このエントリーをはてなブックマークに追加
2009.09.07
07068394.jpg河惣益巳「玄椿」(1)


この「花」が
もっともっと美しくなるのなら
俺は   



■10巻発売しました。
 京都の祇園・清白屋のオーナーであり芸妓の胡蝶。父親は歌舞伎俳優の北浜京次郎
 、そして母は清白屋で芸妓をしていた相模。両親の才を余す事無く受け継いだ胡蝶は、京舞の天才としてその名を都に轟かせていた。そして同時に、有り余る色気で、数々の男を魅了する…。そしてまた、胡蝶の魅力に取りつかれた男が…。

 1巻発売時は2000年。約10年かけて10巻と、その刊行ペースはゆっくりですが、未だ根強い支持がされている作品です。お話は、祇園で芸妓をしている舞の天才・胡蝶と、彼女を取り巻く華やかで複雑な人間模様を描いたもの。あらまし紹介だけだと、時代物のような印象を与えてしまうかもしれませんが、舞台は現代の京都祇園。舞の天才、女、そして芸妓として生まれ落ちた宿命の中で、人一倍華やかに、そして強かに生きる胡蝶の生き様を楽しむ…人が多いのかな?とにかく男性を魅了しまくる胡蝶、その美しさと舞の才能に、各界舞踊の名手たちは夢中になります。そんな彼女には、実は旦那がいます。それが胡蝶の幼なじみの、恵慈。胡蝶は彼の子をもうけることを望みましたが、その才をより強く子供に受け継がせるため、恵慈はそれを拒否。恵慈の了承(というか願い)を得て、胡蝶は愛人(舞踊の名手たち)を複数持ちます。


玄椿
この表情。これほどまでに主人公主人公したヒロインも、なかなかいない。爽やか系ではないですが、芯があり、強い。


 初っぱなから親子どんぶり状態になったりと、なかなかクセの強い内容。ただ設定だけで回すならば、クセばかりの強い駄作になってしまうのですが、この作品はそれに耐えうるだけの面白さがあります。とにかく人間関係と心情描写が濃厚。ヒロインの胡蝶も、少女漫画のヒロインとしてはありえないほど強かで、彼女をとりまく男達もその欲望を全開。この欲に正直、いや、正直にならざるを得ないという描写は、見事と言うほかないです。一般人であればありえない展開も、天才・芸妓・舞踊といった背景が、それを許容(というか後押し)します。ひとつ「誰の子供を生むか」みたいな所が軸になるわけですが、それだけじゃないんだな。とにかくこの作品を説明するには、「一回読んでみて」と言うほかないのかも。ただその「一回読んでみて」は、決して「(絶対気に入るから)一回読んでみて」ではなく、どちらかというと「(気に入るかわからないけど)一回読んでみて」という感じ。

 この作品のヒロインは胡蝶ですが、ヒーローは果たして誰になるのでしょうか?個人的にはギラギラ系の恵慈が好きなのですが、頑張りを見ると周一を推してあげたくなります。周一のようなキャラ(やんちゃな子犬というか、情けない肉食系というか)って、ベテラン作家の作品には必ずと言っていいほど登場するのですが、こういうキャラってひとつ上のポジションから男を見るからこそ描けるキャラなんじゃなかろうかな、と最近思うようになりました。人生経験故の産物というか。ま、そこもひとつの見所ということで。


【男性へのガイド】
→ このレーベルですがメロディ連載なので、一般の少女マンガとは趣が異なります。ただ、これもまた女性だからこそ描ける物語。濃厚な人間関係を見たいと言う方は。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→個人的には楽しんで読んでいるのですが、そのクセの強さゆえになかなかオススメにはしづらいという状況。良くも悪くも一読の価値ありという感じでしょうか。


作品DATA
■著者:河惣益巳
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:メロディ(平成10年12月号~連載中)
■既刊10巻

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「メロディ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
2009.05.03
07116568.jpg成田美名子「花よりも花の如く」(1)


「能」って観たことありますか?
榊原憲人23歳
舞台に立って20年目の
ペーペーです



■7巻発売しました。
 幼い頃から能の舞台に立ち、日々奮闘中の若手能楽師・憲人。現在内弟子として修行中の彼と、彼らをとりまく人々の、「お能ライフ」を、あなたもちょっと覗いてみませんか?

 成田美名子先生の「NATURAL」のスピンオフ作品となります。スピンオフですが、前作を知らなくても全く問題なく読めるようになっています。多分前作知ってるほうがより楽しめる(入りの段階で)のでしょうけど。私は前作知らなかったのですが、普通に楽しんで読むことができました。


花よりも花の如く
集中。普段はメガネかけてます。

 
 お話は、若い能楽師・憲人を中心に、能の世界で生きる人々の"生き様"を写し出していくといった内容。エンターテインメントとして能を描くというよりは、その能に携わる人々についてフォーカスしていくというスタイルなので、華やかさはありません。「能の魅力を知る」というよりも、「能への理解を深める」といった感じ。
 
 日常から入るので、敷居の高さを感じずに入り込めるかもしれませんね。勝手なイメージで、個人でどこまで高いところに昇っていけるか、みたいな世界だと思っていたのですが、実際はそうではなく、非常に人と人のつながりを大切にしているようですね。主人公の憲人はどちらかというと地味な人間。そのキャラがなかなか親しみをもてます。伝統芸能独特の厳しさの中に、人間の優しさが垣間見える瞬間をしっかり描き出しており、さすがベテラン(まだ中堅?)という感じですね。


【オトコ向け度:☆☆   】
→能へのアプローチとして捉えるならば、この方法は男性向けではない気がします。実際能に関しては素人なんですけど。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→読みやすさは抜群。とはいえ物語として引きつけるかといわれると、どうだろう。


作品DATA
■著者:成田美名子
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:メロディ(平成15年1月号~連載中)
■既刊7巻

Amazonで購入するbk1で購入する

カテゴリ「メロディ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2009.03.08
07217732.jpg 勝田文「プリーズ、ジーヴス」


まったくジーヴスは有能だ
僕の望むところを正しく理解し
つねに快適な生活へと導いてくれる
僕の完璧な執事ジーヴス



■舞台は20世紀前半のロンドン。青年貴族のバーディーは、有能な執事・ジーヴスと優雅な毎日を送っている。バーディーは自分ではあまり何も出来ない人間で、周りからも少々馬鹿にされている。加えて服のセンスもヒドい。それでも彼が毎日を楽しく過ごせているのは、その能天気さだけにあるのではない。彼の執事・ジーヴスによるところが大きいのだ。バーディーはありとあらゆる面で有能な彼のことを、一種の先導者・哲学者そして友人として見ている。そんな凸凹な二人と、彼らを巻き込む貴族仲間たちの、爆笑の毎日をお楽しみください。

 原作は「比類なきジーヴス」という、イギリスで刊行された大ヒットユーモア小説シリーズの一冊だそうです。何に関しても有能で、常に正しい方向へ主人を導いてくれる執事・ジーヴスと、コメディの主人公らしい、どこか皮肉屋で、どんくさい主人・バーディーの、面白おかしい毎日を描くコメディです。当時の貴族階級の人間がどういう生活をしているのかは知りませんが、とりあえず毎日が日曜日のような優雅な生活を送っていたようです。いわゆる執事萌えってヤツではなくて、あくまでコメディです。


プリーズジーブストラブルメーカー・ビンゴ(リトル)にいつも巻き込まれる二人。


 バーディーはじめ周りの友人たちは、いわゆる2世3世ですから、当然(?)蔑視的な意味でのボンボンが数多く生まれるわけです。実際はどうだったか知らんけど。そんな中、どちらかというと慎ましい生活を送っているバーディーですが、好奇心旺盛な友人たちによってしばしば面倒なことに巻き込まれてしまいます。中でも親友(?)のビンゴが一番のトラブルメーカーに。そしてそれを毎度毎度見事に解決していくジーヴス。面倒に巻き込み笑わせて笑わせて、見事解決して最後は痛快!という流れ。現在主流の笑わせ方ではなく、伝統的なコメディ形式をとった作品といえるんじゃないでしょうか。


【オトコ向け度:☆☆☆  】
→こういうのが好きな方もおられるでしょう。どちらかというと女性の方が好むかな、とも思いますが。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→読んでいてそれなりに面白かったですし、ページ数とネームの量が多く、価格の割にオトク感はあります。海外物のコメディが好きな方は読んでみると良いかもしれません。


作品DATA
■著者:勝田文 原作:P.G.ウッドハウス
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックススペシャル
■掲載誌:メロディ(2008年4月号)
■既刊1巻
■定価:590円+税

Amazonで購入する
カテゴリ「メロディ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
2009.03.07
お伽もよう綾にしきひかわきょうこ「お伽もよう綾にしき」


いったい何者だったのかしら…
十年前に帰らぬ人となったととさまと
瓜二つのお顔を持つあのお公家様は



■5巻発売、完結しました。
 鈴音はもののけに好かれるという不思議な体質を持つ少女。もののけを退ける力も持っているが、これは7つの時に世話をしてくれていた修験者・日高新九朗の教えによるもの。鈴音は新九朗を「ととさま」と呼び慕っていたが、彼は形見の笛だけ残し、もののけ騒動のお役に向かいそのまま行方知らずに。17となった鈴音はある日、お使いで寺に向かう道中、もののけに襲われる。絶体絶命かと思われたその時、笛の中から新九朗と瓜二つのもののけが飛び出し、襲ってきたもののけを退治してしまう。鈴音はそのもののけに「おじゃる丸」という名を付け掌握。その後も次々襲ってくるもののけを、おじゃる丸と退治していくが…!?
 
 新九朗に瓜二つのおじゃる丸。当然新九朗と関係があり、物語が進むに連れて真実が明らかになっていきます。そんなふたりに攻撃を仕掛けてくるのが、10年前のもののけ騒動を起こした妖術師・現八朗。彼も新九朗と因縁があり、物語が進行するにつれ明らかになっていきます。一応もののけ退治、というか現八朗の攻撃を退けていくことで話は展開していきますが、メインはあくまで新九朗との関係について。


おじゃる
こんな凛々しいのに名前はおじゃる丸。


 絵柄もそうですが、ちょっと懐かしい感じのする作風です。10年ぐらい前なら、普通にアニメとかでやっていそうな内容。とはいえ大人が読んでもそれなりに楽しめる内容になっています。

【オトコ向け度:☆☆   】
→ちょっと前の少女まんがってイメージ。そういう話が好きな方は。ただもののけメインの作品ではありませんので、ひとつ。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→ベテランらしく、安定感のある内容。歴史物ファンタジーが好きな方は。


作品DATA
■著者:ひかわきょうこ
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:LaLa(平成17年2月号~平成18年5月号)、メロディ(平成18年8月号~平成20年12月号)
■全5巻

Amazonで購入する
カテゴリ「メロディ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] 2009.03.07
そこをなんとか麻生みこと「そこをなんとか」


ガッポリ儲けて
先生呼ばわり
人も羨むイイ生活が待ってる筈だったのに!!



■2巻発売しました。
 司法制度改革により弁護士が大量に生み出されるようになったため、弁護士は未曾有の就職難に陥る。改世楽子も就職難に苦しむ、新米弁護士の一人。200人規模の大手事務所から始まり、決まらないまま流れ流れて場末の零細事務所へ。まさかキャバクラでアルバイトをしていた時に知り合ったその事務所の所長と交わした、「飲み勝ったら雇う」という口約束を頼ることになろうとは…。完全な押し掛け就職でなんとか雇ってもらえることになった楽子だが、そこには嫌みったらしいけどクールでやり手の弁護士・東海林がいて…!?
 
 新米弁護士・楽子の奮闘記です。家は貧乏、ロースクールへはキャバクラでバイトしながら通ったという苦労人、しかし本人はいたって明るく、そんなことはあまり感じさせない。そんなお気楽弁護士・楽子の上司が、エリート街道を歩みながらも、何故か零細事務所で働いているやり手・東海林。この二人を中心に、様々な依頼を通して、多種多様な人間模様を、時にユーモラスに、そして時にハートフルに描き出していきます。ヒロインのキャラが素敵なんですが、多分彼女が活きるのは東海林さんがいるからなんだろうなぁ…。良いアクセントになってます。
 

そこをなんとか
コミカルな掛け合いが頻発、飽きさせない。


 弁護士ものというと、正義感に燃える熱い主人公というのが基本ですが、こちらはそうではありません。とりあえずの動機はお金かな。とはいえ正義感はあります、けれどそれを振りかざすことはありません。周囲の人間もいい具合に力が抜けていて、読み心地が良いです。基本はコミカルに、笑い方向で展開させますが、情に訴えるところはしっかり描く。そこが押し付けがましくないのも良いですね。ヒロインの奮闘記で、描いているのは人間模様だったりするのですが、法律の部分もしっかり抑えてありますので、読み足りないということはなく、むしろ読み応えはあると思います。


【オトコ向け度:☆☆☆☆ 】
→読みやすいんじゃないでしょうか。重厚な感じの仕事ものが好きなんだという方には向かないかもしれませんが。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→オススメです。面白くて読んでいて飽きません。一応コメディの部類になるのでしょうかね?


作品DATA
■著者:麻生みこと
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめコミックススペシャル
■掲載誌:メロディ(2008年4月号~連載中)
■既刊2巻
■定価:各552円+税

Amazonで購入する
カテゴリ「メロディ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。