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Tag [新作レビュー] 2012.08.25
1106155280.jpg小橋ちず「クロスドミナンス」


君の未来は僕には必要なんだ


■ここは今から少し先の日本…。とある脳科学者が「左利きは先天的に優れている」と発表したことを受けて、政府は『左利き起用法』を制定する。それにより、左利きの子供達は社会的に優遇され、将来の地位も約束されていた。「左利き」と「右利き」……多感な若者たちは歪な時代をどうやって生き抜くのだろうか?確かな致筆で色鮮やかに描かれる、小橋ちずの新境地!

 「Sweep!」などを描かれている小橋ちず先生の、comicスピカでの連載作になります。「左利きが先天的に優れている」と科学的に証明され、左利きの子供たちを将来を率いるエリートとして育てようという『左利き起用法』が採用された日本が、物語の舞台。左利きの子供達は実際に天才的な能力を持ち、多くが子供ながらに親元から離れ、大事に監視された中でエリートとしての教育を受けています。右利きの人間は劣等感に苛まれ、一方左利きの人間は、優遇されて生きる事に違和感と寂しさを抱える、そんな歪な世界。「左利き」と「右利き」、はっきりと差別された中に生きる、少年少女達の心の機微を、1話読切り形式で描いて行きます。


クロスドミナンス
右利き、左利き、それぞれに悩みを抱えている。左利きが特別、他と違うということは、小さな頃から刷り込まれ、人格形成に大きな影響を与えます。


 この世界では実際に左利きは能力的に優れていて、スポーツや勉強が出来るというだけでなく、何か特殊な能力に優れていたり、いわゆる超能力に目覚めていたりするこもあります。そのため、単純に左利きに矯正すればなんとかなるわけではなく、例え左利きに扮していても、やがて才能の壁に阻まれて右利きであることがバレてしまいます。それでも優遇のされっぷりはそれを越えてでも享受したいものらしく、左利き矯正させられる子供が後を絶ちません。左利き矯正された子が物語の主人公になる事はありませんが、彼ら彼女らの存在が、一つこの物語に大きな影を落とすことになります。

 主人公は左利きの時もあるし、右利きの時もあります。右利きは総じて、左利きに対しての羨望や嫉妬、自分の凡庸さに対する失望感に苛まれており、一方の左利きは、恵まれた環境にありながら差別化されて生きることへの疑問や寂しさ、不満といったものを抱えています。そんな中、それでも自分の在り様や居場所というものを、何かしらの形で見出して行く。物語の設定は特殊なものではありますが、抱えている悩みは実際の少年少女が抱える悩みに通ずるものがあり、得られるカタルシスは割と普遍的なもののように思えました。結構万人向けな作りになっていると感じます。感動のさせ方が王道というか。

 個人的なお気に入りは、2話目の「Picture Perfect」でしょうか。元々の設定のせいか、どちらかというとちょっと暗い雰囲気のお話が多いのですが、これはヒロインがとにかく前向きで明るい。左利きをとにかく憧れの目で見る素直さもあるし、素敵です。コスプレでガンダムやらドラクエやらムスカやらドラえもんやらが出てきた時はちょっと笑ってしまいました。そして最後はしっとりと。うん、キレイ。
 

【男性へのガイド】
→女性向け感はないです。どんな媒体に掲載されていても違和感なしでございます。
【感想まとめ】
→表題のクロスドミナンスってのは両利きって意味らしいです。どのお話もちゃんとまとまっていて、都度良い感じの気持ちにさせてくれる一冊でした。


作品DATA
■著者:小橋ちず
■出版社:幻冬舎
■レーベル:スピカ
■掲載誌:comicスピカ
■全1巻
■価格:619円+税


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Tag [新作レビュー] 2012.08.23
1106176848.jpg平尾アウリ「OとKのあいだ」


あえなくてもやっぱり
ずっと好きで



■御徒町と神田のあいだにある、秋葉原を訪れる若者たち。彼・彼女らは、かけがえのない瞬間を、他でもない秋葉原で過ごしていた。多感な十代の若者達が、点と線でつながる…。不思議な縁でつながってゆく、キラキラっと光り輝く青春オムニバスストーリー!

 スピカで連載していた、平尾アウリ先生のオムニバスストーリーでございます。スピカはこれまでWeb媒体だったのですが、それとは別に昨年の10月に紙媒体も創刊されたのです。連載陣はなかなか味のあるメンバーで、筆頭は「トーチソング・エコロジー」(→レビュー)のいくえみ綾先生でしょうか。一応“少女漫画誌”と銘打っているのですが、そこまで女性向け感マックスの作品は少ない印象。本作もそんな中のひとつで、主な舞台となるのはメイドカフェ、そして物語を彩るのは、そこで働くメイドさんであったり、お客さんであったり。秋葉原のとあるメイドカフェを接点として、そこに関わる少年少女のつながりを、瑞々しく描き出して行きます。
 
 メイドカフェを舞台にしていますが、メイドさんだけ描いているかと言えばそうではなく、実に様々な人物を描いて行きます。スタートはもちろんメイドさんなのですが、そこからメイドさんに恋する男の子や、メイドカフェの裏方バイトの男子だったり、メイドさんのお友達だったり…。基本的には高校生の多感な時期を過ごす少年少女が、物語の中心に据えられます。


OとKのあいだ
位置付けは青春オムニバス。恋愛ネタに限るわけではないですが、やっぱりその分量は多め。高校生ならではの瑞々しい恋愛模様に、秋葉原なネタや人物像が良い形でスパイスに。


 そんな彼らが抱えているのは、ちょっとした悩みや不満。もう本当に小さな、だけども彼らにとっては割と深刻な悩みなんです。例えば勉強に身が入らないとか、愛されたい願望が強すぎるとか、彼氏に言えない秘密があるとか…。1話完結の読切りタイプということで、当然の事ながら最後には救いが提示されるわけですが、それも完全なる救済というよりは、解決の糸口が見つかったり、悩みがあるべきところに落ち着いたりという程度。意外な程あっさりしているため、メイドカフェというある種色モノを用いつつも、本当にある日常を切り取っているような感覚があります。良いお話なんですけど、だからといって特筆すべきイベントとかもないしで、なかなか説明し辛いものがあるのですが、これは読んでもらわないとわからないかもです。
 
 個人的にお気に入りだったのはラスト2話、メイドカフェのメイドさんと、そんな彼女に惚れてしまった裏方バイトくんのお話でしょうか。チャラいけれど、彼なりに積極果敢にアタックするも、二次元の方がよいと見向きもされないバイト君が哀愁と笑いを誘います。こういう積極性とバカさかげんが羨ましいというか、若くてステキだな、と。
 
 平尾アウリ先生の作品は初めて手に取ったのですが、すごくキラキラした目を描かれるんですね。男の子も女の子もみなみなお人形さんみたいで、非常に印象的でした。


【男性へのガイド】
→スピカは割と男性でも読める内容になっているんじゃないかと思いますよ。本作も男性メインの話があったりですし。取っつきやすいと思います。
【感想まとめ】
→なんでか印象に残るお話が多かったのは、お話が面白かったからなのか、雰囲気が良かったからなのか。説明しがたい魅力に溢れる、不思議な温かさのある一作でした。


作品DATA
■著者:平尾アウリ
■出版社:幻冬舎
■レーベル:コミックスピカ
■掲載誌:comicスピカ
■全1巻
■価格:619円+税


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Tag [続刊レビュー] 2012.08.10
作品紹介→鉢植えの根元に住む、手のひらサイズの女の子:群青「こいし恋いし」1巻



1106133071.jpg群青「こいし恋いし」(2)


いいえ さいごじゃない


■2巻発売、完結しています。
 長十郎と同じ学校の初等部に通いはじめ、人並みの生活に慣れてきた妖精の“こいし”。そんななか、長十郎たちの前に、こいしに良く似た妖精が現れる。その妖精はどうやら、こいしを探しているようで…!?植物系・学園ファンタジックストーリー、完結!
 

〜完結です〜
 2巻が発売され、完結しております。2巻で完結というのは想像通りでしたが、展開及び終わり方はなかなか想像できていませんでした。元々群青先生が「ファンタジー」そして「ラブコメ」と書いていたように、ファンシーながらもしっかりとラブコメとしての結末を見せたのはびっくり。1巻の表紙からはなかなか想像つかないですよね。2巻こそそういう表紙ですが、1巻だけ見ていたら、むしろまどかがメインヒロインじゃないかって思うではないですか。ずっと長十郎を思っているけれど、その想いは通じない。気づいてさえくれない。そんな彼女の想いは、ついに最後まで叶う事はありませんでした。


〜小さな物語と、感じた違和感〜
 主人公の幼なじみの異性という立ち位置は、ラブコメ的にはメインヒロイン当確と言えるポジション。しかしながら、長十郎は1巻での様子そのままに、まどかの気持ちに気がつく事もなく、ただただこいしを想い続けます。元々大切な物への執着が人一倍強かった長十郎。彼が、こいしがその姿を亡くしてもなお彼女を想い続けるという物語の展開・結末は、至極納得が行くものでありました。けれどもまどかサイドから見たらちょっと悲しくて、そして同時に、どこか違和感めいたものを感じたのでした。
 

こいし恋いし2−1
 まどかの想いが報われなかったのが悲しいのは、単純にまどか贔屓だからという部分がまずあります。そして同時に、彼女の想いが一切受け入れられなかったというその事実が、長十郎の外界との関係の築き方をそのまま表しているようで、それこそが自分の感じる違和感の源泉になっているような気がします。
 
 長十郎は、最初から最後までこいし一筋。一旦夢中になると、他のものに一切興味を持たなくなる彼は、0か100かの極端な関係性を築く人です。そして彼にとって、こいしは100で、まどかは0だった。それは物語の最初から最後まで変わる事はなかったし、まどかの想いが、長十郎の心を崩す事もありませんでした。幼い頃の渾身のビンタでさえも、「忘れた」でおしまい。彼にプラスの感情はおろか、傷さえ残すことができなかったのです。物語は一見、こいしの強い想いが長十郎との恋を叶えたように描かれていますが、長十郎という人物の描き出しを見ると、むしろそこで浮かぶのは、長十郎の強い執着心のみが物語の行方を決定しているかのような感覚。極端な話、この物語は長十郎とこいしさえいれば十二分に成り立つような気がします。なんていうか、閉じた関係のある種不健全なお話という印象がですね…。

 自分にとって長十郎があまり好きではない人物なのに、それでもこの物語を読ませるラブコメだと感じるのは、こいしがいるからに他なりません。執着の一方通行の感情に、こいしの少女的な感情を被せる事によって、お互いの関係が恋愛的なものに見えるように。また長十郎が、最後まで自己犠牲による他者への優しさを見せる事がなかったのに対して、こいしはきみまろの願いを叶えるために自らを犠牲にしていますし。


こいし恋いし2−2
ええ子なんですよ、この子は。


 というわけで、なんだか長十郎批判みたいな感じになっちゃいましたが、やっぱ長十郎はよくわかりません。ただそれを補って余り有る、こいしとまどかの女性二人。いやこの二人がいるからこそ、2巻もご紹介しているんですよ?ならそっちの魅力をちゃんと語れよって話ですが、いやここはこう語らずにはいられなかったのです。
 

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2012.06.09
1106155277.jpgいくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)


ほら
苑のうたをまとってる



■しがない役者、清武迪。本業はイマイチ。バイトに明け暮れ貧乏生活。そんな日々の中、最近何故か、頭の中で聴いたことのない歌が鳴っている。そしてアパートの隣の部屋には、高校時代の同級生だった日下苑が引っ越してきて…!?そして彼女によりそう謎の少女とは…。この世の片隅で鳴る、不思議な失恋歌。

 「潔く柔く」(→レビュー)などを描かれているいくえみ綾先生のWebスピカでの連載作になります。本作の前は「いとしのニーナ」(→レビュー)を連載しており、結構久々の単行本です。表紙を見ると男性2人が仲よさそうにベンチに・・・ 。パッと見BL作品ですが、内容はBLではございませんのでご安心(ご注意?)を。
 
 主人公は、売れない役者をやっている清武迪(すすむ)。エキストラやちょい役をこなす日々でなかなか芽が出ない中、頼りにしていた先輩が自殺か事故か、急死。あまりにも突然の出来事に驚いていると、今度は隣に高校の同級生だった女性・日下苑が越してくる。別に仲が良かったわけではない。けれども良く知っている。というのも彼女は、高校時代に親友だった高遠峻へ日々告白をする、ストーカーめいたファンだったのだ。日下は現在歌手をやって生活をしているとか。そして一緒にいるのは彼女の子供…?いや違う、どうやらその姿が見えているのは迪だけのようだ。これは一体!?何の具合か、目まぐるしく動き始めた彼の毎日は…!?


トーチソングエコロジー1
久々の再会。友人というわけではないが、長い時間会っていなかったこと、そして大人になったことで割と普通に話せる。彼女は歌手、そして主人公は売れない役者。どちらも似たような境遇にいる。


 幽霊ものというとちょっと違うか。とりあえず最初に言っておくと、多分これ面白くなると思います。というのも本作、1巻にして既に2人の故人が重要人物として配置されることになり、要するに死と残された者の感情を描き出す類いのお話。これは、非常に評判の良かった「潔く柔く」などと同じで、たぶんこういうテーマであれば確実に“読める”作品に仕上げてくるだろうな、というワクワク感があります。


トーチソングエコロジー1−2
死した人物を映し出す媒介が物語によって異なってくるのですが、本作の場合はそれが"自分にしか見えない子供の霊(?)”だということ。


 それぞれ別の意味で想いを強く持っていた、共通の知り合い(しかも故人)がいる男女が、偶然にも隣の部屋に。さてどうなる。共通の知り合いが生きていれば不変だったかもしれないその関係が、死という逃れようのない事実と、しばらくの断絶、そして人生の苦みを味わうことで全く新しい関係を作り上げるように。もしかしたら恋愛に発展するかもしれませんし…というか、してほしいですし。
 
 けれどもタイトルから考えると、オチは違うのかしら。たぶんこれ、「トーチソング・トリロジー」から取っているのかな、と思います。ゲイネタもそこからなんでしょう、きっと。何はともあれ物語が転がりはじめた1巻。けれども目的地は明確でなく、逆に言えば好きに転がせる、その独特のユルさもまた魅力の一つ。どこに着いたって大丈夫、転がりはじめの道中で、既に充分面白い。さぁさぁ、楽しみな新作が登場してきましたよ。


【男性へのガイド】
→いくえみ綾作品がお好きであればまず間違いなく大丈夫。是非とも読んでみてください。
【感想まとめ】
→スピカ連載なので刊行ペースが遅いのがもどかしい…というくらいには楽しみです。別紙で連載中の「プリンシパル」(→レビュー)よりかは、こちらの方が俄然好みですかねー。良い意味で脱力しており、かといって押さえる所はちゃんと押さえている感じが。


■作者他作品レビュー
いくえみ綾「そろえてちょうだい?」
摩訶不思議な少年少女のワンダフルデイズ:いくえみ綾「爛爛」


作品DATA
■著者:いくえみ綾
■出版社:幻冬舎
■レーベル:Birz Comics スピカ
■掲載誌:スピカ
■既刊1巻
■価格:619円+税


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Tag [続刊レビュー] 2011.10.28
作品紹介→*新作レビュー*紺野キタ「つづきはまた明日」
2巻レビュー→行き交う想いに優しく包まれて…:紺野キタ「つづきはまた明日」2巻
関連作品レビュー→「SALVA ME」「日曜日に生まれた子供」「夜の童話」




1106069788.jpg紺野キタ「つづきはまた明日」(3)


神様が私たちに与えてくれたもの   
“思い出”



■3巻発売しました。
 父子家庭に育つ杳と清は、父と叔母に見守られて少しずつ成長してゆく。杳は、夏祭りで友達と謎の仮面男を追いかけて、鮮やかな夏の思い出を作り…?ゆるやかに過ぎる日々を、丁寧な筆致で綴った日常ほのぼのストーリー、決定版!

 

~3巻ですが相変わらず癒される~
 1年に1冊のペースですが、やっぱり発売が楽しみな一冊。これころ万人にお薦めしたい良作だと思うんですよね。というわけで、「つづきはまた明日」3巻です。相も変わらず、杳と清の二人をベースに、父と叔母、そして仲良し一家にお友達と、非常に優しく暖かい関係が繋がっています。何か特別なことをしているわけではないのに、それがとても鮮やかに、温度を持って包みこむんです。こんなにも鮮やかな日常を、きっと自分も送っていたはずなのですが、なぜだろうあんまり思い出せないのは。なんだか最近日々が流れるように過ぎて行きますが、なるべく噛み締めるように日々を過ごしたいなぁ、なんて思ったりしています。
 

~母を思う子の気持ち~
 さて、今回もリカコの自由っぷりを中心に物語は賑やかに、楽しげな雰囲気のまま物語は進んでいくのですが、その中にもしっとりと落とし込まれる感傷的なシーンがまた涙腺を刺激して困りました。
 
 この物語でひとつ影を落としているのは、杳と清の母が1年前に亡くなっているということ。2巻3巻と経て、その設定が敢えて語られることは少なくなってきていますが、意外と最近親を亡くしたばかりなのです。今回母親の話題が出て来たのは、七夕でのこと。とてもとても仲良しだったけれど、神様によってその仲を引き離されてしまった織姫と彦星の話を聞いて、清はこんなことを言うのでした…
 

つつ#12441;きはまた明日3-1
お母さんとお父さんも
とってもとっても仲良しだったから
神様がいじわるしちゃったのかなぁ



 自分のお父さんとお母さんを、織姫と彦星になぞらえる。そしてきっと会えるようにと、お天気になることを願うのでした。そして迎えた七夕当日。そこにいたのは…
 
 
つつ#12441;きはまた明日3-2
原田さん


 1巻冒頭にて彼女と出会ったとき清は彼女を、「お母さんの生まれ変わり」と信じ込む程、母とその姿を重ねていました。その容姿は非常に似ていて、以降も時折彼女に母親の面影を感じるシーンが度々描かれてきました。この瞬間、彼女に何かしらの感動を与えたのは、その表情を見ても明らか。七夕の日に、お母さんが現れたのです。けれどもそんな幻想は一瞬だけ。すぐに現実に引き戻され、しかも空模様はあいにくの雨。その時の清の哀しげで寂しげな表情が、本当に切なくて。幼いとはいえ、しっかりと物心ついた頃に亡くした母。その存在はしっかりと彼女の中に残っていますし、まだまだ甘え足りない。母親に似た面影を持つ原田さんは、清にとっては亡き母を思い出すかけがえのない存在でもあり、同時に母親にはもう会えないということを改めて思い知らされる辛い存在でもあるのかもしれません。兄の杳は書道教室がひとつの鬼門となっていましたが、意外と清にとっては原田さんがそれにあたるのかも。
 
 さて、その後は団欒のコーナー。このお話、今回に限らず家族揃っての食事の様子が描かれます。リカコに対してのちゃぶ台返しが多いのも、それ故。食卓というのはまさに家族を表す鏡になっているんですよね。人と人の繋がりを、家族の絆を描くこの物語にとって、食事のシーンは絶対に欠かす事のできない場面なのです。そして七夕のメニューはそうめん。普段から割と凝った料理を作る杳ですが、今回もそうめんと言えどこだわります。それがニンジンを星形にくりぬくというもの。清と一緒にくりぬいた星を、そうめんの上に散りばめて、ほらそこに天の川が。そのそうめんは、みんなで一緒にいただきます。もちろん、亡き母の写真にもお供えして…
  
  
つつ#12441;きはまた明日3-3
 さて、何気なく描かれているこのシーン。さらっと「お供えするよね、うん」って感じで読み進めても良いのですが、ここでも再び1巻の冒頭に戻ってみましょう。そこで出てくるのはこんなシーン…



つつ#12441;きはまた明日3-4
そうめんはお母さんの好物


 そう、そうめんはお母さんとの思い出を手繰り寄せる、思い出のメニューだったのです。単純に夏場の定番メニューってわけではなく、1年に一度会えるこの日に敢えてのそうめん。お盆とかでも良いのですが、七夕で星を絡めながらってのが素敵じゃないですか。さらっと描かれているシーンも、ちゃんとつながっていて、理由がある。その深さに感動。
 
 そしてもう一度、そうめんと母親のくだりが登場するんですよね。それが物語のラスト付近。そこで再び清は落ち込むのですが、その時の台詞がまた泣かせるのですよ…!加えてそんな彼女にやさしい言葉をかけて、ちゃんとフォローするお父さんさすが。このお話を読んでいてつくづく感心するのは、お父さんもリカコさんもその他の登場人物の大人たちも、みんなこどもとの距離の取り方、接し方が上手。多分自分はこんなに上手く気の利いた事言えなそうです。あーでも、もしかしたらそういう言葉は、大人が発しているのではなく、子供が引き出しているのかも。そんな言葉を引き出してくれるような魅力がまた、子供たちにはあるんですよね。


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トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
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レビュー
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