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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2014.05.01
1106384633.jpg水元ローラ「近づいたり 離れたり」


でも
名前を呼ばれるって
悪くないね



■その声で、恋を呼ぶんだ。
 時にやさしく、時にせつなく…。
 「名前」をテーマに、あなたのハートを甘くくすぐる
 18粒のラブ・キャンディ
 
 水元ローラ先生のスピカ連載作でございます。「名前」をテーマにおくる恋愛ものの読切りを18編収録しています。帯にはいがわうみこ先生の推薦文が。これが非常に良いチョイスだと個人的には。いがわうみこ先生が好きだったら、多分間違いなく好きだと思います。
 
 日常の中で織り成される恋の瞬間を切り取っているのですが、どのキャラもどこか変わっていて、切り取る“間”も若干シュール目でいい味出しているのです。いがわうみこ先生ほどぶっ飛んでいないですが、その分親近感のあるキャラ達になっており、いい感じに地に足ついているといいますか。


近づいたり離れたり1
一口に「名前がテーマ」と言ってもその使い方は様々。変わった名前だったり、単に名前を呼ばれることに着目したり、同じ名前だったり。


 描かれるのは中学生から社会人まで幅広く、またその内容も、青春の香り感じる爽やかなものから、ちょいとやさぐれた社会人ならではのビターな人間関係まで様々。またどれもバッドエンド的な終幕はなく、希望が見える形で終わっているので、短いながらも読後感が非常に良いです。…とここまではこの単行本全体を通しての感想。要するにオススメなんですが、ここでレビューを終わりにしても味気ないので、個人的にお気に入りだったエピソードを幾つかご紹介したいと思います。
 
 
 まずは「エピソード04.川口健」。彼の名前は本編では全く重要でないのですが(笑)高校生の男の子が、通学路一緒の他校の女子(名前まではわかってる)が気になっているというお話。通学バスや電車が一緒だと、顔は当然わかってて、名前もひょんなきっかけで分かっちゃったりするんですよね。男の子が主人公なのですが、青春ならでは勢いに加えて、透けブラに目が行っちゃう哀しき性がよく現れていて、良いなぁと。
 
 次は「エピソード09.吉田莉亜夢」。女の子が主人公です。これは名前から分かるように、一風変わった名前がコンプレックスになっている女の子のお話。それが逆に思わぬ縁を運んで来たりするわけですが、名前にまつわる物語としては非常にオーソドックスかつストレートな作りで素直に物語を消化することができました。自分自身、本名がちょっと変わっているので、こういうのも少し共感めいてしまったり…。
 

近づいたり離れたり
 最後は「エピソード07.濱本亜紀」これはエッチの最中に間違えて元カレの名前を呼んでしまったことから喧嘩になるという話。軽いノリで付き合った大学生のカップルなのですが、のらりくらりと付き合ってしまっている脱力感が素敵。別れるのって結構エネルギーを使うじゃないですか、だから案外別れないっていう。こういうノリのカップル、微笑ましくて好きです。


【男性へのガイド】
→男子目線の話もあって、それが意外と共感できるのです。面白かった。
【感想まとめ】
→よかったです。どれも素敵なお話でした。ちょっとした掘り出し物に出会えた感。


作品DATA
■著者:水元ローラ
■出版社:幻冬舎コミックス
■レーベル:スピカコレクション
■掲載誌:スピカ
■全1巻
■価格:630円+税


■試し読み:試し読み

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Tag [続刊レビュー] 2014.02.22
1106355776.jpgいくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(3)


今日も
歌を
まとって帰る



■3巻発売、完結しました。
 逃げるようにして苑のそばを離れた迪。
 新居には迪以外、もう「誰も」いない。
 峻や歌う子供と過ごしたあの日々には、いったいどんな意味があったのか…?
 

〜完結しました〜
 3巻発売、完結しました。短くまとめて来ましたね。単行本を手にしてまず思ったのは、「おお、なかなかのボリューム」ということでした。パッと見でわかる厚さなのですが、中身を見てされに驚かされます。なんと、表紙をめくるといきなり物語がスタートしているという。紙の方じゃないですよ?見開きの右ページに物語があって、表紙を取ることでやっと読めるというデザイン。こういう作りはこれまで全く見たことがなかったので、ビックリしました。こういう試みをしてくると、なんだか嬉しく楽しい気持ちになります。


〜順調すぎる中での不安〜
 3巻は、順調に俳優として人気を獲得していく迪の日々の様子が描かれます。あの場所から逃げ出し、以降自分でも怖くなるくらいに順調な毎日。悩みもなく、充実しすぎの日々を送っていきます。しかしそんな順調さの中で感じるのは、いい知れぬ不安感と、現実感の無さ。「順調すぎて怖い」という言葉はしばしば聞かれますが、そんな様子がありありと見てとれる様子です。そしてその度に想いを馳せるのは、あのアパートでの日々であり、学生時代であり…。峻とも、あの少女とも、きちんと気持ちの整理をつけることができないままに離れてしまい、それが今も残り続ける。不安の源泉は、未練なのかと思われます。
 

〜成仏の鍵は〜
 さて、このお話は少女をはじめ、3人の死者が登場するわけですが、まぁまず幽霊と見て間違いなさそうです。今回のお話では、それぞれの3人が「自分の行きたい場所」へと、それぞれのきっかけを経て行くわけですが、峻と女の子、それぞれの消えて行くアプローチが似たものだったのが印象的でした。


トーチソングエコロジー3−2
 まずは峻。彼は霊感のあるかなえに向かい、自分の想いというものを吐露します。その中で彼は、自分は「後悔だらけで死んでいった」と話すわけですが、やっぱり後悔があったんですね。そして、それをやり直せたと話し、光へと向かって行きます。
 
 
 また女の子は、日下さんが歌の道を本当に歩み出したこと、また愛する人に巡り会えたことをきっかけに消えていきます。これは女の子自身の想いというよりは、日下さんの中に燻っていたものとでも言うべきでしょうか。

 そして消えて行く前の二人に共通しているのは、誰かの中に自身の欠片を残しているということ。
 
 
トーチソングエコロジー3−1
峻はかなえに、そして女の子は赤い靴という形で、日下さんの中に。
 
 
 想いを遂げるだけでなく、誰かの中に自身の欠片を残すことが大事なのかもしれません。逆に言えば、残された人は、心のどこかに死した人の欠片を大切に抱えながら生きていくことの大切さ、素晴らしさみたいなものを感じたような気がしました。死んだ者、残された者、双方それぞれが問題を抱えており、それぞれに答えを見出し進む。それが3巻の中でそこここに現れるので、カタルシスが凄かった。

 
〜輪廻転生…かな?〜
 彼は事故を通して峻と邂逅し、その後非常に前向きに生きていくわけですが、ラストはそう来ましたか。「真実の口」というモチーフも、子供が放ったあの台詞も、1巻のラスト近くで峻とのやりとりで描かれた内容を模倣していましたね。また、女の子の方についても、恐らく迪の後悔に加え、日下さん達が最終話でした事で本当に報われていたような。
 
 どちらも子供を介しているのですが、そこから窺えるのは輪廻転生的な考え方なのかなぁ、と。この過程を経て、ようやく本当に彼らの物語は一回りするのでしょう。この瞬間に、ようやっと峻の言っていた「やりなおしの光」の意味がわかった気がしました。やりなおしとは、まさにやりなおしだったんですね。や、素晴らしい。良かった。うん、良いお話でした。


【関連記事】
この世の片隅で鳴る、不思議な失恋歌:いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」1巻

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Tag [続刊レビュー] 2013.06.09
作品紹介→*新作レビュー*紺野キタ「つづきはまた明日」
2巻レビュー→行き交う想いに優しく包まれて…:紺野キタ「つづきはまた明日」2巻
3巻レビュー→すこやかに育つこどもの美しさよ:紺野キタ「つづきはまた明日」3巻
関連作品レビュー→「SALVA ME」「日曜日に生まれた子供」「夜の童話」




1106261868.jpg紺野キタ「つづきはまた明日」(4)


どうかこの子たちが
この先もずっと
毎日 健やかな朝を迎えることができますように…



■4巻発売、完結しました。
 父子家庭に暮らす藤沢杳と清は、父と叔母の里佳子に見守られ健やかに成長する。隣の家に原田家が越してきて、ちょうど一年。“あの日”と同じく沈丁花の咲く季節が訪れ…。杳と清、二人の日常を綴ったほのぼのストーリー、完結巻!!
 
 
〜完結です〜
 4巻発売、完結しました。だいたい1年に1冊づつ、非常にゆっくりとした刊行ペース巻数を重ね、このたび完結。子供達は健やかに成長し、日々は続いていくので、どこまでも続いていくような感覚もあったのですが、これにて物語は終了です。最終巻だからといって、何か大きな感動的なエピソードが登場するわけでもなく、いつものようにそこにある日常が、今回も描かれていました。


〜男の子らしくて、男の子らしくない杳〜
 まず印象に残ったエピソードは、バレンタインの一件でしょうか。普段はとっても大人っぽい杳ですが、バレンタインでは普通の男の子っぽい一面を覗かせてくれました。全く期待していなかったのに、不意に好きな子からチョコを頂くというサプライズに見舞われた杳。なんだか大人っぽい反応をするのかと思いきや、もの凄く舞い上がっていました。清と一緒に食べてね、と言われたにも関わらず、チョコ欲しさから清をプリンで買収、独り占めを画策します。しかも嬉しすぎてずっと食べずに取っておくという。このときばかりは出来た兄ではなく、ごくごく普通の男の子という感じがして、すごく可愛らしかったです。しかしそこで終わらないのが杳。ホワイトデーのお返しにと…
 
 
つづきはまた明日4−1
手作りケーキを作ろうとする。しかも何度も練習。
 
 
 うわお、めっちゃ重い。手作りってあたりが如何にも杳っぽいですし、さらに何度も何度も挑戦するってあたりも杳っぽい。真面目さゆえの行動なのでしょうが、さすがにこれはリカコから咎められたようです。結局クッキーに落ち着きましたが、それでも手作りクッキーってすごくないですか。そしてその後のオチ、なんだか結局ついていないというか、それでも彼の評価は上がっているのですが、そこじゃないんだよ感が、いかにも長男という感じがして良いですね。


〜「また明日」という言葉の尊さ〜
 さて、今回は二人の母が亡くなった直後のお話が描かれました。母が亡くなった原因は、交通事故。子育てが一段落したら、いずれ時間も持て余すようになるから、その時に旅行に行こうなんて話をしていた矢先の訃報。その際に、父の想いを切り取ったであろうモノローグは、非常に印象に残るものでした。
 
 
今日という日はいつだって
“あした”を積み重ねたその先にある


 今日の、そして明日の尊さを、改めて思い知らされます。何の気なしに言う「また明日」という言葉。それは単なる挨拶ではなく、“その人が明日を無事迎えられますように”というような、祈りに似た気持ちも少しばかり込められているのかもしれません。少なくとも、父親から子供達に向けられる言葉には、間違いなくそういった想いが込められているのではないのかな、と。だからこそ、当たり前のように迎えられた今日、明日がこんなにも愛おしい。母親を亡くした二人に、父親が願ったのは、母の死から早く立ち直って欲しいということではありませんでした。
 

つづきはまた明日4−2
願ったのは、ごく当たり前の日常。


 ともすればその痛みも、日常の一部になる。ちょこちょこと挟まれる、なんてことない日常のエピソードも、この物語では意味があるもの。健やかに子供が育っている、何よりのエピソードです。
 
 この作品を読んだことで、私ももう少し日々を大切に生きてみようかな、と思ったのでした。日々仕事で消化しているような平日も、心の持ちようでちょっとは変わって見えるかもしれませんね。それでもやっぱり、月曜日は憂鬱ですけれど(笑)


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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.03.25
1106252221.jpg平尾アウリ「センセイと僕」


かわいくなりたい
これからもオレのこと
先生が忘れないように



■僕のクラスに今まで見たこともないほど若い新任の先生がやってきた。南のほうから来た先生は、雪がめずらしいと言い、夏は涼しいと喜んでいた。そんな先生が僕に「かわいいね」と言って来たことで、僕の胸はざわめいて…。「相澤先生、僕 かわいいですか?」…繊細な少年の淡い恋心を描く、センシティブストーリー。

 お久しぶりです。年度末ということでちょこちょこと忙しかったりしました。チーム異動が決まったり、試験受けたりドラクエ7やってたりしました。更新停滞の元凶は…ドラクエですかね。ということで、久々の更新です。今回ご紹介するのは、平尾アウリ先生のスピカでの連載作。スピカでは「OとKのあいだ」(→レビュー)に続いて2冊目になるでしょうか。今回はいかにも怪しげな表紙に加え、裏表紙には「相澤先生、僕 かわいいですか?」なんて、心のどこかを刺激されるような台詞があり、読む前からちょいと期待感高めでございました。
 
 物語で描かれるのは、とある田舎に育つ少年の淡い恋心。主人公の少年・田中大樹が5年生の時、彼のクラスにとても若くてかわいい先生・相澤先生が南のほうから赴任してきます。背はそんなに大きくなくて、色白で足も遅くて、見ためがなにより女の子っぽかった大樹にとって、自分の見ためは大きなコンプレックスでした。そんな大樹に対し相澤先生は、大樹を堂々と「かわいい」と言い放ち、その見ためを全肯定します。ちょっとだけ感じた、特別扱いの気配。それは、一人の少年の心を動かすには、充分すぎる出来事なのでした。以来相澤先生のことを目で追うようになった大樹は…
 


センセイと、僕1
 自分の男らしくない部分がコンプレックスであった少年が、年上の女性に「かわいい」と全肯定されることによって、恋心を抱き、果てはその自分自身の「かわいさ」に執着するようになるというお話。「かわいい」自分だからこそ、自分を好きでいてくれる。そんな想いに囚われた大樹は、妹の制服を来てみたり、ちょっと化粧に興味を持ってみたり…。女装する少年というと志村貴子先生の「放浪息子」あたりを思い出しますが、自分のために女装をするあちらの主人公・修一とは対照的に、大樹は恋心をこじらせて変な方向に走ってしまうという他者発進の女装となっています。別に女の子になりたいわけではなく、とにかく「かわいく」かつ「このまま」でありたい。しかしそんな想いとは裏腹に、成長期を迎えた彼の体は、段々と男らしくなっていくのでした。


センセイと、僕
女装しても、誰かに見せるわけではありません。先生に見てもらい「かわいい」と言ってもらえたことはあったけれど、小学校のときの、それっきり。


 スタート時は小学生であった大樹ですが、回を追うごとに成長していき、物語の最後ではなんと高校生にまでなってしまいます。そしてその間、憧れの相澤先生と会うことがあるかというと…なんと殆どないという。恋心を抱いてずっとそれを抱えているにも関わらず、それを自分の中でずっと燻らせ続けているという、このモヤモヤ感。女装とも相まって、割と気持ちの悪いキャラに仕上ってしまっているのですが、それをこの絵柄が上手く中和してくれているというか。それに誰しもここまでではないにせよ、ちょいと人に言えないような気持ち悪さを思春期時代は抱えているよね、っていう思いもありつつ、この主人公、そして物語に関してはかなり私は肯定的というか、好きな類いのお話でした。

 1巻完結ということで短いお話ではあるのですが、そもそも膨らませようのないくらい狭い世界での話ですし、物語の密度もちょうど良かったです。そして何より、物語のまとめ方が美しかった。憧れの対象をシンボリックな行為で捉えておいて、それを上手く使っての締めというのが、ドストライクです、はい。
 
 また読切りが1作収録されているのですが、こちらも思春期の男の子が、お隣の奥さん(未亡人)に憧れを抱いてしまうという危なげはお話。憧れの対象こそ違えど、毛色は表題作と全く同じで、単行本としての統一感に溢れる構成だと思います。


【男性へのガイド】
→平尾アウリ先生の作品は男性向けの雑誌で連載されていたとしても、あまり違和感がないんじゃないかな、と思います。本作も男の子が主人公ですし、また然り。
【感想まとめ】
→こういう危なげな感じのお話は大好きです。たっぷり堪能させてもらいました。このウジウジした感がいい(イヤって言う人もいると思うけど)。オススメで。



作品DATA
■著者:平尾アウリ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:バーズコミックスピカ
■掲載誌:Webスピカ
■全1巻
■価格:619円+税


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Tag [新作レビュー] 2012.11.04
1106206179.jpgKUJIRA「てのひらのパン」(1)



止まっていた
心が
息を吹き返す



■こころとおなかを満たす、たったひとつのパン。
 宮沢胡奈は幼少の頃に絵本で読んだパンを忘れられず、そのまま大きくなってパン職人に。現在は商店街で自分の店を持ち、一人で切り盛りしている。そんなある日、いつも通り店を開けようとすると、店の前に一人の男が行き倒れていた。お金と記憶がないという彼を、なぜか流れで家に上げてしまった胡奈は…
 
 「ワールドエンドゲーム」(→レビュー)や「ちよこチョコレート」(→レビュー)などを描かれている、KUJIRA先生のスピカ連載作になります。KUJIRA先生にとっては初めての巻数付きとのこと。おめでとうございます。1冊の絵本とパン屋で繰り広げる、再生の物語です。
 
 今回のヒロインはパン職人。しかも、ずっと幼い頃に夢見たパンを追いかけている、健気なパン屋さんです。物語の舞台は、そんな彼女・宮沢胡奈が切り盛りする商店街のパン屋さん。ある日店の前に一人の男が倒れており、なぜか助ける流れになると、お金と記憶が無いと言い出す。そんな危ない人は置いておけないと、すぐに追い返した胡奈ですが、翌日再び彼女の前に。実は記憶がないのは嘘で忘れ物があるだけと言う彼は、忘れ物がみつかるまで、パン屋に置いてくれないかと頼むのですが…というお話。


てのひらのパン
 ヒロインの胡奈は幼い頃に読んだ絵本のパンを今も追い求めてパンを作る日々。仲の良かった姉を亡くし、姉の子供と一緒に暮らしています。淡々とパンを作る平穏な日々ですが、そこにはどこかぽっかりと穴があいたような気持と、ひとつの後悔が。そしてパン職人見習いとして居候することになった例の男・黒川は、わすれもの=忘れた感情・想いを探す毎日。どちらもどこか暗い感情を抱えており、その姿は、物語の冒頭で描かれる絵本の兄弟の姿に重なります。似た想いを抱えた二人が物語を作って行きます。
 
 男女二人がひとつ屋根の下ということで、恋愛に発展しそうな匂いがプンプンですが、今のところそんな気配はありません。というのも、一緒に暮らしている、姉の息子(甥っ子)がいるから。また話は重なれど、日にちはさほど流れずで、時間的にそこまでに至らないというのもあるかもしれません。最終的にはそういうところに落ちてくるのかな。
 
 同時収録の読切りもパンをモチーフにしたお話。こちらが原点になっている節もあるのかもしれません。「ちよこチョコレート」もそうでしたが、KUJIRA先生は過去の思い出と共に食べ物をモチーフに物語を展開させるのがお上手。本作はパンということで若干地味な印象はありますが、ゆっくりスロースタートで温かい物語になってくる手応えは充分。絵本はただただ切なさを残した結末と相成るのですが、果たして本作の結末やいかに。


【男性へのガイド】
→こういう作品って男女共にどうなんだろう。温かみのある人間ドラマというか、だからこそ両方行ける内容だとは思います。
【感想まとめ】
→温かい疑似家族もの。正直地味な感はありますが、KUJIRA先生だから最後はきっちり感動的にまとめてくるだろうという予感もしっかり。もちろん、KUJIRA先生のファンはしっかりチェックしてくださいね!


作品DATA
■著者:KUIJIRA
■出版社:幻冬舎コミックス
■レーベル:COMICSスピカ
■掲載誌:スピカ
■既刊1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。