と対比するように表情豊かなヒロインですが、一番グッとくる表情は泣き顔でしょう。羽柴麻央先生のキャラは泣き所を知っているというか、先生が泣かせどころを知っていると言った方が良いのか。


 本作は4話+1話の計5話構成。春にはじまり、夏、秋、冬と季節は巡っていきます。ただ面白いのが、それで合計1年というわけではなく、中学卒業までの飛び飛びの季節をかいつまんで描いていくため、最終話では3年生になっているというところ。その4話はそれぞれ起承転結で当て嵌めることができて、大よそ“出会い”→“一層募る思い”→“失恋”→“卒業”という流れとなっています。
 
 って違う、そういう話をしたいのではなくて。構成ももちろん大事なのですが、この作品の魅力はそこだけじゃなくて、とにかく「静かに恋する思春期の女の子」の心の揺れ動きが心底丁寧に、シンプルに描かれているというところ…だと思います。先生が好きだから、理科を一生懸命勉強したり、お祭りでいるかもわからない先生の姿ばかり探してしまったり、思い通りにいかなくて思わず涙を流してしまったり…。その時の表情が、台詞が、どれも印象的。


花と天秤1
 心掴まれたのはやっぱり1話目でしょうか。まぁとにかく二人が出会わない。1話目の中盤も越えた所でようやく出会えるのですが、それまではその先生の情報を集めつつ、自分の中でその姿を思い描くという過程。なかなか会えずにいて、そしてやっと出会えた時、そしてその相手が思っていたよりも好きな人だった時、なんだか運命めいたものを感じてしまいます。喜びもひとしおで、思わず好きになっちゃうといいますか。出会っただけでガシっと心掴まれる感覚を、ヒロインと共に味わうことが出来、ものすごく印象に残りました。この流れを丁寧と表して的確なのかはわかりませんが、とにかく独特のゆったりとしたリズムで物語は流れていきます。


 このゆったりした流れと、終始温度が感じられる表情・台詞まわしで、読み終わりにはすっかり心が温かくなっている感覚が。この作品に限らず、羽柴麻央先生の作品は秋や冬に読みたいですね。今月来月と1冊ずつ単行本を刊行予定とのことで、今から非常に楽しみです。


【男性へのガイド】
→シンプルな思春期恋愛ものがお好きな方は。教師と生徒って関係に萌える方も。但しヒロインの一方通行の想いがメインで描かれるため、“禁断”って匂いはあまりしません。
【感想まとめ】
→良かったです。1巻完結ものでは個人的に今年1〜2を争うツボっぷりでした。何度も読み返したくなるお話です。


作品DATA
■著者:羽柴麻央
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:419円+税


■試し読み:第1話

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