
大事にされるって
照れくさいけど嬉しい
じわじわあったかくて
はじめて気づいた
■都会に暮らす生意気な少年“いの”は、親戚をたらい回しにされた挙げ句、田舎町に住む親戚の青年“ろく”に預けられる。「私は子供が嫌いです。特に君みたいな子供が。」と仏頂面で、いきなり宣言するろくと、対決姿勢を見せるいの。子供に本気で怒ってくれる人がいるとか、ご飯の前には必ず手を洗うとか、トマトは農協で買うのが安いとか、胸がじわじわするあったかい気持ちとか、一つずつ、怪談を登るみたいに知っていく、あたたかい日々の始まり。こどもがほんのちょっとだけ、おとなになる、その日だけのきらめきを、あなたに…
気鋭に新人作家たし先生の、かきおろしコミックスでございます。レーベルは一迅社のゼロサムです。元々購入予定ではなかったのですが、表紙や装丁に惹かれ、思わず購入。いやはや、これはなかなかの当たりでしたよ。
生意気な子供・いのが、田舎に一人で住む親戚の青年・ろくの元に預けられることから、物語ははじまります。幼い頃に母親に捨てられ、以来親戚の間をたらい回しにされている、いの。どこか人を見下したようなところのある彼は、非常に生意気で、親戚の手をいつも焼かせていたのでした。しかしそのやり方が、新しい預かり先・ろくには通用しません。いきなり「私は子供が嫌いです。」と宣言した彼は、その後もいのを甘やかすことなく、厳しく接していきます。働かざるもの食うべからず、やることをやって、居場所を確保しよう。仏頂面で、子供に対して放つ言葉にしては、やや厳しい。けれども筋は通っているし、愛がある。はじめはろくを「嫌なヤツ」だと思っていたいのも、日々を重ねることで、そこでの暮らしが楽しくなってきます。そんなかわいくないこどもと、かわいくないおとなが、一緒に暮らす、田舎の古い家で、こどもがほんのちょっとだけ大人になる、そんな過程と瞬間を、瑞々しく切り取っていきます。

生意気さは、直ることはない。けれど上手く相手とやる方法を段々と身に付け、また相手の頼みを受け入れる柔軟さが生まれるていく。こんなやりとりですら、いつしかいのには、かけがえのない時間となるのでした。
田舎町といっても、何もお店がないというわけではなく、コンビニや商店などはある町。ただ、道路の脇には田んぼが広がり、ご近所付き合いも盛んという、そんな町が舞台となっています。そんな町に、築50年の一軒家に一人でで暮らす青年・ろくは、在宅の仕事をしているのですが、その仕事の内容は明らかにならず。そんな彼と暮らすことになるいのは、登校拒否なので、結果一日中一緒に過ごすことになります。何かと口うるさいろくは、いのに様々な物事を頼んだり、命じたり。庭に水まきさせたり、買い物を頼んだり、郵便を届けてもらったり。しかもただ単に命じるのではなく、きちんと意味・理由を付けて相手を諭すので、いのも反論できません。家に来た当初は、口ばかりが達者で、自分では何も出来なかったいのが、気がつけばその歳の割にかなり生活力のある男の子になっていきます。その過程を見るだけでも、「子供の成長」という意味で、なかなか微笑ましいのですが、その後の人としての成長を描く過程が、本当に素敵。「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えなかった子供が、最後に温もりを知って放つ「ごめんなさい」は、本当に嬉しい気持ちになれました。
ある意味説教臭い内容になってはいるのですが、ご近所付き合い(ある種のムラ社会)があるという田舎町という設定なので、それこそがむしろ狙いということなのかもしれません。また数年後の様子が、最後に描かれるのですが、その際は視点が、いのの同級生のものになっています。教訓や成長を、本人の視点で描くと、なんだかときに胡散臭く感じられるのですが、外部に視点を置くことで、それを緩和。人間としての成長と、いのとろくの良好な関係を、客観的に眺めることができるというのは、良い描き方だと思います。一冊丸々、一気に通して読むのが良し。全1巻という分量も、丁度良いものでした。人間のイヤな部分はしっかりと描かれるので、爽やかさはないし、同時に派手さもないけれど、最後はほんのり温かい。そんな「かきかけとけしいん」オススメでございます。
【男性へのガイド】
→子供の成長物語が好きだという方は。基本的に読みやすい作品に仕上っていると思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→キツい部分・いたい部分もしっかりと描くので、序盤は決して楽しく読めるわけではありません。それでも最後は、素敵な読後感を提供。凝った装丁も納得の、おすすめの一冊です。
作品DATA
■著者:たし
■出版社:一迅社
■レーベル:ZERO-SUMコミックス
■掲載誌:かきおろし
■善1巻
■価格:657円+税
■購入する→Amazon