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2014.11.04
1106432484.jpgわんにゃんぷー/からて「青空嫌いの嘘つきセミ子」



ありがとう
ずっとずっと
大好きだよ




■主人公は、友人も彼女もいない小説家志望の大学生。彼は別大学への入学と小説の完成を目指し、孤独でつまらない日々を送っていた。そんなとき、突然押しかけてきたのは「セミ子」と名乗る女の子。毎晩、なかば強制的にセミ子と過ごす時間が、次第になくてはならないものになっていく。そんなある日、彼はふと気づく…。「なんでセミ子は夜にしか来ないのだろう」。せつなくて、ほろ苦い、珠玉のハートフルコミック。

 一応刊行当時は女性向けという触れ込みだったのでジーンシリーズをご紹介しているのですが、これはもう作品的に男性がメイン層の雑誌に掲載されていても違和感ないぐらいの内容。鬱屈した毎日を送る大学生の男の子の元に、謎の女の子が押しかけてくるという、一夏の不思議な体験を描いた1巻完結の物語です。

 主人公は別の大学を再受験しようとしている大学生(ちなみに最後まで名前が明かされません)。そのことを決意して以来、周りと馴染もうともせず、孤独な毎日を送っていました。そんなある日、いきなりセミ王国からやってきたという、「セミ子」と名乗る謎の女の子が押しかけてきます。過去に助けられた恩を返すため、願いを叶えに来たという彼女に、思わず「友達が欲しい」と言ってしまった彼は、以来彼女と「友達」に。毎夜やってくる彼女を不思議に思いながらも、だんだんと居心地よく思い始めた矢先・・・。


青空嫌いの嘘つきセミ子
世間知らずでお金も持っていなくて、「セミ王国からやってきた」なんていうセミ子。もうこんな訳わかんない人が突然夜中にやってきたら、怖すぎて逃げ出す勢いなんですが、主人公は体調不良と一抹の寂しさからつけこむ隙を与えてしまい、関係を築くことに。セミ子は終始アホ子なわけですが、そんな明るさに救われる主人公という図式。願いを叶える力などないセミ子ですが、その明るさや前向きさが作用して、結果的に夢に向かって動き出す原動力となっていくわけです。その関係が、優しく温かい。


 物語は基本的にこの2人で閉じていて、また舞台も基本的に主人公の部屋と、人間関係もフィールドも狭い中で展開します。また「セミ子」という名前からもわかる通り、時間的にもリミットがあることが容易に想像がつくかと思います。人、場所、時間とコンパクトに収まっており、1巻完結ながらも無理なく十分に描き切られております。
 
 タイトルと表紙からは判別がつかないと思いますが、少なからずファンタジックな要素が含まれている内容となっています。また、いわゆる感動もの路線を真っ直ぐベタに進む感じの作品で、そういった「おとぎ話」的な話が好きな方にはうってつけかと思います。そういう意味で、「ひねり」を期待して読み始めると肩透かしを食らってしまうかもしれませんので、ご注意を。ともあれ非常に優しい作品でございます。

 
【男性へのガイド】
→冒頭にも書いた通り、男性向けの媒体に掲載されていてもそんなに違和感なさそうな。
【感想まとめ】
→思いのほか王道と言いますか、ヘンに気取らずに感動的な話が描かれており、好印象の一作でした。


作品DATA
■著者:わんにゃんぷー/からて
■出版社:メディアファクトリー
■レーベル:ジーンシリーズ
■掲載誌:コミックジーン(?)
■全1巻
■価格:533円+税


■試し読み:pixiv

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2014.05.03
1106368428.jpg杜若わか「あっくんとカノジョ」(1)


まじのんたん笑顔可愛すぎて
世界救えるってマジで



■荘敦大17歳高校生。通称“あっくん”。暴言ガン無視当たり前。「ウゼェ」「キモイ」がよく吐く言葉。しかしその実態は……カノジョの“のんたん”に対するスーパーツンデレストーカー。盗聴、盗撮、尾行、録音、お手のもの。のんたんが好きすぎて世界のすべてがのんたん。だけど、のんたんの前では超ドライ。そしてのんたんも当然その生態には気づいている。そんな二人がおくる超人気1ページショートギャグコミック!

 ジーン連載作です。ジーンは元々女性向けを標榜していたので取り上げているのですが、これまでレビューした作品を見てもらえば分かる通り、あんまりそういう区分けが意味あるように感じないことが多いです。本作も男性向けとは思いませんが、萌え路線でないマンガタイムなんちゃらとかの4コマ誌あたりに掲載されていても違和感なさそう。ちなみに本作はpixivでヒットを飛ばしたタイトルのようで、ご存知の方も多いかもしれません。
 
 物語は超絶ツンデレ男子の異常な日常を描いたラブコメディ。主人公は目つきがちょっと怖いあっくんこと荘敦大(かがりあつひろ)。付き合って4年になろうとしている彼女・のんたんがいるのですが、その彼女への当たりがとにかくきつい。「うざい」「だまれ」は当たり前、時には「死ね」「消えろ」なんて言葉でジャレてくるのんたんを突き放します。しかしそれは強い強い愛情の裏返し。彼女のいない所では、彼女のことが気になって気になって仕方ないのです。部屋は一面彼女の写真で埋まり、盗聴で常に相手の音は拾える状態、彼女が触れたものには異常な愛着を示す…そう、要するにストーカーなんです。驚異の2面性を誇る彼と、そんな彼の生態を理解し付き合う心の広いのんたんの愛に溢れてちょっと危ない日々を、のぞいてみませんか?というお話。


あっくんとカノジョ1-1
 ツンデレとストーカーの両面を持ち合わせる男子を愛でるというか、おもしろがる作品。極端なツンは、照れもありますが、彼女の愛情をノーガードで受け取ってしまった時に死んじゃうんじゃないかという危機感からの予防線なのです。そのため、口ではうざいだの死ねだの言っていますが、彼女の希望は全力で叶えてあげるという姿勢。デートの時は必ず彼女の家に迎えに行くし、一緒に帰らない日も終始後ろから見守ってあげます。盗聴も当たり前の状況にあるのですが、彼はそれが悪いこととは認識していないご様子。まぁ、つまりかなり危ないやつってことです。


 そんな危ないヤツをドストレートに描いたら怖いだけで終わるのですが、それをなんとか笑いに昇華させているのは、彼をとりまく2人の存在のおかげ。ひとりは彼の親友である松尾。あっくんの家に入り浸りギャルゲに興じるという変わった趣味の持ち主ですが、その感性は一般人のそれで、あっくんの危険な行動の数々にツッコミを入れて行きます。しかし時にそんな彼でも受けとめきれない行動があるもの。そういう時は、最後の砦であるあっくんの彼女・のんたんが有り余る広い心で受けとめてくれるのです。
 
 
あっくんとカノジョ1-2
 盗聴されていてもボロが出ることなく4年も付き合えているというのは、裏表なく素直に全力であっくんを愛し、お付き合いしているから。心が広いのか、変わってるのかは良くわからないですが、彼女が天使であることはまず間違いありません。こうなるとわからなくなるのが、のんたんがこういう性格だからあっくんをこうさせたのか、こんな性格だからこそのんたんに惹かれたのか、という「鶏が先か、卵が先か」論。


 あとちょっとした見どころになるのが、あっくんの妹。彼女もまたのんたん愛が強く、一方で松尾に対して異常に強くあたるという。これがツンデレなのか、マジギライなのかは…果たして。


【男性へのガイド】
→先にも書いた通り、男性向けでもそれなりに違和感無く読めるかも。
【感想まとめ】
→ある意味完成した二人なので、これ以上変化も望めず、2巻以降どうするのかな、という想いはあるものの、とりあえず1巻時点では満足な内容となっています。こういう極端なキャラクターを使ったラブコメがお好きな方はチェックしてみてはいかがでしょう?


作品DATA
■著者:杜若わか
■出版社:メディアファクトリー
■レーベル:ジーン
■掲載誌:ジーン
■既刊1巻
■価格:533円+税


■試し読み:Pixiv(ログイン要)

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Tag [続刊レビュー] 2014.02.10
作品紹介→先輩、僕のために命を狙われてください。:成田駿×おそら「僕と先輩の鉄拳交際」



110634928111.jpgおそら/成田駿「僕と先輩の鉄拳交際」(3)


恋をしてしまったんですよ!


■3巻発売しています。
 先輩、言わなきゃいけないことがあるんです…。
 策略により姫子の信頼を失い、お目付役の任を解かれてしまった修二。修二の代わりにお目付役に昇格したのは、ライバルである一命。姫子は一命とともに過ごし、修二は撲冊魔から殺し屋組織に勧誘される。それぞれの日常が大きく変化する中、姫子の殺人計画が始まって…。
 

〜シリアス要素多めの3巻〜
 昨年末に3巻発売しております。3巻も変わらずラノベ的。しかし1〜2巻とは異なり、だいぶシリアス要素が強くなっております。特に中盤、姫子が攫われてからの奪還計画のフェーズはほぼ笑いの様子はなく、かなり緊迫した空気となっていました。割と謎というか、見えてこない部分が多い中で、少しずつその辺も明らかになりつつあります。たとえば今回姫子がマッドフリークになった原因に少し触れられているのですが…
 

僕と先輩の鉄拳交際3−1
暴力を愛情と勘違いしている


 直接的な原因こそ明らかになっていないものの、当然のことながらマッドフリークに生まれ落ちたわけではなく、何らかの要因によってマッドフリークとなったことが明示されております。しかしここまでの拗れっぷりに加えて、幼少期から…ということを考えると、結構えぐい原因だったりするんじゃないでしょうか。あと修二の秘密の方も少しずつ明らかになってきており、4巻以降物語の核心に迫っていきそう。


〜これもまたマッドなのか〜
 さて、今回そんな姫子が恋する相手はたった1人。1話完結の勧善懲悪ではなく、段々と個々の物語も長くなってきた影響でしょう。その相手は一命なわけですが、彼の背景を見ると、これまた生まれながらのマッドではない模様。一発屋でもないので、背景も割としっかりと語られます。彼の様子を見ると、本心としては攻撃したくないけれど、命令と割り切って心を奪われるように相手を攻撃するという。姫子はそんな彼を見てマッドだと判断=恋に落ちるわけですが、これって厳密にはマッドじゃないんじゃないのかなぁ、とも思ったり。作られた攻撃性という所では、修二ともそんなに大差ないような気もしておりまして。相変わらず突っ込みたいというか、不可解な部分もありつつも、楽しく読んでおります。しかし一命、このまま死ぬのかと思いきや、普通にラスト登場するっていう。命令主が居なくなって、マッド感はゼロに。これからは哀しみを背負った脇役へと変わっていくのでしょう。あと今回はガスマスクガールがほぼ登場せずだったのが、少し寂しい所。すぐ倒されたし。4巻ではもうちょっと登場してくれないかなぁ…。


〜小夜が一番平和で良いです〜
 そんなシリアスな空気の中、相変わらずなのが小夜。一番死にたがっている深刻なキャラなはずなのに、一番平和っていう。シリアスシーンには一切登場せず、割とどうでもいいパートには率先してその存在感を示してくるガヤ要員っぷりが素晴らしいです。今回もこの騒動が一段落したかと思ったら…


僕と先輩の鉄拳交際3−2
料理勝負


 束の間のお笑いパート。彼女の3巻でのほぼ唯一の見せ場がこれってのが、彼女の「どうでもいいポジション」を如実に現わしているようで素晴らしい。こういうパート、個人的に凄く好きなので、これからもちょいちょい挟み込んで欲しい所です。

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2014.01.05
1106349283.jpgU-temo「そこにいたの西山さん」(1)


まぁそうなったら
おれがまた見つけてやるよ



■女の子と話すことが苦手なヘタレ男の百合ケ丘君と、影が薄くて誰からも気づかれないステルス女の西山さん。二人の共通点は、隣の席の結城さんに憧れていること。ひょんなことから、結城さんと仲良くなるための共同作戦を行うことになるのだが…。ピュアで甘酸っぱい、青春系学園コメディ!

 コミックジーンで連載されている、U-temo(ゆうても)先生の初単行本でございます。ジーンは「僕と先輩の鉄拳交際」(→レビュー)など、最近気になる作品が続々出てきているのですが、本作も面白かったです。雑誌の元々のコンセプトは「女性向けの少年漫画雑誌」ということらしいのですが、女性向けっぽさをあまり感じさせず、どちらかというと4コマ雑誌とかに載っていそうなイメージで、だからこそ余計に興味を惹きました。
 
 主人公はクラスでもやや目立たない存在と言える草食系のヘタレ男子・百合ケ丘くん。そんな彼が想いを寄せるのは、隣の席に座っている美少女・結城さん。なんとか仲よくなれないものかと、チラチラと結城さんを見ていると、結城さんの先からこちらを見る女の子と視線がぶつかる。何度となく目が合うため、「これはこの子、俺のこと好きだな…」なんて考えていたら、実はその子も結城さんと仲よくなりたいということが判明。西山さんという苗字のその子は、クラスの誰もが認識していないレベルで目立たず、さながらステルス機のよう。だからクラスの中心にいる結城さんに憧れ、仲よくなりたいのだという。お互いの利害関係が一致した二人は、その日から、結城さんと仲よくなるための策を協力しあい行うようになるのですが…というお話。


そこにいたの西山さん1−1
 西山さんのステルスっぷりは尋常でなく、いるのに欠席にされたり、目立たなすぎてイジメさえも起こらないような状況。視認されていないんじゃないかっていう(だからこその「ステルス」という表現)。ただそれなのに百合ケ丘くんにはやたらと高飛車で、いわゆるツンデレキャラ的な態度で対峙してきます。そのプライドはどこからくるのか(侵されたことがないからこそなのか)。


 物語は想像の通り、結城さんとはなかなか接近出来ず、二人の仲がどんどんと深まっていくという展開になっていきます。自分だけが見つけることのできる、オンリーワンな存在…心くすぐられますよね。ただ当人たちはそんな恋愛の気は見せず、結城さんと仲よくなることに必死。そちらに気が取られているからこそ、奥手な二人がこれといった抵抗も見せずに距離を縮めることが出来ているとも言えるかもしれません。物語が進むにつれて、百合ケ丘くんは西山さんの部分部分(仕草や体)に女性的な部分を感じるシーンが増え、一方の西山さんも、百合ケ丘くんを大事な友達として認識していくように。後追いで意識が追いついてくるあたりが、甘酸っぱくて素敵なんです。


そこにいたの西山さん1−2
基本ヘタレな百合ケ丘くんは、西山さんにやられっぱなし。ただ時に男らしい行動を取ったり。これもは、足を痛めた西山さんをおんぶしてあげる百合ケ丘くん。けれどおぶってみたはいいけど、その接触感にやられるという。


 恋愛的発展はこれから見られると思っているのですが、まずは1巻では二人仲よくなる過程を目一杯楽しみましょう。同じ話題で盛り上がれたり、放課後一緒に過ごせたり、友達ができて仲よくなるってだけで、とっても楽しいものです。そういった喜びみたいなものが、本作にはしっかり落し込まれていて、それだけでなんだか面白い。不器用な二人のぎこちない歩みを、優しい目で見守ってあげたくなる、そんな作品です。


【男性へのガイド】
→ジーンでなくとも、違和感ない内容。男性も是非、というか、男性に向いてると思ってます、はい。
【感想まとめ】
→女性向けという枠で見たときの物珍しさからプッシュではありますが、全方位でのマンガ作品として捉えた時も、これはかなり好みの内容。絵柄は安定せずではありますが、その初々しさもまた初々しい二人を彩るのに一役かっている感あり。2巻が楽しみです。オススメ。



作品DATA
■著者:U-temo
■出版社:メディアファクトリー
■レーベル:ジーンシリーズ
■掲載誌:月刊コミックジーン
■既刊1巻
■価格:533円+税


■試し読み:第1話(pixiv)

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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.09.01
1106247118.jpg成田駿×おそら「僕と先輩の鉄拳交際」(1)

姫子
また恋におちちゃった



■最近2巻が発売しました。
 日本有数の財閥・恋ケ窪家のご令嬢の姫子。姫子のそばにいる後輩で、彼女の唯一の友人の修二。ロリータファッションのウザガールと、クールドS眼鏡の高校生は、とある特殊な関係で結ばれていて…。恋人でもなく、主従でもなく、そんな二人の秘密とは…。
 
 ジーンで連載されている作品でございます。最近2巻が発売されました。2巻が平積みされていて、表紙に目をひかれたので手に取ってみたところ、結構面白い。ということで、ご紹介です。

 物語の主人公は、とある高校に通っている男の子・修二。一見普通の眼鏡の高校生なのですが、彼にはちょっと特殊なお友達が…。それが、日本有数の財閥の令嬢である、恋ケ窪姫子。ロリータファッションに身を包むゴーイングマイウェイな彼女の唯一の友達が、修二なのです。そんな二人が抱える秘密…それは、姫子が殺人鬼に恋してしまう「狂人偏愛(マッドフリーク)」であること。修二は、姫子の友人であると同時に、姫子が引き寄せられた殺人鬼から彼女の身を守るボディーガードの役目も務めているのでした。今日も今日とて、どこから嗅ぎ付けてくるのか、姫子は殺人鬼に恋をするのですが…というお話。


僕と先輩の鉄拳交際
この勢い。恋する女の子は誰にも止められない。ちなみに姫子には、自分がマッドフリークであるという自覚はありません。そのため、修二に“守られている”という自覚も当然なく、あくまで修二は友人であり、恋愛相談の相手として認知されています。だから緊張の場面もこんな感じに。


 高校生のボディーガードが、シリアルキラーと対峙して戦うというお話。こういうのって得てして警察が絡んでいたりするものなのですが、本作の場合そういう組織は絡まず、財閥というバックがそれに取って代わる形になります。また逮捕だ成敗だなんて勧善懲悪的感覚はあまりなくて、主人公の修二がただただ破壊衝動を持つ悪者をぶちのめしたいという原理の元に行動するという。それを効率よく行うには、本能的にシリアルキラーを探し出して惹かれてしまうという、姫子のそばにいるというのが、うってつけになるわけです。しかもお誂え向きに、姫子はいったんスイッチが入ったら、止められないほどに妄想・暴走するという困ったちゃん。姫子が恋におちる→修二が成敗する→姫子が別の人に恋におちる…というサイクルで、物語は回っていきます。
 
 元々スタートが、狂人偏愛のヒロインとその恋愛相談&ボディーガードという関係性なわけですが、そういう特殊なつながりが続く中で、それぞれの感情にも変化が見られていくと思われます。匂い的には恋愛の方面に発展することはあまりなさそうなのですが、正直どうなるか想像つかず。またシリアルキラーを倒して行く中で、とある大きな殺人組織の存在が明らかになるという、ちょいと中二的な設定も登場して、物語は広がりを見せていきます。

 正直細かいところで色々と突っ込み所はあるお話なんですよ。けれどもこういうレーベルのこういう作品って、そういうの突っ込んだら野暮でしょう?むしろ個人的には、物語を大きな枠(壮大に)で描こうとして、回収しきれない(もしくは浅い)まま終わっちゃうのかどうかの方が重要でして。本作はそういう意味では大きすぎず浅くもなく、ちょうどいい枠組みの中でそれぞれのキャラが良い塩梅で収まっていて、現時点で非常に安心感があるのです。背景には大きな意思というものが働いているのかもしれないのですが、少なくとも表面的には、各個人が所属する組織・役割の中で、自分の信念の元に行動していて、かつそれが意外にも整然と物語に組み込まれている、そういったすっきり感があります。


僕と先輩の鉄拳交際1−3
 さて、また個人的にオススメしておきたいのが、1巻ラストにて登場し、レギュラー化するキャラクター・黒瀬小夜ちゃん。何かにつけて死にたがる、“死にたガール”。ヒロインの姫子もかわいいのですが、この子も見ため非常にかわいい。元々とある殺人鬼に殺されたいと願っていたのですが、それが叶わず、何故か最終的に「修二からの愛によって死にたい」という歪んだ結論に達し、以来修二につきまとうようになるという、こちらも姫子に負けず劣らずの残念女子。ちなみに本気で死にたいとは思っておらず、いざ身の危険が降りかかると、全力で逃げようとする模様。


 というか、2人の女の子に限らず、自己顕示欲の強い執事だったり、スピリチュアルにはまっている執事だったり、ガスマスクの女がいたりと、主人公の周囲は基本変な人だらけ。そんでもって、普段は一般人として社会に溶け込んでいる殺人鬼が一番まともに見えるという、不思議な現象を味わえることができます。というわけで、本作をどういう位置付けの作品として捉えるかというときには、基本的に変人巻き込まれ系のコメディだと思っておけばOKなんじゃないかと思うようになりました。
 
 妙にポップで、ホラーになりきれていないアンバランスさ。どちらかに突き抜けたらかなりキャッチーになりそうなのですが、そうするとただのラノベ的作品に落ち着いちゃって色がなくなるのか。可愛らしさと不気味さが共存するという意味では、本作自体がゴスロリっぽい感覚があります。また絵柄は美麗で、カラーページなんかは結構見入ってしまいます。女子二人の巻き込み具合と可愛らしさからすると、男性向けの感も非常に強い(ただ、主人公が女性向け作品っぽい資質の持ち主というだけで)。なんだかとっても気になる作品に出会いました。オススメです。


【男性へのガイド】
→先述の通り、主人公以外の配置は男性向けだとしても違和感ない内容です。
【感想まとめ】
→自分のアンテナに合ったのか、妙に気になって、読んでみたら「やっぱり面白かった」となった作品。こういうお話が好きな方は是非ともチェックを。


作品DATA
■著者:成田駿、おそら
■出版社:メディアファクトリー
■レーベル:ジーンシリーズ
■掲載誌:コミックジーン
■既刊2巻
■価格:533円+税


■試し読み:第1話

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