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2014.05.06
1106377769.jpg田中相「千年万年りんごの子」(3)<完> (KCx ITAN)


きっと見ていて
おねがいね



■3巻発売、完結しました。
 陸郎宅に居候しながら、村に留まる雪之丞。朝日を救う唯一の手掛かりは、六十年前の出来事を記録した“祭文”だった…。冬至の祭事“嫁拝み”も終わり、季節は大晦日。雪が降りしきる中、妻は裸足で夫のもとに。妻の生命か。村の未来か。ついに最終巻!
 

〜完結しました〜
 3巻で完結しました。ネットを彷徨ってみても、ガッツリと書ききったような感想はあまり目にすることがないのですが、なんとなく納得。というのも、如何とも形容し難い読後感であったり、魅力なんですよね。というわけで、総括すると非常にりんかくのぼやけたまとめしか出てこないのですが、ともあれ非常に面白かった/良かったってのは間違いありませんので。もし読んでいらっしゃらない方がいたら、是非チェックしてみてほしい一作でございます。


〜見えた気持ち〜
 2巻では運命に逃げる形で抗うも、結局抗いきれずに村に戻って来てしまった二人。引き離され会うことも叶わないままに、時間はどんどんと経っていきます。そして久々に出会うことが出来た時には朝日は非常に小さくなっており、段々と“その日”が近づいていることを明確に感じさせる姿となっていたのでした。意識もだんだんと浸食されてきているようで、時間の感覚が無くなったりする時があるようです。こうして恐怖や夫への愛情を忘れながら、段々と“向こう”に行ってしまうのかなぁ、なんて残る側にとって寂しさや怖さを感じさせる話だったのですが、その直後の朝日が…


千年万年りんごの子3-1
…こわい


 と小声でその心情を吐露したのでした。これまで努めて明るく振る舞って来た朝日だけに、このタイミングでこうして涙を流したというのが非常に驚きで、実に強く印象に残るシーンでした。これを見せられたら、雪之丞も奮起しないわけにはいきません。ただそれが、思わぬ行動だったわけなのですが……。


〜居場所を与えられたんだ〜
 1巻冒頭から一貫して描かれていたのは、雪之丞の居場所の無さみたいなもの。あてども無く舟を漕ぐという夢でそれが現されており、朝日と出会ったことでその夢を見なくなったという描写があります。ここからイメージできるのは、雪之丞がここに自分の居場所を見出したというもの。ただ大事なのは、それが“場所”の話ではないということ。この土地にいられれば良いのではなく、彼が見出したのは他でもない朝日の隣なのです。愛の形は様々ですが、彼の場合はそういった想いが奥底にあると思われ、だからこそ必死に彼女を救おうとするのでしょう。そして彼は神を殺しにかかるわけですが、そう易々と殺せるものではありません。常世とでも言うべき不思議な空間に飛ばされ、そこで朝日と邂逅します。ここでのやりとりが一番大事なポイントかなと。朝日は、こんなことを言うのですよね…
 

千年万年りんごの子3-2
私はあなたさ戻って欲しいの
そして
あの村がどうなるのか見届けて欲しい



 朝日がいなくなれば無くなるはずであった居場所=彼自身の存在意義ですが、こうして再び彼女によって与えられる形となったのです。そして彼はそれに従うようにして、あの村に留まるのでした。あれだけの大事をしでかしたのですから、叩きだされてもおかしくなさそうですが、それもまたある意味で神の一部にでもなった朝日の力に依るものなのでしょうか。あの村に留まれたのは、必然であったという感が非常に強いです。

 さて、結局最終的にどうなったかは分からず。とはいえ、神の嫁からの祝福は未だ続いているという。いや、わからないからこそ、雪之丞がいる意味があるってことなのですよね、きっと。


【関連記事】
作品紹介→夫婦は、りんごの村の禁忌を破った:田中相「千年万年りんごの子」1巻
2巻レビュー→逃れられない運命を前に二人は…:田中相「千年万年りんごの子」2巻
きらめく才能の原点を見よ!:田中相「誰がそれを -田中相短篇集-」
その鮮烈な才能に要注目のデビュー作:田中相「地上はポケットの中の庭」

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2014.02.15
1106359129.jpg南国ばなな「幽霊な彼女と心霊な僕」(1)


か…
かわいい…



■幼いころから心霊現象が大好きな元二は、ついに憧れの“事故物件”で一人暮らしをすることに。早速スタンバイし、今か今かと待ち構える元二だが、たまたま黒毛(猫)がシャッターを切り、元二のそばにいた“幽霊な彼女”が写し出される。恋人同士のように見えるツーショット。感極まった元二に、怒った彼女はポルターガイストで対抗。二人の距離は徐々に縮まり…。心霊マニアな元二と、幽霊な彼女の恋が始まる…!

 南国ばなな先生のITAN連載作。またぶっ飛んだ作品でございます。主人公は、心霊大好きな20歳の男子・元二。霊感はゼロにも関わらず、幼い頃から心霊マニアで、心霊写真を撮ろうと努力してきた結果、現在カメラマンとして仕事をしている日々。そんなある日、念願の事故物件への入居が決まり、テンションマックスの元二。霊感の強い友人の協力のもと、レンズ越しに幽霊の姿を捉える事に成功する。そこにいるのは、若い女の幽霊。たまたま撮れた写真が、なんとなく恋人のような体勢だったことから、元二はその幽霊に恋をしてしまいます。以来幾多のアプローチを、見えない彼女相手にするのですが、幽霊はそれにうんざり…。なんともヘンテコな日常が繰り広げられます。


幽霊な彼女と心霊な僕1−1
幽霊とのラブコメ的作品なのですが、幽霊こんな感じです。でも主人公は全く気にせず。むしろデレまくってアプローチを繰り返すという。この時点でだいぶシュールというか、出落ち感があるのですが、これが普通に毎回あって、しかも巻数付きですから。


 主人公がうざすぎて幽霊が迷惑がるという、なんとも奇妙な関係性のコメディ。姿が見えないままであればまだ良かったものの、霊感のある主人公・元二の友人を介して、物語の途中から元二も霊感がアップしてしまうという。結果、部屋のどこにいても追いかけてくるし、暑苦しい言葉ばかりかけてくるという始末。幽霊も根が悪くないのか、元二とコミュニケーションを取ってしまい、それにより元二のテンションがさらに上がるという悪循環。時を経るごとに、幽霊はどんどんと人間味を増して来て、こんな風貌でありながら結構かわいいとさえ思えて来てしまうから不思議です。
 
 主人公はとにかくド変態で、生身の人間には興味がなく専ら幽霊専門。一方で幽霊の方は、普通の幽霊で「自分の居場所で穏やかに過ごしたい」という気質の持ち主。幽霊に巻き込まれる系ではなく、完全に幽霊を巻き込む系の構図となっているため、読み手の視点的には幽霊側に立つ人が圧倒的多数なのではないかと思います。後半とか、普通に幽霊のモノローグとか増えてきますからね。

 物語中盤からは、これまた心霊マニアのうら若き女子が登場。お隣さんということで、頻繁に話に絡んで来ます。幽霊という設定さえ除けば、同居している他人の男女と、お隣さんの女の子ということで、ラブがコメする人物配置。ドタバタコメディを基調としつつも、その人物配置を活かしたラブコメネタも面白みがあり、違和感を感じつつも楽しめてしまう不思議なお話です。幽霊もなんだかんだ愛されることを良しとしている感があって良いんですよ。


幽霊な彼女と心霊な僕
なんか知らんけど妙にエロさはあったり。あと別件で普通におっぱいとか出てきます。


 主人公を始めとして登場人物が軒並みテンションが高く、あっという間に駆け抜けて読み終わった感覚。胸焼けしそうなほどにぶっ飛んだ主人公の行動に、やや疲労感を覚えつつも、満足感は十分。このお話をどう着地させるのか、非常に興味があります。幽霊に頑張って欲しいんですけどね、果たしてどうなることやら。


【男性へのガイド】
→ハイテンションラブコメが好きという方は。絵柄はBLとかそっち系ですが、ネタは全然大丈夫だと思いますよ。主人公のキャラに耐えられれば。
【感想まとめ】
→南国ばなな先生の作品、はじめて読んだのですが面白かったです。表紙から受ける印象そのままに、ハイテンションに駆け抜けてくれました。


作品DATA
■著者:南国ばなな
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻
■価格:581円+税


■試し読み:第一話

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Tag [新作レビュー] 2014.02.12
1106368486.jpg唐々煙「シニガミ×ドクター」(1)


くたばれ
シニガミ



■満歴252年。植物が絶滅し、土が荒廃するこの時代、正体不明の奇病が発生した。人に巣食い、宿主の命と引き換えに大輪の花を咲かせる、悪夢の花。その名も、「死神の花」…。無能、ヒイキと周囲の評判は最悪の問題ドクター・一之瀬宗馬と対・「死神の花」専門の国家医療団=極楽苑の人々の活躍を描く近未来医療アクションファンタジー!!

 唐々煙先生のITAN連載作になります。近未来医療アクションファンタジーということで、この言葉だけだとよくわからないと思いますので、あらすじ紹介をば…。舞台となるのは近未来の日本(っぽい所)。この世界では植物が絶滅し、草木は一切存在していません。そん中、唯一生き残っているのが、人に寄生し死に至らしめる死神の花。その花を「奇病」とし、感染者の治療・(場合によって)駆除にあたるのが、「極楽苑」と呼ばれる医療組織。主人公は、そんな極楽苑でドクターをしている青年・一之瀬相馬。実力派揃いのドクター達の中、一人仕事が回ってこず、元気を空回りさせてトラブルばかり起こしている彼の「死神の花」との戦いの日々を描いたアクション作品となっております。


シニガミドクター1−1
咲く死神の花は一輪。ただし大輪。人をゆうに飲み込むほどの大きさとなります。風貌はグロテスクではなく、割と美しさもあるような…。


 人間に寄生し花を咲かす、さながら人間版冬虫夏草のような存在は、SFやホラー作品ではしばしば描かれる題材です。自分の記憶に強く残っているのは、「他純人格探偵サイコ」に出てきたやつでしょうか。あれはグロかった…。さて、本作で登場する死神の花は、患部や枝葉が伸びゆく様子はそこそこグロいものの、感染者は苦しみを感じることは無く、また大輪の花を咲かせるというところから、グロいというよりは不気味さが先行する印象。見ため結構手遅れじゃねーのってレベルでも、花を燃やせば助かったりするので、思いの外我慢出来る病気なのかもしれません(何を?)。
 
 そんな病気に立ち向かうドクターが、主人公の一之瀬相馬。問題児だけど自分なりのポリシーはしっかり持っている熱血漢というのは、いかにも少年漫画の主人公然としたキャラクターで、アクションが多分に含まれる物語において、その存在感を如何なく発揮します。こういうキャラはエリート揃いの中、雑草魂でのし上がる…というのがセオリーですが、彼の場合、極楽苑の院長の孫という出自である点が、面白い所。なので、周囲からはかなりやっかまれているという。そのせいか仲間も少なく、天然ボケっぽい看護師のひよちゃん(カワイイ)と、クソ真面目なお目付役の北城の3名と、割と少なめなチームで行動します。


シニガミドクター
北城さんがやっぱり抜群の存在感。怖いオッサンが、一つ物語にアクセントを加えてくれます。


 唐々煙先生の作品は様々な要素を落としこみつつもカッチリ魅せてくる安定感が魅力で、今回もさすがの仕上げよう。あと特筆すべきなのは、つかみと次巻への切り方が毎度秀逸という。今回もスタートから「『死神の花』ってなんだろう?」と興味を惹かせるような幕開けで、ラストではこれまでの流れからガラッと変わるであろう出来事を投入して幕引きさせるという。これは続きが気になるし、上手い。ただ番外編がその後載っているのですが、そこと本編の切れ目が分かり辛かったのがちょっともったいなかったかな、とも。ともあれ非常に読みやすい作品に仕上っております。


【男性へのガイド】
→お色気要素が少なめなぐらいで、エッセンスは少年漫画のソレかと。男性でも割と取っつきやすいのではないでしょうか。
【感想まとめ】
→さすがの安定感。こういった設定のお話が好きな方であれば、まず満足出来る内容かと思います。


作品DATA
■著者:唐々煙
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻
■価格:581円+税

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.12.10
1106349335.jpg草野佑「余命¥20,000,000-」(1)


水槽の外は生きづらい
でも



■「私はもういいんだ」
自然消滅を願い、人に会うのも、働くのも拒否してきた草間さん。
「ちゃんと社会と関わって生きていかないと」
失業青年・宇奈月くんは、ハロワ通いの合間に草間さんちを訪れるが…!?
草間さんの所持金が0円になったとき、奇跡が起こり、くじで2千万円が大当たり!!
「とりあえず2千万円なくなるまで生きていようかなって」
ゆるやかに消滅に向かう暮らしがスタート!!

 ITANの新人さん・草野佑先生のデビュー単行本「余命¥20,000,000-」です。読み方は“よめい ニセンマンエン”。タイトルを聞くと、世にも奇妙な物語的なファンタジックなテイストを含んだ作品を想像したりするかもしれません(というか私がそうだった)が、実際は現実ベースの、しかも意外にもかなり生活臭のするお話となっています。
 
 主人公は会社を2年で辞め、絶賛求職中の青年・宇奈月くん。そこそこ良い企業で働いていたのですが、上司との折り合いが悪く我慢できずに退職。ハロワ通いをするも、なかなか再就職先が決まらない、苦しい日々を送っています。そんなある日、叔母からの要請で、貸しているという一軒家の様子を見に行くことに。そこにいたのは、毛玉のような風体で「自然消滅」を所望する変人・草間さん。職にも就かず、人に会うのも拒否してきて、今や所持金も底を尽き、あとは消え行くだけ…。そんな中、草間さんに一発逆転の奇跡が起こります。くじで2000万円が当選。草間さんは生き方をそう変えることもなく、2000万円が尽きるまでの余命を、再び生き始めます。そんな草間さんのもとに、宇奈月くんはちょくちょく顔を出すようになるのですが…というお話。


余命¥20,000,0001-1
不思議な生物、草間さん。年齢不詳。無職。表紙でこそ顔を見せていますが、作中ではほぼ毛玉です。髪の毛が顔を覆っているので、その顔を見ることはできません。その生き方は、慎ましくも自由。自活とでも言いますか。


 主人公は宇奈月くんですが、物語の軸となるのは草間さん。働きもせず引きこもりながら日々を自由に緩やかに生きる草間さんの生き方を目の当たりにして、真面目に社会とつながりを持って生きる宇奈月くんは苦悩するというのがパターン。「余命〜」なんていうタイトルが付くと、「生き残りを懸けた、切羽詰まった白熱の物語が…!」なんて想像してしまいますが、草間さんの生活を見るにそんな感じは一切見受けられません。元々収入が殆どない中で生きていたので、支出も最低限。家賃もかかっておらず、野菜を作ったり、時折内職なんかもするので、突き当たりの差し引きは2万円程度。このペースで行けば、非常に充実した人生を全うできそうな感すらあります。
 
 そういう姿を見ると、必死に職を探して、なんとか就職先を見つけても、そこでまた辛い思いをしている自分が馬鹿らしくなってくるわけで。「草間さんみたいな生き方の方がいいんじゃないか…」という考えに、宇奈月くんは苛まれるように。これを作中では「草間さんに取り憑かれる」と表現しているわけですが、私もそういう自由人・自然人を見るととういう想いになるので、すごくわかると言いますか。本作は、“今日をどう生きるか”なんていうミクロな視点ではなくて、もっと大きな枠で、人生とか生き方を考えるような作品なんだと思います。
 

余命¥20,000,0001-2
宇奈月くんは生真面目な性格で、割を食いやすい。一番職場でストレス溜めがちなタイプだと思います。草間さんとは正反対な生き方ながら、意外と息が合っているんですよね。良いコンビです。


 どちらの生き方も一長一短で、向き不向きもあります。本作だけで言えば圧倒的に草間さんの生き方が羨ましく映るわけですが、それは自分自身が宇奈月くんよりの人間だからなのだと思います。隣の芝が青く見えるじゃないですけれど。でも実際に草間さんの立場になったら、刹那的すぎる生活に、先が見えず不安で潰れてしまうことでしょう。浮世離れしすぎず、自由に生きたいものですが、なかなか…。

 そういえば職場の同僚の先輩が先日、激務過ぎた結果「なんか事故とか怪我で入院したいよねー。入院すれば会社休む言い訳になるしさ、ちゃんと直るしさぁ。入院できねぇかな。」とか真顔で言っていたので、ちょっとこういう生き方も提案してみたいものですね(重い)。


【男性へのガイド】
→主人公は男の人ですし、働く方はどこかしら共感する部分もあるのでは。物語自体も男性女性を選ぶようなものではなく、広く楽しめると思います。
【感想まとめ】
→コメディタッチですが、落し込まれているエッセンスは深い…と思います。1巻時点でものすごく所持金残ってるんですけど、2巻とかどうなるんでしょうか。タイトルと相反して、日常系のような雰囲気すら漂わせています。面白い。


作品DATA
■著者:草野佑
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻
■価格:518円+税


■試し読み:第1話

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.11.25
1106329223.jpg祀木円「トウキョウ・D」(1)


人間に
慣れねば



■内戦下に造られ、今も都内にセンプクする戦闘用兵器ロボット“ドール”。それを回収する任務にあたる警視庁内極秘チーム、通称“D班”所属の篠。そして彼を守る警備用ロボット“クロハ”(人間型)と“SHIMA”(ぬいぐるみ型…?)。この厳しい任務の果てに得られるものとは…!?ゆるっとビシっと任務遂行!!

 ITANの公式サイトで連載されている、祀木円先生の作品でございます。物語の舞台となるのは、近未来の東京。20年前に激動の内戦期を経て、現在は治安も良く平静の世となっています。主人公は、そんな世で警察官をやっている青年・篠。ある日発令が出され配属されたのは、警視庁内の極秘チーム・D班。内戦下に造られ今も都内に潜伏している、非常に戦闘力の高い戦闘用ロボット“ドール”を回収するのがその任務。チームとは言っても篠は基本単独行動。ドールの開発元であるタミーに常駐し、彼の警備用ロボットであるクロハと、ぬいぐるみ型のSHIMAと共に、未だ捕まっていないドール達を追う…!というお話。


トウキョウD1-1
ロボットは大別して2種類。ターゲットになるドールや篠の警護をするクロハのような人間型(パッと見人間と見分けがつかない)と、SHIMAのようなぬいぐるみ型。

 
 いやー、クセになる雰囲気で面白かったです。ベースというか、関連作品として無視できないのが、作者さんの代表作でもある「しゅんにゃん」。当方、恥ずかしながら存じ上げなかったので、後追いで読んでみたのですが、こちらも雰囲気は違えどハートフルで凄く良かったです。この「しゅんにゃん」に、ぬいぐるみ型のロボットが登場するのですが、本作はその世界観を受け継ぎ、たくさんのロボットたちが登場します。
 
 
 「しゅんにゃん」は非常にハートフルで癒し作用の強い日常系のお話だったのですが、「トウキョウ・D」は戦闘用ドールの回収という大きな物語が流れているため、自ずとシリアスな方向へと流れていこうとします。ただすんなりとそういう雰囲気にならないのが、この作品の特徴であり、面白いところ。設定だけ見ればハリウッド並みのスケールになってもおかしくないのですが、ドール達は諸事情から東京の外に出れないため、ある程度スケールは小さめに。また積極的にこちらに攻撃をしかけてくるわけでもありません(不必要な戦いは好まず、ただ回収されなければそれで良いだけ)。加えて主人公の篠は任務に対してはあまり本腰でなく、天下りした元官僚のように、緩い日常を送ります。さらにそこに、癒し系で空気の読めないSHIMAが入ってくるので、もうユルユルに…。とはいえ篠の出自はドールにとって充分興味の対象になるもので、ちょいちょいと接点を持ちに来るという。ゆえに、ガチでぶつかり合わないけれど、なんやかんや接点はあるよという奇妙な関係の元、シリアスさと日常系ならではの緩さが混ざり合ったなんとも不思議な雰囲気を醸し出しているのです。


トウキョウD1-2 
 一歩間違えば命さえも…という状況なのだと思うのですが、今ひとつそんな雰囲気を感じられない空気感。キャラ達のテンションに加え、ちょいちょいと日常系のネタが投入されるからなのですが、その要因筆頭がシマ。もう可愛すぎて仕方ないです。表紙でシマにスポットが当たるのも納得ですね。一応こんな容姿をしていますが、家庭用警備ロボットなんです。ただドール達に比べると、どうしても戦闘力に劣るため、本作ではマスコット的存在に。でもいいんです、はい。
 

 巻末のオマケマンガを読むと、どうも2巻で完結するっぽいのですが、本当なんでしょうか。ただ1巻終了時点でドールの回収数はゼロ。さらにカップケーキを作って幕切れるという自由っぷりで、全く完結への道筋が見えないという。面白いし、もっと伸ばしても良いんじゃないでしょうか(お願い)。


【男性へのガイド】
→女性キャラがほぼ登場しない以外は特に何もネックにはならないかと。
【感想まとめ】
→この雰囲気はクセになります。手近な所に置いておいて、ふと読み返したくなりそうな、ステキな作品と出会えました。

作品DATA
■著者:祀木円
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻
■価格:581円+税


■試し読み:第1話

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