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Tag [続刊レビュー] 2014.02.02
作品紹介→東村アキコのルーツが赤裸々に:東村アキコ「かくかくしかじか」1巻
2巻レビュー→後悔先に立たず…なのですが:東村アキコ「かくかくしかじか」2巻


1106359657.jpg東村アキコ「かくかくしかじか」(3)



両方は 無理なんだ


■3巻発売しました。
 美大を卒業したあと、就職せずに宮崎に帰った明子。日高先生に再会し…。少女漫画家を夢見たあの頃を描く、ドラマチック・メモリーズ第三弾!!
 

〜3巻です〜
 3巻発売しました。なんかすげーふざけた格好した表紙ですが、これちゃんとした思い出のひとつなんですね。枇杷も、ウサギの被り物も。
 
 

かくかくしかじか3-1
物語中では、先生と一緒に採った枇杷が思い出の一つとして語られるのですが、確かに年上というか、年配の人との思い出ってのは割と果物とか植物とかが絡んでいることが多いような気もします。


 私の場合、祖父母との思い出は、庭になっているプルーンの収穫と、くるみの収穫がそれ。特にくるみは思い出深くて、下から木の棒でばさばさとふるい落とすのですが、アスファルトにくるみが当たって割れる音と、周りをつつむ実の青臭い匂いが、今も仄かに思い出されます。そのくるみの木は、祖父が亡くなった後、周辺整備の一貫で切られてしまったのですが、その時は思い出が一つ失われたようで、すごく寂しかったのを覚えています。対象物こそ違えどくすぐられる感覚は主人公・明子と同じようなもので、自伝と言えど結構感動のスイッチが入ってしまいがちで怖い。


〜忙しいから出来る〜
 さて、3巻では主に大学卒業後の彼女が描かれます。ニート期間を経て、とある通信会社に入ることに。はい、ちょうど「ひまわりっ!」で描かれた頃と被ります。
 
 入社してから、多忙を極めた明子。しかしこの多忙が功を奏して、大学時代に一向に描くことのなかったマンガを仕事と絵画教室の合間に描き上げ、投稿。見事入賞し、デビューへと漕ぎ着けることになります。忙しいから出来るってのはなんとなくわかる感覚で、自分も残業しまくってる頃の方がちゃんとブログ更新してたし、資格の勉強とかもしていた気がします、今振り返ると。「仕事は忙しい人に頼め」とは仕事でしばしば聞かれる言葉ですが、不思議とそういう時の方が敏速に動けたりするのですよね。


〜その源泉がなんとなくわかった気がする〜
 さて、2巻のレビューの時に、「なんでこう言ったのか良くわからなかった」と言ったシーンがありました。それが、これ。
 
10年目くらいに子供のことを描いたマンガがポンっと売れて
私の口座に大きなお金が振り込まれた時
私は悔しくて悔しくて
しばらくそこから動けなかった


 感情の沸き立ちは、行動と結果を起因として沸き立つものですが、上記のシーンでの印象は、割となんてことない(簡単な)ことをやったのに大きなお金が入ってきたことへの違和感といった印象でした。そして3巻では、似たような状況が起こっているのです。それが、一気に書き上げたマンガが入賞して、9万円も入ってきたというもの。入賞をきっかけに、漫画か絵画かを選びとるという一つの転換点に明子は差し掛かるわけですが、そこで語られる絵画と漫画の対比が非常に印象的。


かくかくしかじか3−2
マンガは気楽で、絵画はしんどい。体力的にも、時間的にも、そしてお金的にも。大変さで言ったら、完全に絵画>マンガ。


 ここで先の2巻のシーンに立ち返ると、なんとなく合点がいくというか。こんなにも苦労して作り上げる作品(=絵)はこんなにも評価されないのに、絵ほど労力のかからない作品(=漫画)はこんなにも評価されるという状況への悔しさなのかな、と。もちろん明子自身はマンガの世界を自ら選びとったわけで、彼女のみが素直にその感情を感じるのは変な話。どちらかといったら、悔しいと感じるべきは絵画側の人であって、むしろ明子が感じるべきは「申し訳なさ」だったりします。けれどもここで敢えて「悔しい」と表現しているのは、それくらい相手の立場に立てる(想いを込められる)人が、あちら側(絵画の世界)にいるということで、それは他でもない日高先生のことなのでしょう。日高先生のような人こそもっと報われるべきといった感情が、そこにはあるのかな、と。また最序盤から匂わせている、先生の死と照らし合わせると、「このお金で孝行できた」みたいな感情もあったりなかったりするのではなかろうか、とも。

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Tag [続刊レビュー] 2013.09.22
作品紹介→恋の予感に、脳内会議は紛糾!?新感覚ラブパニック:水城せとな「脳内ポイズンベリー」1巻
2巻レビュー→相も変わらず面倒くさい二人(褒め言葉):水城せとな「脳内ポイズンベリー」2巻



1106306560.jpg水城せとな「脳内ポイズンベリー」(3)


じゃあ付き合う?
結婚前提で



■3巻発売しました。
 櫻井いちこ(30)は元婚約者の話題でふと涙をこぼし、越智(31)にキスされてしまう。しかもその元婚約者からのメール着信で早乙女(23)とも不穏な空気に…!?一筋縄ではいかない新感覚ラブ・パニック第三幕が今、はじまる…!
 

〜相変わらず面倒くさい人たち〜
 3巻発売しました。結構間空きましたね、越智さんにキスされていたとか普通に忘れていた。早乙女との修羅場のイメージはあったのですが。ということで、今回は二人の男の間で揺れるアラサー女子の心情というものが描かれます。しかし、相変わらず面倒くさい性格の人たちです。変なところにスイッチがあるし、それが発動しやすく、かつ拗れやすい。唯一、越智さんは割とあっさり系の人なのですが、逆にそれが浮いている感。


〜結婚かときめきかの選択〜
 さて、今回はなんといっても越智さんのいちこへのアプローチがポイント。ついこの間まで婚約者にフラれて失意にくれていた人が、まさかの両手に花状態ですよ。将来は見えないけれどトキメキはある23歳と、トキメキはないけど将来は容易に想像できる31歳、一体どっちを取るのかという、割とありがちなシチュエーションを、脳内会議という喧騒に置き換えて描き出します。

 いちこですが、揺れる揺れる…。条件だけ言えば、間違いなく越智さんだと思うのですが、どうしてもトキメキを感じない。というか、ダメ男に振り回されすぎたのか、懐疑的に受け取ってしまいアプローチを遠ざけようとすらするような不幸体質感まで…。心は完全に早乙女くん。脳内懐疑では、早乙女を想うと俄然ハトコが興奮します。これ、おおよそ50:50で推移していることに驚きといいますか、定職無く30過ぎていればとくに悩むことなく「結婚」に行くイメージが。私の周りの女性からの印象では、出産というタイムリミットがあることで、男の人以上にシビアに時間を区切って結婚というものを捉えているイメージが強いので、将来の見えない23歳とわかっていても、それでも迷ってしまうといういちこのスローっぷり(焦りのなさ)に結構驚きます。
 

脳内ポインズンベリー3−1
もちろん彼女自身もそれは意識はしていると思うのですが、「時間が消費されるのが!」とかいいつつ、お別れの期限設定を1.5ヶ月という長めに設定するあたり、早乙女くんへの未練と、結婚への焦りのなさを感じさせます。3ヶ月なんてもってのほか。


 さて、暫定ではひとまず越智さんへと傾いたいちこ。でもこれで終わりではないのは明白。さて、どういう結末を迎えるのであろうか。どっちを選んでも、何かしらの後悔やもやもやは残るんだろうなぁ。正解のない選択肢であるからこそ、脳内会議も紛糾するし、盛り上がる。個人的には越智さんを応援してあげたいけれど、ときめきのない相手とのエンディングは、こと少女漫画ではなかなか考え辛いものがあります。結構リアルな線としては、どっちもダメ。もしくは、第3者が登場して颯爽と…とかいうパターン。
 
 この脳内会議ですが、こういうヒロインの状況も良いですけれど、既婚の奥さんとかの脳内も覗いてみたいもの。きっともっとすごいんだろうなぁ、とか。


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Tag [続刊レビュー] 2013.05.27
作品紹介→東村アキコのルーツが赤裸々に:東村アキコ「かくかくしかじか」1巻




1106280458.jpg東村アキコ「かくかくしかじか」(2)


私はまだもがいてる途中だよ
いつまでたっても
あの時のままだよ



■2巻発売しました。
 日高先生にしごかれて、美大受験を乗り切った明子。夢に近づくはずが…?少女マンガ家を夢見たあの頃を描く、セキララ、青春記、煩悶の第二章!!!!


〜2巻発売です〜
 2巻発売しました。年末年始のまとめ記事で、本作を継続作の1位にしたのですが、2巻がこのタイミングで発売ですよ。1巻では日高先生にしごかれる地獄の受験生時代が描かれておりましたが、2巻では大学に合格してからの生活が描かれていきます。
 
 見事美大に合格し、金沢で大学生活をスタートさせた明子。あれだけ大変な受験期を過ごし合格したというのに、合格した途端に絵がかけなくなってしまいます。描こうという気は、多少はあった。けれども、彼女を誘惑するものは、逃げ道は、それ以上にありすぎたようです。はい、大学生にありがちな、遊びに走るパターンです。
 
 ここからは怒濤のだらけた大学生活が描かれる形に。自分自身もそうでしたが、この頃って時間だけはたくさんあるので、色々考えることは多いんですよね。なので、ネタには事欠かない。ただやっぱり動きはなくて、うじうじと絵に向き合わない様子は、やや冗長でそしてこの気持ちがわかるからこそ、重苦しい。金沢ということで、日高先生と会う機会が減りエピソードが減ったというのもありそうで、1巻ほどのキレの良さは成りを潜めたような印象がありました。やっぱり日高先生やごっちゃんみたいな、ぶっ飛んだキャラがいてこそなんでしょうか。 


〜後悔を描くことで消化すること〜
 とはいえこのパートは物語上必要不可欠なもの。この物語を、日高先生への感謝と、そして後悔を描くものだとするのであれば、あれだけ懸命に受験期に指導してくれたにも関わらず、堕落して絵を描かずにいる大学生活というのは、一番の“後悔”パートになるわけで。1巻でも似たようなエピソードはありましたが、基本的には日高先生に従い、辛さが先行するような内容。翻って2巻では、離れているがゆえの裏切り、逃げみたいなエピソードが放り込まれて来るようになりました。特に印象的だったのは、先生がわざわざ金沢に来てくれた時のエピソード。来てくれたにも関わらず、嫌いなわけでもないけれど、見られてしまうのは恥ずかしいし、鬱陶しい…そのため、ろくに話もせずに


かくかくしかじか2−1
こんなことを


先生は家に泊まったものの、結局明子は彼氏の家に泊まり、家には先生が一緒に飲もうと持ってきたであろう焼酎だけが。こういう時、いつも後悔するんですよね。


かくかくしかじか2−2
そしてこうなる。


 私も実家の両親とは多少折り合いが悪く、たまに会っても鬱陶しく思ってついつい悪い雰囲気にしてしまったりして、そのたびに後悔するんですよね。離れて暮らしている以上、そうこの先会う回数も多くない。東京で、故郷で会うたびに「今回こそは」と思って会うのですが、それでも不思議なもので、まだ自分が子どもだからなのか、イヤな言葉を言ってしまったり不機嫌になったりすることがしばしば。それじゃあいかんと、ちょうど一昨日、この作品を読んだ後に父親に東京で会ったのですが、父親のリクエストに応えて、行きたい居酒屋に一緒についていき、さらには長年の夢であったキャバクラに親子で行って参りましたよ。これまで頑なに拒否していたのですが、行ってしまえば恥ずかしさはあれど、それなりに楽しいもので、少しは親孝行になったかな、なんて。
 
 それこそ、今恩返しできる人であれば次がありますが、そうでない人であればそれは後悔として自分の中で残り続けます。どうしたって、自分の中で消化していくしかないのですが、一つこういう形でその後悔を発露・消化できるというのは、すごく素敵なことだと思います。こうして自分の中に燻っていたものを、マンガに描いて吐き出すことで、少しは楽になるし、衆目に晒されることで相応の辱めを受けて納得して消化できるし。


〜私の感受性がないだけなのか、よみとれなかったもの〜
 さて、今回も面白さと切なさが入り交じる内容となっていたのですが、作者の語りパートで、ちょっと意図がわからなかったシーンが。それが学園祭から、自分のその後を語ることになったシーンでの、下記の言葉
 

 
10年目くらいに子供のことを描いたマンガがポンっと売れて
私の口座に大きなお金が振り込まれた時
私は悔しくて悔しくて
しばらくそこから動けなかった


  私の感受性がないのか、なんで彼女がここで悔しいと感じたのか、ちょっとわからなかったのです。ごっちゃんのことを描いたことなのか、それともやっと大きなお金が振り込まれた時間的な話なのか、また他のことなのか。前後の文脈からちょっと読み取れなかったので、そのストレートな感情の発露と相まって、余計に印象に残っていまして。この先その意味がわかってくるものなのか、それとももうここで完結している話なのか。ともあれ、3巻が気になるところ。楽しみに待ちたいと思います。


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Tag [新作レビュー] 2013.02.25
adusayumi.jpg釣巻和「あづさゆみ」


もっともっと大人になるから
今だけ
ずっとよ



■子どもだからって、恋を知らないなんて思わないで。
 中学2年、春。いつも一緒に学校に行く仲の、幼なじみのはるの様子が少しおかしいことに気がついた、なる。なるを避けるようなはるの態度に、なるは戸惑ってしまうけれど…。14歳同士。不器用な二人が初めて味わう、淡く、苦い、幼なじみの恋のものがたり。

 「くおんの森」や「水面座高校文化祭」などを描かれている釣巻和先生のCocohana連載作でございます。どちらの作品もネットで話題になっていたりするので気にはなっていたのですが、今の今まで手つかずで、本作が初めての釣巻和先生作品になりました。
 
 本作は、とある町の男女の幼なじみの関係を描いたお話。中学2年から卒業までの、多感な時期を描きます。ヒロインは、幼なじみ相手では勝ち気ながら、外ではおとなしいメガネの“なる”。そしてそんな彼女に振り回されつつも、いつも優しく受け入れてくれる“はる”。二人の家は真向かいにあり、どちらの家庭もシングルマザーと、幼い頃から家族同然で一緒に過ごしてきたのでした。しかし中学が統合されて新しい中学に行くようになってから、はるはなんだか、なるを避けるように…。おかしいとは思いつつも、お互い素直になれない二人は、なぜだかすれ違うように…。


あづさゆみ1
「家族」だと思っていた関係の変容。お互いに男女として意識し始め、その想いは加速していく。


 表紙からもわかるかと思いますが、独特の絵柄が特徴的でございます。なんだかエロティックさも感じられる表紙ですが、そういうシーンはありませぬ。けれども、なんだか、とっても、エロい。これは絵柄がもたらすものなのか、意図的にそういう描き方をしているからなのかわかりませんが、なんだか終始、どこか見てはいけないものを見ているかのような感覚が、心の奥底に…。これって私だけなんでしょうかね。読んだ方に聞いてみたいです。
 
 さて、物語の方ですが、二人の幼なじみの「恋の自覚」→「恋心の発露」→「相手に見合うだけの男女になれているかの葛藤」といった段階を踏んで卒業までが描かれます。何か大きい事件が起こるわけではないですが、その局面で常に何かと戦いあがき続ける様子が、どこか痛々しくて、切ない。青春時代を、幼なじみという関係を、キレイに描こうという感じはあまりなく、汚い歪な形の心情も含めて全部落とし込みます。ゆえにスムーズに進むことはなく、どこかしらでやきもき感を抱くので、読むと結構疲れます(笑)


あづさゆみ
こんなところがエロティックというか。雨に濡れた中で、手のひらにキス。


 物語はなる視点が多いですが、私は男なので、どちらかというとはるの心情の方がより共感できる部分がありました。そんんでもってなるの行動には一部イライラしてしまったり(笑)一筋縄で行かない幼なじみを好きになっただけでも大変なのですが、まぁ何かと多感な時期ですし、ましてやシングルマザー家庭でありながら離婚はしていないので、その辺の複雑な事情も背伸びして受けとめてしまったり…。そういった過程を経て、はるは段々と良い男になっていくんです。


【男性へのガイド】
→リュウとかフェローズとかに載ってても違和感ないようなイメージです。ので、男性も是非。
【感想まとめ】
→一部イライラする所もありましたが(笑)1巻でしっかりとまとめてくれました。最後はやっぱり、ほっこり。幼なじみの関係の変化だけでなく、一人一人の成長という面で切り取ってみても、面白い作品であったと思います。


作品DATA
■著者:釣巻和
■出版社:集英社
■レーベル:Cocohana
■掲載誌:Cocohana
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

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Tag [新作レビュー] 2012.11.26
1106192524.jpgヤマシタトモコ「裸で外には出られない」


自分がふざけたボトムスしか持っていないことに気づきまして…


■「オタクがばれない格好がしたい…」ふとそんなことを学生時代に思ったことが、ヤマシタトモコのファッションの歴史の始まりだった…。そんな決意をして幾星霜。自らのコンプレックスと闘い、煩悩に敗北し、欲望に戸惑い、憧れを胸に抱く…。いまだにファッションとかわからない!けれども裸じゃ外にゃ出られない。ヤマシタトモコがあなたに問いかける、オシャレ問答!

 ヤマシタトモコ先生のcocohana連載作でございます。どんなお話かと思いきや、なんとファッションに関連するエッセイ作。なんとなくヤマシタ作品のイメージから、勝手に「さぞオシャレなのだろう」などと思いきや、なんてことはない、出発地点は「オタクばれしないこと」であり、描かれているのは常々オタク女子達が抱えるファッションの悩み。それらを持ち前のコミカルさで描き上げ、取り留めのないファッション談義を繰り広げるのでした。


裸で外には出られない
ヤマシタ先生の自画像(右)。この切れた感じの目、既存キャラでいたような気がするんですよね。なんだったかなぁ、名前が出てこない…。


 ファッションという波の中溺れる姿が描かれているわけですが、たぶんヤマシタトモコ先生はオサレだと思うんですよ。そしてファッション知識も当然ある。そもそも腐女子の女性って、勝手ですが、割と小綺麗な格好というか、男性のオタク群と違ってちゃんとした身なりをしているイメージがあるんですよね。それでもファッションに興味を持ちはじめた出発点が「オタクバレ防止」というのは逃れられない事実であり、それを未だに引きずっている感が。全体を通して伝わってくるのは、自らを「こう表現したい!」という強い思いではなく、「せめてきちんとした格好をしたい」とか「自分に合う格好ってなんなんじゃ!」てな消極的な姿勢。これ、私も自分の服装についてはその感があるので、非常に共感できました。とはいえ女性のオシャレは、男性とは比べ物にならないほど大変なのだろうなぁ、と。
 
 本作で一番印象に残っているシーンは、なんでしょう、ヤマシタ先生のサルエルパンツ率でしょうか。なかなか周囲に履いている人がいないのですが、履く人は履くのですね。基本的にとりとめのない話を繰り広げているので、敢えてこのエピソードを!というものはないのですが、気どらず飾らずで描かれているので非常に読むのが楽。専門的なファッション用語は登場せず、手術入院時はふんどしが良いとか、太いベルトを巻くとOLっぽくなるとか、そういう一般的な被服に関するお話が多いので、かなり親しみやすいかと思われます。


裸で外には出られない1−2
ブラジャーに関するお話もなかなか興味深いものがありました。特に世の中の4割くらいの大人の女性が…という行動様式の妄想が特に。妄想というか、たぶん実体験なんじゃないか。


 また表題作の他、普通の読切り作品が3編収録されております。こちら、ブラックさと隠微さが軽妙にミックスされた高め安定のヤマシタ作品。個人的には美青年がお気に入りでした。ただただ黒いっていうね。こういう性格の悪いお話は結構好きなのですよ。

 読切り含め全体的にまとまりのない単行本ですが、かといって内容が薄いわけではなく、このジャンクっぷりを楽しめればそれで良いのかな、と。ヤマシタトモコ先生のファンはもちろん、軽めのエッセイ作品がお好きな方にもオススメできる一作です。


【男性へのガイド】
→女性ファッションものかと言われるとそうではないので、敷居は低く男性でも行けそうです。こういう人の生態を知ることが出来るという意味でも、読んでみる価値はあるかと。
【感想まとめ】
→非常に気楽に読めて、楽しむことができました。オタクとその服装というのは、永遠のテーマなのだなぁ、と。


■作者他作品紹介
*新作レビュー* ヤマシタトモコ「Love,Hate,Love.」
ヤマシタトモコ「恋の話がしたい」
女はみな、かわいげな獣:ヤマシタトモコ「HER」
処女女子高生と裸族を同居させると…:ヤマシタトモコ「ドントクライ、ガール」
ヤマシタ先生新作!ミラーボールが引き起す奇跡:ヤマシタトモコ「ミラーボール・フラッシング・マジック」
少女の正体は魔性か、凡庸か。:ヤマシタトモコ「ひばりの朝」1巻



作品DATA
■著者:ヤマシタトモコ
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックスcocohana
■掲載誌:cocohana
■全1巻
■価格:648円+税


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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。