
もう
確かめる術はないけれど
俺たちは
多分幸せだったのだろう
■とある世界のとある国の中央統治局特別捜査部に身を置く、温厚で人当たりの良い青年・汐と、真面目ゆえに気の強い青年、海。二人に持ち込まれる依頼は、どこか不思議なものばかり。蝶の痣を顔に持つ、スラム街の教会に育った少女に、唄を捜す孤児の少年、街の時計を止めて回る眼帯の少年に、死人の帰りを待つ蝋人形師…。どこか壊れた人々の願いを聞き届ける、そんな二人が見つめるものとは…。この街は、戸惑いと希望に満ちている…
「ねじまきの庭」(→レビュー)を連載していた榧世シキ先生が、過去に連載(不定期?)していたシリーズを、このタイミングで単行本化したものでございます。舞台となるのは、とある世界のとある国。そこの中央統治局特別捜査部に属する、温厚で人当たりの良い青年・汐と、無愛想で気が強い青年・海が物語の主人公となります。なにやらすごそうな所に所属していますが、実のところそこは、雑用捜査係とでも言いましょうか。さほど大きくない案件を任されるという部署。そんな所に舞い込む、ちょっと不思議な事件の解決までの過程と、その当事者の住民との関わりあいを、静かに静かに描いていきます。

落ち着きのある作風に、物語の優しさと悲しさが静かに降り積もる。
不思議と言っても、魔法使いなどが出てくるわけではありません。イメージとしては、宗教であるとか、各地に伝わる民間伝承みたいなものが未だ残っているような世界という感じ。ゆえにファンタジー作品というジャンルには当たらないという印象です。狙ってそうしているのかはわからないのですが、全体的に「死」や「死者」が、物語に大きく関わっているものが多く、作品通しての雰囲気は、どちらかというと暗めとなっています。死や死者の存在があるからこそ、人々は何か得体の知れない不思議な力にすがりたくなるというもので、そんな人々を相手に、その行動を否定しつつも、その想いだけは汲み取るという、そんな役割を主人公の二人は担っていることになります。そんな二人もまた、死者の存在によって、その身の振り方を変化させられた人間。かきおろしとして収録されているストーリーは、まとめに相応しい良い物語だったと思います。ただ「ねじまきの庭」もそうなのですが、説明不足でわかりづらい節があるので、オススメはしづらい作品ではあります。
同時収録されている「翠都」も、秀逸。こちらも設定的にはややわかりにくいところがあったのですが、物語や設定の折り畳み方が見事。新人類と旧人類というふたつの存在がいて、先に提示された関係を、そこに投入したとある設定を使って、最後にはひっくり返してしまうという。物語としても面白かったですし、作品の構成の仕方も上手いなぁと思わず唸ってしまいました。でもやっぱりちょっとわかりにくいところがあるし、なにより雰囲気がやや暗めで、オススメはしづらい作品ではあるのですが。
【男性へのガイド】
→主人公は男ふたりで、ややそっち向けの人物構成となっていますが、そういう雰囲気はほぼナシ。物語としても、それなりに読みやすい内容になっていると思います。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→榧世先生の作品が持つ、独特の落ち着いた雰囲気は、個人的に好きだったりします。ただちょいとわかり(ry
作品DATA
■著者:榧世シキ
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:WARD(平成16年vol.4~vol.7)
■全1巻
■価格:552円+税
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