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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.05.04
1106252335.jpgあき「エルハンブルグの天使」


天使は覇王に
キスをした



■王・マディスと王の良き友人の剣士・ラルヴァン。何にも長けているのはラルヴァン、しかし誰よりも人を惹き付けるのは、王・マディスであった。微妙なバランスの元、一見固い絆で結ばれていたはずの二人は、プリマ嬢の登場と、生まれた息子・ペルセスによって、その均衡が崩れることになる。自らの出生に疑問を抱くペルセスは、ラルヴァンの元を訪れるが…。

 「アルオスメンテ」(→レビュー)などを描かれているあき先生のharucaの連載作品。「haruca」は2012年に登場したばかりのファンタジー系のマンガ雑誌で、その前身は「幻想異界」でございます。白を基調としたシンプルな表紙が素敵ですね。
 
 さて、物語で描かれるのはとある二人の幼なじみのお話。領主を殺して新王となったマディスと、その幼なじみで、実質的にこの蜂起を動かしていた剣士・ラルヴァン。ラルヴァンは剣の腕前も、頭の良さもマディスよりも優れていましたが、マディスがとにかく人を惹き付け慕われる人物であるため、マディスを表に据え、彼は裏でマディスを支えるという関係性が築かれていました。しばらくそのバランスは保たれ、平穏が続いていたのですが、マディスが妻を娶ることをきっかけに、その関係は少しずつ崩れていくことに…


エルハンブルグの天使
 こうしてあらすじを書いていると、ファンタジー要素もないように映ってしまうのですが、ちゃんとファンタジー要素はあります。それが、エンハンブルグ城にいる精霊(天使)。この天使の姿はラルヴァンだけが見ることができるのですが、天使自身はマディスがお気に入りの様子。特に何かするというわけではないのですが、人間ではない不思議な存在に愛される=天からも王として認められているという、一種の象徴的な存在として描かれます。
 
 自分の方が優れているのに、何故か人の心は惹き付けられない。自分が好きだった女性は、最後は誰もマディスを好きになるというやるせなさ。天使にまで好かれている。しかし一方で、マディスもそれには後ろめたさや引け目を感じるのでした。マディスには天使の姿が見えないので、“天からのお墨付き”という感覚はゼロ。さらに娶った妻はラルヴァンの好みにも映るし、妻自身がラルヴァンに興味を持っているようにも映る…となれば、お互いに不信感は募ります。そして結果、ラルヴァンは城を出るのですが…と、ファンタジーと言いつつ描かれるのは人間関係メインの割と地味目なお話だったりするのです。ただそれが実に巧く描かれていて、面白い。
 
 巧いなぁと思わされたのは、この二人の行き違いの仕込み方でしょうか。一方にしか見えない天使の姿とか、恋文のやりとりだとか、息子の存在だとか。二人のキャラの全ての行動が、一本筋が通っていて、理由が明確に見えてくる。感情論でない、理路整然とした物語運びがとても心地よかったです。あと堅牢な友情を崩すのは女性だったりするってのがなんだかリアルで(笑)


エルハンブルグの天使2
マディスの妻・プリマがなかなかのクセ者。そしてそんな彼女の賢さを誰よりも見抜いているのは、ラルヴァンであった。


 あき先生の作品はこれまで幾つか読んでいますが、個人的には本作が一番のお気に入りでした。もしかしたら、他の作品も読み続けていればこのような面白さを味わえたのかも。本作は1巻完結なので、その魅力がギュッと詰まっていたのかもしれないです。というわけで、オススメです。


【男性へのガイド】
→物語自体は男性主体なので、一定の読みやすさはあると思います。割と美形多め、但しラルヴァンは普通。とはいえラルヴァンもイイ男ですから、やっぱりそこで振り落とされてしまう可能性が…(笑)
【感想まとめ】
→面白かったです。バリバリのファンタジーかと思いきや、人間関係を描いた地に足ついたお話でした。


作品DATA
■著者:あき
■出版社:祥伝社
■レーベル:Gensou collection
■掲載誌:haruca
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

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Tag [続刊レビュー] 2013.01.25
作品紹介→立ち止まり癖のある女、ダブルワークはじめます:おかざき真里「&」1巻
2巻レビュー→ああもう、どうしてこんなに面白いんですか!:おかざき真里「&」2巻
3巻レビュー→理系男子のたどたどしい恋模様:おかざき真里「&」3巻
4巻レビュー→身体に触れる。心に触れる。:おかざき真里「&」4巻



1106235491.jpgおかざき真里「&」(5)


あなたは
よくやっているよ



■5巻発売しました。
 医療事務とネイルサロンのダブルワークを続ける薫は、19歳歳上の医師・矢飼とついに一夜を共にした。初めての両想いに心躍らせ、肌を重ねるたびに矢飼への想いが深まっていく薫は、彼の役に立ちたいと新たな医療事務資格の取得にも励み出す。しかし、薫への恋心を抱く代はそんな彼女の姿に苛立ち「もうネイルサロンの場所は貸さない」と言い放って…
 


〜追い風の5巻〜
 5巻発売です。4巻から間が空いているような感覚なのですが、そんなことはないか。さて、5巻にはなったものの、そこまで劇的に関係が変化しているかというと、そんな感覚はあまりありません。さすがにシロちゃんの線はなくなりつつあるように感じるのですが、かといって矢飼との関係が劇的に深まったという感もまたなく。どうしても矢飼が抱える過去が作る壁を乗り越えられないような…。
 
 とはいえ薫にとって終始逆風が吹いているわけではありません。そういった過去を考えずにいれば、見た感じ5巻は追い風。非常にハッピーな風が、彼女の背中を後押ししているような印象がありました。矢飼との関係はより親密になり、セックスも良好。一緒に温泉にまで行きました。いいですよね、こういう所をサラッと予約出来るような大人になりたいです。って全然関係ない話に…。矢飼の中では何かしらの諦めや葛藤のようなものが、相変わらず渦巻いているようなのですが、薫にはそれはなし。まさに順調の一言。この薫の恋愛における無邪気さが、どうしても後ろ向きになりがちな矢飼にとっては良い方向へと作用しているのかな、と思えたのでした。


〜仕事ができるということ〜
 さて、ここまでは恋愛の話。ここからは、仕事の話をしましょう。恋愛はもちろんですが、5巻はこれまでにも増して、仕事が占める割合が高い印象を受けました。そんな中飛び出したのが、こんな至言。


 5-1
どんな色でも20代のうちに成功の実感掴まねー奴は
年喰ってから方向性見失うんだよ
(中略)
そのためには良い指導者に出会えるかが重要ですよ
(中略)
出会えなかった奴は
この先ずっと中途半端に生きなきゃいけなくなる




 なるほど、確かに。なんて私は今まさに20代で、この言葉の答えを実際に知るのはずっと先のことなのですが、とりあえず本作のストーリーに照らしてみましょう。ポイントは「成功の実感」と、そのための「良い指導者」。薫は現在ダブルワークで二つの仕事をしている状態ですが、果たして…
 
 まずは事務職。矢飼の役に立ちたいと、より近くにいることができる医療事務職の取得に動き出すのですが、こちらはまだまだ駆け出しということで、なかなかうまくはいってくれません。「成功の実感」とまでは行かなくても、駆け出しの時点でも何かしら「手応え」みたいなものが感じられるかと思うのですが、読んでいる限りそんな感じはあまり。そもそもこの職種自体が、そういったわかりやすい成功体験を得られるようなものでもないのかもしれませんが…。また、良い指導者というところでは、紺野さんという新キャラを投入。この人がまたあれこれズバズバと言う人で、良い指導者かどうかについては、今のところ疑問符が。感覚として、なんとなく中途半端な形に終わりそうな予感がしています。

 もう一方のネイルではどうでしょうか。仕事場がなくなりそうでしたが、これはシロちゃんの嫉妬によるもの。小さい規模なりに、お店はやりくりできているようです。そしてここに来て、雑誌からの取材が。これは明らかな成功体験で、こちらはシロちゃんが暴走しなければとりあえず順調に行きそうです。こちらについては指導者はいませんが、先の言葉に照らすと指導者は手段で、成功体験が目的。なので、現時点でも大丈夫なんじゃないかな、と。
 
 どちらもまだ手に職ついた状態ではないですが、ゆくゆくは身について生業となってくるのでしょうか。そういえば今回は、「仕事ができる」という部分において、一人印象的な人物が登場しました。名前も出ない車掌さんですが、矢飼が電車内で急患への処置を検討している際に、咄嗟の判断で乗客を途中駅で下ろして時間のロスをなくすというファインプレーを披露。
 

 5-3
この時の描かれ方は、さすがプロという感じ


 少なくともこの作品では、ちゃんと仕事できないとカッコ悪いというか、仕事できるとひと際カッコ良く映るという。恋愛だけでなく仕事も、というのが大事な所なんです。


〜恋愛でも同じ事が言える?〜
 さて、先の矢飼さんの言葉ですが、これは恋愛にも同じ事が言えるのでしょうか。そうすると気になってくるのが、シロちゃんです。これまでどうしたって恋愛しているようには見えない彼。成功体験はゼロです。そしてそれを導いてくれるような指導者もおらず。その結果…
 

 5-2
中途半端でいいから傍にいてください…。


 キーワード「中途半端」が出てしまいました。完全に恋愛の方向性を見失っています。果たしてここから持ち直すことができるのか。なんとか切り替えるなり、覚悟するなりしないと、ずっと中途半端な距離感でぬるく過ごすことになってしまいます…。しかも結構やっかいそうな女性に掴まっていますし。迷走シロちゃんの明日はどっちだ!?


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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2012.12.02
1106218113.jpgいくえみ綾「あなたのことはそれほど」(1)


私は
いつかきっと
罰が当たる



■占い師は、中学生の美都にこう言った「二番目に好きな人と結婚するのがいい」
 医療事務として働く美都は、飲み会の帰り道に想って想って想い続けた初恋の人・有島に再会、男女の仲に。念願叶った美都だったが、彼は既婚者で、美都にもすでに優しい夫がいて…。美都と夫、有島と妻。四者四様の視線と思惑が交錯する…。
 
 いくえみ綾先生のフィール連載作でございます。いくえみ先生って一体いくつ連載持ってるんだろう…。「プリンシパル」(→レビュー)や「トーチソング・エコロジー」(→レビュー)とか連載中のような気がするのですが。祥伝社での刊行は「カズン」以来っぽいです…と思ったら、「そろえてちょうだい?」(→レビュー)なんてのがありましたね。
 
 本作ですが、フィールらしく社会人の男女たちがメインを構成するお話。ただし一筋縄ではいかないのが、いくえみ綾作品ゆえという所でしょうか。描き出すのは、男女4人の底なしのW不倫のお話でございます。ヒロインは医療事務で働く既婚者の美都。ある日ファーストフード店で偶然、中学時代に想い続けた男性・有島に再会します。そして飲み屋へと流れ、最終的には男女の仲に。以来度々逢瀬を重ねるようになるのですが、二人にはとある事情が。それは、お互いに既婚者であるということ…というお話。


あなたのことはそれほど1−1
「二番目に好きな人と結婚すると良い」と、かつて占い師に言われたことを実行してしまったヒロイン。その占い師の予言は、果たして当たるのか…。


 四者四様ということで、物語はそれぞれのパートナー含めて4人で展開されます。1話ごとにそれぞれの視点で描かれ、それぞれの物語が。不倫ということで明るい要素は皆無です。いくえみ作品にありがちな、過去の出来事とこれまで重ねて来た時間というものがそれぞれの人物の特徴を描き出すベースとなっており、時間軸はちょいちょい飛びがち。
 
 どのキャラも淡々としていながら、お腹の中には黒いものを持っているという面白さがあります。お互いに、違和感は感じつつも大きな動きを起こすことがないという、この煮え切らなさがよけいに気持ち悪さを残して、読み終わった後になんとも言えない気持ちに。特に不倫している二人ではなく、それぞれのパートナーが黒髪の地味系キャラで、いかにもえぐいことしてきそうという予感が。特にヒロインの旦那さんは、既に妻の離婚を勘づきはじめており、これから爆弾落としてきそうな感じ。泥沼といいつつ、案外泥沼化するのは、ヒロインサイドの関係だけかもしれません。


あなたのことはそれほど1−2
携帯を盗み見る旦那さんの絵。この絵面といい、何とも言えない感じが。


 いくえみ綾先生といえばいくえみ男子ですが、それっぽさを持っているのは不倫相手の有島のみ。旦那さんはそれほど、という感じです。典型的ないくえみ男子は、物語に面白さを与える大きな要素となるのですが、個人的にはあまり得意でなく。今回もいかにもモテそうないくえみ男子ですが、こういうキャラは結果的に得する美味しい役になるんじゃなかろうか、と。苦しみは、既に幼少期に経験している…という流れで。


【男性へのガイド】
→単純にエンタテインメントとして見るのであれば面白いと思うのですが、多少なりとも結婚に幻想を抱いていた自分としては、こういうの読むと多少参ったりもします(笑)そういう方はちょっと控えた方がよいのか、、、ってそれは男女関係ないか。
【感想まとめ】
→ またしても読むのにエネルギーを使いそうな作品が登場して参りましたが、さすが一度読み始めると俄然面白く、本作もオススメせざるを得ないところ。決して明るい内容のお話ではないですが、読み応えはありますので、興味のある方は是非とも手に取ってみては。


作品DATA
■著者:いくえみ綾
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:933円+税


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Tag [続刊レビュー] 2012.11.17
作品紹介→*新作レビュー* 鳥野しの「オハナホロホロ」
2巻レビュー→先を見て、向き合うと決めた日:鳥野しの「オハナホロホロ」2巻
3巻レビュー→告白と決断と訪れた変化:鳥野しの「オハナホロホロ」3巻



1106195844.jpg鳥野しの「オハナホロホロ」(4)


別々の列車に乗った2人は
今までと同じ場所には帰れない
もう 二度と



■4巻発売しました。
 元同級生・桑原からのプロポーズを承けたと麻耶から聞かされ、みちるは呆然と立ち尽くした。しかし麻耶自身、桑原に向き合おうとしながらみちるへの恋愛感情を殺すことができずにいた。そんな2人を見かねた桑原は「結論を出すまで帰ってくるな」と彼女らをホテルへ連れて行き…!?禁じていた恋心が動き出す、同居生活グラフィティ、第4巻。
 

〜今回は凄かった〜
 4巻発売です。まだ完結せず、まだまだ続きます。この作品はどうしても重たい雰囲気を纏っているので、今回も読み始めるのに非常に時間がかかりました。ましてや体調が悪い中読んだばっかりに、なかなかズシッと心に来るものがありましたですよ。しかし、しかしですよ、この4巻が本当に良かったんです。ここ最近で一番と言えるほどの感動でした。


〜海芝浦駅〜
 桑原のプロポーズで終局を迎えるかと思われた共同生活でしたが、未だに吹っ切れない麻耶の様子に、桑原は強制的に麻耶とみちるを二人きりにします。そんな二人が辿り着いたのは、とある海沿いの駅。新横浜からさほど遠くない場所にあるその駅は、
 

オハナホロホロ4−1
「海の上にある駅」として、そして「出ることが出来ない駅」として有名な海芝浦駅でした。
 
 
 この舞台が登場したとき、「うわぁここ使ってくるか!すごいな!」とただただビックリ。実はこの駅、以前テレビ(「タモリ倶楽部」でしょうか…)で見たことがあって、知っている駅だったのですよ。東芝の社員でないと改札から出て敷地に入ることができないというこの駅は、海の真横に面しているので非常に眺めが良く、訪れる人もそこそこいるそうです。詳しくはWikipediaをご参照頂くとして、この場所を恋愛物語の重要な舞台装置として使用してくるという凄さ。とてもシンプルに、「進むことができない」「行き止まり」の象徴として描いているわけですが、物珍しさのあるマニア受けしそうな駅を、こうもすんなりと物語に落とし込んできてしまうとは。現実であればあまりにベタな感もある演出ではあるのですが、本作のことこの場面に於いては、不自然さは何一つ感じることはありませんでした。


〜部長の登場と、麻耶の性質〜
 ここで物語が完結したとしても、かなり切ない(だがそれが良い)お話に仕上っていたかもしれないのですが、本編はまだまだ続きます。このまま互いに異なる道へと迪かと見せておいて、最後は以外にも方向転換。きっかけは、一人の女性の登場でした。


オハナホロホロ4−2
 麻耶と桑原の高校時代の友人、通称:部長。サバサバ、かつ突飛な性格と言いますか、なかなか豪快な方です。そして後に、麻耶の初恋の相手であることが明らかになります。麻耶はみちるに限らず、元々そういう性質の持ち主だったのですね。それをわかっていながら追いかけ続けた桑原のそれは、「初恋」と呼ぶよりも「執念」と呼んだ方が良いのか。とはいえ、勝ち目がさほどない戦いに挑みに行く姿は、改めて振り返ってみてもかっこいいです。そんな桑原ですが、部長のたった一言によって抱えていた呪縛から解放されます。本当に、一言だけで。そしてそれは、思わぬ形で麻耶に伝播し、さらにはみちるにも広がって行くことを予感させます。少なくとも麻耶と桑原は、彼女との出会いがきっかけになっていることは明らかで、部長影響力すごすぎます!
 
 良い形で転がり出した4巻ラスト、このまま突っ走れば5巻完結?ニコの事情にもよりけりですが、このまま明るさと前向きさを少しずつ出して行ってもらえれば、幸せな結末が見えてきそうで…。何はともあれ、非常に感動的な4巻でした!5巻も楽しみ!


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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2012.08.26
1106185888.jpgヤマシタトモコ「ひばりの朝」(1)


あたしがわるいんです


■手島日波里、14歳。同じ年の子供より、肉感的な体つき。彼女を知れば、男はたいがい性的な感情を抱き、女はたいがい悪意の弾をこめる。彼女に劣情を抱いている男や、片想いをしている少年、劣等感を抱く女、そして彼女を貶めたい少女が、ひっそりと、かつエゴイスティックに語り出す。彼女にまつわる心理展覧図はどこまでも繁るが、真実の正体は誰が知るのか…。

 「ドントクライガール」(→レビュー)などを描かれているヤマシタトモコ先生のフィールヤングでの連載になります。フィーヤンでは「ミラーボールフラッシングマジック」(→レビュー)や「HER」(→レビュー)などを描いておられましたが、本作はそのどちらとも違ったテイストの作品に仕上っています。「HER」なんかは近いものがあるかもしれませんが、こちらの方が鈍重で後ろ暗くて重ためな雰囲気。なんていうか、見てはいけないものを目にしているような、感覚があります。帯にある「怪作」という言葉は、まさにこの作品を形容するのにぴったり。正直この作品のすごさを伝えられる自信がないのですが、ご紹介したいと思います。
 
 物語のメインパーソンとなるのは、タイトルにもなっている“ひばり”。本名は手島日波里と言い、14歳にしてはあまりにも豊満な“女性”としての体つき・雰囲気をしています。そんな彼女を前にして、男は誰しもが劣情を抱き、女性は誰しもが劣等感や悪意を抱く。そんな象徴的な存在として、彼女は描かれます。物語は、そんな彼女に少なからず関わっている、友達やクラスメイト、親戚などの視点で、彼ら・彼女らが抱く決してキレイとは言えない感情が描かれていきます。


ひばりの朝1−1
もうみんな黒いです。イノセンスさの塊みたいな人はおらず、多かれ少なかれ、汚い感情や考えを抱いており、それが見え隠れする形に。なかなか読むのには元気が要ります。


 妙に大人っぽい体つきで、しかも自己主張をあまりしない女の子という設定、もう絶妙というか、あざといというか。これがもし高校生だったりしたら、完全に「女性」「女」なわけですよ。そういう体つきだからといって、別に垢抜けさせない所とか、もう、もう!確かにそんな子を前にしたら、男共は少なからず下心を交えた目で見るでしょうし。そりゃあもうそれは仕方のないことでして。そしてそんな彼女を相手にして、そんなことを思う自分に嫌悪感を抱いたり、思わぬ罪悪感を抱いたり。この描き方がなんとも痛々しいというか、目を向けたくないものに無理矢理対峙させられている感がすごいんです。
 
 一方女性は劣等感や嫌な気持ちを彼女に抱く事が多いです。私は男性ですので、当たり前ですが「あーあるある」なんて感想にはならないわけですが、やっぱりこういう子を前にするとそういう感情に苛まれるのでしょうか。多分作者が女性である分、描かれている感情は女性サイドの方がより痛々しく、汚いものだという直感はあるのですが、いかがでしょう。
 
 どのお話を取っても、キレイな部分というのはなかなかなく、読み応えはすごくとも、決して読後感の良い作品ではありません。それも含めて印象的というか。物語はひばりと対峙して動いていくわけですが、彼女と対峙することで自分自身というものがよりハッキリと浮き彫りになり、むしろ物語としては自分自身と向き合って行くような構造のお話になっています。だからこそ、ひばりは引っ込みがちで大人しく、登場人物の誰とも深く交わってこない。というか、交わっちゃいけないのか。
 
 最後はひばり自身の想いが描かれ1巻は終了。おおよそ登場人物たちの視点を一回りした形ですが、2巻で2周目があるのか、それとも別の人物が描かれるのか。物語のタイプ的に、登場人物の像を掘り下げてこそという感じもするので、2周目であることを所望します。また段々と、ひばり自身の問題に周囲の人物が巻き込まれて行く形になっており、物語全体としての動きもしっかり確保。これは続きが楽しみです。
 
ひばりの朝1−2
登場人物の中で一番印象に残ったのは、2話目ですかね。
非常にボーイッシュな女性がメインになるのですが、シンプルにひばりと自分を比べて、コンプレックスを肥大させていく。わかりやすいけれど、非常にパンチのある物語でした。しかも救いなしで、ズバンと劣等感を自覚させておしまいっていうこの後味の悪さ。素晴らしい。その他では、彼女の学校の先生のお話ももし続きがあったりしたら、気になるな、という。とにもかくにも、要注目の新作が登場しましたよ。


【男性へのガイド】
→正直これはわからんです。ほんとに。うーん。
【感想まとめ】
→インパクトはあるんですが、この作品のどこがすごいのかってのが掴み切れていないのが、歯がゆいというか気持ち悪いというか。ただ必ず話題になってくるであろう作品だとは思います。それぐらい、なんかわからないけどすごかった。実際続きが読みたくて仕方ないし。


作品DATA
■著者:ヤマシタトモコ
■出版社:祥伝社
■レーベル:コミックフィール
■掲載誌:フィールヤング
■既刊1巻
■価格:648円+税


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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。