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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2010.08.09
1102950772.jpgねむようこ「パンドラ」


この人
まるでケーキを食べるみたいに
私を触るんだな



■ねむようこ先生の短編集、10篇を収録。それでは表題作をご紹介します。
「ああ、月だけが無駄に満ちている」
男もいないし、酒も好きじゃない、シュミも才能もない。挙げ句明日からまた仕事。つまらなさを改めて実感する、ゴミ出しを終えた休日の夜、部屋に戻るエレベーターに乗り合わせたのは、派手なヒールだけを履いた、全裸の女性。わけのわからない状況に、思わず言葉を失うも、同時にその体の美しさに見惚れてしまう。生命力溢れる肌、細く柔らかなライン、かわいい唇、長い睫毛…そして突然こちらを振り向き、その女性は声をかけてきたと思ったら…

 「午前3時の無法地帯」(→レビュー)ですっかり人気作家の仲間入りをし、現在「午前3時の危険地帯」(→レビュー)を連載中のねむようこ先生の短編集が、このたび祥伝社から発売となりました。1話目に収録されているかきおろし「ポリへドロン」をのぞいては、その全てがフィールヤングでの掲載作。ショート作品が多く、全部で10の物語が収録されています。その多くが、「午前3時の無法地帯」や「ペンとチョコレート」(→レビュー)にてメインで描かれたような、恋のトキメキ的要素は薄めの内容。どちらかというと、今ある恋人・異性との関係性や自分の現状を、一度ゆっくりと考え、そこから変化ないし原点回帰していくというもの。短編という性格を考えると、その方が展開しやすいのだと思います。そしてどれもしっかりと折り畳まれていて、無理のない作り。女心なんてものは、今もきっとこの先もわかることなんてないと思いますが、この作品を読むと、なんとなくわかったような気持ちになれるから不思議。そのくらい、読み手を引き込むということなのかもしれません。


パンドラ
男女の密着感であったり、恋の甘さであったり、その奥にある黒い部分の苦さであったり…なんというか、空気感が良いのです。緩いとか優しいというわけではなく、どこかしらに緊張感はあるのですが、それがまた。


 先に挙げた連載作が、恋と仕事という組み合わせだったのに対し、こちらは仕事描写はほとんどなし。むしろ多いのはセックス描写でしょうか。セックス描写と言っても、最中の描写は少なく、多いのは事前・事後。その時が一番フラットな視点で考えることができるとか、セックス前後の異様な冷静さであるとか、逆に大好きな相手としたときの幸福感や肯定感など、その時の精神状態を表すのにはもってこいのシーン。また、セックスシーンでなくとも、裸でいる描写というものが多く(表題作はもちろん、一話目の「ポリへドロン」なども)、裸がそのまま心まで裸にしているってわかりやすい部分もあるのかもしれません。包み隠さない自分といいますか、ストーリー展開が決して爽やかではないものも多いのですが、サバサバと開けっぴろげな感じが心地よく、どのお話もとても読みやすかったです。
 
 個人的なお気に入りは、ケーキと男(甘味と性感)を求める感覚がリンクしているヒロインの恋模様を描いた「ケーキホリック」。ケーキを食べながらしないとイケないという、ちょっと変わった性癖の持ち主である彼女。でも性欲と食欲って、生物の本源的な欲求であり、それがリンクして色々と感じることが出来るのであれば、それはさぞ素晴らしいのだろうなぁ、と。またケーキというモチーフが、乙女心にポップな彩りを添えていて、なんともかわいらしく素敵に映るのです。
 
 また帯には「ポップなのにダーク。カラフルでいてリリカル」とあるのですが、特にカラフルでリリカルでダークだと感じたのが、最後に収録されていた「ナイトフルーツ」。フルーツモチーフで、そのままカラフルな感じが伝わってくるのですが、その内容がなんとも…。女性と話していると冗談でこういう話が出たりしてくるのですが、それがこういった形で描かれると、男としては顔をちょっと歪めてしまいそうになります。そしてオチがまた…(笑)最初から最後まで、今までに見たことのない一面も含め、存分にねむようこワールドを堪能することができました。これはオススメです。
 

【男性へのガイド】
→フィールらしい女性メインのストーリー。けれども甘ったるくないので、読める人は結構いそうな気がします。ねむ先生ですしね。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→短編集は、サラッと読んで、その後に心地よさであるとか何かしら


作品DATA
■著者:ねむようこ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング(年月号~)
■全1巻
■価格:933円+税


■購入する→Amazonbk1

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