岩本ナオ「町でうわさの天狗の子」(12)
好きだぞ 秋姫■12巻発売、完結しました。
みんなを助けるために力をつかい
狐の姿になってしまった秋姫。
彼女を助けるため、瞬が、そして仲間達がとった行動は…?
青春ラブファンタジー、ついに完結!!
〜完結しました〜 12巻発売、完結しました。11巻を積んでいたので、2巻一気読みで最後まで。いや、感動しました。実に6年半の長きに渡り連載され、ここまで。12巻はとにかく色々な要素が詰め込まれていて思うところも多く、どこから語れば良いのやら…。全部語ってしまえば余すところ無くネタバレになってしまうし、そもそもどこから崩して、どういう順番で書こうかとかも、全然決められないっす。
〜瞬ちゃんだけじゃない、みんなで引き寄せた幸せ〜 物語はもちろんハッピーエンドなのですが、そこまでの過程が凄まじく、まさかこんな壮大な流れになるとは思ってもみませんでした。秋姫の願いはあくまで「普通の女の子になりたい」というものでありますが、所以天狗の子であるため、そう易々とはその願いは叶いません。徳を積んだ天狗になるというのならばまだしも、普通の女の子ですから、何か積極的に動けるわけではありません。ゆえに秋姫は最後までこれといった能動的な行動は起こさず、ただただ願い、我慢するという形でしか行動できませんでした。そんな中動いたのは、瞬ちゃん…だけじゃなく、本当にたくさんの人たちが動いてくれるんですよね。町でうわさの天狗の子、文字通り町ぐるみでの秋姫救出劇でした。
しかもその手法、時を超えて縁を作るようなもので、まどマギチックとでも言いましょうか。タケルくんもそうですし、瞬ちゃんもそうですし、その人のその後の人生すらも決定させてしまうような大きな出来事ですよね。そしてそれを成し遂げてしまうってのがすごい。
〜一番の感動はお父さんだったんです〜 救出劇においては泣き所満載だったのですが、個人的に一番泣けたのがお父さんの頑張りでした。これまで秋姫の父・康徳はその顔が描かれることは無かったのですが、この秋姫の危機に際して立ち上がり、ついにその顔がガッツリと描かれることになりました。

娘のためを思って泣きながら戦う姿は、本当にグッと来るものがありました。
顔が出てくるのがこのタイミングで、しかもやっぱりめちゃめちゃ強い。カッコいいです。これまでの娘想いのちょっとズレたお父さんというのも可愛くて良かったのですが、やっぱりこちらの方が俄然素敵。お母さんが惚れるのも、なんとなくわかった気がします。しかしそれでも天狐の力は凄まじく、彼だけの力だけではどうすることもできません。そして想いを、後の者に託すことになるわけですが…

瞬と名前を読んで託す
天狗の二郎坊に、そして一人の男としての瞬に、伝えた言葉。一番弟子を信頼し、同時にその身を案じるとともに、もう手の届かない、想いの届かないところへと行ってしまう娘を、娘の想い人に託す父親の物悲しさみたいなものが台詞の端っこに感じられて、まぁ泣けた泣けた。想いも様々であったでしょう。そしてこれが康徳様が登場する最後のシーンとなりました。もちろん死んだわけではないのですが、ある意味で親の手を離れたとでも言いますか。幸せの中にみる、ちょっとした寂しさのようなものをついつい感じてしまったのでした。
〜彼女達の恋の幕引きは…?〜 さて、瞬ちゃんと秋姫のある種壮大な物語の横で、気になるのがその他の恋の行方です。しっかりと結果を出しているのは主要キャラでは松中さんぐらいと、そのどれもが現在進行形。まず気になるのが、赤沢さんです。彼女の場合、修学旅行先で三郎坊と一緒になったにも関わらず、あの一件で離ればなれに。その後特に描かれていなかったので、少しくらいあるかと思っていたのですが、結局出てこず。うーむ、どうなったのでしょうか。投げっぱなし。12巻、赤沢さん関連で出て来たのはこれくらい…

赤沢化粧品がこんなに大きくなっていました。そしてなんと言っても、その屋上にある狐の像が気になるではないですか!8巻では、三郎坊が赤沢さんと結婚すると商売繁盛するなんて話がされていましたが、この絵はそれを暗示していると思われ。
そんな二人に対して、タケルくんとうららは逆にしっかりと描かれていましたね。11巻のうららの表情はもうかわいいというほか無かったわけですが、まさかこんな先の将来まで描かれるとは思いませんでした。年を取っても、安定の関西弁。とはいえ描写をみる限りでは、うららが緑峰町まで嫁に来たという形でしょうか。この二人、どうやって結ばれたのかめちゃくちゃ気になります。だってまず、アプローチ下手っぽくみえるうららと、これまた自ら動かなそうなタケルくんという組み合わせで非常に大変そうなのに、さらにうららにはあのお父さんですからね。「娘大好き!」というオーラがありありと出ていた彼を、どう説得させたのか。それこそ神谷の血が成せる業なのかもしれませんけれども。
あとは紅葉ちゃんも素敵でした。この子も献身的で、本当に良い子でしたよね。いつも明るく、元気よく。それでも中身は恋する女の子。恋敗れれば、落ち込みもします。けれど決して涙を他人に見せなかったのは、しっかり者の彼女らしさが出ているところ。あざとそうに見えて、人一倍真面目で不器用で割を食うのが、彼女なのだと思います。
というわけで、盛りだくさんの12巻でした。まだまだ語り足りないんですけれども、それこそこちらの時間もページも足りないということで、この辺で。壮大かつ詰め込み感もあったものの、物語が持つエネルギーはすごく、終始そのパワーに圧倒された感覚がありました。決して美しく綺麗に折り畳まれているとは思いませんが、その力強さだけで読ませてしまうと言いましょうか。感動を、ありがとうございました。
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