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Tag [続刊レビュー] 2013.11.10
作品紹介→地球のヒーローは家族のヒーローになれるのか!?:ツナミノユウ「彗星継父プロキオン」1巻



1106329222.jpgツナミノユウ「彗星継父プロキオン」(2)


言葉が足らなくて…
…ごめん…?



■2巻発売致しました。
 地球の平和を置い焼かすインベーダーを倒すためやってきた彗星人・プロキオン。仮の姿・流星士郎として義理の息子・イクルくん(地球人9歳男子)との親子の距離感に悩む日々に、新たなライバルがやってきた!?イ、イ、イ、イクルくんの実の父親だってぇぇぇぇぇぇ!?果たしてプロキオン、いや流星士郎の運命は!?頑張れプロキオン!負けるなプロキオン!!「父さん」と呼ばれるその日まで!


〜2巻発売です〜
 2巻発売しております!今回は鮮やかな橙色が映える素敵な表紙ですね。すごく目を引くのですが、一方で、ヒーローたちと少年が表紙に配されているため女性向けゾーンに配置されていると非常に違和感を覚えるという(笑)内容に関してもやはり女性向けのそれとは一線を画している感があり、比較的自由度の高い(イメージのある)ITANならではなの作品であるのかな、と思わされます。
 
 さて、2巻では1巻でおおよそ登場しきったメインキャラクター達が、好き勝手に動きはじめます。1巻もととても面白かったですが、キャラの個性を生かしてのネタ展開は、そのキャラの背景が分かった方が俄然面白みも増すわけで、俄然2巻の方が面白い。今回もヒーローものとは名ばかりの、所帯感と生活感溢れるコメディが繰り広げられていました。
 
 
〜宇宙人が増えているのに下世話感とか所帯感というか生活感が増している〜
 レギュラーキャラが割と多いのですが、彼らが何か統一された目標に向かって進んでいるかというとそうではなくて、各々の信念・願いの元に好き放題に動き回っています。そのため全編を通して騒がしく雑然としているのですが、その狭間で期せずして動きが噛み合ったり、逆に噛み合わせようとして全然ダメだったりってうチグハグ感が楽しい。アンジャッシュのコントとか、そういう方向感とでも言いましょうか。
 

彗星継父プロキオン2−1
噛み合わないのも当然で、上を見てもらえればわかるように、みんな違う所のご出身。地球人が圧倒的マイノリティっていう異常な状況下です。頑張れプロキオン!とか言ってますが、むしろこのシチュエーションを見ると、頑張って欲しいのはむしろイクルくんのように思えてきます。


 こうして宇宙人がたくさん集まっても、結果繰り広げられるのは人間生活における様々なトラブルのようなもの。人間関係の狭さは昼ドラばりだし、やってるネタはSFアクションでもなんでもなくて、シットコム的なホームコメディのようなイメージ。プロキオンにとっての目下の問題は、地球の危機よりも家庭の危機。最優先はイクルくんに「お父さん」と呼ばれること。そのためにはお義父さんに認められることも大事で、一度つけ込む隙があろうものなら…
 

彗星継父プロキオン2−2
つけこむつけこむ。社会生活におけるプロキオンはヒーローの時の戦いっぷりとは裏腹に、非常に姑息なのであります。

 
 また本作が生活感・所帯感溢れる印象になっているのには、シャックブライガ星人の存在が大きいのだと思います。今回もシャックブライガ星人絡みのエピソードが多数盛り込まれていましたが、それらを端的に説明すると「子供が学校で問題を起こす」「リストラ」「再就職」「借金」「住居の確保」と、恐ろしいほどの社会派…!!
 

〜苅原先生がやっぱり素敵です〜
 さて、個人的に一番楽しみにしているのが、苅原先生。もう、可愛くて可愛くて仕方ありません。今回ですが、1巻にも増して登場シーンが増えておりまして、嬉しい限りでありました。今回一番のポイントといえば、釈莉花ことラキュートによって施された…


彗星継父プロキオン2−3
コスチュームチェンジ


 なんて大胆な…!なにより恥じらいがあるのが良いです、はい。これによって、一層乙女感を増した感もあり、プロキオンの前で赤面しながら慌てふためく姿が素敵です。以降、変身後はこの格好で戦うことになるのですが、釈ちゃんがやたらと出撃したがるため、それに連られて自ずと露出…じゃない、変身の回数も増えるという。
 
 ただ個人的にはどちらかというと、平時(人間の姿)の苅原先生の方が好きでして。あのちょっと哀愁漂う独り身アラサー感がツボ。今回は教師として達成感を感じている姿を見て「教師生活はやっぱりまんざらでもないんだな。っていうか教師の方が向いてるんじゃないか?」なんて思わせてくれたり、あとこれ良かってです。


彗星継父プロキオン2−4
小学生に恋愛相談しちゃう


 彼女からしたら、唯一心の内を吐き出せる相手に自分の想いを吐き出しているってだけなのかもしれません。けれども端から見たときのシチュエーションは、結婚に焦るアラサー女性が突拍子もない妄言を、あろうことか教え子の小学生に言って聞かせているというなかなかアブナイもの。このあられもない姿が、どうしようもなく好きですねー。3巻ではかなりの巻き込み事故を発生させているようですし、どうなってしまうのか、今から楽しみすぎます!

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Tag [新作レビュー] 2013.08.27
1106306500.jpg瀬川藤子「屋上の君」


ユーレイでも何でもカンケーないもん
友達だもん
助けてあげるの!!



■転入して3か月。ひとりぼっちの小学生・春菜は、“かなえ”というお姉さんに出会う。「名前しか分からない」と話す彼女は、ずっと小学校の屋上にいる幽霊だった。彼女の本当の姿とは。屋上で待ち続けるものとは。春菜&おじちゃんの凸凹コンビで、かなえの正体を探す旅が始まった!!

 「VIVO!」(→レビュー)などを描かれている瀬川藤子先生のITANでの掲載作でございます。物語はとある小学校で起こります。転入して3か月、未だクラスに馴染めずいじめられている春菜は、ある日屋上で“かなえ”というお姉さんに出会います。制服を着ていて、見るからに年上。自分のことは名前しかわからないという彼女は、なんとこの屋上にずっといる幽霊だったのです。友達のいない春菜は、家で暇そうにしているおじさんを連れ、“かなえ”の正体を探るのですが…というお話。


屋上の君
幽霊というファンタジックな要素を取り込んだお話。ただ幽霊であることについては、そんなに驚きというか、抵抗はなく、割とすんなり受け入れられます。その後、受け入れた後からが、このお話の肝。


 瀬川藤子先生はとにかく「VIVO!」の印象が強烈だったことから、勝手に「現実路線のお話を描く人なんだなぁ」なんて勝手なイメージを抱いていたのですが、「お嫁さんは神様です。」といい本作といい、割とファンタジックな要素を交えながらも物語を描ける漫画家さんなんですね。とはいえベースとなるのはあくまで、現実・日常というのは変わらず。ひとつふたつ不思議な要素はありつつも、描かれるのはそんな世界に生きるその人であり、日々の中での心のつながりであったり。

 本作は、学校でいじめを受けている少女が、幽霊という存在を通して自分の居場所を見つけ、さらにそこから自分の世界を拡げていくという成長譚となっています。そしてそんな彼女の成長を、理解ある大人が見守るという構図。大人と子供が入り交じり、ドタバタしつつも前に進む。また自分の居場所を見つけ、安心出来た段階でやっと周りを見る余裕が出てきて、そしてそれが脅かされようとするときに、頑張る…というのは「VIVO!」にも通じるエッセンスです。そして子供の頑張りも、大人の見守りも、決して押し付けがましい暑苦しさを持っていない。ちゃんと笑いどころも用意して、適度にユルい感じが、変わらず素敵です。


屋上の君1
子供は全力でぶつかる。いつもというわけではなく、ここぞという時に、守りたいものがあったときに、初めて爆発させる。だからこそ、印象的だし、効果的。


 表題作は全3話なので、やや短め。ではありますが、成長物語と友情物語を同居させつつ物語はキッチリと完結しています。てかこれ、実質3人しかキャラクター登場していないんですよね。最低限の登場人物で、お話を工夫して展開するというのは、読み手としても物語を享受しやすくありがたいところです。
 
 表題作のほか、読切りを1編収録。こちらはファンタジックな要素はない、現実路線のお話。こちらも子供の心情を描いたものになるのですが、視点はあくまで大人の女性で、さらに自分を重ねながら子供を見るということで、また他とは一味違ったテイストとなっています。何気に最後、これからの展開を期待させるようなオチだったのが個人的は嬉しかったです。表題作がほんのりあたたかい気分になるようなお話だとしたら、こちらはそれにスッキリ感を加えたような読後感。ネガティブな感情は読み終わりに一切残っておらず、非常に爽やかな気分になれました。


【男性へのガイド】
→瀬川藤子先生の作品は男性にも是非読んでもらいたいところ。子供が話の中心にいるというのは、やはり女性の方がより好みやすいのかもしれませんが。
【感想まとめ】
→瀬川藤子先生を感じられる作品で、読みやすくかつ、読み終わりの感覚が爽やかでした。ゆるい所はゆるく、アツい所はアツくさすがのメリハリだと思います。


作品DATA
■著者:瀬川藤子
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■全1巻
■価格:581円+税


■購入する→Amazon

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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2013.08.25
1106306501.jpgカム「山響呼」


さよならだから
優しくなるんじゃない



■「さよならが近づくと何もかも愛しく感じるわ」
 亡くなった祖母はそう言っていた。だが、それは嘘だ。離れて行くと思ったら、悲しくて悔しくて嫌いになるはずだ。少女・夜子は祖母の魂を還した山響呼の少年に、その想いをぶつけるのだが…。
 
 ITANでデビューされたカム先生の初単行本です。ITANも続々オリジナルの新人さんがデビューしていますね。田中相先生のように、話題をさらう方が、また出てくるかもしれませんね。さて、本作は、ITANで掲載された読切りと書き下ろし作品をまとめた単行本で、表題作をはじめ5編が収録されています。表題作は冒頭に書いたとおりですので、残りのお話について少しずつご紹介しましょう。
 
 『王様と魔女』は、ITAN新人賞で優秀賞を獲った時の作品(だったと思う)。10年前、魔女によって鳥に姿を変えられてしまった王様が、退位式を迎えるにあたり人間の姿に戻して欲しいと、新しい魔女・ウィアドに依頼が届くのですが…というお話。
 
 いつも共に過ごしていた吸血鬼の2人、アナとリズ。「不変こそ正義」と信じてきたアナでしたが、教会のハンターを伴侶に選んだことで、その誓いを自ら破ることになり、それを目の前にリズは…という『逃亡前夜』。
 

山響呼1
「いい子にしないとお化けが来るぞ…亡くなったおじいちゃんにそう言われ、以来何かに見はられているような気がする“なの”。人一倍真面目に生きようとするなのですが…という『夜のおばけ』。
 

 最後、『夜店』は数ページのショート作品。眠れぬ男が、夜中町に出かけると、「夜屋」という店の店主に声をかけられる。そこで持ちかけられるのは、自分の夜と店主の夜を交換しないか…というもので、というお話。
 
 表紙から特徴的で目を引くものになっていますね。月夜に鳥と人物が配されているもので、色使いは暗め。そしてその印象そのままに、内容もまた独特の雰囲気が漂う、印象的なものとなっていました。それぞれの作品に共通して先行するイメージは、「静」と「暗」。明るく爽やかなイメージはあまりなく、静かに、どこか陰のある雰囲気で物語は進んで行きます。また一方で絵柄というか、キャラの描き出しはかわいらしく、特に子供は見るだけでによによしてしまうようなかわいらしさがあります。目がが好きですかね。


山響呼
 この共通した暗さを生み出している源泉となっているのは、「喪失」のように思えます。どの物語にも、何かしらの「喪失」があって、キャラ達はその前で、自分なりの答えを出すために試行錯誤している。それは人の死であったり、地位であったり、友情であったりと様々。“これ”という明確な答えのあるものではないので、どこかしら哲学的な雰囲気も漂います。最初の印象としては、「なんか個々人の哲学的なエッセンスが落とし込まれていてちょっとわかりにくい物語になっているな…」なんて思ったのですが、アプローチ的には難解な哲学を、わかりやすくするために物語に落とし込んだっていう、逆の方向なのかもしれません。

 個人的にお気に入りなのは、「夜のおばけ」。ファンタジックな物語が多い中、この物語は唯一現実ベースでのお話となっています。子供が亡くなったお祖父ちゃんの言った言葉を頑なに信じ、良い子でいようと心がけて日々生活するというお話なのですが、その真面目っぷりが度をすぎて、ちょっと周りと上手くいかないという。そんな子供を前に、適当な親が試行錯誤するのですが、そのやりとりに愛が感じられて非常に微笑ましいのです。子供の気持ちもわかるんですよね。亡くなったお祖父ちゃんが見ているかもしれないからちゃんとしなきゃ、って感覚未だに少しあったりしますし。


【男性へのガイド】
→ITAN作品は男女問わずいけるものが多いかと思います。本作も恋愛要素は薄めで、男女問わず抱くであろう気持ちに問いかけるものが多く、物語そのものの受け入れやすさは別として、そういった壁はないかと。
【感想まとめ】
→ちょいとクセがあるので、好き嫌いはわかれるかもしれません。私も好きなお話とそうでない作品の振れ幅が大きかったというのが、正直なところ。連載で大きな物語を描くことになったとき、どんなお話を生み出すのか楽しみです。


作品DATA
■著者:ITAN
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■全1巻
■価格:581円+税


■購入する→Amazon
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Tag [続刊レビュー] 2013.07.15
作品紹介→軽妙で濃密…落語界を舞台に描く人情落とし噺:雲田はるこ「昭和元禄 落語心中」
2巻レビュー→なおも濃く、深く、小気味よく…:雲田はるこ「昭和元禄落語心中」2巻
3巻レビュー→菊比古にとっての“落語”:雲田はるこ「昭和元禄落語心中」3巻
作者他作品→気になる相手は子持ちのバツイチ…けれども守ってあげたい:雲田はるこ「野ばら」



1106288537.jpg雲田はるこ「昭和元禄落語心中」(4)


これがアタシの
心底欲した孤独



■4巻発売しました。
 ついに助六、破門となった。落語を辞めるな、師匠に詫びろ、必死にくどく菊比古に、それでも耳を貸しちゃくれねぇ。あげくに身重のみよ吉と、手に手を取っての道行きだ。独り落語に打ち込む菊比古に、七代目がついに明かした「八雲」と「助六」の巡る因縁の噺とは…?
 

〜特装版が豪華〜
4巻発売しております。今回は特装版として、手ぬぐい付きの単行本が発売されておりました。私も予約して手に入れましたよー。もったいなくて袋開けられていないのですが(笑)。通常版と特装版は表紙も違っていて、通常版は上に表示されているようにみよ吉メインですが、特装版は付録の手ぬぐいを頭に被った菊比古の姿が描かれています。手染めの手ぬぐいで、限定数は生産できるギリギリの量だったとか。Amazonでは元々取り扱っていませんでしたが、セブンアンドワイでは在庫ありそうですね。どういう仕組みなんでしょう。


〜別離と再会〜
 さて、4巻ですが3巻にも増して濃密なドラマが描かれていました。2巻、3巻ではお互いに切磋琢磨し落語の腕を磨く助六と菊比古の姿が印象的でしたが、4巻では助六の破門をきっかけに八雲と助六の因縁が明らかになり、さらに二人の別離と再会におけるそれぞれの葛藤が情緒的に描かれておりました。
 
 今回ポイントとなっていたのは、七代目・八雲によって語られた、助六と八雲の因縁でしょうか。元々、初代・助六が八雲に弟子入りしていたことは、作中で語られていたのですが、このような因縁があったことは今回初めて明らかになりました。今の菊比古と同じように、才能溢れる助六に嫉妬を抱き、けれども八雲を継ぐのは身内。先代八雲は決してその因縁を持ち込むまいと思いつつも、結局このような状況になり、そのことを悔やみつつ亡くなっていきました。そして反発心なのか、はたまた想いを継いだのか、菊比古は師匠ができなかったことである、八雲の名の継承をさせるため、助六を呼び戻しに行くのでした。

 離別と再会。ここで呼び戻しに言った時の菊比古の言い分がなかなか痺れるのですよ。


昭和元禄落語心中4−1
だから無くなったら困るんだよ
アタシの落語の為に
お前さんに嫌気が差そうが知った事か
落語界でもお客の為でもねぇんだよ
アタシの為にやれって言ってんだ



 呼び戻したい理由はあくまで「自分の落語のため」。助六のことを思ったわけでも、落語界のためでも、お客のためでもないと言い放ちます。3巻のレビューでも書きましたが、彼にとって落語は、自分の居場所をこしらえるためのもの。あくまで孤独に、自分だけが在り続けるものです。そのスタンスはこの場でも変わる事はありませんでした。この言いっぷりが本当に格好よかった。こう言ってくれたからこそ、助六も多少は心動かされたんじゃないでしょうか。

 この時菊比古は「自分の落語のため」と言っていますが、彼が与太郎に落語を継承しようとした時に交わした約束のうちの一つに、「落語の生き残る道を作ろう」というものがありました。これは、彼が助六と交わした約束です。菊比古は“変わらない落語”を、一方の助六は“時代によって変わる落語”をそれぞれすることで、二人で落語の生き残る道を作ろうと言ったもの。そのことを考えると、先の発言は少々矛盾する気も。ただこれは、助六を引き戻すためのはったりかもしれませんし、また落語と落語界は、決して同じ意味ではないのかも。そもそも落語が生き残る道を作るには、この二人のどちらが欠けてもダメ(これは八代目・八雲が言っていたことです)。菊比古が彼との約束をどうしても叶えたいのだとするのであれば、「自分のため」というのも至極納得が行く所です。


〜死神〜
 先の発言をした時に、助六は菊比古のことを「まるで死神のようだ」と言いますが、4巻では菊比古の死神を演じるシーンが数ページに渡って描かれます。


昭和元禄落語心中4−2
師匠が亡くなり弔い的に披露した場面なのですが、まさに迫真。これをきっかけになのかわかりませんが、死神という噺が、彼を象徴する一つになったことを表しているようでした。
 

 4巻に限らず、本作では「死神」は象徴的に描かれていてます。与太郎が八雲に弟子入りを決めたのもの、刑務所で「死神」を聞いたからでした。ここで登場した「死神」が、後に与太郎を呼び寄せるきっかけとなるなんて、なんだかちょっと運命的ではないですか。


〜次で八雲篇は完結のようです〜
 次巻予告を見ると、どうやら八雲と助六篇が5巻で完結となるようです。いよいよクライマックス。俄然気になるのが、助六とみよ吉の最期。1巻で度々そのことについて語られていたのですが、核心には迫らず。「不慮の事故」として片付けられるだけです。それでも小夏は、「助六は八雲が殺した」と言い放ち、八雲もまた「半分自分が殺したようなもの」と言うわけですから、その真相はきっと壮絶かつ重苦しいものであることは想像に難くありません。1巻から読み取れるヒントとしては…

・助六とみよ吉は一緒に亡くなったらしい
・現場には小夏もいたらしい

 なんてことぐらい。それと、小夏は助六のことは非常に慕っているような発言をするのに対して、母親であるみよ吉についてはあまり語らないんですよね。4巻時点でもそんなに好いていないように受け取れるのですが、やっぱりどこか嫌っている節があるのでしょうか。仕事についても、母がやっていた芸者ではなく女中を選んでいますし。この後菊比古との再会が引き金となって、さらにもう一悶着あり、そこで決定的に嫌ってしまうとか(ってこれは完全な妄想ですが)。また、「父を殺した」とは言っても「母を殺した」とは言っていないんですよね。これもまた、ヒントとなるかも。それと、女に落語をさせたくないことについて、八雲が「女は恋をすると狂う」と言っていたことも、やや意味深な感じがありますし…って気にしていたらキリがない。何にしたって、5巻で全てが明らかになるのです。この話は、与太郎だけでなく小夏も一緒に聞いているはずですから、小夏の長年の願いが叶う事になるわけですよね。八雲と助六篇が完結したその“明け”で、一番気になるのは何より小夏だったりするのです。もう、続きが気になって仕方ない!


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Tag [続刊レビュー] 2013.06.11
1巻レビュー→ここは男が絶滅してから2000年後の世界:阿仁谷ユイジ「テンペスト」1巻
2巻レビュー→人類の命運よりも守りたいものが生む歪み:阿仁谷ユイジ「テンペスト」2巻
3巻レビュー→“普通”から“特別”への昇華:阿仁谷ユイジ「テンペスト」3巻




1106288536.jpg阿仁谷ユイジ「テンペスト」(4)


私も
キラルを示したかった



■4巻発売しました。
 2000年間、誕生し得なかった〈男〉の創出のため、冷凍保存精子による受精実験を開始した中央。すべての被験者が着床に失敗する中、唯一〈妊娠〉に成功したカヤシマに異変が。一方、女性消滅を引き起すサキュバス現象が中央付近で観測され、隔離中の皇がサンプル回収に向かう。男であることを隠し続ける姫と、彼を嫌悪する皇、二人の距離が限りなく縮まっていく……!?


〜ド変態のキリエさんばかり印象に…〜
 4巻発売致しました。今月のITANは「昭和元禄落語心中」に「梅鴬撩乱」と、結構主力そろい踏みな感があります。さて、「テンペスト」ですが4巻に差し掛かって俄然盛り上がってきましたよ!…キリエさんが。いや、色々見どころはあったと思うんですけど、今回ばかりは最初から最後までキリエさんしか印象に残ってないです。もう、圧倒的な存在感でした。こんなにも存在感を放っているのに、なお表紙を飾れずにいるという不憫さ。いや、それ以上に、作中でも不憫だったような…。そのお話は後々にするとして、まずはキリエさんの変態っぷりからの赤面をご覧ください。
 
 まずはこちら、ヘルスチェックをするために服を脱いでいる姫に「私がみてやろうか?」なんて早速変態チックに恍惚の表情で言ってみたら、靴が飛んできて頑なに拒否されてからの…
 
 
テンペスト4−1
このドキドキが止まらない感


 ど変態じゃないですか!こうして姫の知らない部分を引き出すことに快感を覚えてしまう、なんて不器用で質の悪い人なんだ。正直姫に対して歪んだ感情のままに悪事を働くだけ印象悪いのですが、こういう表情見せられちゃうと1センチぐらい肩入れしたくなっちゃうという。しかもキリエさん、こっからもう一発ありますから。それは、サキュバスが中央付近を襲った時。逃げ遅れたカヤシマさんを、姫が助けに行こうとしたときのこと。カヤシマは放っておけと言ったキリエを、姫がビンタ。
 


テンペスト4−2
そこで本音と赤面を


 なんですかこの仄かなデレは…!かなり緊迫したシチュエーションであったのですが、この一瞬だけはそれも吹っ飛ぶという、キリエさんの純情っぷり。ただの恋する素直になれない女の子です。このページの最後とか、完全にしおらしくなってしまって、「誰だお前」って感じです。この4巻で、この様子をみて、キリエさんが好きになった人は少なからずいるであろう、と。


〜ついに物語は動いたけれど〜
 さて、最初の方で「キリエさんは不憫」と書きましたが、何が不憫だったかって、そりゃあもう最後の幕引きですってば!4巻ラストでネタバレになるので、あまり触れたくないのですが、この最後のシチュエーション、キリエからしてみれば、これ以上ない感動の場面だったわけですよ。密かに想いを寄せて寄せて寄せた相手が、自分の髪を優しく撫で「行ってきます」と言ってくれた相手が、壁の向こうで絶対に死んだと思っていた相手が、奇跡的に生きていて、今自分の腕の中にいる。すぐに思うのは、キセキなんて言葉でしょうか。それこそ感動の再会。しかしそんな想いを寄せる相手は、自分の姿なんか目もくれず、別の人を見ていた。感動も束の間、壁で隔てられた際に思い浮かんだ疑問が、一瞬の喜びの後、みるみると大きくなっていくのでしょう。さて5巻、キリエさんはどんな様子になるのやら。というか、たぶんキリエさんにとってはダブルパンチなんですよね。男ってことと、姫が誰を好きかってこと、それが目の前にボンっと表れた時、どんな表情をするのやら。あれ、これって姫に対するキリエさんの感覚ですかね?いや、そんなことはないない…(ニヤニヤ)
 


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びっけ「王国の子」(1)
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レビュー
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