
いつしか
名前も知らないこの気持ちに
あたしは溺れていった
■中学2年生の歩が出会ったのは、どこか影のある美少女、月島美鈴。背が高くて、運動神経抜群、竹を割ったようなサッパリと明るい性格の歩。目を引く美しい容姿で、男子からの告白が後を絶たないものの、その難しい性格から、友達のいない美鈴。全く正反対の性格の2人だったが、クラス替えでとなりの席になったのをきっかけに、話をするように。日々を重ねるごとに、段々と打ち解けてきた2人は、やがて特別な感情で惹かれ合うようになっていき…。恋と友情の狭間で揺れる、10代の危うい青春グラフィティ、第一巻登場です。
「りぼんで百合」ということで、連載開始当初から、各所で話題になっていた本作が、このたび単行本として登場。恋と友情、そして名前も知らない気持ちに溺れ揺れ動いていく、中学生の青春を描いた物語でございます。ヒロインは、運動好きでソフトボール部に所属している世の高い中学生・歩。クラス替えで、隣の席になったのは、学校でも随一の美少女と話題の月島美鈴。見ているだけなら実に美しい彼女ですが、男からのアプローチにうんざりしているのか、他人に対する当たりの強さがかなり強め。最初はその正確に驚いていた歩でしたが、さっぱりと、そして底抜けに明るい性格の彼女は、特に意識することもなく、自然に美鈴と接していきます。気がつけば、歩は美鈴の唯一の友達に。そしていつしか、歩は美鈴から、友情を超えた強い感情をぶつけられるようになっていくのでした。。。

不意に生まれた、美鈴の歩への感情は、日に日に形を変えて、都度違った形で発露されるようになってくる。
「百合」という触込みでしたが、「憧れ」や「恋心」を百合と捉えるのであれば、この作品は現時点では百合作品にあらず。あまりカテゴライズして型にはめてしまうのは良くないと思うのですが、どうなのでしょう。そもそも私は百合とか詳しくないので、そこについて語ることはできないわけですが。
男性不信・人間不信の美少女が、初めて出会った、心から思える本当の友達。初めあった嬉しさは、いつしか友情の枠を超えて、「精神的依存」や「独占欲」といった感情へと広がりをみせていきます。段々と束縛が激しくなっていく美鈴に、歩は一時うんざりするも、紆余曲折を経て、「自分が守ってあげなくてはならない存在」という認識へ。そこから生まれる、新しい感情に、お互い溺れていくことに…(これは予想)。「友情」と表すには、余りに余計な感情が渦巻いており、また「恋」と捉えるにはあまりに幼く、そして重苦しい。作者さんがあとがきにて、「思春期に、人に言えない悩みを抱える女の子達の繊細な気持ちを表現できたら…という思いから生まれた作品」と書いてありましたが、一筋縄ではいかない複雑さと、触れたら壊れてしまいそうな繊細が、絶妙に描き出されているのではないでしょうか。
女の子同士のかけ合いであるとか、百合作品という意味では、もっと優秀な作品はあると思うのですが、これのすごいところは、低年齢向けの「りぼん」でそれをやってのけているというところ。あくまで「友情」というテーマを表立って見せているのは、メインの読者層を考慮してのことなのかもしれません。ストーリーとしては、雰囲気系ではなく、わかりやすいイベントからの関係性の変化みたいなところが見せ所で、これからは美鈴の過去と、それを知る人物とのやりとりがメインとなっていくようです。一発ネタの話題倒れではなく、しっかりと伏線を貼りつつの進行は、意欲の現れ。期待感も高まるというものです。低年齢向けですから、雰囲気で押す感じではないので、そこだけはご注意を。それ以外は、評判通りの面白い、そして興味深い作品に仕上っていると思います。これは続き買いたいですね。オススメです。
【男性へのガイド】
→ネットで話題ってのは、やっぱり男性の声が大きいのでしょうか。百合苦手でなければ大丈夫かと思われます。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→全年齢で読める内容ながら、表向きはしっかりとりぼんにシフトさせているあたりがすごい。実際面白かったですし、オススメです。
作品DATA
■著者:えばんふみ
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックス
■掲載誌:りぼん(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
■購入する→Amazon