このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2014.05.08
1106352002.jpg兎原シイタ「島カレ。」(1)


やってけんのかな
あたし…



■父親の転勤で、男ヶ島にやってきた一花。そこは、『東京都』とは思えないほど不便な孤島だった。同級生・碧は無愛想でぶっきらぼうだし、後輩の空夜はドSの俺様…しかも、島で女の子は一花だけ。一筋縄ではいかない男の子たちとの島暮らし。こんなところでやっていけるの!?!?

 コミックポラリスの連載作です。既に2巻まで出ておりますが、1巻までしか読んでいないので、そこまでのレビューになります。ご了承を。というわけで、あらましから。物語の舞台となるのは、東京都の離島である「男ヶ島」。羽田から飛行機で45分、さらにフェリーで2時間半という絶海の孤島とも言うべき場所に、父親の仕事の事情から引越しすることになったのは、普通の女子高生である一花。コンビニも服屋も何もないこの島で、高校生は一花を含めてたった3人。二人ともイケメンだけど、同級生の碧は無愛想で心が見えないし、後輩の空夜はオレ様ドSで、それぞれ性格に難アリ。生活も、人付き合いも何かと問題ありそうなこの島で、一花の新生活がはじまったのですが…というお話。
 
 火山性の島で断崖に囲まれており、島外への出入りもなかなか大変な東京都の絶海の孤島…これだけでピンと来る人ももしかしたらいるかもしれませんが、男ヶ島は実在する青ヶ島という島がモデルになっています。少し前に、東京最後の秘境なんていって話題になりましたが、ここは歴史的にも興味深いエピソードを持っている島で、Wikipediaの「還住」の項目は非常に読み応えがあります。興味があれば、こちらも是非。


島カレ。1-1
相手候補2人。左のメガネくんが後輩で、右の前髪重めの彼が同級生で、ちょっとだけ同居人。学年は違いますが、分校方式で同じ教室で過ごします。


 さて、物語の方ですが、閉ざされた環境でイケメン男子二人と学生生活を送るというお誂え向きなシチュエーションでの青春モノ。タイトルから、ガッツリハーレムものかと思っていたのですが、そこまで相手候補は増えません。一応先生がイケメンだったり、中学生の愛すべき不思議系な後輩がいたりするのですが、脇役に収まっている感が強く、恋愛方面で絡んでくることはなさそうです。相手役候補二人はどちらとも一筋縄ではいかない性格の持ち主で、けれども環境上、一緒に過ごさざるを得ないという状況、その中で徐々に打ち解けていき、やがて恋心が…という流れ。その上で、恋の駆け引きがなされていきます。
 
 実在するモデルであることに加え、どうやら作者さんは実地に取材に行かれているみたいです。近場ならわかるのですが、前述の通り非常に交通の便が悪くなかなか行き来できない場所ということで、それでも行くだけの覚悟と愛があるのかな、と。そのためイベントも青ヶ島というフィールドを存分に活かした内容となっています。恋愛メインだと割とシチュエーションからしておざなりになりがちな設定なのですが、こちらは多少の恋愛要素は削ぎつつもそういったネタを投入してくるので、それが逆にベタ甘苦手な男子などにもとっつきやすくなっているんじゃないでしょうか。ちゃんと、「島」と「カレ」が併存できていますよ、と。


島カレ。1−2
 こういう作品でもついついヒロインの友達の脇役女子に目移りしてしまったりするのですが、年頃の女子はヒロイン以外に登場しません。なおヒロインは割と切り替えの早い前向きな性格の持ち主で、島生活にも驚くほどのスピードで順応していくという。そのため見ていてとても気持ちよいです。リアクションもよく、転がし甲斐がありそうな性格です。
 

 1巻時点では三角関係ですが、これからさらに駒が増えるってこともないことはないのか。ただ途中参戦でかっさらえるほど、関係性が脆弱でもなさそうで、やはり基本はこの3人で回すことになるのでしょう。面白いのは同級生ではなくて、ドSメガネが後輩というところか。大抵こういう場合って同級生たちだったりするのですが、これが一人後輩になるだけで、微妙なパワーバランスとなり、色々と変化が生まれるのですよ。人物配置や舞台設定、諸々興味を惹かれる作品でした。


【男性へのガイド】
→先述の通り、ハーレムものの体を取っていますが、同系統の作品と比して割と男子も受け入れやすい仕上がりなのではないかと思います。
【感想まとめ】
→タイトル、表紙から受ける印象とは異なり、とても読みやすくて面白い作品でした。気になったらまずは試し読みを!


作品DATA
■著者:兎原シイタ
■出版社:ほるぷ出版
■レーベル:ポラリスコミックス
■掲載誌:コミックポラリス
■既刊2巻
■価格:571円+税


■試し読み:第1話

カテゴリ「ポラリス」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2014.05.02
1106380079.jpg慎本真「SSB―超青春姉弟s―」(3)


後ろ向きな私は
どんどん遠くなっていっちゃうね



■3巻発売しました。
 夢に向かってマイペースに邁進中の新本姉弟。そんな新本姉弟に振り回されつつ、人生に恋に焦り始める斉藤姉弟。走って、迷って、立ち止まって、また進む。どこにでもある、でも4人だけの青春をゆるっとだらっと過ごす日常コメディ!


〜3巻です〜
 3巻発売しました。相変わらずゆるい青春が繰り広げられていますが、日常系のそれとは異なり、1巻に比べるとやっぱりちゃんとみんな自らの人生の歩を進めているのに気づかされます。前回のレビューでは「モラトリアム漫画」なんて称しましたが、そこに滞留する気はあんまりないのだな、と3巻を読んで思わされたのでした。
 
 今回の大きな流れは2つ、1つはチコちゃんのマンガ持ち込み、そしてもう一つはチカとマオの体育祭と応援団のお話。ここに来て俄然浮き彫りになるのが、新本姉弟と、斉藤姉弟の関係。どちらも新本姉弟が自ら決断して飛び込んで行った事物に対して、斉藤姉弟が付き合わされるというもの。バカは行動力があるとか言いますが、新本姉弟は典型的なアクティブバカですよね。当然跳ね返される場面もあるわけですが、それにめげずに何度でもぶつかれる強さがあります。一方斉藤姉弟は、なかなか自発的に決断して行動できない。やればできるのに。新本姉弟は打数で稼ぐタイプで、斉藤姉弟は打率で勝負するタイプと言いますか。今回だって、チカが風邪で応援練習にいけなかった時にも


SSB3-1.jpg
ちゃあんと代役務めてるし


〜自分で掴めるチャンスは意外と転がってるんだ〜
 さて、というわけでモラトリアムで思い悩むのは、斉藤姉弟ばかり。新本姉弟は、あんまり悩んでる姿を見ることができません。悩む前に即行動という感じだからなのか。先の通り、やればできるし、やれば糧になりそうなことにもちゃんと気づける。“チャンス”は意外にそこかしこに転がっているのです。


SSb3-2.jpg
ほら、留学だって。


 マコちゃんを見ている限り、それがすぐに活きるかどうかは微妙ではありますが、スキルだけでなく、その経験そのものが糧ですし、そのスキルだっていつか活きる場所があるかもしれないわけで。必要以上にヤラズな感が、斉藤姉弟にはありますよね。それで、少しそれを後悔しつつも、安心と引き換えに諦めている感が(ってさっきからワケの分からないことをうだうだと書いていますが、これ自分に言い聞かせてます、自分に)。というわけで、前回も書いたような気がしますが、身につまされるのですよ、この2人の行動を見ると…。そして、焦りみたいなものが彼らに出だすと余計に…。すっかり目が離せなくなってます。


〜恋に進路に悩め悩め〜
 タイプが全く違う。新本姉弟はたぶん無意識のうちに進んで、知らず知らずのうちに選びとっていくんだと思うんですが、斉藤姉弟はそれができない。悩んで悩んで、進まない時の方が多いんでしょう。大きな失敗もせず、なんとなくでここまでこれた。無意識的に進んで来ているのは同じですが、その質というか内容は全然異なると言うか。これからも斉藤姉弟は悩みに悩むのでしょうが、それが面白いのだから、もっと悩めば良いのです。そんな思い悩む二人の姿が、想いが、かつての自分を見ているようでもあり、痛くも心地よいのです。
 

SSB3-3.jpg
そんな中、一歩勇気を出して踏み出した、マコちゃんのこの行動…
 
 
 そしてそんな勇気に気づけない新本姉弟。いや、だから良いんです、それだから。妙にセンシティブだったりすると、逆に辛いじゃないですか。何気にマオから欲しての行動はこれが初めてだったりしませんかね。これでゴールでは決してなく、この後デートしてさらにマオは思い悩むのでしょうが、やっぱりもっと悩んで悩んで苦しんでほしいなぁ、と。そして、そんなの関係なしに新本姉弟は能天気でいてください。そのバランス感がまた良いのです。


【関連記事】
作品紹介→変わらないユルい日常が愛おしい:慎本真「SSB-超青春姉弟s-」

カテゴリ「ポラリス」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2014.01.18
作品紹介→入替わって1000日、誰も知らない思春期交換。:将良「思春期ビターチェンジ」1巻



1106352000.jpg将良「思春期ビターチェンジ」(2)


すっかり忘れていた
自分は今
男なのだということを…



■2巻発売しました。
 木村祐太と大塚結依。小学生時代、ふたりの心と身体は入れ替わってしまった。3年後、ふたりは男女逆転したまま中学生になる。友達ができたり、誰かが気になったり…告白されたり。互いに変わってゆくのは身体だけじゃない。恋、友情、家族…変化が、はじまる…!?


〜周囲では結構反応が…〜
 「思春期ビターチェンジ」ですが、年明けに書いたまとめ記事の反応で、一番多く名前が挙っていたのがこちらなんですよね。思っているよりも認知度、人気が高くて驚いたのを覚えています。そしてこのタイミングで2巻発売、早い!そして何より、面白い。物語は中学生編。思春期真っただ中の二人が、変わらず入れ替ったままに、青春を戸惑いながら駆け抜けます。


〜意外にも色恋は控えめ〜
 1巻で既に中学生編はスタートしていましたが、半分ぐらいは小学生編。2巻ではがっつり丸々中学生編が描かれます。中学生と言えば、思春期まっさかり。まだどこか幼さを残し、一方で大人の階段を上る、アンバランスで初々しい、青春の匂いプンプンの年頃。入れ替ってどんな出来事が起こるのか、非常に楽しみでした。まず先行する期待は、何よりも“恋”ですよ。1巻では木下さんが、なんとなく一波乱起こしそうな感がありましたが、案の定、祐太(というか結依)に恋してしまいます。木下さんは意外にも積極的。ついぞライバル宣言まで飛び出すわけですが…
 

思春期ビターチェンジ2-1
こんなわけわかんないことになる
 
 
 いやあ、もうちょっと恋愛的な動きが出てきて、恋の矢印が飛び交うのかなとか思っていたのですが、一人飛び込んできただけでこんなことになるのですね。なかなか恋もできません。特に入れ替わりの当人達には恋愛の気はゼロ。戻ることが大前提で、入れ替わっている間は恋なんて…という想いもあるのでしょう。ただ、ちゃーんとドキッとするシーンはあります。それが表紙にもなってるこれ…


思春期ビターチェンジ2-2
私んだから(太字)

 
 いやードキっとしました。思わず言っちゃった、祐太の気持ちってのはどんなだったんでしょうかねー。自分(体)のためなのか、自分(心)のためなのか、はたまた結依のためなのか…。この後に、こっそりと赤面しているのがまた良し。


〜「戻る」という大前提があるから〜
 先述の通り、二人はあくまで戻る前提で行動をしています。だから、高校も同じにしているんですよね(もちろん一緒にいて楽しいってのもあるのでしょうが)。こういう物語だからある種当たり前ではあるのですが、5年の長きに渡って戻ることが出来ていない状況で、お互い全く諦めていないのは、結構すごいなと思います。自分だったら諦めてしまいそう…そして開き直って、女子ライフを謳歌する…とか。
 
 入れ替わって5年というと、人生の中でも結構な分量。さらに小学4年から中学生というと、一番多感な時期で、今後の人生にも大きな影響を与える期間でもあります。そんな時期を、お互いが戻る前提でやや遠慮しつつ過ごすって、どんな感じなんだろうなぁ。この時期に、所謂自我が確立されると言われていますが、そこにただならぬ影響を与えそう。物語は元に戻って、その後ちょっと描かれて終わりという感じになるのかもしれませんが、もっと大人になってからの様子とかも見たい…ってそれは、壮大なシミュレーションになってしまうのか。いや、要するに何が言いたいかというと、二人とももう少し開き直って過ごしてみたらどうなのだろう、と。これだけ過ごすと、自分の知らない自分のこと、そして家族のことが出てきます。その一つが、今巻で描かれた結依の家族問題なのですが、これからも意図せずに自分の証を相手の家族関係・人間関係に残してしまうことがあるのでしょう。その時にどう振る舞うのか。恋だけでなく、そういった所含めて楽しみです。


〜試し読みができます〜
 現在2巻発売記念として、コミックポラリスの方で1巻分まるまる再掲載しているようです(2/1まで)。もしまだチェックされていないという方がいましたら、この機会にちょっと読んでみてはいかがでしょうか?


■COMICポラリス:思春期ビターチェンジ

カテゴリ「ポラリス」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.12.15
1106343606.jpgKUJIRA「やさしい針」(1)


そっか…
好きなんだ



■編み物が好きな男の子・亮太朗。一緒に暮らしている義妹・結子のことは、大事だし可愛い。これからもずっと変わらずに、平穏な生活が続いていくと思っていた。なのに、雨の日に綺麗な女性に出会ってから心の中のざわつきが止まらない。先生と生徒と義妹。手芸男子がおちた、はじめての恋。

 「ワールドエンドゲーム」(→レビュー)や「ちよこチョコレート」(→レビュー)のKUJIRA先生のコミックポラリス連載作でございます。元々「編み物男子の恋」という触込みで知っていたのですが、読んでみてびっくり。“編み物”という家庭的で柔らかくて温かいイメージとは裏腹に、KUJIRA先生ならではのビターなテイストに溢れる切ない物語となっていました。

 物語の主人公は、編み物が好きな男の子・亮太朗。彼の家族関係はちょっと複雑で、両親は子連れ再婚同士で、彼には同い年の義妹がいます。そして数年前に母親は高い。今は父親と妹と暮らしていますが、血のつながりのある身内はいません。恋も知らず、家族と温かな日々を過ごしていたある雨の日、道でびしょ濡れになりながら涙を流している女性に遭遇します。一瞬で目を奪われ、心まで奪われてしまった亮太朗。そして迎えた高校の入学式。そこには、その時出会った女性の姿が。彼女の名前は、三木。亮太朗のクラスの副担任の先生でした。恋心を自覚し、変わりゆく亮太朗を横目に、ずっと一緒に過ごしてきた義妹の結子は、苦い顔をするのですが…というお話。


やさしい針
 亮太朗は、無邪気に他人のためを思って行動出来る人物。自分の気持ちに素直で、行動的で、自分で動いて調和を取ろうとするタイプ。一方の結子は、色々とネガティブに考えてしまって動けない。人一倍周囲を気にするんですけれど、それゆえに足がすくむ。動かないことで調和を取ろうとするタイプ。私は俄然後者であり、もう読んでて結子ちゃんが切なすぎて…。


 とにかくビター。登場するキャラクターがそれぞれに、様々な想いを抱えており、それらが時折あらわになり、胸を痛くさせます。主人公の亮太朗は無邪気に恋をしていますが、家族内で唯一血のつながりがないというバックグラウンドを持っています。妹の結子は亮太朗に淡い淡い想いを寄せており、また亮太朗が恋する教師・三木は雨の中涙を流した明かされない事情が。またその他の脇役たちも、何かしらの想いというものを持っており、これから物語を彩るのでしょう。これまでもKUJIRA先生の作品はそういった要素が多分に含まれていたのですが、あくまで主人公だけでのお話。それが今作の場合は、複数のキャラに跨がっており、そしてそれが互いに絡み合う感がある。今から切なさの予感がビンビンですよ。


やさしい針1−1
 どのキャラクターも素敵ですが、俄然気になるのはやっぱり結子ちゃんですねー。切なさ成分では1巻時点でダントツ。自分の気持ちは自覚しつつも、どうすることもできないので、許される範囲で亮太朗に寄り添うし、彼の恋に抵抗しようとする。家族の中での自分の役割というものもちゃんと自覚して、その想いを抑えようとしている様子も、本当に切ない。


 あとどうしても気になるのがマッチ。地味な脇役なんですけど、彼女が本当にいい味出してる。出自はごくごく普通である分、その持っている感性も普通で、共感しやすいんですよね。地味な分あまり報われることがなかったのか、自分のことを卑下しすぎな感じはあるのですが、そんなところもまた素敵。あと思春期の女の子らしく、一丁前に恋してたりとか、もう甘酸っぱいです。また他人の気持ちを察するのに長けていて、一番状況を理解できているのですが、それゆえに変な気遣いをさせられる場面もあり、大変な役回りだなぁ、と(笑)誰より心配なのは結子ですが、誰より応援してあげたくなるのはマッチですかね。
 
 これがあるべき形でしっかりと着地してくれたら、間違いなく名作に仕上るであろう予感がひしひしとしています。切なさ重視の物語を所望されている方がいたとしたら、これはうってつけ。ど真ん中すぎて、もう。これは今年の新作でも上位の心の射抜かれ方。アラサーの悲哀を描いた物語に心打たれることが増えてきた今日この頃ですが、思春期の男女の心の揺れ動きでこうも持ってかれるものがあるとは。全力でオススメです。


【男性へのガイド】
→編み物男子というのはちょっとびっくりされるかもしれませんが、物語自体は普通。切ないストーリーがお好きな方は是非。
【感想まとめ】
→今年でも上位の面白さ、というか切なさでした。話の全容が見えないのですが、期待感は非常に高いです。オススメです。


作品DATA
■著者:KUJIRA
■出版社:ほるぷ出版
■レーベル:ポラリス
■掲載誌:コミックポラリス
■既刊1巻
■価格:571円+税


■試し読み 1玉め 【PC】/【スマートフォン】
2話目以降
カテゴリ「ポラリス」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2013.12.08
1106321956.jpg


なんかイヤな予感…


■「おかしいな。俺の足元、知らぬ女児。」
ネガティブだけど根は前向きな大学生、路地静流。とある休日、彼が出会ったのは運命の恋…ではなく、見知らぬベイビー!?なんとその子は、同じ大学で想いを寄せている、憧れの奈々さんの親戚の子だった…!人付き合い苦手系男子と、ぐいぐい来るちびっこ・心のあったかコメディ。

 最近新刊を出しまくっているコミックポラリスからの単行本です。本作は第1弾になるので、発売はちょっと前ですかね。作者は奥山ぷく先生。作品経歴を見ると、主にBLで描かれている漫画家さんのようです。もちろんですが、本作はノーマルです。
 
 主人公はちょっと暗めの男子大学生・路地静流。根は前向きではあるものの、ネガティブでインドア派。印象としては群れられずに少数の友達と静かに日々を過ごす、理系学部でよくいそうな男子って感じでしょうか。そんな彼の専らのトレンドは、同じ大学ではじめて好きになった女の子・奈々さん。「付き合うなんてそんな突飛なことは考えない、けれども、連絡先…いや、せめて名前くらいは覚えてもらいたい!」と、彼女がよく出没するという公園で待っていたら、何やら見知らぬ幼女が隣に。離れようとしても付いてくるし、無下に扱えば泣かれそう。どうすることもできずにあやしていると、なんとその子は奈々さんの親戚の子であるということが判明。幼女の異様な懐きっぷりから、子供好きのあやし上手と奈々さんにご認識された結果、以降何かと子供を交えつつ交流を持つことになるのですが…というお話。


Baby,ココロのママに1−1
 子供なんて別に全く興味がないけれど、好きな子とつながりを持てるのであれば、甘んじて受け入れよう…そんなスタンスの男の子が主人公。そしてこういうタイプのキャラってのは、往々にして巻き込まれ体質なんですよね。何かと子守りに巻き込まれ、受け入れちゃって、心で叫びつつも根は真面目なので結構頑張っちゃっうという不憫さ。でも終わってみればまんざらでもなかったな、という。見よ、この体の張り具合。


 巻き込みの源泉となるのは圧倒的に奈々さん。いつも笑顔で清い心の持ち主であるのですが、ド天然の気があり、善意のトラブルメーカーとして活躍。さらに親戚の幼女・米田(苗字です)も非常にアクティブな子なので、これまた色々と物語に動きをもたらします。そのため主人公が安らげる時間というのは作中でも本当に一瞬だけで、終始慌ただしく駆け回るという。頑張り具合がすごいんですよ。
 
 恋愛発進ではあるものの、メインは子育て(子守り)。そういう意味では「ひなたま」(→レビュー)や「flat」(→レビュー)あたりと同じ系統と言えるかもしれません。ただこっちの場合は体の張り具合が一歩抜けていて、またテンポも速くアクロバティック。あぁ、先の2作品の様相と呈しつつも、つまるところエッセンス的に近いのは「ママはテンパリスト」(→レビュー)なのかも。変に類型化するのは野暮ではあるのですが、なんとなくイメージ掴めたでしょうか?


Baby,ココロのママに!
ナチュラルにこんなことをしてしまう奈々さんは優しさと天然さのかたまり。こういった行動に、路地くんは逐一たじろぐのでした。だから好きなんですよね、きっと。


 1巻時点ではドタバタコメディ一本という感じですが、恋愛も発展するだけの下地は十分。ヒロインが天然なので、なかなかその真意は読み取れず、またなかなか恋愛方面の空気を出しづらい部分はあるのですが、これだけ頑張っているのだから多少報われたっていいはず…!あと思わぬご褒美があったときに路地くんがどれだけたじろぐのか見てみたいってのも(笑)

【男性へのガイド】
→ベビーシッティングものって男性にどれくらい訴求するテーマなのかわかりませんが、男性主人公で動きのあるコメディでもありますので、割と受け入れられる下地はあるんじゃないでしょうか。
【感想まとめ】
→面白かったです。コメディ要素だけでなく、後半に恋愛要素投入の兆しもあったりで、期待が膨らみます。


作品DATA
■著者:奥山ぷく
■出版社:ほるぷ出版
■レーベル:ポラリスコミックス
■掲載誌:ポラリス
■既刊1巻
■価格:571円+税


■試し読み:第1話 【PC】/【スマートフォン】
2話目以降

カテゴリ「ポラリス」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。