
君と歩く夜は
いつもよりずっとふわふわしてて
なんだか
夢の中を歩いているような気分です
■読切り5篇を収録。それでは表題作をご紹介。
「14歳の夏、私は夜が好きで、君が好きでした」…中学2年の野上亜由子は、同じクラスの松岡に想いをよせるも、素直になれずにいた。そんな彼女の最近の楽しみは、夜中に家の前を通る、ジョギング中の松岡を窓から眺めること。気持ち良さそうに走る彼を見て、自分も夜に散歩をしてみた亜由子は、野原で偶然松岡と出くわす。以来夏休みの間、毎晩一緒に散歩するようになった二人は、夏祭りで「願いを叶える夕顔」を見つけ…
「イロドリミドリ」(→レビュー)「私日和」(→レビュー)など、珠玉の読切りを多数発表している、羽柴麻央先生の新刊です。今回も短編集ですが、新作というわけではなく、過去に発表していた作品を収録、ないし既に発表されている作品の再録となっています。いわば、厳選された作品たちの詰め合わせというわけで、今回もまたとても素晴らしい一冊に仕上っておりますよ!
それぞれのストーリーを、少しずつご紹介していくと…
「ネバーランド」…小さい頃から好きだった男の子・圭太郎に、彼女ができて傷心のつかさは、同じく幼なじみの男の子・善に告白をされて…
「マブタノヒト」…高校時代、想いを告げることもないままに、突然終わりを迎えた一つの恋。4年たった今でも、あの日々を未だ引きずり続けていた今井だったが…
「宵待ちブルー」…夏休み、毎晩散歩をして過ごす野上と松岡。そんな二人が持つ想いと秘密とは…?
「ソラミミ」…双子の弟を病気で失ったアサキと、そんな彼を見守る、能天気なちーちゃんのお話
「光のテーマ」…記憶を失った光が偶然転がり込んだのは、昔の片想いの相手・岳の家で…
「マブタノヒト」…高校時代、想いを告げることもないままに、突然終わりを迎えた一つの恋。4年たった今でも、あの日々を未だ引きずり続けていた今井だったが…
「宵待ちブルー」…夏休み、毎晩散歩をして過ごす野上と松岡。そんな二人が持つ想いと秘密とは…?
「ソラミミ」…双子の弟を病気で失ったアサキと、そんな彼を見守る、能天気なちーちゃんのお話
「光のテーマ」…記憶を失った光が偶然転がり込んだのは、昔の片想いの相手・岳の家で…
というラインナップに。伝わりにくいとは思いますが、その多くが別れや死の影が潜む、落ち着いた後ろ暗さを内在させた物語たちとなっております。
個人的に胸のど真ん中を打ち抜かれたのが、2作ほど。それが、高校時代から4年の時を経て、再び想いを動かし始める「マブタノヒト」と、表題作となっている「宵待ちブルー」。とにかくこの2作は必見。このためだけに単行本買っても良いレベルだと思います。

「宵待ちブルー」より。好きな人と二人だけで歩く夜の道は、街灯りと月明かりに照らされているだけなのに、妙に明るく見えたり。
まずは「マブタノヒト」。高校のとき、少しいい感じだったクラスメイトの女子のことが、4年経った今も忘れられず、未だに引きずっているという男の視点で始まる本話。この「そのときの特別感」に縛られ続け、そこから逃れられずにいるダメな感じが、良く出ているのですよ。男ってのはやたらと引きずりがちだと思うのですが、目の前にとっても素敵な女の子がいるにも関わらず、わかりつつも見向きもしない感じとか、本当にダメで素敵だ!、と。またお話は、思っていた相手の視点に切り替わるのですが、そこからラストに至るまでの過程が本当にすごい。とりあえず、それは読んでからのお楽しみ。恋愛ものに於いて、男女双方の心情を描き出すのは、非常にリスキーなのですが、この話ではそれを完全にプラスに持っていっています。ゴールの設定の仕方だとは思うのですが、ここまでキレイにカチっとピースがハマっていくのかと、久々にぶわっと鳥肌が立ちました。話自体は、地味なのですけど、メンタリティが理解できるものであったというか。

「マブタノヒト」より。なんでもないと言い聞かせつつも、離れることが出来ない、彼女のこと。その姿の情けないこと、そして共感具合といったらもう…!
また表題作「宵待ちブルー」は、表題作に相応しい、多くの人に受けそうな、感動のお話。恋も覚え立ての、今ある時間が全ての中学2年生。そんな年頃の男女が過ごす、夜の時間。そりゃあもう、世界にいるのは自分たち二人だけなのではと、錯覚してしまうような、そんな年頃・世界観ですよ。そして、単なる中学2年生の恋物語かと思わせておきながら、終盤に物語は一気に動き、思わぬ展開に。そして自然と切り替わる、視点。この話運びと、雰囲気の転換が、あまりにも秀逸。こちらもまた、何かにすがらずにはいられない、男の子の弱さみたいなものが描かれていて、とても心に響いたのでした。何かにすがるというのは、決して悪いことでもなんでもなく、大切なのは、強く想うことができるかということ。14歳という年齢設定故に、よりその感覚が増長された、想うことの楽しさと、切なさ、そして想われることの嬉しさや心強さを、1話で全て味わうことが出来るという。とにもかくにも、素晴らしかった!
その他の話も、テンション低めで展開されるものの、最終的には読後感良く、「読んで良かったな」と思わせる作品が多いです。ライトに恋物語を楽しむことができるものから、ちょっと変わった世界観を味わうことができるものまで、様々。発表時期が、大体平成16年頃ということなのですが、元々絵柄が独特なので、そこまで古くささは感じさせません。今も色褪せず、その魅力を発揮する。必見の一冊です。ああ、ちょっとプッシュしすぎですかね。でも、買って後悔はさせませんよ、きっと。
【男性へのガイド】
→男性視点の話もありますが、それを無視しても、やはり読みやすい作品であると思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→今年の短編集では、個人的にかなり上位。これはチェックしておくべき一冊だと思います。他のマーガレットコミックスに比べ、お値段お高めですが、これはお買い得だと思います。
■作者他作品レビュー
羽柴麻央「月と太陽が出逢う日」
作品DATA
■著者:羽柴麻央
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:ザマーガレットほか
■全1巻
■価格:438円+税
■購入する→Amazon