このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2013.09.18
1106317123.jpg新久千映「yeah! おひとりさま」


えらく
楽しいな
おい



■ひとりランチ、ひとり焼き肉、ひとり映画、ひとりお花見、ひとりバッティングセンター、ひとりカラオケ…ふたりもいいけど、ひとりは最高!やばい、ひとりって超絶楽しい!!「ワカコ酒」の新久千映が、「ぼっち遊び」の極意、教えます!

 おひとり様女子が居酒屋を楽しむマンガ「ワカコ酒」が巷で静かに話題になっていますが、その作者さん・新久千映さんの「おひとり様行動」にスポットを当てた作品でございます。ひとり映画、ひとり旅といった定番のおひとり様イベントから、ひとり焼き肉、ひとりカラオケというややハードル高めの定番おひとり様イベント、さらにはひとりバッティングセンターや、ひとり牛丼屋など、女子にとっては馴染みの少ないあれこれにも挑戦。勇気が出なくて敬遠しがちな、様々なおひとり様スポットの素晴らしさを、体を張って伝えます!
 
 みなさんはどのレベルまでのおひとり様を経験したことがあるでしょうか?私はひとり映画、ひとりランチ程度で、ひとり焼き肉やひとりディズニーといった上位レベルにはなかなか行けずにいます。とりあえず今狙っているのは、ひとりフリークライミングなんですが…。さて、本作では作者さんが、難しいものから簡単なものまで、計10個のおひとり様イベントに挑戦しています。個人的に一番すげえな、と思ったのはひとり回転寿しでしょうか。自分には到底行ける気がしないです。


year!おひとりさま
周りの目は気にしつつ気にしない。完全に気にしなくなったらダメなのです。恥ずかしさもスパイスなのです。


 誰もが避けるようなお一人様イベントを体験して精神修行するルポータージュかというと、実はそんな内容ではございません。あくまでおひとり様行動は、「楽しみ」であって「苦行」ではないのです。周囲の目が気になるドキドキも、時には楽しむためのスパイスにすらなる。そういったドキドキを乗り越えた時に得られる感動というものは、誰かと一緒に得たものよりも案外大きかったりするのです。男性が少女漫画を買うのだって、そういう部分はあるかもですよ?ちなみに前者(敢えて苦行をするルポ)は、マンガではありませんが北尾トロさんの「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか 」という本がオススメです。バカらしいけどメチャクチャ頑張っているので、なんだかとっても勇気が出るという。

 どのイベントもおひとり様ならではの楽しみ方をしているのですが、いわゆる「一人でやったからこそ楽しい!感動!」というような大きな煽動があるような内容ではありません。感情に訴えかけてくるというよりは、おひとり様ならではの利点をちゃんと書いてくれている、ガイド本的な側面が強い印象です。ひとり焼き肉などは、大いなる納得感でちょっと行ってみたくさせてくれました。
 

yeah!おひとりさま1
そんな中唯一、ひとり酒については「すごい思い入れがあるんだろうなぁ」と感じさせる趣深さというか、語りの丁寧さがありました。これについては「ワカコ酒」を読んでいると納得で、恐らくこれらのテーマの中で唯一作者さんが能動的かつ日常的に行っているイベントだからなのでしょう。こうなるとどうしても「ワカコ酒」の良さが際立つのですが、こちらについても「おひとり様」を肯定的に、かつおひとり様ならではの気まずさ的なものを包み隠さず描く面白さみたいなものがあり、充分楽しく読むことができました。何より、おひとり様行動をする、勇気みたいなものを貰えたのが良かったです。さっそく、フリークライミング申し込んでくるか…。


【男性へのガイド】
→イベントの範疇は違えど、おひとり様の辛さは男女共通…。きになるおひとり様行動があった方へ。
【感想まとめ】
→あくまで前向きにイベントに赴く作者さんはすごいな、と思いました。何事も、楽しむ気持ちが大切なんですね。


作品DATA
■著者:新久千映
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:ASAHI COMICS
■掲載誌:不明
■全1巻
■価格:720円+税

スポンサーサイト



カテゴリ朝日新聞社コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2012.03.04
1106123821.jpg赤美潤一郎「あかりや」(1)


それでもいつか私にも
魂が宿ったら…いいな



■何かの欲望を抱く者の前に突如現れるという「あかりや」。この店では、どんな願いも叶えるという普通とは違う、特殊な“あかり”を売る…。その“あかり”を手にした者の運命は…。あなたの願い、この”あかり”が叶えます。照らすのは、希望?それとも絶望…?

 久々にネムキの作品のご紹介です。赤美潤一郎先生が描く、とある「あかりや」のお話。どこかにあるが、どこにもないそのお店“あかりや”は、欲望を持つ人間の前に突如現れます。普通の照明とは異なる、お客の願いを叶える特殊で様々な“あかり”を提供。死者の世界への道を開く“死人のランプ”、その人の本音を全て聞くことができる“真実のランプ”、見えないものが見れるようになる“不可視可視のあかり”…古今東西、その効用は様々です。そのあかりを手に入れた者は、その道具を使って希望を見るのか、絶望を見るのか。。。切り盛りするのは無愛想な男と、ひょんなことから店員になった女の子の二人。まるで正反対の性格の二人が、“あかり”を手に入れたお客のその行く先を見届けます。
 
 作者の赤美潤一郎先生は、商業誌で言うとスクウェア・エニックスで活動をされている作家さんで、そちらでも主にオカルト色の強い作品を描かれているそうです。こちらの掲載誌「ネムキ」はまさにそういった作品ばかりが展開される雑誌ですから、まさにうってつけという活動場所なのかもしれません。


あかりや
あかりやには、ここを訪れた客の欲望を叶えるあかりが必ずある。但しその結果訪れる未来までは補償しない。あくまで必要とされるものを売るだけです。店主はそのことを分かっているけれど、店子はあまりわかってないご様子。


 物語は1話完結形式で進行。あらまし紹介でわかる方もいるとは思いますが、所謂「願いを叶える道具と、その使いよう」を描いたお話で、使い方を間違えると途端に地獄へ…というような、割と救いのない話もちらほら。半ば異常とも思えるような欲望であったり、ちょっと聞くと気持ちの悪くなるような悪趣味な趣向を持つ者が登場したりと、オカルトホラー色強めです。ただ結末として、ちゃんと希望のあるお話か、そうでないものかはハッキリとさせてくれるので、読み終わっての言いようのないやるせなさみたいなものは感じることはありません。純粋に物語を楽しめたという感覚。
 
 また救いのある話は個人的にはどれもかなりお気に入りでした。“あかり”というのが暗闇の中で使われるものであるように、例え希望のある話でも、それは多くの絶望や不条理の中に浮かぶもの。その対比があるからこそ感動できるのかな、とも思います。特に「渡りの光」のお話はちょっと泣きそうになりましたもの。その物語の内容に似つかわしくなく、意外とデフォルメキャラの描き出しがやたらとかわいかったりと、変な所にギャップがあって面白かったです。これもまた、魅せる手法の一つなのかもしれません。人物画は冬目景先生っぽい雰囲気です。
 
 なおあとがきに書いてあったのですが、この1巻が出るまでの間に20回以上も入退院を繰り返されていたそうです。なんとも厳しい状況の中産み落とされた本作、時間はかかりましたが、その時間に見合うだけの内容になっていると思います。面白かった!2巻が出るのがいつになるかはわかりませんが、オススメですよ!



【男性へのガイド】
→作者さん自身男性ですよね?(追記:女性とのこと。びっくり。)ならばやっぱり。またこのレーベルはそもそも男女共に読みやすい作品は多いと思いますよー。
【感想まとめ】
→これは面白かったです。良い作品を読ませて頂きました。あれやこれや心が晴れないものも落とし込まれていますが、そういうのもまた一興。闇に光る一筋の光、という意味合いでもこの作りは秀逸だと思います。


作品DATA
■著者:赤美潤一郎
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:ネムキ
■掲載誌:眠れる夜の奇妙な話
■既刊1巻
■価格:600円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「ネムキ」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2010.10.24
作品紹介→*新作レビュー*榎本ナリコ「時間の歩き方」




1102972215.jpg榎本ナリコ「時間の歩き方」(2)


オレは
君の心を
傷つけた
ごめんよ



■時間の行き来をくり返し、とあるきっかけから時間に弾かれて、時空を彷徨うことになった果子と未来人の遇太。元の世界に戻る方法を探すため、遇太が訪れたのは、時間の流れぬ亜空間にある、時間刑務所。そこには、時間旅行で禁止時効を犯した時間犯罪者たちが、数多く収容されている。「刑務所」という響きからくるイメージとは異なり、内部は静寂に満ちている。そこで出会った、看守の男の話を聞いた二人は…


~1年半ぶりの新刊~
 実に1年半ぶりの新刊、「時間の歩き方」の2巻が発売になりました。榎本ナリコ先生が体調を崩されていたということもあり、これだけ新刊の発売が遅れてしまったようです。相変わらず時間のルール、移り変わりなど、状況の整理は読んでいて非常に大変ではあるのですが、イコールでそこまで詳細に作り込まれているということでもあるわけで、読んでいて同時に非常に楽しい作品でもあります。今回遇太たちが訪れたのは、時間の流れることのない「亜空間」にある、時間刑務所。何かしらの時間ペナルティを受けた者(時間によるものではなく、ルール違反による人為的なペナルティ)が収容されるこの場所に、遇太の父親がいるのではないかという思惑から、訪れたのでした。しかし、突入早々に問題発生。そこの看守と偶然はち合わせてしまい、展開は思わぬ方向に。彼の企みを黙っていることと引き換えに、自分たちの突入を見逃してもらうという交渉を経た後に、彼のとある計画とその背景が明らかになってきます。2巻は果子と遇太の物語ではなく、その看守と、とある一人の作家の人生を巡る物語が描かれていきます。


~時間軸が違う者同士が交わること~
 いつの時代も、人と人が交われば、そこに少なからず、「想い」が生まれる。しかし時間軸が違うもの同士が交わることは、後々に大きな影響を与えかねないということから、それは人の手によって強く禁止されています。未来のとある時点までを「確定事項」とするのであれば、その過程を変化させてしまうのは、あまりに影響が大きい…とかいう理由だと思います。でもその「未来のとある時点」を最後の最後まで伸ばし続けていったら、はじまりから終わりまで、全てが決まっているという風に考えることもできます。自分たちが生きている今は、未来人からみたら確定事項であり、ある意味全ては決まっている…なんて運命論的なお話を。。。ってあれ、なんの話でしたっけ?
 

~時間に囚われるのか、想いに囚われるのか~
 そうそう、タラベルのお話です。100年前にタラベルし、そこで出会った女性と、深く関わるではないにせよ、顔なじみのようになってしまった。これ以上の深入りは危険と、タラベルする時を、5年後に指定して飛ぶのですが、それが思わぬ結果を呼び込む形に。



時間の歩き方2
5年も覚えていてくれた

 
 彼女・月乃の時間では5年、しかし作家・長雨の時間では1日も経っていませんでした。万事を期して、5年後に設定したものの、それが結果として彼女の想いを加速させてしまった。中途半端に同じ場所を指定してしまったのが運の尽き。期待はしていなくとも、場所まで変えることができなかったのが、男のなさけなさとだらしなさを表しているようで、なんとも切ない。罪悪感は、きっと計り知れないものであったでしょう。読んでいるこちらまでツラく、切なくなってしまいました。そして時間管制局に捕まってしまうのですが、その時の彼の台詞がなんとも
 
オレは
キミの心を傷つけた


 いかにも作家らしい、キザな台詞。しかし、彼女の心はその時点でそこまで傷ついているわけではありません。それでもこう、言わざるを得なかった。それは、彼がどこまでも罪悪感を抱いていたからなのではないかなぁ、と思うのです。その後彼は、50年間もの間を、刑務所で眠ったまま過ごすことになります。犯した罪に比べて、余りに重い刑期。それは、あれから50年もの間、月乃が長雨のことを覚えていたからでした。それはむしろ、時間に囚われているというよりも、想いに囚われているという状況。なんとも素敵で、そしてなんとも残酷でありました。
 

~相手の命に自分の人生を託す~
 刑期は、月乃が長雨のことを忘れるまでということだったのですが、現大女将の回想を見る限りでは、月乃は死ぬまで長雨のことを忘れていませんでした。結果的に刑期は、彼女が死ぬまでと同じ期間ということになり、彼女の想いを捉え続けている時間を、長雨は刑務所で体感(と言っても寝てるだけ)することになります。しかしこの刑期、どうやって算出しているのだろうか、と思うわけですよ。ただ覚えているだけであれば、それは犯罪にはなりません。だって再会したらば、月乃は途端に長雨のことを思い出したのですから。今回彼が捕まったのは、月乃に想いを寄せられてしまったから。そしてその刑期は、月乃が死ぬまでの間でした。ということから考えられるのは、月乃が50年間も彼のことを思い続けていたという可能性…は薄くて、多分本線は、何か重大な関わりを持ってしまって以降の記憶の保持期間は刑務所入りというもの。しかしながら、記憶消去しても残るほどに強烈な記憶は、絶対に死ぬまで忘れないわけで、つまりこの手の犯罪の刑期は、干渉した相手の余命に関わってくるということになります。そう考えると、なんだか不思議。自分の人生のその後を、相手の人生に託すわけですから。


 そうそう、ちなみに昨日今日と、舞台になっている伊香保温泉に行ってきたのですが、いい感じに萎びた温泉街でなかなか楽しかったです。茶色が濃い、鉄っぽいお湯でしたが、よく温まれました。なんだかタイムリーで、温泉街の思い出がいい感じに脚色されました。まぁあんな若くて可愛い女将はいなかったわけですが(笑)



■購入する→Amazon

カテゴリ朝日新聞社コメント (3)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] [新作レビュー] 2009.12.07
32349401.jpg岩岡ヒサエ「星が原あおまんじゅうの森」(1)


ここを守ってくれ
ここは私の居場所だ
ここにはお前がいるから
私の居場所になるんだ



■星が原には、風のよく通る大きな森があった。住宅街の真ん中で、そこだけこんもりと緑をたたえており、子ども達の間では神様の森だとか、おばけの森だとかいう噂が絶えない。そんな森の奥に、ひっそりと佇む一軒家。そこにはひとりの男が、かわいらしい精霊たちと共に暮らしていた。彼の仕事は、誰かの手助けをして、スタンプカードにスタンプを押して貰うこと。そんな星が原の雑木林に、一羽のニワトリが迷い込んできたけれど…?

 『土星マンション』で話題を集める岩岡ヒサエ先生の、ネムキでの連載作になります。喪失と再生、かなしみとやさしさが行き交うファンタジック巨篇ということで、物語の始まりは謎が多いままに進んでいきます。話のスタートとなるのは、飼い主に捨てられてしまったニワトリ・キイロのお話。星が原の公園に捨てられたキイロは、追いかけてくる子供から逃げるうちに雑木林にあるお屋敷にたどり着きます。そこで出会うのが、そこに住む人間の青年・蒼一と、一緒に暮らす精霊たち。この雑木林一帯は不思議な空間で、動物や植物、道具や自然現象などが具現化、精霊として姿が見えるようになります(見える人には)。そんな場所で、たどり着いた精霊たちの手助けをし、その見返りとしてスタンプカードにスタンプを押して貰うという謎の行動をとっている家主の青年・蒼一。そんな不思議な人と精霊、不思議な森を描いたこのお話は、おとぎ話のような優しさと残酷さを含み、なんとも独特の風合を持ったストーリーが展開されています。


星が原あおまんじゅうの森
一見人間のような姿の精霊もいるし、動物感たっぷりの精霊もいる。基本は2足歩行で、みんな性格は明るくおちゃめ。


 スタンプカードを中心に、青年・蒼一と精霊たちとの触れ合いを優しく描いていくのかと思いきや、途中から物語の核心を明らかにするような回想が挟入れられ、おおよその枠が明らかに。蒼一に想いを寄せる女性(のような)の神がおり、その神に想いを寄せる、少年のようなもう一人の風の神が登場。蒼一に嫉妬した少年の神は、以来蒼一に徹底した悪意を持って攻撃を仕掛けるように。その圧倒的な悪意と力とよって、多くのものを失った彼は、再生のためにこの雑木林にとどまり、今の生活を始めるようになります。帯にて“喪失と再生”“かなしみとやさしさ”というワードが踊るように、優しさ一辺倒の暖かいお話ではなく、時にどうしようもない悲しみや悪意、不条理を投入しつつ進行。主人公・蒼一の物語はほぼ決定的なだけに、あとは蒼一に肩入れする神と、蒼一を攻撃している風の神の間にどう物語を作っていくのか。もしかしたら、意外と早めにまとまっちゃうこともあるかも。
 
 何はともあれこの独特の空気感はそうそう簡単に作れるものではないでしょう。説明は少ないものの、するべきところはしっかりしてくるので、わかりにくいということもありません。クセというか独特の作風がどう受け取られるかがポイントだと思うのですが、果たして。個人的には、優しさから描く幾つかの物語が抜群にハマったので、期待したいなとは思うのですが、2巻ではどうなるんでしょうね。


【男性へのガイド】
→おとぎ話(非ロマンチック)のような優しさと切なさを持った作品。男女差はさほど影響ないと思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→すずらんの話とかベタなのに涙目になっちゃったよ…。やや独特の作風であることと、2巻以降の展開がどうなるかわからないのでこのくらいに。いや、5つでも良かったかなぁ。


作品DATA
■著者:岩岡ヒサエ
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:眠れぬ夜の奇妙な話コミックス
■掲載誌:ネムキ(2008年9月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:600円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「ネムキ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] 2009.08.10
32290265.jpg川原由美子「観用少女」 I


そうだった
ぼくは少女に
“天使”を見たんだ



■“名人”の称号を持つ職人達が、丹誠込めて作り上げた“生きる人形”それが観用少女。日に3度温めた上質のミルクを飲み、肥料として週に1度砂糖菓子を食べる。トイレ・着替え・入浴も自力で可能だが、言葉を発することはほとんどなく、意思の疎通は表情とジェスチャーで取る。そして品質維持の際に、一番重要な要素となるのが、持ち主の愛情、愛情を感じることが出来ないと、途端に元気がなくなり、やがて枯れてしまう。しかしたっぷりの愛情を注いであげると、極上の微笑みを返してくれる。その微笑みのために人々は、ありえないほどのお金を使い、彼女に愛情を注ぎ続けるのだ   

 各所で評判が良く気になっていたのですが、今回完全版が出たということで購入してみました。なるほど、これは面白いですね。極上の環境と、持ち主の愛情を糧に生きる観用少女。そんな観用少女たちをめぐる、持ち主たちの人間模様を描いたオムニバス作品となっております。最初はロリコンチックな方面で、少女の美しさに溺れていく男達の悲哀を描いていく作品なのかな、なんてイメージしていたのですが、後半に進むに連れてそういった要素は薄くなってきて、むしろ人間同士の感情の触れ合いに重きを置いて描かれるようになっていきます。この使い方がまた絶妙。独特の世界観でありながら、描かれる核となるのは非常に身近な感情で、そういった舞台設定を用意するからこそ際立つのかな、という気も。ってまだ1巻しか読んでいないので何も言えないのですが。


観用少女
美しさだけじゃない。与えた分だけ、笑顔を、愛情を返してくれる。だからこそ人々は彼女達に夢中になる…と思うんです。


 この観用少女、人間のようで人間でないという設定がある時点で、すでに夢物語のような存在なのですが、その性質がまた、人間達の欲求を具現化したような存在だなぁ、と。観用少女は持ち主の愛情を糧にして生きるのですが、それに足るほどの愛情を持ち主に還元してくれます。この関係が、実に理想的な夢物語。自分の注いだ愛情が全て受け取られ、それが形となって100%返ってくる。人間相手の実生活では、まずありえないシチュエーションです。愛情を注いでも、それを受け取ってくれるとは限らないし、それを返してくれるとは限らない。そんな世知辛い世の中で、自分の注いだ愛情を、そのまま全額返してくれる観用少女の存在というのは、まさに天使のような理想の存在。彼らが観用少女に大枚をはたくのは、なにもその見ための美しさだけではないのだな、という風に感じました。だからこそ、観用少女と人間、1対1の物語だと、優しくも残酷なお話になってしまうわけで、そうならないために人間を複数用意して、様々な感情を描くのだな、と勝手に納得してしまったのです、はい。なんかよくわからない説明ですね、すみません。とりあえず一読の価値はありますよ、ということです。


【男性へのガイド】
→マンガ好きに贈る作品って感じかな。好き嫌いは別として、男性でも読めると思いますよ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→評判の良さに納得。なかなかボリューミーな内容になっていますし、800円でもお買い得感があります。


作品DATA
■著者:川原由美子
■出版社:朝日新聞社
■レーベル:ソノラマコミックス
■掲載誌:眠れぬ夜の奇妙な話(1992年Vol.10,1994年Vol.18),ネムキ(1995年Vol.23~)
■既刊1巻(全3巻の予定)
■価格:800円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「ネムキ」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。