
あの時
瞬時に塗り替えられた空気感を
上手く言えなかった
■比々羅木神社の息子・圓城陽大は、兄・陽向、従姉妹の雛と共に弓道に励んでいた。神社の隣の畳店の娘・宗我部花乃は、陽大の流鏑馬姿を一目見て心打たれ、弓道を始める。それまでは単なる「隣の神社の息子」というだけだったが、その日からは違う。そして今では、園城兄弟と共に、倭舞中学の弓道部で弓を引く日々を送っている。しかしそんな毎日は、ある日突然終わりを迎える。比々羅木神社の宝物殿から出火。瞬く間に燃え広がる炎の中、園城家の人々は、宝物と家族を守るために宝物殿へと飛び込んでいくが…
くらもちふさこ先生の新作は、連載中の人気シリーズ「駅から5分」(→レビュー)に繋がる、もう一つの物語。神社の息子に生まれた少年と、その彼の流鏑馬姿に心打たれ、以来ずっとその姿を追ってきた少女の姿を、花染町を舞台に描いていきます。神社と、その隣の畳店。そこの子供として生まれた二人、陽大と花乃。お互いに面識はあったものの、花乃にとって陽大は、あくまで単なるお隣さんの息子という感覚。しかしある日、彼の流鏑馬姿を目にしたことで、その印象は一変。一瞬で心打たれ、彼女もその姿、そのとき感じた感覚を追って、弓道を始めます。入学した倭舞中学の弓道部では、陽大、陽大の兄の陽向と共に、弓を引く日々。メキメキと腕を上げた末、関東大会で団体優勝するレベルにまでなります。しかしそんな日々も、ある日突然終わりを告げることに。陽大たちのいる比々羅木神社の宝物殿から出火。宝物を守ろうとした母に、その母を助け出そうとした父、そしてそんな二人を追いかけた兄。ひとり引き止められた陽大だけが、結果として助かるものの、失ったものはあまりに大きすぎました。結局陽大は、生まれた町を離れ、花染町の親戚の元に引き取られることに。離ればなれになってなってしまった、陽大と花乃。しかし花乃の想いは、決して彼から離れることはなく、数ヶ月後、再び二人は出会うことになるのです…というストーリー。

斜めに描くことで生まれる、緊張感と気合い、そして躍動感。非常に印象的で、ついしばらくの間眺めてしまいました。やっぱすごいな、と。弓を射る姿のカメラワークが、多種多様で、しかも全部素晴らしいという。
中学生二人をメインに据えつつも、かなり状況的にはヘビーな物語展開。それでも暗く重苦しく展開するのではなく、緊張感のある空気感を持続させるという形に変換。独特の雰囲気を保った作品に仕上っています。「駅から5分」は短編形式で幾つもの物語が入れ替わりで続いていきますが、こちらは一つの物語で構成。舞台は同じ、物語は絡み合いつつも、味わいや魅せ方は全く異なったものになっているという印象を受けました。
視点は終始、畳店の娘の花乃。彼女の心情、行動から、陽大とその周辺にいる人々を描き出していきます。中学生がこれほどまでにしっかりと考えて行動しているのかどうかはさておき、こういう関係、こういう雰囲気、こういう考え方をしているというのが、しっかりと伝わってくるのは大きな魅力。出発点である強烈な彼の存在・姿という軸をしっかり持っているため、揺れる心を描きつつも、ある意味安定・安心して見ていられるのは、こういったところに要因があるのためでしょうか。ただひたすらに、一つのものを追い求める少女に、その背中よりもあまりに大きいものを背負わされた、物静かな少年。どちらもこの上なく素敵。この二人がこれから、どんな物語を花染町で作り上げていってくれるのか、楽しみで仕方ありません。
絵柄の基本は、やはり時代を感じるものであり、うちのブログを見てくださっている方達のことを考えると、おすすめするのはどうだろうという考えが頭をよぎります。けれども、やっぱり好きなので、結局はおすすめしよう、と。とりあえず、絵柄が苦にならないという方であれば、読んでおいて損はないかと思います。また「駅から5分」との兼ね合いですが、こちら単体で読んでも全く問題なし。「駅から5分」を読んでいると、より作品に味わい深さが出るという感じだと捉えておいていただければ良いのではないでしょうか。どちらを先に読むも良し。個人的にはこちらの方が、より印象的だったので、こちらを強くおすすめしたいところではあります。
【男性へのガイド】
→くらもちふさこというと、やはり「少女漫画」なわけですが、好きな人も当然いますでしょう?やっぱり読み慣れているほうがよいとは思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→正直客層を考えると、強めプッシュは気が引けるのですが、好きなものは好きということで、こんな感じで。だって絶対2巻気になりますし、そして面白いに違いないし。
作品DATA
■著者:くらもちふさこ
■出版社:集英社
■レーベル:クイーンズコミックスコーラス
■掲載誌:コーラス(2010年3月号~)
■既刊1巻
■価格:419円+税
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