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Tag [オススメ] 2010.08.01
07207203.jpg和泉かねよし「女王の花」(1)


ひとつだけ
希みの星が
私の手の中にあった   



■2巻発売しました。
 むかしむかし、あなたが考えるよりもっとむかし。天下はひとつではなく、国と国が争う時代のお話。亜国の姫でありながら、冷遇されている亜姫。幼いながらも、体の悪い母の世話をしながら、明るく生きる亜姫はある日、金の髪とてんの色の目を持つ奴隷の少年・薄星と出会う。境遇の違いを超えて、強い絆で結ばれる二人だったが、その前に横たわる運命は、あまりに激しく厳しいものであった…
 
 「そんなんじゃねえよ」、「メンズ校」(→レビュー)などを描いた和泉かねよし先生が贈る、歴史ロマン超大作でございます。1巻発売は2年前。ベツコミに年に1~2度、100ページくらいでまとめて掲載されていたという経緯があり、この度「メンズ校」の連載を終わらせて満を持して定期連載化したという運びがあります。2巻までは、不定期連載のページ多め掲載の分となっています。
 
 物語の舞台となるのは、昔の中国を思わせる、国々が勢力争いを繰り広げる戦乱の世。その中の一国である亜国の姫が、物語の主人公になります。彼女の名前は亜姫。姫でありながら、まるでその存在がないかのように扱われているのは、彼女の母が小国・黄国の出身であるがため。亜国の世継ぎは、大国・土国出身の妃が生んだ王子というのが体勢で、政的にも性別的にも、亜姫の存在というのは微妙なものでありました。土妃からヒドい扱いを受けながらも、当の姫は逞しく明るく成長します。そんなある日、彼女は王宮内で、とある少年に出会います。奴隷として連れてこられていた、薄星という名の少年は、金色の髪に青色の目を持つ胡人。お互いにその存在を認め合った二人は、境遇の違いを超えて、いつしか強い絆で結ばれるようになります。しかし、平穏な毎日はそう簡単には訪れてくれません。やがて二人は、激しすぎる運命の流れの中に、身を投じざるを得なくなっていきます。そしてその先にあるものとは…というのが、物語の背景となります。


女王の花
度々登場する、「千年の花」のお話。千年に一度だけ咲くというその花は、どんな望みも叶えるという花。それは歴史と共に、やがて「女王の花」として語り継がれていきます。


 胡人(ヨーロッパ人)の家臣とお姫さまの恋愛ドラマだと思われるかもしれませんが、物語の成分を表すと、恋愛50%、ヒロインの姫として、そして女王としての生き様を描くドラマ50%というところ。単なる恋愛ものではなく、しっかりと重厚な歴史ストーリーを用意し、大河ドラマとしても十分に楽しめる内容となっております。
 
 物語的な展開としては、母の死をきっかけに国を追われたヒロインが、母の生まれた国に戻り、復讐のため激動の中を生きるというもの。意志の強いヒロインと、それを守る薄星という関係。亜姫と薄星共に、自分が生まれた境遇を発端とする、抗いようのない運命に巻き込まれ、そしてその激流の中を、やがて自ら泳いでいくようになっていくわけですが、その描き方が秀逸。姫として生まれた以上、その行動によって国民や周囲の人間に多大な影響を与えてしまい、物語としてもその枠を無視することなく進行していくので、恋愛マンガにありがちな「愛さえあれば全部解決!」なんて安易な方向に進むことはありません。まずは姫としての自分がいて、その中で薄星との関係を作っていくという作品としての優先度が見えており、だからこそ恋愛メインの少女漫画でそれをやるとしたら、恋愛もドラマ性も、両方本腰入れないと…となるわけで、それはもう読み応えがあるわけですよ。
 
 「メンズ校」の最終巻が非常に残念な形でラストを迎え、さらに同時収録の読切りも正直ヒドかったことが記憶に新しく、「女王の花」は決してそんなことがないことを切に願っているわけですが…。現時点では、物語はしっかりと練り込まれており、度々登場する未来の状況を匂わせる描写(物語冒頭の年老いたヒロインの想い。女王即位のテロップetc.)からも、物語の道筋はある程度固まっていることが窺え、これは大丈夫なんじゃないかな、と。薄星と亜姫の恋愛がどのように展開していくのか、そこに若干の不安は残るものの、とりあえずは気にせず応援したいと思っております。というか、多分大丈夫。1巻冒頭のモノローグと、「女王の花」のくだりを見ると、どうにも恋愛先行でオールオッケーにはならないと思うんですよね。そして今のところは、間違いなく「買い」です。


【男性へのガイド】
→重厚感はプラスだと思いますが、ヒロインの気質及び、薄星との関係性についてどう思うか。ベツコミの中では、「Piece」に並んで読みやすい作品だと思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→「メンズ校」があんなだったので、一抹の不安はあるのですが、きっと今度は大丈夫!読み応えのある良作。これが大作になるかは、これからの展開次第ではありますが、その可能性は低くはないと思いますよ。


作品DATA
■著者:和泉かねよし
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:ベツコミ
■既刊2巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

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コメント

こんにちは。

メンズ校のレビューの最後でちょびっと紹介されてて興味を持ってたのですが、単行本発売なんですね。
っと・・・いきなり2巻?・・・1巻はだいぶ前に発売されたんですね-。ぜんぜん知りませんでした。

それはともかく、面白そうなので本日買ってみました。

まだ1巻しか読んでませんが-

この話は秦の始皇帝をモデルもしくは参考にしているみたいですね。

商人である青徹が将来の(女)王に投資(ここでは教育)してる、わざわざはっきり「奇貨居くべし」と発言してる、亜姫が捨て駒同然の人質として他国に行くことになるなど・・・。

青徹と亜姫の母親と関係も伏線が張られてますが、亜姫の父親が実は青徹だったなんてこともあるかも?

本腰入れて連載となったようなので、これからが楽しみです。
From: しろくま * 2010/08/04 19:50 * URL * [Edit] *  top↑
どう転んでもハッピーエンドじゃなさそうなので、若干読むのが辛い…
面白いから読んじゃうけど。笑

同じ歴史漫画の二の姫物語はハッピーエンドだったから
展開は異なるだろうなぁ
薄星死んじゃうんだろうなぁ。さびし。
From: ~名もなきお * 2010/08/07 16:52 * URL * [Edit] *  top↑
コメントありがとうございます。
お返事遅れてしまいました。

こちら、最近の少女漫画でもかなり読み応えのある大作となっていますので、
おすすめでございます。
確かに1巻の匂わせ方を見ると、どうにもハッピーエンドではなさそうな感じを受けますが、
それ含めて、既にシナリオはある程度できあがっているのではなかろうかと思いますので、
期待しています。

3巻発売は比較的早そうなので、今から楽しみです。

From: いづき * 2010/08/12 00:41 * URL * [Edit] *  top↑

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