このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2010.10.10
作品紹介→宇仁田ゆみ「うさぎドロップ」
6巻レビュー→恋愛のスタンスに見る、ダイキチとコウキの強い繋がり的なもの 《続刊レビュー》宇仁田ゆみ「うさぎドロップ」6巻
7巻レビュー→りんに感じた違和感と、それをも超える確かな信頼感について 《続刊レビュー》宇仁田ゆみ「うさぎドロップ」7巻



1102969678.jpg宇仁田ゆみ「うさぎドロップ」(8)


私がこれ以上のことを望まなければ
こんなに楽しい暮らしもないな…
望めば全部
無くなっちゃうけど…



■りんを引き取り、早10年。独身ながらも初の子育てに奮闘し、りんと二人三脚で、いつしかりんも高校生になった。そしてついにりんは、没交渉だった実母と再会。そこでりんは、母親が妊娠しており、近く妹が生まれることを知る。思い出せないほどに会っていなかった、実母との再会、そして新たな命が生まれること…そして、以降のダイキチとの生活。少しずつ、動き出す、りんの心。そして自覚する、一つの気持ちとは…


~再び盛り上がってきてます!~
 りんが大きくなってから、評判が今ひとつであった「うさぎドロップ」ですが、ここにきて再び盛り上がりを見せようとしていますよ!(私の中で)。前回まさかの、「ダイキチとの恋愛」という可能性を匂わせてきたわけですが、8巻ではそれが確実になりつつあります。果たしてこれからどう進んで行くのか、楽しみで仕方ありません。さて8巻なのですが、りんとダイキチに限らず、作品の中で家族役割について触れられる場面が多かったという印象がありました。元々、叔母と甥という血縁関係でありながら、実生活では親子のような関係をとる二人を描くこの作品は、家族関係というものは、一つの大きなファクターとなっています。それが今回は、目に見える形で良く出てきたな、と。
 

~親としての母と、女としての母~
 以前にもその情報は出ていたのですが、コウキのお母さんの再婚が決定。そのことが、コウキにも伝えられました。そのことに、コウキは高校生ながらショックを受けます。そのときコウキは、こんな印象的な言葉を残します…
 
オレにとってはもう絶対的に母ちゃんだからさあ
女としては見れねーわけ
けどダメなんだ“女の母ちゃん”は
なんかちゃんと見れなかった

 これに対し、ダイキチも「わかる!」という言うわけですが、私ももの凄くこれには同意でして。もちろん母親も一人の女だということは、頭ではわかっているのです。けれども、子どもからしてみれば、母親は生まれたときから母親であるわけで、女としての一面というのはほぼ目にする機会はないわけですよ。それがある日ドンと目の前に提示されるんですから、そりゃあショックを受けますとも。「裏切り」とまではいきませんが、自分へ向けられるものとは違う”愛情“が知らぬ他人に向けられる気持ち悪さというのは、多くの人が持つ感覚ではないのかな、と。
 自分も両親が双方に浮気して、別居していた時期があったのですが、それが発覚したときの心持ちにすごく似ていて、思わず同意してしまったという(笑)今でこそ、その歳になってまで恋愛できてた両親すごいなとか、思えるのですが、当時はやっぱりショックでしたねぇ。
 
 
~りんにとっての、ダイキチの存在の変化~ 
 さて、またダイキチも、その関係・感情をどのような関係性の上で認識しているのかという問いを、りんにかけます。
 
それって赤ちゃんだからかわいいのか?
それが妹だからか?

 これは、生まれてくるりんの妹のことを「かわいい」とはしゃいで話すりんに対して向けられたもの。それに対しりんは「わからない」と返すのですが、そこから話は、妹ではなく自分自身の存在と、彼女のダイキチおよび母親に対する認識に関するものへと移っていきます。
 

うさぎドロップ8
自分が今まで何者なのかよくわかんなくて
なんていうか…糸がついていない風船を
ダイキチが持っててくれる感じだったんだけど
あの人がお母さんって実感があってから
ああ
糸が付いてたんだなーっ思った…
でもやっぱり
今それを持ってるのはダイキチなの


 彼女は自分の存在について、風船と糸という形でダイキチに話をしています。この糸とは、家族役割ないし精神的存在としての「保護者・親」を表しているものだということは、ほぼ明白。今まではダイキチがその役割を代わりに務めていたけれど、その役割に納まるのは、正子さんである、と。そして面白いのは、けれども“今”それを持っているのはダイキチであると、りんが言っていること。ということは、いつかは持つ人が変わると暗に言っているようなもので、やはり恋愛路線へと進んでいくということで間違いないのかな、と。家族的な形式をとって同居している中で、一人に対し家族的な役割を複数持つというのはやはり良くないというか、無理が生じるもの。ダイキチが親・保護者としての立場を持ち続けている以上は、恋愛関係に発展することはありません。(そもそも、3親等という時点でアウトなのですが…まぁこの際は成就するしないは気にしないでおきましょうか…)。それが正子さんの再登場によって、ダイキチの親という役割からの解放という可能性が出てきた。彼女が正子さんの所に通い、親子関係を強めようとしているのは、無意識にダイキチとの関係の変化を望んでいるからなのかもしれませんね。


~この展開は、既定路線だった?~
 正直なところ、ダイキチはコウキのお母さんと結婚するものだとばかり思っていたので、最近のこの展開には驚いているのですが、色々考えると、このルートは既定路線だったのかもしれません。ダイキチがりんをひきとった直後の流れとして、例えば正子さんと連絡をとらないとかって選択肢もあったと思うんですよ。でもちゃんと今まで連絡が取れるようになっているし、最初は悪い印象ばかりの彼女が、今やりんにとってはかけがえの無い存在になりつつあり、また心証もかなり良くなってきています。そもそもダイキチが、りんを養子として迎えていれば、今のこの展開はまずありえなかったと思うのですが、それをりんは6歳のときに拒否。あのやりとりは、このためにあったのだろうか…なんて今だと思ってしまったり(そもそも、3親等という時点で~以下略)。正子さんは、りんとダイキチなんてレベルじゃないほどに歳の離れたお爺さんと恋に落ちたわけですから、りんがダイキチのことを好きになるなんてのは、ありえないどころか、むしろ自然ですらあるわけで。この親にしてこの子あり…なのかもしれません。ダイキチ、お祖父ちゃんにすごく似てますしね(笑)


■購入する→Amazon

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (1)トラックバック(0)TOP▲
コメント

おお! 子供時代のりん大好きの俺は、5巻でトーンダウンし、6巻で金損した! と思っていたら(なので7巻から未購入)、いつの間にかこういう展開になってたんですね。オドロキです。

俺は少女まんが的展開(主に恋愛とかのややこしいアレ)があまり好きではない人間で、りんとコウキの展開で、この物語にすっかり冷めてしまったんですが(ダイキチとコウキママの2人は好きだ)、、、てか、コウキママは再婚ですかー。ダイキチ、散ったか。ま、あんだけ美人だもんなー。ライバル多くて当然というか。

正子さん(りんママ)は、実に味のあるキャラクターで、俺はああいう複雑な、人間味のあるキャラクターが好きです。確かに、イロイロ問題は多い人だけど……彼女が、きちんと、りんの母親として頑張ってくれるのであれば、俺はそれだけが嬉しい。

お話だと、うーん、これは継続購入の方がよさ気ですね。やっぱりおススメなんでしょうねーこれは。どうしようかな……

内容の良い紹介、サンクスです。
From: トネリコ * 2010/10/10 11:34 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。