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*新作レビュー*タカハシマコ/桜庭一樹「青年のための読書クラブ」関連作品レビュー→
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タカハシマコ/桜庭一樹「青年のための読書クラブ 」(2)
諸君、
世界は本当に空っぽか?
本当に空っぽか?■2巻発売しました。
乙女の楽園「聖マリアナ学園」。その創立者・聖女マリアナは、女生徒たちにこよなく愛された。しかし彼女は、ある日突然、学園から姿を消してしまう。校内の異端者だけが集う「読書クラブ」に語り継がれる、秘密のクラブ誌。そこには、聖女マリアナに関する謎も記されており、密かにクラブ内で語り継がれているのであった。聖女マリアナの、明かされる事のなかった秘密とは…
~なぜ私は…~ およそ1年半ぶりの新刊は、読書クラブのある聖マリアナ学園の創設者・聖女マリアナの生涯を描いたものでした。1巻では、学園の少女達が様々なことを繰り広げる物語が多数収録してあったのに対し、2巻は聖女マリアナの秘密に関してほぼ1巻を費やしています。正直表紙はこれではなくて、マリアナのほうが良かったのではと思いつつも、1巻からのイメージを継続させるのはこちらの方が良いのかもしれません。とりあえず、コレだけは言っておきたかった。
「なぜ私は1巻の時点でこの作品をオススメにしていなかったのか」と。
~言い訳~ 言い訳ではないですが、1巻の時はすごくツボな物語がありつつも、前後の話の断絶と落差が大きい印象で、オススメするのはどうかなぁ、と思ったということがありました。しかし今回は、1巻の殆どを使って一つの物語を描き上げるという形になっており、またその物語が素晴らしかった。表紙からもわかる通り、本来のこの作品の売りは、お嬢様女子校で繰り広げられる正史に残ることのない珍事件の数々。それに翻弄される少女達と、それを見守る読書クラブ員という、閉じられた中で完結する物語にその面白みがあるのです。けれど聖女マリアナの物語は、学園外での出来事。でも結果的に、自分はこの物語に痛く感動してしまったのですよ。

学園外での出来事と言っても、読書クラブとの関わりは当然持つ。最後に繋がるだけではあるが、物語には欠かせないファクターとなる。
~占い師が視た未来とは~ 聖女マリアナを巡る物語は、奇跡からの入れ替わりという、かなりセンセーショナルな内容となっているのですが、物語としてはむしろ
「フィクションであるのならとことんフィクションとして楽しませてやろう」というようなつくりで、逆に清々しく物語を享受することができます。聖職者として、日本での布教を夢見る出来の良い妹と、
「神などいない」と、教えに背くように生きる兄。その兄を変えるきっかけとなったのは、奇しくも妹が呼び寄せた「奇跡」でした。この奇跡に依って、彼はさらに神の存在を信じることをしなくなるのですが、同時に空っぽであった世界にものを詰めることを始めるようになります。
この因果が、なんとも。さて、そんな物語で最も気になったのが、占い師が放った一言。コレに限らず、
物語中に登場する占い師の的中率は異常なわけですが、この占い師もまた、フラグ建築士でございます。入れ替わりが起こる事を見通したのですが、その後…
「百年経つと他者がやってくる」
「男たちだよ
あんたが連れてくるんだ」
「そうしてあんたたちは
混ざることになるんだ」
学園が出来て100年後、男たちがやってくる。恐らくこれは、聖女マリアナの物語の次の物語にて持ち上がっている、
男女共学化のことでしょう。そして気になるのが次。「あんたが連れてくる」という部分と、「そうして混ざることになる」という部分。「あんた」とは恐らくミシェールではなくマリアナのこと、しかし彼女はすでに亡くなっています。だとしたら、どういった形で連れてきて、そして混ざるのか。そのヒントは、その相手が
「系列の男子校」であるということ。はてさてどのような結末が訪れるのか、今から楽しみでございます。そしてそこが恐らく、この物語の最後になるのではないでしょうか。ってことは第4章、3巻がラストかな。
そうそう、そういえば占い師と言えば、はじめに…
未来を見たいかね
過去を呪いたいかね との問いかけをするのですが、「過去を呪う」との言葉の時に、描かれたのはミシェールの姿。その時も、そしてマリアナが亡くなったときも、彼は過去を呪ったはずですが、数十年後学園から姿を消す際に、放った一言は、
未来を案ずるものでした。気がつけば、空っぽだと思っていた世界は、中身が詰まっていて、未来を知りたいと思えるようになっていた。じんとしました。改めて、「青年のための読書クラブ」オススメです。
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