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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2009.04.12
jikannnoarukikata.jpg榎本ナリコ「時間の歩き方」vol.1


時間を変えてしまったんです
そして   
あたしは
時間の流れから
はみだしてしまったのです



■扉を開けると勝手にタイムスリップしてしまう特異体質を持つ果子。けれどそれ以外は、先輩に恋する普通の中学生。そんな彼女の目の前に、突然西暦2446年からやってきた時間旅行者の遇太が現れる。彼は彼女が時間旅行者ではないと知ると、すぐに帰ってしまう。しかし、彼が忘れていった未来の本がきっかけとなり、想いを寄せる先輩が事故で死んでしまう。先輩の死を止めに行く!果子は本を取りに戻ってきた遇太を捕まえ、無理矢理過去に戻ったが   !?

 榎本ナリコが贈る、本格タイムスリップ・ファンタジーです。過去に戻って先輩の死を止めようとする二人でしたが、何度やっても死を止めることはできません。それは、先輩の死が決められたものだからで、どうあがこうと"時間"によって邪魔されてしまいます。それでもなお先輩を救おうと試みる果子は、最終的に、未来の自分が死ぬことで先輩を救うことに成功。しかしそれによって果子と遇太は、時間の流れからはじき出されてしまいます(死なないのは、その日の果子ではなく、未来の果子が死んだため、矛盾が起きるから)。どうすることもできなくなった二人は、とりあえずタイムトラベルをしてみることに。


時間の歩き方
時間に深く干渉したとして、時間から締め出されてしまう。


 "時間"には様々なルールがあって、それを犯すと時間の流れからはじき出されてしまいます。具体的には、「その人自身が存在及び干渉した時間軸にアクセスできなくなる(=ホールド)」という現象が起きます。それ以外は自由に行き来できるので、トラベル自体は続行可能。物語の目標は当然「元時軸に戻る」という所になるワケですが、それを可能にするのが果子の能力(道具に頼らない、生まれ持ったタイムスリップの能力)と、二人が個別にホールドがかけられている(=果子は遇太の時軸に行ける)という設定。ファンタジーではありますが、「都合の良い不思議な力で元通り!」なんてことはなく、あくまで時間のロジックで話を展開させます。だからこそ、面白い。
 
 榎本先生は前作の「世界制服」で針が何本かぶっ飛んだような変貌を見せたのですが、今回は心の準備ができていた分入り込みやすかったです。「世界制服」でも、ギャグとはいえSF的な話を描いており、さらにここにきて本格挑戦ですか。いや、これがなかなか良い出来で驚きでした。
 
 このテの作品といえば「時をかける少女」が有名ですが、こちらの方がよりSF的。設定もしっかりしています。ただかなり時間が入り組むので、消化するのに時間がかかるかもしれません。解説とかあると分かりやすいかもしれませんね。誰かやってくれんだろうか。
 

【オトコ向け度:☆☆☆☆ 】
→タイムトラベルとか、ロジックとかそういう話が好きな方は。ノリ自体は女性向け、けれども男性でも十分楽しめると思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→一歩間違えればイタい感じになりそうですが、しっかり面白いラインをキープ。さすがです。テクニックだけでなく、物語としてどれだけ味付けできるかが、今後の面白さを左右する鍵になりそう。


作品DATA
■著者:榎本ナリコ
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:朝日ソノラマ 眠れぬ夜の奇妙な話コミックス
■掲載誌:ネムキ(2007年7月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:700円+税

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Tag [新作レビュー] 2009.04.07
32229786.jpgTONO「コーラル -手のひらの海-」(1)


誰にも語ったことのない
私だけの海の話
今からあなたに話します



■ここはオシャレな人魚たちを中心に、それを守る兵隊、そして魚たちが暮らす海。厳しい環境ではあるものの、みんな賑やかに、とても楽しく暮らしていた。そんなある日、一人だけしかいない兵隊が死んでしまう。そのため、新しい兵隊が必要に。その兵隊を選ぶように命ぜられたのは、若い人魚・コーラル。彼女が新たな兵隊として選んだのは、まだ幼い少年だった   

 という人魚のお話を語る、入院中の女の子・珊瑚がヒロイン。珊瑚とコーラルという名前から分かるように、語られる物語のヒロインは、珊瑚自身がモデル。そして、彼女が選んだ兵隊は、先日亡くなった、同じ病院に入院していた男の子がモデルになっています。入院中で、かつ家庭環境に問題あり(母親が出ていった)ということで、語られるお話は決して夢や希望のみに満ちた内容ではありません。根源にあるのは、彼女の存在意義みたいなもので、その現状や欲求が、ダイレクトに物語に影響してきます。少女の心を、直接表現するのではなく、空想された物語から読み解いていくというのはなかなか新鮮。比率的には、物語8:現実2ぐらいで進められ、このバランスの取り方も絶妙です。


コーラル
珊瑚の語る物語は、彼女自身の心を写し出す鏡になる。


 幼くして、様々な悩みを抱えるヒロイン・珊瑚。それ故に、時折子供には思えないような発言や物語の展開が。たとえば彼女はサメが好きなのですが、その理由が、「沖の海の事故で漂流したときに、どうせ助からないなら、苦しみに止めを刺しに来てくれるサメはヒーロー」だ、と。この考えも彼女の本源的な想いから来ているわけですが、その要因というのが完全には明らかになっておらず、まだまだ引っぱれそう。
 
 すくすくと快活に育った子の考える物語は、きっと希望に溢れた明るいストーリーになっているのでしょうが、それだとテーマとして成り立たちません。心に傷のある珊瑚紡ぐ物語だからこそ、意味と深みをが与えられる。珊瑚は少しかわいそうな気がしますが、作品を考えると仕方ないのか。表紙だけみて単純なファンタジー作品だと思った方は、読んだ時に、この意外な内容に驚くでしょう。決して子供向けの明るいお話ではないので、むしろ大人が読んでこそって気もします。


【オトコ向け度:☆☆☆  】
→それなりに読みやすいんじゃないでしょうか。モチーフが、病弱な少女+人魚と、女性が好みそうではありますが、それだけではないので。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→好きな人は好き。表紙だけ見て判断してしまった人は、もう一度内容を吟味してから検討してみてください。


作品DATA
■著者:TONO
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:眠れぬ夜の奇妙な話コミックス、朝日ソノラマ
■掲載誌:ネムキ(2007年11月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:600円+税

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
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王国の子
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レビュー
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シリウスと繭
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レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




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レビュー
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BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
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かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
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