もとなおこ「ドリーナ姫童話~クイーン・ヴィクトリア冒険譚」
それともあなたたちは
このパイよりも
子供の命の方が軽い国に
住みたいのですか!?■歴史に名高いヴィクトリア女王が、まだドリーナ姫と呼ばれていた頃。王室の実権を握っていたコンロイは、徐々に王室の人間を腹心たちで固め、その地位を益々盤石のものにしようとしていた。そんなコンロイを見て、危機感を募らせるドリーナ姫は、どうにか抵抗しようと試みるも、力で押さえつけられてしまう。そんな彼女の姿を見た天使たちは、彼女の手助けをしようと、とある試みをするのだが・・・
「コルセットに翼」(→
レビュー)のもとなおこ先生の短編集でございます。短編集といっても、長編読切り2篇と、すごく前の読切りが一つ収録されているだけで、ひとつ一つのお話はとってもボリューミーでございます。それではメインとなる、ふたつの物語をご紹介いたしましょう。表題作は、「コルセットに翼」と同じ、19世紀のイギリスが舞台。幼い頃から天使の姿を見ることが出来た、姫・ヴィクトリアは、日に日にその発言力を強めていく秘書・コンロイに危機感を覚え、なんとか状況を打破しようと考えます。そんな彼女の姿を見て、天使たちはどうにか手助けしようとするのですが、そこから事態は思わぬ方向に…というストーリー。もう一つ、「執事と奥様」は、植物研究をしている教授と結婚することになった、元タイピストの女性が主人公。結婚して、教授と共に暮らそうと、彼の屋敷に行ってびっくり、そこにはかつて恋した執事の男の子がいたのでした…というストーリー。どちらもイギリスを舞台に、ファンタジックな要素を交えつつの、大人のためのおとぎ話を展開していきます。

天使のひとりは、人間の姿で彼女の前に現れる。それが全ての始まりだった。
ドリーナ姫童話は、実在する人物たちがモデルになっており、ストーリー展開も歴史に照らし合わせられながら進んでいきます。ヒロインのドリーナは、イギリスの女王となったヴィクトリア、その配偶者となる、エドワードも登場。物語は、彼女が女王になる前に、イギリスの現状を知り、より相応しい人物になっていくという成長・変化の過程を描いていきます。面白いのは、しっかりとファンタジーの要素を物語に落とし込んでいること。天使が見えるという設定がまずあり、また天使が手助けのために人間に入り込み、彼女を助けるという状況が登場します。いきなり天使とか言われると、きっと慣れていない人であれば面食らうと思うのですが、最後の最後、すごくキレイな形でまとめてくれるので、全部帳消し。これは素敵。面白いとか、楽しいとか、その物語を形容する言葉というのはたくさんありますが、この物語に関して言えば、素敵一択。少女漫画式のファンタジーおとぎ話のお手本のような物語構成となっているのです。作品の雰囲気から何から、古くさく感じられる部分が多々あると思うのですが、それでもこれを古き良きとして捉えてくれる人もたくさんいるはず。今でこそこういったパターンの作品はあまり見なくなりましたが、出来が良ければしっかりと楽しめるのだな、と感じられた一作でした。
また同時収録の「執事と奥様」も、物語の舞台の時代感と、古き良き少女漫画の雰囲気が出た面白い作品となっております。特に何も考えずとも、楽しむことができるのですが、ちょっと個人的にひっかかりのある部分があり、もしそこが狙われて作り込まれているのだとしたら、すごいなぁ、と。最後教授が天に召されるのは、ヒロインがシークレットガーデンを開けた時になるのですが、そこで咲いていたフェアリー・プランツは、仏がモチーフとなっている植物がモデル。フェアリーなのだからフェアリーなのかもしれませんが、天に召されるタイミングで仏モチーフって、何かありそうで。勘違いですか、そうですか。
またドリーナ姫童話では、コルセットに翼のネタが登場。ファンには嬉しい仕掛けが施されていました。また同時収録されている「宇宙色ティータイム」は、なんと85年の作品。私の生まれる前ですよ、前。ここまでいくと、古くささというよりも、歴史を見ているような感覚で、逆に抵抗感なくすんなりと読むことができました。目にー☆みたいな表現が、バリバリ使われていた頃。すごいです。少女漫画家さんの絵柄は変わるものですが、ホントに全然違いますね。
【男性へのガイド】→女性のための、古き良きおとぎ話という印象。男性が読んでも良いですが、やはり女性が読んでこそというイメージを受けました。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】→導入からとっつきにくいと思っていたら、最後にあまりにキレイに、しかもド直球でまとめてきたので、感動。これは素敵な作品だと思いました。
作品DATA■著者:もとなおこ
■出版社:秋田書店
■レーベル:プリンセスコミックス
■掲載誌:プリンセス,プリンセスGOLD
■全1巻
■価格:400円+税
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