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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.05.18
1106276656.jpg穂積「さよならソルシエ」(1)


生涯忘れることのない
たった一度の出逢い
それはまるで運命だ



■19世紀末、パリ。ひとりの若き天才画商が、画壇界を席巻していた。彼の名前は、テオドルス・ファン・ゴッホ。のちの天才画家である、フィンセント・ファン・ゴッホの弟…。世界はまだ、ゴッホを知らない。そして世界は、いまだに、その弟の成し遂げたことを知らない。放浪の画家と、智略の画商、兄と弟。二人のゴッホの絆と確執、宿命を鮮やかに描く伝記ロマン、ここに開幕!!

 デビュー単行本「式の前日」(→レビュー)で昨年話題を攫った穂積さんの新作でございます。2作目にして近所の書店では最前面で平積みされていて、びっくり。本作もすでに各所で話題を耳にしており、発売が非常に楽しみでした。さて、そんな最新作で描かれるのは、あの画家として有名なフィンセント・ファン・ゴッホと、その弟・テオの物語。史実をベースにしたストーリーとなっており、物語の視点は、画家の兄ではなく、画商として彼を支えたと言われる弟・テオを中心として展開されていきます。
 
 物語は1885年のパリを舞台に始まります。芸術の街として有名なパリですが、この頃の芸術はあくまで上流階級のための文化。一般市民は芸術に触れる機会はなく、芸術界も“美術アカデミー”がトップに君臨する保守的な体制で、自由な発想を持つ若手画家達は作品を世間に発表することもできず、燻っているのでした。そんな美術界で最近話題になっているのが、“若き天才画商”と謳われるテオ。一流の画廊であるグーピル商会のモンマルトル大通り店の支店長として活躍する彼は、その立場上、一見体制派に見えるものの、「新しい才能を世に送り出したい」という考えを持つ反体制派の気概を持った人物。そして、彼にとっての"送り出したい新しい才能”の一つに、兄であるフィンセントの絵があるのでした。そんな彼に呼び寄せられ、フィンセントはパリへ上京してくるのですが…。


さよならソルシエ1
表紙で描かれているのはテオ。すごい切れ者で、野心家として描かれています。

 
 ゴッホといえば、生前には全く評価されず、死後になってようやくその才能が認められたというエピソードが有名ですが、同時に弟のテオの手厚いバックアップがあったことも有名なお話。ゴッホは自画像から、そしてテオはあのエピソードから、暗くてちょっと病んでいる兄と、献身的な弟…なイメージだったのですが、本作で受ける印象はそれとは異なるものでした。まずテオは、その風貌からもわかるように非常にキレる人物で、優しさよりも賢さと野心が前に出たようなキャラクター。そして一方のフィンセントは、感受性豊かで非常に穏やかな性格の変わり者。兄弟でありながら、特技も特徴もまるで正反対。そしてお互いに、お互いの才能を認め合っていて、良好な関係が築かれていきます。
 

さよならソルシエ
一方のフィンセントはこんな感じ。マイペースで自分の世界を持っているような人物。


 物語は、保守的な画壇に一石を投じようとテオがあれこれ画策することで動きを見せていきます。フィンセントはそれに巻き込まれるような体になるのですが、テオの行動の奥底には、兄を世に送り出したいという願いが。そして一方のフィンセントも、才能を持ちながらテオに生かされているという状況で、二人の関係性は微妙なバランスの元成り立っています。この関係性が、果たしてこの後どのように変化していくのでしょうか。
 
 大枠は史実に基づいて描かれているので、二人が迎える結末は決して明るいものではないでしょう。とはいえそういったやるせなさの中に一筋の希望を見出す描き方は、前作「式の前日」でも用いられていたので、このわかりきった結末への道程をどう彩るのか、注目したいところ。またゴッホ兄弟は手紙でしばしばやりとりをしていたので、その時々でどのような生活をしていたのかが細やかに残っているのですが、パリ時代は二人が同居していたということもあり、手紙が残っておらずどのような生活を送っていたかは不明のようです。そのため物語を描く上での自由度は高いのかもしれません。Amazonのレビューは史実との違いを指摘しているものが多いですが、逆に言えばそこぐらいしか突く部分がないわけで。私は二人の生涯をそこまで知らないので、既にワクワクしながら物語を読んでおり、読者の知識背景が、評価の分かれ目になるのかもしれません。

 
 前評判に違わぬクオリティで、重厚感ある物語に仕上げてきております。これからより二人の絡みが多くなるであろう2巻で、どのようにお話が動いてくるのか、非常に楽しみです。



【男性へのガイド】
→恋愛要素は今のところ一切なし。青年誌で連載していても違和感ない内容で、これは男女問わずおすすめできます。
【感想まとめ】
→上半期新作の中でも出色の出来。今年も話題になることは間違いなさそうで、是非ともチェックしておいて欲しい所。


作品DATA
■著者:穂積
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:flowers
■全1巻
■価格:429円+税


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Tag [続刊レビュー] 2013.02.04
作品紹介はこちら→*新作レビュー*水城せとな「失恋ショコラティエ」
2巻レビュー→徐々に他のもので浸食されていく、爽太のチョコへの想いがどうしようもなく面白い物語を生む《続刊レビュー》「失恋ショコラティエ」2巻
3巻レビュー→恋をするからこそ飛び出す、迷言&名言集:水城せとな「失恋ショコラティエ」3巻
4巻レビュー→諦めるための恋愛思考:水城せとな「失恋ショコラティエ」4巻
5巻レビュー→前向きな失恋と正しい恋愛:水城せとな「失恋ショコラティエ」5巻
関連作品紹介→水城せとな「黒薔薇アリス」
恋の予感に、脳内会議は紛糾!?新感覚ラブパニック:水城せとな「脳内ポイズンベリー」1巻



1106237857.jpg水城せとな「失恋ショコラティエ」(6)


まぁそれもらしいっちゃらしいし
最後に振り回されとこう



■6巻発売しました。
 人妻になったサエコを今でも想い、彼女の好きなチョコレートを作るショコラティエの爽太。えれなの失恋を目の当たりにし、自分の恋にもケジメを付けようと決意する。サエコにフラれ7年が過ぎた今、ついに行動を起こすときが訪れた。爽太の思いがけない告白に、彼女は意外な反応を見せて…!?
 
 
〜えれなに決めた爽太〜
 6巻発売しました。もうすぐバレンタインですが、貰えそうなアテはありますか?女性は、あげる相手はいらっしゃるでしょうか?私は去年、会計後居酒屋のお兄さんにチョコを貰っただけで、プライベートではなかなか…。現実ではなかなか無縁なバレンタインですが、作中ではショコラティエということもあり、バレンタインを契機に物語も大きく動いて行きました。
 

失恋ショコラティエ6−1
 それが、爽太の決意。ついにサエコへの想いを断ち切り、えれなと共に歩んで行く事を決めます。もうね、6巻はこの瞬間が一番幸せでしたとも。その後はちょっとモヤモヤする場面が多くて…。この瞬間のえれなはとても可愛かった。
 
 そのためには、サエコへバレンタインで改めて想いを伝え、キレイにフラレなくてはなりません。キレイにフラレるために、今までストーカーのように貯め続けた彼女のチョコの嗜好についてリサーチし、彼女のためだけのチョコレートを作り出します。正直引かれるレベルで気持ち悪いです。けれども自分のため続けた想いをぶつけるには、そしてフラレるためには、このやり方が一番。そしてついに迎えた、決戦の日。



〜告白するも…〜
 告白をするも、明確に「付き合って欲しい」とも言わなかったので、これといった返答も貰う事ができず、うやむやなままに。挙げ句キスまでしちゃうっていう。あー、これダメなパターンですわ。そりゃあそうですよ、これまでこのお話で、爽太の思惑通りに進んだことって一度もないのですから。結局何も進展がないまま、迎えたのはホワイトデー。そして、あのラスト。さて、これはどう転がるのか…。
 
 展開として、サエコに想いが通じて幸せに…というのも無くはないと思うのですが、今回の場合、その過程がどうにも幸せな方向に転がるように見えないんですよね。というのも、サエコも爽太が好きで飛び出してきたというよりは、今の夫に不満がたまった結果出てきてしまったという感じで。こういうのって、結局元さやに戻るか、関係解消して全く別の人と…ってなる展開が多いような。少なくともときめきが見受けられない中で、明るい未来は展望出来ないかな、と。もちろんえれなとの関係も、出発点は失恋者同士ということで決して健全なものではないですが、互いの感情を理解しあい、お互い想いを断ち切った上で向き合おうとしている分、好意的に見れるかなぁ、と。
 
 なんて、個人的には爽子の相手は薫子さんでいいじゃない、と思っていたり。ビジュアル的にはサエコさんやえれなの方がしっくりきそうなものの、いや爽太みたいにヘタレで優柔不断な人は、年上であれこれ面倒見てくれる人の方がきっと良いですとも。今回のあられもない夢とか、
 

失恋ショコラティエ6−2
サエコさんとのキスを目撃してしまうとか、報われないヒロイン感がすごい。爽太の相手候補のうち、唯一内面が良く描かれる人であるためか、どうしても彼女に入れ込んでしまうのです。


〜まつりちゃんにイライラ〜
 そんなもやもやする展開が繰り広げられている横で、個人的にはさらにモヤモヤする出来事が。それが、まつりちゃんの元カレ事件。元カレの部屋にまつりちゃんの私物が残っていて、それを取りに行く、というもの。「なんでも無いから大丈夫」なんて言う彼女の姿に、とってもイライラ。「信頼してるから、大丈夫だから言う」なんて言葉では言っているものの、それを言っちゃう時点で自分の信頼度を下げているんですよね。前の恋を断ち切って今の恋に夢中なのであれば、邪魔者が入り込む余地は与えないはずで、「捨てておいて」とか、「着払いでいいから荷物は郵送して」とか、取りうる選択肢は色々あるはずなんですよ!それを敢えて「直接取りに行く」って言うのは、少なくとも未練があるか、タダのアホかのどっちかしかないわけで、オリヴィエがあれだけ不機嫌になるのも至極納得なのでした。
 

失恋ショコラティエ6−3
 しかしそこで「自ら乗り込む」なんてことを選択する彼は、王子様ではないかもしれないけれど、やっぱり凄いなぁと。自分だったら頑なに「行くな」としか言えなそうです。あとこれは完全な余談ですが、つい最近、私の女友達が全く同じ状況になり、まんまとやられていまして、それに重なって余計にイライラしてしまったのかも。彼女にオリヴィエみたいな男性が現れる日は、来るんでしょうか…。
 
 
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Tag [続刊レビュー] 2013.02.02
作品紹介→吉田秋生「海街Diary」
4巻レビュー→何が良いか悪いかは、わからないけれど:吉田秋生「海街Diary」4巻




1106229232.jpg吉田秋生「海街diary(5) 群青」


あんなありがたいことはなかったちゅうのに
後悔先立たずやな



■5巻発売しました。
 お彼岸の頃、香田家に響いた一本の電話。それは、すずの叔母と名乗る女性からのものだった。ずっとすずを探していたという彼女。会った事も無い親類の登場で、戸惑うすずに三姉妹は…。家族の「絆」と美しい鎌倉の景観を情緒豊かに描いた、大人気シリーズ第5巻!
 

〜鎌倉観光をしてきた話〜
 去年の秋口頃に鎌倉観光をしてきたんですが、江の電に乗ってちょこちょこと各駅に降りて、散策をしてきました。別に聖地巡礼的な目的で行ったのではないのですが、結果的にこのお話の舞台となっている駅にも降り立つことが多く、その上で物語を読み返してみると、情景が浮かんできてより味わい深さを感じられたり…。スマホに写真が残っていたので、ちょっとだけアップを…(あんまり誰かに見せる機会もないので)
 


IMG_0434.jpg
江の電で鎌倉駅を出発



IMG_0422.jpg
由比ケ浜の海辺



長谷
長谷駅。ここに風太が住んでいるんでしたっけ。大仏様を見に行く観光客がたくさんでした。



IMG_0471.jpg
極楽寺駅


 極楽寺はすず達の最寄り駅で、作中でも度々この駅舎が描かれています。この駅は本作だけでなく、人気ドラマの「最後から2番目の恋」の舞台にもなっていて、その聖地巡礼の観光客の方が非常に多かったです。周囲を見ても、山に囲まれた何も無い静かな場所、という感じなのですが、駅の人の出入りはたくさん。特に30代〜40代と思しき女性の姿が多かったです。行ったのは休日なのですが、平日はまた違った感じなんですかね。ちなみにドラマの「最後から2番目の恋」も、なかなか面白かったですよ。



〜すこし引いた視点から眺め考える“死”〜
 さて、ゆっくりと巻を重ねて4冊目となった本作。今回は叔母が突然現れたりと、相変わらず何かしらの出来事が多い状況にありましたが、その中でも個人的に印象に残った出来事といえば、海猫食堂のおばさんが亡くなった事でしょうか。やたらと人の死や別れというものがクローズアップされがちなイメージのある本作ですが、物語の中で人が亡くなるのはそう多くありません。すずの場合両親がすでに亡くなっており、それに際しての感情の揺れ動きというものは多分に描かれることはありましたが、今回は一歩引いた位置から、人の死に関わることになりました。
 
 彼女の場合、一度父を亡くしているからか人の死の匂いというものに敏感で、今回もおばさんの薬を見て即座にそれを察知。以後、人の死と向き合わざるを得なくなります。人の死と向き合う事というのは非常に重く疲れることですが、様々な人の様々な対応・姿勢を見て、彼女自身得たものも大きかったのではないでしょうか。お金を通して死を見つめる佳乃、ナースとして直に向き合う幸、そして中でも、病気のことを知りつつも気丈に振る舞ったマサ。彼の姿が本当に意外で、今回めっちゃ株が上がりましたよ。みんな色々と考えながら生きているのだなぁ、と。
 
 おばさんが亡くなったダメージは、さすがに特に近しい存在というわけでもなかったので、大きなものではありませんでした。そしてこんな事実に勇気づけられるのです。
 

海街Diary
お店の味はひきつがれる


 おばさんは亡くなってしまいましたが、このようにして、彼女の生きた証が残されるのでした。これは何もレシピに限ったことではなく、例えばすずと香田家3姉妹とのつながりも、彼女達の父親が生きた証であるわけで。人の死は、必ず何か形を残すものなのでしょう。それがどういう形で残るかは、その人がどのように生きてきたかが出る、と。さて、自分はどんな形になるのでしょう。
 


〜それぞれの進路を決める友情〜
 物語の中盤〜後半では、オクトパスのメンバー達がそれぞれ自分の進路についてあれこれと考えを巡らせている状況でした。サッカークラブですから、専らの悩みはやっぱりサッカーなわけで。中でもサッカーにおける「自分の進むべき道」について悩んでいたのが、すずと多田くんでした。すずは「高校ではサッカーをしない」、一方の多田くんは「オクトパスをやめる」という決断をそれぞれしましたが、どちらも友達の説得によって撤回されました。多田くんには、風太が物腰柔らかい等身大の言葉で説得をし、すずには、同じ女子メンバーであるみぽりんが、すずに憧れている子どもの話をして説得。どちらも彼・彼女らしい説得の仕方で、二人とも本当に良い仲間を持ったものだ、と感動しました。進路に、多大に友人の意見が影響してくる、こういう関係、すごく好きです。
 
 そんな中5巻を迎えるわけですが、さて、また1年後ぐらいですかね。何気に佳乃さんの恋模様が(恋愛になるのかも含め)気になるのですが、やっぱりなにより気になるのは長女の恋模様ですわ。色々と考えすぎ、背負いすぎな彼女も、そろそろ目一杯幸せになっていいはず。そろそろ本作でも、温かいだけではなくで、楽しい嬉しい展開が見たいところです。



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Tag [続刊レビュー] 2013.01.19
1巻レビュー→自分が幸せになれないと決め込んでいるあなたへ:西炯子「姉の結婚」1巻
2巻レビュー→“なりたい自分”と“なりたくない自分”:西炯子「姉の結婚」2巻
作者他作品レビュー→笑いと涙の芸道一直線コメディ!:西炯子「兄さんと僕」
崖っぷち28歳とロリふわ22歳の凸凹婦警コンビが行く!:西炯子「ふわふわポリス」
オトナの情事×コドモの事情:西炯子「恋と軍艦」1巻
「娚の一生」2巻
恥ずかしい青春全開の弓道部ライフ:西炯子「ひらひらひゅ~ん」




1106218120.jpg西炯子「姉の結婚」(4)


愛じゃダメなの
愛では生きてゆけないの



■4巻発売しています。
 40歳を目前に控え、はじめて正式なプロポーズをされた岩谷ヨリ。結婚するのか、しないのか。真木との関係は続けるのか、終わらせるのか?ヨリが辿り着いた結論は…。悩み、迷う、女性たちに贈る、アラフォー男女の恋と人生、第4巻!!
 

〜4巻発売しています〜
 3巻のレビューをしていなかったので久々の記事になりますね。追って読んでいたのですが、なかなか重たい雰囲気になって参りました。3巻で川原さんがヨリに正式にプロポーズ。そしてヨリが選んだ答えは…
 

姉の結婚4−1
結婚する


 別に川原さんと結婚したいわけではなく、ただただ今の“愛人”という立場に耐えられなかった。これもまた、真木の妻になりたいという想いが根底にあるわけではなく、現在の宙ぶらりんの状態から脱却したいから。そこには「誰とどうなりたい」なんていう想いはなく、今ある中途半端な状態から少しでも抜け出したかったから、という印象が強いです。「どうしたいか」ではなく「どうすべきか」。その心持ちを自分だけが持っているのであれば、心苦しいものですが…というか、実際心苦しさはあったのですが、一方の川原さんも同じような心持ちでありました。
 

姉の結婚4−2
恋愛と結婚は別。愛している人ではなかった。


 こりゃあなかなか。互いに迷走した感が。二人の関係は、真木との情事を藤野先生に目撃されたことで、ほぼご破談となりましたが、これでは遅かれ早かれこうなっていたのでは、とも思えます。本当に結婚したいのであれば、必至に追いすがるはずなんですよね。けれども破談となった際、ヨリは追いすがるどころかどこか冷静で、それ以降も落ち込むことはあれど、この破談を悲しむことはありませんでした。あくまでこれは、ヨリにとって「不倫の清算」という位置付けのイベントでした。結婚を一時決意させるほどに苦しかった“愛人”という立場から抜け出して以降、どのように二人の関係が再構築されていくのでしょうか。


 
〜軍艦島と恋愛物語〜
 物語後半では「土佐島」という島が登場しますが、これのモデルとなっているのは明らかに軍艦島ですよね。かつて炭鉱として栄えた島で、現在は建物だけが残り無人島となっている島です。自分もいつか行ってみたい所なのですが、まさかこんな場所が女性向け恋愛漫画の舞台になるとは、思っても見ませんでした。その島の風貌と恋愛は、明らかにミスマッチ。しかし使い方如何で、如何様にも物語を彩る舞台へと変化するのです。ヨリが岩間に芽吹く緑を見て涙を流すシーン、なかなか感動的でありました。ここで涙を流したヨリは、それまでわからなかった「自分がどうしたいか」ということを見出す事ができたのでしょうか。5巻、最初の彼女の行動に、要注目です。


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Tag [続刊レビュー] 2012.11.17
作品紹介→寂しき魔女に幸せ運ぶ、気まぐれな猫たち:奈々巻かなこ「港町猫町」
2巻レビュー→あなたの寂しさに、そっと寄り添ってくれる猫はいますか?:奈々巻かなこ「港町猫町」2巻




1106185308.jpg奈々巻かなこ「港町猫町」(3)


もしもいつか
一緒にいることができなくなっても
猫は人間が
大好きなんだよ



■3巻発売、完結しました。
 ショーウインドーの写真集をのぞきこむ猫が一匹。元恋人のリイに、写真の港町が、その猫・ルーの故郷だと教えられたアシュウは…!?“魔女”と呼ばれる寂しさを抱えた女性が、少年の姿をした猫と暮らすという不思議な港町の物語。シリーズ6編を収録した完結巻!!


〜完結しました〜
 久々の新刊でしたが、3巻にて完結となりました。1巻を読んだのはもう何年前になるでしょうか。非常に感動したのを覚えているのですが、この3巻もあの時の感覚そのままに、しっとりと優しい感動を届けてくれました。なかなか話題にならない本作ですが、完結したこのタイミングで、是非ともチェックしていない方にはチェックしていただきたいな、と思います。


〜続きものを描く力〜
 本作は元々1話完結のスタイルで進行していたのですが、後半になるにつれ、続き物としてのエピソードが登場してくるようになりました。特に3巻に関しては、1巻〜2巻で登場した物語の完結エピソードが描かれることに。続きものを描き上げる力もあることを、まざまざと見せつけられる形となりました。
 
 3巻で特に印象的だったのは、やはり続き物であった「うそつき亭」と「猫が返ってこない日」の二つでしょうか。
 
 「うそつき亭」は女優をドロップアウトして猫町へとやってきた、カノとシャラの物語の完結エピソード。3巻では2話が収録されていましたが、特に「うそつき亭」では、猫を想う寂しき女性の心情がメインで落とし込まれており、あくまでこの作品が「寂しき女性」を描いた物語であることを強く実感させました。猫サイド、女性サイド両面の物語があるのですが、個人的にはやはり女性の心情を中心に描いたものの方が、より寂しさや切なさのようなものが感じられて俄然好みです。本作は、港町に残してきたシャラのことを日々想いながら悩むカノの姿が描かれます。
 

港町猫町3−1
 「戻る」と言ったのに、いつまでも戻れず、手紙を書く…最後には町に戻ることが出来るも、そこにシャラの姿はなく…しかし…。もうこれ、やってることは恋人のそれなんですよね。猫と人間の恋物語。人間の男女であったら、依存度が強すぎて胃もたれしそうな内容も、相手が猫だとそれが中和されて、良質の感動物語に。ステキなお話でした。
 

〜「猫が帰ってこない日」〜
 「猫が帰ってこない日」は、今までの物語とは異なり、猫が人間の元を離れて行くというものでした。
 

港町猫町3−2
 気まぐれな別れではなく、本当の意味での“旅立ち”です。相思相愛の猫と人間の場合いつだって先に離れて行くのは人間の方ですが、猫にも旅立つときがあるのです。このお話は猫の視点で描かれているのですが、受けた印象は、猫を愛する人間が、猫との別れを納得させるために描いた「人間のための物語」という感が。そりゃあマンガなんですから、そんなことは当たり前…とはいえ、それを差し引いても先の感覚が強く、特にこの物語に関しては、猫を飼っている人こそが感動できる物語なのではないかなぁ、と。奈々巻先生自身も猫を飼っているようなのですが、とにかく猫愛が強いというか。ちょっと猫を飼っている方に感想を聞いてみたい気持ちになりました。
 
 というわけで、猫好き、猫飼いの方にオススメしたい本作。繰り返しになりますが、完結したこのタイミングで、是非ともチェックを!
 

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レビュー
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レビュー
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