
君の未来は僕には必要なんだ
■ここは今から少し先の日本…。とある脳科学者が「左利きは先天的に優れている」と発表したことを受けて、政府は『左利き起用法』を制定する。それにより、左利きの子供達は社会的に優遇され、将来の地位も約束されていた。「左利き」と「右利き」……多感な若者たちは歪な時代をどうやって生き抜くのだろうか?確かな致筆で色鮮やかに描かれる、小橋ちずの新境地!
「Sweep!」などを描かれている小橋ちず先生の、comicスピカでの連載作になります。「左利きが先天的に優れている」と科学的に証明され、左利きの子供たちを将来を率いるエリートとして育てようという『左利き起用法』が採用された日本が、物語の舞台。左利きの子供達は実際に天才的な能力を持ち、多くが子供ながらに親元から離れ、大事に監視された中でエリートとしての教育を受けています。右利きの人間は劣等感に苛まれ、一方左利きの人間は、優遇されて生きる事に違和感と寂しさを抱える、そんな歪な世界。「左利き」と「右利き」、はっきりと差別された中に生きる、少年少女達の心の機微を、1話読切り形式で描いて行きます。

右利き、左利き、それぞれに悩みを抱えている。左利きが特別、他と違うということは、小さな頃から刷り込まれ、人格形成に大きな影響を与えます。
この世界では実際に左利きは能力的に優れていて、スポーツや勉強が出来るというだけでなく、何か特殊な能力に優れていたり、いわゆる超能力に目覚めていたりするこもあります。そのため、単純に左利きに矯正すればなんとかなるわけではなく、例え左利きに扮していても、やがて才能の壁に阻まれて右利きであることがバレてしまいます。それでも優遇のされっぷりはそれを越えてでも享受したいものらしく、左利き矯正させられる子供が後を絶ちません。左利き矯正された子が物語の主人公になる事はありませんが、彼ら彼女らの存在が、一つこの物語に大きな影を落とすことになります。
主人公は左利きの時もあるし、右利きの時もあります。右利きは総じて、左利きに対しての羨望や嫉妬、自分の凡庸さに対する失望感に苛まれており、一方の左利きは、恵まれた環境にありながら差別化されて生きることへの疑問や寂しさ、不満といったものを抱えています。そんな中、それでも自分の在り様や居場所というものを、何かしらの形で見出して行く。物語の設定は特殊なものではありますが、抱えている悩みは実際の少年少女が抱える悩みに通ずるものがあり、得られるカタルシスは割と普遍的なもののように思えました。結構万人向けな作りになっていると感じます。感動のさせ方が王道というか。
個人的なお気に入りは、2話目の「Picture Perfect」でしょうか。元々の設定のせいか、どちらかというとちょっと暗い雰囲気のお話が多いのですが、これはヒロインがとにかく前向きで明るい。左利きをとにかく憧れの目で見る素直さもあるし、素敵です。コスプレでガンダムやらドラクエやらムスカやらドラえもんやらが出てきた時はちょっと笑ってしまいました。そして最後はしっとりと。うん、キレイ。
【男性へのガイド】
→女性向け感はないです。どんな媒体に掲載されていても違和感なしでございます。
【感想まとめ】
→表題のクロスドミナンスってのは両利きって意味らしいです。どのお話もちゃんとまとまっていて、都度良い感じの気持ちにさせてくれる一冊でした。
作品DATA
■著者:小橋ちず
■出版社:幻冬舎
■レーベル:スピカ
■掲載誌:comicスピカ
■全1巻
■価格:619円+税
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