
よい読書を
■「ピリオド」と呼ばれる事実上の第三次大戦から数十年。本は博物館に収められ、ケース越しでしか見られないような貴重な文化財となっていた。そんな時代に、本を愛し本を求める人々が集う場所があった。「特別探索司書」のワルツさんが代表をつとめる、さえずり町のサエズリ図書館。紙とインクと糊の匂いに満ちた楽園へ、ようこそ。
「ミミズクと夜の王」や「青春離婚」(→レビュー)などの紅玉いづきさんと、「ことことカルテット」(→レビュー)の楠田夏子先生がタッグを組んだ作品。それでは、内容をご紹介。物語の舞台はは近未来の日本(と思しき国)。ピリオドと呼ばれる第三次大戦を経て、街や本が殆ど焼け落ちてしまった世界で、情報の多くは紙媒体ではなく電子データへと移行しています。本は前時代の産物で、文化財扱い。読書は道楽として位置づけられています。そんな時代にあって、数万冊の蔵書を一般開放しているのが、さえずり町にあるサエズリ図書館。特別司書であるワルツさんの元に、日々本を愛する人が集います。本と人でつながれる物語を、あなたにお届けします。

本好きのために描かれたかのように、本への愛に溢れた作品。本の魅力…物語でない、本という存在そのものの良さを表す言葉というのは、簡単に考えても出てこないものなのですが、それが様々な言葉で、人物の表情で体現されるのです。すごい。
そういえば、原作小説である「サエズリ図書館のワルツさん」、買ったまま積ん読状態だったことを思い出しました。現代のお話かと思っていたのですが、こんな設定だったのですね。「図書館」という設定ではあるのですが、そういった設定が背景としてあるために、所謂現代でいう「図書館」とは扱いが異なります。嗜好品、贅沢…そんな印象のある読書を、道楽で振る舞っている…外から見ると、そんな印象すらあるかもしれません。そんな中で、ただただ純粋に読書を楽しんでもらいたいと思っているのが、特別探索司書であるワルツさん。特別なものとなった「読書」という行為や「本」というものを通じて、様々な人間模様を1話完結形式で描き出して行きます。
主人公はワルツさんということになると思うのですが、彼女は言わば象徴的な存在として描かれ、序盤は図書館に訪れる人々の物語が中心。後半になるとワルツさんの物語も描かれるわけですが、そこでようやく「ピリオド」とのつながりが明らかになるという。どこか人間らしさを感じさせない彼女の背景がわかることで、ようやく自分の中で彼女の位置付けがしっくりきて、物語を消化できた感がありました。
大きな流れとしての時代背景がある割に、物語としてどこかに一心に向かっているという感はあまりなく、オチとしても弱いんじゃないかとも感じたのですが、一方で「いつまでも本は死なずに物語は紡がれる」というメッセージに照らし合わせれば、この終わり方が一番正解のような気も。事前に想像を膨らませすぎた分肩すかし感はあったものの、そういった前提で読めば普通にみんな良い話でした。
【男性へのガイド】
→大きな起伏がない所からも、女性の方が受け取りやすい物語構成なのかな、と思いました。
【感想まとめ】
→良い話でした。ただもしかしたら原作小説はこんなもんじゃないのかな、という予感も同時にあるのです。とりあえず、積んであった本の山から小説を探してきましょうか…。
作品DATA
■著者:紅玉いづき/楠田夏子
■出版社:講談社
■レーベル:KC KISS
■掲載誌:KISS PLUS
■全1巻
■価格:619円+税
■試し読み:第1話
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