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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2010.08.30
1102950672.jpg如月園「恋する惑星」


「ここに居て」
そう
言いたかった



■読切り6篇を収録。それでは表題作をご紹介。
 今まで人間だと思っていたけれど、ある日突然宇宙人であることを父に明かされ、さらに250光年離れた故郷に帰ることになったメロ。自分が宇宙人であるということもショックだったけれど、それ以上に気がかりなのは、幼なじみのイチとのお別れ。この気持ちはいったい何!?その正体もわからないままに、星を離れることだけ伝えたメロだったけれど…
 
 来ました。集英社の若手漫画家さんの短編集って、年に数回大当たりが来るのですが(差作品集としても、そして何よりこれからを楽しみにさせる意味で)、今年の大当たりはこちらの作品であるような気がします。もう何から何までツボでした。これはこの先絶対売れて欲しい漫画家さんです。収録されているのは、表題作はじめ6編の読切りたち。どれも一風変わった設定・表現を用いて、オリジナリティ溢れる、とってもかわいらしい作品たちに仕上げられています。それでは少しずつ物語をご紹介していきましょう。
 
 ある日宇宙人であること、そして星へ帰らなければいけないことを親から告げられたメロは、幼なじみとの別れに心揺れて…という表題作「恋する惑星」。デブは嫌いだと言う少年・椿が、ぽっちゃり系女子・まるこに告白をされる事から始まる「HUG!」。まるでロボットのような風紀委員長と、反抗的な女子生徒の関係を描いた「きまぐれロボッツ」。超貧乏な幼なじみが、夜逃げをすることになって…という「愛しのジャイアンさま」。変わり者女子がある日、同級生のキスシーンを目撃したことから始まる「HAKKA!」。そして生まれた時間が1分違ったことで、学年が別れてしまった幼なじみの男女の優しい関係を描く「BIRTHDAY SONGS4/1」。どれもありふれた人物像、設定ではなく、少し捻った関係・設定を用いてお話を展開しています。


恋する惑星
ポップに可愛らしく描きつつも、切なさ成分はしっかりと配合。甘過ぎず、バランス良く読み進められます。


 個人的にお気に入りだったのが、ぽっちゃり女子との恋愛を描いた「HUG!」と、1分違いで1学年違いとなってしまった幼なじみを描いた「BIRTHDAY SONGS 4/1」。前者はとにかくぽっちゃりした女の子の魅力が存分に描き出されていて、本当に素敵でした。ぽっちゃり系の女の子って、私も好きなのですが、ぽっちゃりしていれば誰でも良いってわけではなく、やっぱり明るくて、それでもってご飯を美味しそうに食べる人がとりわけ素敵だな、と。そしてこのお話のヒロインは、そんな私のぽっちゃり系の理想を地でいくような子だったのです。ちょっと抜けていて、でも純情で、マスコット的にかわいらしい。そして何よりこの話ですごいのは、男の子視点で物語が描かれているというところ。それって、ある程度相手役の女の子が魅力的でないと、話が成り立たないわけですが、ぽっちゃり女子のまるこはしっかりとその役を務めているんです。それって何気にすごいことですよ。


恋する惑星1
明るくポジティブに、笑顔を見せながらご飯を美味しそうに食べる。そんなぽっちゃり系の女の子は最高にかわいらしいと思いませんか?


 また後者の「BIRTHDAY SONGS 4/1」は、出生時間が1分違っただけで学年が違ってしまった幼なじみという、まず現実ではありえないだろうなという設定の物語。でも切ない系のお話が好きな方だったら、このシチュエーションでまず持っていかれちゃうでしょう?もちろん年下くんは、彼女のことが好き。けれども彼女は、同じ学年に好きな人が…。たった1分の違いが、1年もの違いになって、自分の前に立ちはだかる。それはもう、中学・高校という時間に生きる彼らにとってみたら、あまりにも大きな差です。そんな少年の葛藤を、きらびやかな絵柄で表しつつも、しっかりと表現し、泣かせる。ちょっとしたパロディなんかも入れるのですが、その空気感がとても心地よく、なんだかすごく心に響きました。
 
 
 振り返ってみて見ると、多いのは幼なじみという設定。物語が突如断絶したように新事実が明らかになることがあるのですが、その途切れ方が心地よいのです。それは、幼なじみという設定があるからこそ、私達が脳内でその絆の部分を勝手に補完できているからなのかもしれません。あからさまに説明はしないけれど、それでも空気感・距離感で読者を納得させてしまう。そんな物語を描く上手さを、随所に感じることが出来ました。また何より設定をひねっていながら、描き出すのはごくごく普遍的で純粋な恋心や絆。それをとってもポップな可愛らしい絵柄で描くのですから、素敵。別マやマーガレットでありがちな、モノローグで青春の心を真っ正面に描き出す…といった自然な味わいとは一味違う、人工甘味料のような、よりポップで飾られたような物語を享受することができます。いや、例え悪いかもですが、素敵なんですよ、と。イメージ的に被ってきそうなのは、アルコ先生とかでしょうか。それをもうちょっとフワフワにした感じ。とりあえず、青田買いが好きだという方はぜひともチェックを。


【男性へのガイド】
→絵柄的にポップな感じが苦手という方はダメかもですが、この空気感やストーリーは男性も好きな人多いはず。ちょっとズレた恋愛ものが好きだという方は、騙されたと思ってぜひ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→これは好き。先生、絶対に売れて欲しい。というか、それなりに人気になってくれるはず。変だけど、かわいくて、切なくて、そして温かい。これはちょっとこれから注目です、はい。


作品DATA
■著者:如月園
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

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