
実は見えていなかっただけで
案外
後ろ向きに前進していたのかもしれない
■人生のひとかけらたちをつなげた、珠玉の物語。
人生は、星のように輝く。
ときに鮮やかに、ときに柔らかに…。
めぐりつながるいのちのものがたり。
「私日和」(→レビュー)や「宵待ちブルー」(→レビュー)を描いた羽柴麻央先生の新刊です。先月に「花と天秤」(→レビュー)のほか、「箱庭ヘヴン」(→レビュー)の2巻が発売されており、まさに新刊ラッシュといったところ。どちらかというと遅筆な印象のある先生だけに、こうして新しいお話を連続して読めるのは、非常に嬉しいところであります。
物語で描かれるのは、とある男の子の人生の各地点。主人公は路加(ルカ)と名付けられた男の子。そして、そんな彼を優しく、時に元気に育てるのが、母のあかり。この二人を中心に、どこにでもいるような普通の男の子の誕生と成長の節々を、静かな語り口で描いていきます。
物語の詳細について書いていきたいのですが、ありふれた日常と成長の中に、一つの大きな転換点が訪れるというもので、そこを明かしてしまうと一気にネタバレ感が強くなってしまうので、そこは避けたいという。そんな中でどう語ろうか思案してみるのですが、なかなか難しいですねー。

一つ、視点的なお話で描くとしたら、これは親にとっての物語であり、子にとっての物語でもあるということでしょうか。「星の子」とタイトルがつけられた物語が、本作では5編収録されているのですが、メインストリームとなるのは序盤3編。主人公・ルカの年齢で言うと、赤ん坊、高校生、そして大学生という地点で、どれもルカ視点で描かれています。けれども感覚としては、母→息子→息子という印象。なんでしょうね、子供がふと見せる不思議な表情だったり行動に理由付けをして、それを読んで嬉しくなる感情というか。「こう思っていたら、こう感じていたら嬉しいな」ってものを、落し込んでくれている喜びというか。私自身、子供はいないのですけれども。
2話目以降は、自我の芽生え・確立と共に一気にルカ視点に。思春期真っ盛りであり、母親との距離の取り方もイマイチわからない頃(私は社会人になっても未だにわからんです)。それでもそんな中にふと感じることのある、変わらぬ親子の絆というか、親の愛というものが、くすぐったくも愛おしい感覚で心の中に沁みてきます。このお話を読み終わったあと、ちょっと親に会いたくなるかも、もしくは、子供に。
本作ですが、表題作の他2編の読切りが収録されていました。中学生と高校生のある夕方のひと時を描いた「afterglow」と、地元に突然帰ってきた兄と過ごす妹の数日を描いた「眠れる森の少女」。

どちらも心地よい余韻を残す良いお話だったのですが、個人的には俄然「afterglow」がお気に入り。中学3年のヒロインが、ひょんなことから高校1年の先輩と放課後を過ごすお話。何か起こりそうで起こらない、うら若き男女のやりとりが妙に甘酸っぱくて。で、最後が結構ビターというか。こういうラストだからこそ、余計に余韻に浸ってしまって、印象に残るという。何はともあれ羽柴麻央先生の作品ということで、オススメです。
【男性へのガイド】
→人と人とのつながりを描いた静かで温かい作品が読みたいという方に、ぜひ。男の子の人間臭さも売りの一つで、キャラに共感しやすい部分もあるかもしれません。
【感想まとめ】
→これまでの作品に比べて小手先でなく、なんとなく心の奥に響く感覚が強かったです。もちろんオススメ。
作品DATA
■著者:羽柴麻央
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税
■試し読み:第1話