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Tag [新作レビュー] 2011.03.07
1103024164.jpgあき「アルオスメンテ」(1)


わたしは
お前の夢に棲む“賢者”
おまえの問をを聞こう



■皇帝に仕え、神託を受けることのできる一族の末裔である“エンジェル”ことレグナは、ある夜不吉な夢見をして目を覚ます。そこにあったのは、強い殺意。なんとかして食い止めようと、賢者の夢「アルオスメンテ」を行ったレグナは、夢で出会った賢者に、ひとつの試練を告げられる。それは、皇帝を取り巻く人物たちを、タロットカードの愚者、賢者、魔術師、女教皇、女帝、皇帝、教皇、恋人、戦車、正義、隠者にそれぞれ配置すること。すると、真実が見えてくる。華麗なる王宮に渦巻く人々の想いを描く、王宮絵巻、堂々開幕。

 「オリンポス」(→レビュー)のあき先生の新作です。前作オリンポスは、神の姿を描いた荘厳で美しい雰囲気の漂うお話でしたが、今回も神事っぽい要素を取り入れたファンタジックなお話となっております。ベースはヨーロッパ。主人公は、まだ幼き皇帝の側に仕えるレグナ。神の言葉を聞き伝えることができる「神託」を行うことができる一族の末裔で、いわば占い師のようなポジションの彼。実に真面目で聡明、周りからは「エンジェル」とまで呼ばれる彼が、ある日皇帝に対する強い殺意を映し出した夢を見、その調査に乗り出すことから始まります。夢を見たというだけで、何か確証があるわけではありません。そこで彼は、言い伝えとして聞く、賢者の夢「アルオスメンテ」を試してみることにします。そして見た夢の中、出会った賢者から告げられたのは、一つの試練。その試練をクリアしたとき、真実が見えてくる。命すら落とすかもしれないというその試練を、受けることにしたレグナは、今まで以上に皇帝を取り巻く人物たちを注意深く観察するようになるのですが…というお話。


アルオスメンテ
夢の中で出会う賢者は、自分の中にいる“賢者”の部分。とはいえかなり性格は異なり、扱いづらいところがある。


 前作「オリンポス」はわかりにくくも美しい世界観で、結構な人気を集めていたようです。年末にお世話になった「このマンガ~」でも上位にランクインしており、コアなファンの方が多いことを表していたように思います。今作も、前作のファンの方が買うのだとしたら、安心の世界観に雰囲気。ファンタジックな世界観の中、登場人物それぞれの思惑がぶつかり、やがて一つに集約されていく。またしてもあまり動きのない画ではあるのですが、華やかさと登場人物の多彩さでそれをカバー。飽きさせません。
 
 試練として課せられるのは、与えられた10枚のタロットカードに、見たい真実に絡む10人の人物をそれぞれ当て嵌めなくてはならないというもの。そのヒントはせいぜいカードの種類程度で、どう当て嵌めるかは当人次第。それが正解でないと、願いは叶わないということから、レグナはかなり慎重になります。きっと10人も当て嵌めるように人物たちを探って行ったら、自ずと犯人は見えてくる気がするのですが、それだけで落とさないような気がするのも確か。壮大に見えて、その実緻密で狭い世界で繰り広げられるこの物語。勝負はいかに登場人物たちの想いを交錯させていくかだと思うのですが、10人というのはなかなか期待を抱かせる人数ですねー。静かに美しいファンタジーがお好きな方は、是非とも。


【男性へのガイド】
→支持しているのは女性が多かった気が(女性向けなんだから当たり前か…)。華やかな登場人物たちも、男性メイン。クセのある作品ではないので、読むのに抵抗はあまりないとは思います。
【私的短評】
→安心の出来。アンテナの問題か、その雰囲気に溺れるような感覚を覚えることはないのですが、前作よりも出口がハッキリしている分、個人的には好みでございました。


作品DATA
■著者:あき
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ZERO-SUM(連載中)
■既刊1巻
■価格:552円+税


■購入する→Amazon

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Tag [新作レビュー] 2011.02.12
1103000664.jpg十峯なるせ/高里椎奈「A-presto~ア・プレスト~」1巻


彼の時は止まったのだ


■僕らはずっと一緒に過ごしてきた。いつでも、どんな時でも。。。
 君と仲良くなったのは、初等部二年の時。久方ぶりに同じクラスになって、再び一緒に鼓動するようになったのは、高等部の時だったか。クラスメイトの中でも、ひと際浮き立って見える彼に、連れまわされるようにして、不思議な出来事にクビを突っ込んだのは、今では懐かしい思い出。そして今、全てを忘れてしまった彼のため、僕たちは再び記憶を手繰り寄せる。

 十峯なるせ先生が原作付きで贈る、優しき幻想譚。護衛官のリンが、日毎赴くのは、誰も住んでいない大きなお屋敷。そこの庭先にベンチに佇むのは、小さい頃からの友人・カラク。2人ベンチに佇み、話すのは、高校の頃同じクラスになったときに体験した、たくさんの不思議な出来事に、ちょっとした冒険の話。クラスの中でもひと際浮き立っていたカラクは、唯一とも言っていい友人・リンを巻き込み、身の回りで起こるちょっとしたことに、ついつい首を突っ込んでいたのだ。巻き込まれるリンとしては、良い迷惑。けれども今となっては、良い思い出。自分が死んでしまったことさえも忘れてしまったカラクのため、リンは今日も誰も住まない屋敷に赴いて、思い出を手繰り寄せ始める。。。

 
apresto.jpg
感覚は鋭いが、無神経なカラク。天才にありがちな性格の持ち主。そういう人間には、お人よしの普通の少年がよく合う。


 あらすじを見て頂いてもわかるように、ちょっと不思議なテイストを含んだお話。リンとカラクの2人の青年が、過去を手繰り寄せるように、2人が体験したあんなことやこんなことを語り合うという内容。導入とラストは現在の2人が描かれ、メインは全て回想という形で、少年時代の2人が描かれます。ごくごく普通で、ちょっとだけお人好しのリンと、変わり者で浮き者だけど、好奇心旺盛で頭の切れるリン。そんな2人が体験するのは、身の回りで起こる不思議な出来事。海で拾った人間の足のミイラを探す老婆や、近所のお屋敷で起こったとある事件…噂や不気味な出来事で済ませてしまうところを、好奇心旺盛なカラクは、率先して飛び込んでいってしまいます。しかも勘が鋭く頭がよいものだから、核心に迫ってしまい、事態はややこしいことに…というパターンとなります。

 少年時代の回想で、小さな事件のはじまりから解決までを描き、物語としてひとつの盛り上がりをちょこちょこと作り、さらに大枠で、カラクの記憶が戻らないことを追うという、作り。「記憶を手繰り寄せる」という表現を使っていることから、恐らく回想を繰り返すことで、やがてカラクの死まで辿り着き、時間軸は“現在”と繋がるのかと思われます。まだどうなるかはわかりませんが、原作付きということから、構成は最終的に計算された美しいものになること必至。いかんせん死人を相手にしているからか(失礼すぎる表現)、トキメキや壮大さには欠けますが、その分ゆっくりと流れる時間の中に、不思議さと優しさが浮かび、良い安心感を届けてくれます。
  

【男性へのガイド】
→男二人の関係に萌えるってところに落ち着きそうな分、やっぱり女性向けかと思われますが。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→不思議なテイストのある作品。結構グロい表現とかあるのですが、包む雰囲気でもの凄くキレイに見えてしまうからなんとも。


作品DATA
■著者:十峯なるせ
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ゼロサム(連載中)
■既刊1巻
■価格:552円+税


■購入する→Amazon

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Tag [続刊レビュー] [4コマ] 2011.02.08
1103000665.jpg蒼月ユズ「フローズンアップル」


白雪のこびとカフェ
「フローズンアップル」
皆様のご来店をお待ちしています



■ここは白雪姫が営むカフェ。七人の小人と共に、美味しい料理と紅茶をお届け。そんなこのカフェには、お伽の国の様々な住人が、今日もひとときの安らぎを求めて、訪れるのです。それは王子様だったり、赤ずきんだったり、人魚だったり、マッチ売りの少女だったり…。お伽話の登場人物たちが、不思議に個性的に入り交じる、癒しの園・フローズンアップルで、美味しい紅茶を飲みませんか?

 「最遊記」(→レビュー)シリーズなどで有名な、ゼロサムにて2年間連載されていた、コメディ4コマがこの度単行本化。お金大好き、金の亡者の白雪姫が小人を巻き込んで営むカフェ「フローズン・アップル」が、お話の舞台となります。白雪姫と小人という、童話の登場人物たちが、そのままキャラクターとなったこの作品には、他にもたくさんの童話の登場人物たちが、個性的なキャラに生まれ変わって沢山登場します。どんな物語にも登場する、王子様を筆頭に、お姉様気質の赤ずきんに、ガチムチなマッチ売りの少女。。。そんな個性派キャラ達が織り成す、不思議でかわいい、ドタバタな日常を描いていきます。


フローズンアップル
発売のタイミングでまさかの「わぁい!」ネタ。同じ一迅社だからだと思うのですが、果たしてどれだけの人がわかるのか。というかこの暴走王子がフリーダムすぎてすごいです。


 女性向け漫画誌に連載しているギャグ作品とか、4コマ作品って、徹底して黒く毒々しいネタを落とし込んでくるか、逆に全く毒気がないほんわか無害系の作品の両極端というイメージなのですが、こちらは完全に後者。個性派な登場人物たちを軸に、キャラクターの特徴を前面に押し出して展開していくタイプの作品となっています。キャラを作りすぎているために、半分以上は出落ちなのですが、その中にも、登場を重ねることによって味の出てくるキャラもいたりして、意外と奥が深いのかも。個人的にはお姉さん肌の赤ずきんと、なんだかんだでかわいかった、白雪姫のお母さんがお気に入りでした。
 
 男キャラと女キャラ、大体半分くらいの比率なのですが、表紙では見事に男キャラばかり。ヒロインですら、柱の後ろに隠れてしまっているという。これについてはラストで言及されていたのですが、「女の子が表紙にいるとゼロサムの人がコミックス売れないってゆーから」とのこと。生々しい…!インパクトのあるようなネタは少ないものの、どこか懐かしさと安心感を感じさせる作風で、好きな人は好きそう。また2年間をまとめた4コマということで、お値段の割にボリューミーで、お得感があります。


【男性へのガイド】
→男性に敢えてオススメするような要素はあるだろうか。私は赤ずきんさんでお腹いっぱいですが。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→目新しさやインパクトはないものの、安心感のあるキャラクター4コマ。ひとつの作品のはじまりと終わりを、一冊で見ることができるというのもまた、良いことだと思います。



作品DATA
■著者:蒼月ユズ
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ゼロサム(連載中)
■全1巻
■価格:552円+税


■購入する→Amazon

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Tag [続刊レビュー] 2010.11.03
作品紹介→高山しのぶ「あまつき」
10巻レビュー→さっくりと感想を《続刊レビュー》「あまつき」10巻
朽葉がいなくなって区切りがついたとか…:高山しのぶ「あまつき」11巻
関連作品レビュー→高山しのぶ「ハイガクラ」



1102969088.jpg高山しのぶ「あまつき」(12)


君は一体
何者だ



■12巻発売です。
 帝天に対抗すべく、協力者を増やす努力を始めた鴇時。懸命の呼びかけの甲斐あって、陰陽寮と露草達の協力を得るところまで漕ぎ着けた。そのさなか、夜行が現れ鴇時達に襲いかかる。なんとか夜行と夜行の操る妖を撃退したものの、朽葉と真朱、そして、『本当の銀朱』の体が、夜行の闇の中に連れ去れさられてしまう。戦いの中で負った鴇時の傷も癒え、帝天と闘うため力を蓄える妖と陰陽寮たち。そして、ようやく目を覚ました梵天は…!?


~なぜか買ってしまう新刊~
 いや、もうどこまで続くのかわからんのだから、完結した時にでもまとめて買おうかねとか毎度思ってるのですが、ついつい買ってしまうのですよ。今回はどう考えても朽葉が出ないので、ハードル高かったのですが。前巻あたりまでは、勢力図や関係がかなり複雑になり、現状把握が困難であり、その辺も買いつづける意欲を削がれる要因になっていたのかなという気も。1つの作品だけを追いかけつづけるような人であれば、それでこそ楽しめるのかもしれませんgな、毎月毎月結構な量の作品を読む自分には若干キツいところがあったり。今度一度ゆっくりと全巻読み直して、しっかり考察したいですね。


~なぜだか盛り上がってきた気がする~
 さて、なんだかよくわからない状況が続いていたのですが、そんな私でも久々に物語の状況を把握できる出来事が起こりました。それが、慶喜の登場。そう、徳川慶喜であると思われる、その男の登場によって、やっと「ああ、この作品は大江戸幕末典と幕末を結んだファンタジー作品だったのだな」と思い出せたのです。なんか陰陽寮だなんだと出てきて、表の歴史はあまり登場していなかったので、そもそもの前提を忘れてしまっていたというか。大江戸幕末展は、その名の通り幕末の様子が再現されているという催し。そう考えると、時代として設定されているのは、幕末までの時間ということが予想できます。しかし鴇時のいる世界では、確実に時が進行している。徳川家茂が行方不明となって、慶喜の時代が訪れたとすれば、幕府の時代は終わりとなります。そうなったとき、あの世界はどうなるのか。なんとなく気になるところです。なんて、鴇時たちの直面している問題は、そんな長期的視点で語れるほど悠長な問題ではなく、おそらく直接問題として表面化してくることはないとは思いますが。


~なぜだか篠ノ女にフラグが立っている気がする~
 さて、またもう一つ物語が面白くなってきたのは、梵天が篠ノ女の存在に疑問を抱きつつあること。確かに物語の重要な役割を担うであろう彼が、今のところ鴇時に対して彼が果たした役割は、この世界の案内人としての役割と、精神的サポートのみ。初代白紙の者として、元の世界を知る者としての役割としては、あまりにもったいない活躍です。その立ち位置から考えるのであれば、もっと重要な役割があっても良いはず。そしてそのフラグが、梵天の疑いによって立てられることとなりました。楽しみですねー。まぁそれよりも朽葉がどうなるかが一番気に(ry


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Tag [続刊レビュー] 2010.10.18
作品紹介→*新作レビュー*久米田夏緒「ボクラノキセキ」
2巻レビュー→ますます白熱!《続刊レビュー》 久米田夏緒「ボクラノキセキ」2巻
関連作品紹介→ニュースが繋ぐ、僕らの青春狂想曲:久米田夏緒「NEWS PARADE」


1102957856.jpg久米田夏緒「ボクラノキセキ」(3)


でもそうしたらだめなんだと
思うこの部分が
皆見晴澄だ



■3巻発売しました。
 王女・ベロニカであったという前世の記憶を持つ皆見晴澄と同じように、かつての記憶を取り戻しはじめたクラスメイトたち。しかし、前世での因縁に囚われた彼らは、現実世界と前世の世界を混同しはじめ、やがて混乱・争いをもたらし始める。そんな中迎えた、クラスマッチ。せめてこの時間だけはと、晴澄はクラスマッチに集中させようとするけれど…?息もつかせぬ第3巻、登場です。
 

~誰が誰だか…~
 2巻から爆発的に広がりを見せはじめた、前世の記憶を持つ生徒達。とりあえず、もはや誰が誰だかわからない…(´・ω・`) さすがにメインキャラやクセの強いキャラ、可愛らしい女の子たちは覚えられるのですが、基本的に残念でない「普通の男の子」にはサッパリ興味のない自分にとって、男キャラが増えていくのはしんどい…。いや、良いんですよ瀬々とか大友とか手嶋野とか、その辺は。でも巻頭のキャラクター表を見ても、「え、七浦って誰?てか目黒なんてヤツいた?」みたいな。新刊発売のペースが遅いこともそうなのですが、思っていた以上に広がりを見せる物語に、今までの歩様ではついていけなくなったということを強く実感させられているのでした。とりあえず西園さんかわいいですよね!
 
 
~考察とかしてみたいですよね…~
 考察のしがいがありそうな本作ですが、個人的にはそこまでの気力がないのでパス(すみません)。多分リンク先の誰かがやってくれるでしょう。さて、そんな中何を書こうかというと、やっぱり皆見は異質なんじゃなかろうかという、漠然とした自分の中での印象について。別に今まで彼のことを「異質だ」などと言ったわけではないのですが、巻を重ねるにつれて、自分の中ではその印象が強くなっていました。


~冷静に世界を見つめる皆見~
 前世に翻弄されるクラスメイト達と異なり、非常に冷静な視点で状況を捉えている彼は、ぱっと見非常に頼りがいのある、ある意味主人公然とした男の子に映ります。物語の世界を俯瞰で眺めるようなその視点・立ち位置は、読んでいて非常に心地よいですし、ヘンな暑苦しさがないところが、クールで良い。しかし、物語の世界からさらに離れて見てみたときに、彼の冷静さはなんとも変な感じがするのです。それは、突如として蘇った前世の記憶に翻弄されるクラスメイト達と比較した時に、特に。もちろん皆見は元々前世の記憶があり、その分今の状況を冷静に捉えることができるという考えもあります。でももし自分が皆見の立場にいたら、絶対に逆のベクトルがはたらくだろうなぁ、と。


~前世があるって、結構特別に感じるんじゃなかろうか~
 前世の記憶に支配され、現実世界に混乱をもたらすようになった生徒達が、皆見の視点からは「よからぬ存在」として映るわけですが、この生徒達の反応って、絶対に自然だと思うんですよ。その発露が3巻で特に顕著であったのが、矢沼なのですが、別に現世がつまらないと思っていなくても、前世ってやっぱり特別なのではないのかなぁ、と。この世の中、「輪廻転生」や「前世」なんてものを信じている人がどれだけいるかは知りませんが、「自分には前世があって、こんな存在で、今の世の中ではこんな使命を背負って生きている!」なんてトンデモないことを、なんの根拠もなく信じている人も少なからずいるわけで。そういう人たちに比べたら、彼らの置かれている状況は、多数での共通認識という現実味と、目的が明確という入れ込みやすさから、その思考を支配するには十分過ぎる状況とも言えるわけで。そりゃあそっちに傾くよなぁ、と。


ボクラノキセキ3
結構バカやろう的に描かれていた矢沼ですが、その気持ちはわからんでもないし、多分こう思う人間は結構いると思う。


 もし自分に前世があって、そこそこの身分で色々と強い想いがあったとしたら、そりゃあテンション上がってそっちメインの生活になりますよね?それこそ「自分はこのために生まれてきたんだ!」じゃないですが。それに対しての、皆見の冷静さ。確かに前世王女ですし、前世の記憶ずっとありましたし、色々と振る舞いを考えることができるのかもしれないですが、自分の記憶が正しいと証明されて(半ば自分の存在が証明されたようなもの)、しかも自分は一番の権力者であるという状況に、突き動かされない男などいようものか。不自然過ぎる転生状況の中、自分だけが前世王女で、しかも記憶は前からあったという特別感。これを敢えて抑えようとする彼は、やっぱり何だか変だなぁと。なんてそういえば彼、ベロニカの記憶を持っていたことはあっても、決してベロニカ自身になって行動したことってなかったような。周囲が一気に前世に飲み込まれていく中、自分がベロニカということを明かした時点で、皆見は「ベロニカの記憶を持つ皆見晴澄」ではなく、どこまでも「ベロニカ」として認識されてしまう、いわば自分が周囲の認識から消えてしまうということを、恐れているのかもしれませんね。いや、たぶん挙げだしたらキリがないのでしょうけど。そして、彼がベロニカとしてのスイッチが入った時点で、この物語は破綻を迎えてしまうのではないか、と思います。「前世の記憶を持つ」という視点だからこそ楽しいのであって、前世に支配された世界に、もはや面白みは何もありません。どこまでも、知らず知らずのうちに作品のために働いている、皆見なのでした。
 


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レビュー
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王国の子
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レビュー
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トーチソング・エコロジー
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レビュー
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レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




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レビュー
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